11 / 29
第十話・かくれんぼの闖入者
しおりを挟む
「皆~! ちゃんと上手く隠れるんだぞ~!!」
「「「はぁ~い!!」」」
孤児院と、その周辺の区域を使ってのかくれんぼ。
帰省ついでに度々訪れていた孤児院に足を運んだシャルロットは、子供達の逃げて行く足音を聞きながら、庭の片隅で目を閉じていた。大きな声でひとつひとつ、数を響かせる。
「にじゅうい~ち、にじゅう~にぃ~……」
もう、子供達の声は聞こえない。孤児院の中や外のあちらこちらに隠れようと、皆ちゃんと散らばっていったようだ。三十まで数えたシャルロットは目を開き、早速大勢のターゲット達を見つけるべく、捜索に出る。
――しかし。
「お、この辺が怪しいな~。それっ!」
「…………」
「…………」
子供達の誰かが入っているのだろうと思い、パカリと持ち上げた大き目の木箱の蓋。
中に潜んでいた『誰か』と目が合った瞬間、シャルロットの笑顔は凍りついた。
……、……、…………。
「な、……何を、やってるんだ? シグルド君」
「遊びに混ざっている……」
「ほぉ~、そうか」
パタン。木箱の蓋から手を放し、それが閉まるのと同時に意識を右手のひらに集中させ、頑丈な縄を具現化させる。
「どりゃあああああっ!!」
怒涛の勢いで木箱をグルグル巻きにし、シャルロットは飛びのく。
これでよし……。暫くは出て来られまい!!
普通の者なら、それがたとえ魔族であっても、天使であっても行使出来ないだろう不可思議の力で次は『接着剤』と書かれた巨大なチューブをシャルロットは具現化させ、木箱の上からどろりと大量の液体をぶっかけていく。
「はぁ、……はぁっ、悪く思うなよ、シグルド君!!」
よし、子供達には悪いが、今の内に逃げよう。全力で逃げよう!!
だが、現実はシャルロットの思うようには行かず。
「な、なにぃいいいいっ!?」
ドカーンッ!! と、内側から意味のわからない馬鹿力で木箱が破られ、その衝撃で縄も接着剤も吹っ飛んでしまった!
(いやいやいや!! どろどろ木工用瞬間接着剤まで吹っ飛ぶって意味がわからないぞ!!」
中から生じた衝撃波のせいだろう。だが、シャルロットは荒野の中で一人生き残ったかのような出で立ちのシグルドに、本気で悲鳴を上げたくなった。
「シャルロット……」
「い、いやっ、あの、だなっ。い、今のは、今のは、わふっ!!」
相変わらず、私服は上腕部と腹の部分が剥き出しの黒衣装で固めているシグルドに抱き締められ、シャルロットは猛獣の檻に囚われてしまった。
ちょっ、痛いっ、痛いぞ!! この馬鹿わんこ!!
いつもより抱き締める力が強すぎるように思うシグルドにそれを伝えるが、彼は黙ったまま、少しだけ力を弱めるだけだった。
あぁ、筋肉がっ、シグルドの厄介な吐息がっ、ぁあああああああああっ!!
「……し、て。アイツなんだ」
「え?」
「どうして、エリィが……、エリィだけが、特別なんだ? どうして俺は、お前の傍に在る事も、許され、ない……?」
「……わからないのか?」
「わからない」
まさか、とは思っていたのだが……。
どうやらシグルドは、自分で自分の気持ちがわかっていないようだった。
シャルロットの方は、アルバートとの件でハッキリと自分が抱く予感の正体に確証を持ったというのに……。
(いや、違う。気のせいだ……、気のせいでなければいけないっ)
シグルドの中にある、自分への感情に名前をつけてはいけない。
自分がシグルドを意識してしまう事も、本人がその感情に名前を付ける事も、絶対にあってはならない。
「あ~!! シャルロットおねえちゃん、何やってんのぉ~?」
「うわっ!! じゃ、ジャンっ!! み、見るな!! 見るんじゃない!!」
「どうしたのぉ~? あぁ~!! シャルロットおねえちゃんが、男の人と抱き着いてる~!!」
「うわぁああああああっ!!」
隠れていたはずの子供達が二人の前に現れ、面白そうな目で見上げてくる。
すぐに離れようとしたシャルロットだが、でかわんこに羞恥心というものはなかった。
「まだ、離れるな……」
「そんな声で囁くなぁああああああああっ!!」
掠れと絶大な色気を伴ったシグルドの切ない囁き声に震えを走らせ、シャルロットは全力で暴れる。
「皆~!! シャルロットのおねえちゃんが~!!」
「えぇ? なになにぃ~?」
「どうしたのぉ~?」
あぁ、目撃班のせいで、どんどん隠れていた子供達が集まってくる……。
挙句の果てには、孤児院の責任者や手伝いの者達まで現れ、シャルロットはここでも、恥ずかしすぎる噂を生み出してしまったのだった。
「「「はぁ~い!!」」」
孤児院と、その周辺の区域を使ってのかくれんぼ。
帰省ついでに度々訪れていた孤児院に足を運んだシャルロットは、子供達の逃げて行く足音を聞きながら、庭の片隅で目を閉じていた。大きな声でひとつひとつ、数を響かせる。
「にじゅうい~ち、にじゅう~にぃ~……」
もう、子供達の声は聞こえない。孤児院の中や外のあちらこちらに隠れようと、皆ちゃんと散らばっていったようだ。三十まで数えたシャルロットは目を開き、早速大勢のターゲット達を見つけるべく、捜索に出る。
――しかし。
「お、この辺が怪しいな~。それっ!」
「…………」
「…………」
子供達の誰かが入っているのだろうと思い、パカリと持ち上げた大き目の木箱の蓋。
中に潜んでいた『誰か』と目が合った瞬間、シャルロットの笑顔は凍りついた。
……、……、…………。
「な、……何を、やってるんだ? シグルド君」
「遊びに混ざっている……」
「ほぉ~、そうか」
パタン。木箱の蓋から手を放し、それが閉まるのと同時に意識を右手のひらに集中させ、頑丈な縄を具現化させる。
「どりゃあああああっ!!」
怒涛の勢いで木箱をグルグル巻きにし、シャルロットは飛びのく。
これでよし……。暫くは出て来られまい!!
普通の者なら、それがたとえ魔族であっても、天使であっても行使出来ないだろう不可思議の力で次は『接着剤』と書かれた巨大なチューブをシャルロットは具現化させ、木箱の上からどろりと大量の液体をぶっかけていく。
「はぁ、……はぁっ、悪く思うなよ、シグルド君!!」
よし、子供達には悪いが、今の内に逃げよう。全力で逃げよう!!
だが、現実はシャルロットの思うようには行かず。
「な、なにぃいいいいっ!?」
ドカーンッ!! と、内側から意味のわからない馬鹿力で木箱が破られ、その衝撃で縄も接着剤も吹っ飛んでしまった!
(いやいやいや!! どろどろ木工用瞬間接着剤まで吹っ飛ぶって意味がわからないぞ!!」
中から生じた衝撃波のせいだろう。だが、シャルロットは荒野の中で一人生き残ったかのような出で立ちのシグルドに、本気で悲鳴を上げたくなった。
「シャルロット……」
「い、いやっ、あの、だなっ。い、今のは、今のは、わふっ!!」
相変わらず、私服は上腕部と腹の部分が剥き出しの黒衣装で固めているシグルドに抱き締められ、シャルロットは猛獣の檻に囚われてしまった。
ちょっ、痛いっ、痛いぞ!! この馬鹿わんこ!!
いつもより抱き締める力が強すぎるように思うシグルドにそれを伝えるが、彼は黙ったまま、少しだけ力を弱めるだけだった。
あぁ、筋肉がっ、シグルドの厄介な吐息がっ、ぁあああああああああっ!!
「……し、て。アイツなんだ」
「え?」
「どうして、エリィが……、エリィだけが、特別なんだ? どうして俺は、お前の傍に在る事も、許され、ない……?」
「……わからないのか?」
「わからない」
まさか、とは思っていたのだが……。
どうやらシグルドは、自分で自分の気持ちがわかっていないようだった。
シャルロットの方は、アルバートとの件でハッキリと自分が抱く予感の正体に確証を持ったというのに……。
(いや、違う。気のせいだ……、気のせいでなければいけないっ)
シグルドの中にある、自分への感情に名前をつけてはいけない。
自分がシグルドを意識してしまう事も、本人がその感情に名前を付ける事も、絶対にあってはならない。
「あ~!! シャルロットおねえちゃん、何やってんのぉ~?」
「うわっ!! じゃ、ジャンっ!! み、見るな!! 見るんじゃない!!」
「どうしたのぉ~? あぁ~!! シャルロットおねえちゃんが、男の人と抱き着いてる~!!」
「うわぁああああああっ!!」
隠れていたはずの子供達が二人の前に現れ、面白そうな目で見上げてくる。
すぐに離れようとしたシャルロットだが、でかわんこに羞恥心というものはなかった。
「まだ、離れるな……」
「そんな声で囁くなぁああああああああっ!!」
掠れと絶大な色気を伴ったシグルドの切ない囁き声に震えを走らせ、シャルロットは全力で暴れる。
「皆~!! シャルロットのおねえちゃんが~!!」
「えぇ? なになにぃ~?」
「どうしたのぉ~?」
あぁ、目撃班のせいで、どんどん隠れていた子供達が集まってくる……。
挙句の果てには、孤児院の責任者や手伝いの者達まで現れ、シャルロットはここでも、恥ずかしすぎる噂を生み出してしまったのだった。
0
お気に入りに追加
196
あなたにおすすめの小説
二重彼女と無感情彼氏
桜月 翠恋
恋愛
ねぇ……貴方の……をちょうだい
そう言って女は男に抱きついた
教室の中、香るのは鉄の香り……
吸血鬼の血がながれており血が欲しくなると豹変する、二重人格のような女の子…若葉みゆき
そんなみゆきに愛された
演技好きな、仮面をかぶったような男の子…暁月 彰
みゆきは恋を知らない
彰は愛を知らない
変わった二人の変わった関係が始まる…
太陽と傀儡のマドンナ
水城ひさぎ
恋愛
高校二年生の春、私立英美学園に転校した凪は、美しい双子の姉妹、明るく奔放な姉の芽依と、それとは対照的に、冷たく無感情な妹の那波に出会う。
心理学研究部に所属する那波は、喜びの表し方も知らず、自分の中にある足りない感情を探していた。
そして芽依は、自分たちの隠し持つ秘密を気づかせようと、凪に揺さぶりをかける。
那波に心惹かれていた凪は、双子の秘密に近づこうとするが、その行動は、那波との別れを告げるカウントダウンでしかなかった___
親の愛情を知らずに育った那波、親に愛されて育った芽依、ふたりの葛藤と、姉妹を救うべく奔走する凪の、純愛ラブストーリー。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる