千文字小説

レン太郎

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アフロ天国

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 今年、流行する髪型として、アフロが紹介されていた。
 その時は、何の気無しに思っていたが、俺がそのアフロ勢力に脅威を感じたのは、それから半年後の事だった。
 街へ出れば、右も左もアフロだらけ。もはや、日本中がアフロで埋め尽くされるような勢いで、アフロ人口は、増加の一途を辿っていた。
 ヘルメットにアフロのカツラを装着した『アフロメット』までもが販売され、アフロメットを脱いでもアフロが登場。まさにアフロ・オン・アフロ。どんだけアフロしてんだよという話である。
 空から撮影すれば、きっとブロッコリー畑のようなものが撮れるに違いないだろう。
 アフロの勢力は、留まる所を知らなかった。相撲では、アフロヘアーの力士が華麗な土俵入りを決め、国会中継ではアフロヘアーの議院が、国の未来について議論していた。
「もうこの国も終わったな」そう思った。
 家に帰ると、
「お食事にします? それともアフロにします?」
 と、アフロヘアーの妻の声。
「笑えねえ」そう思った。
 愛する娘がアフロで帰宅した時には、さすがに俺も激怒した。
「校則違反だろ」と、俺。
「だって、校則なんだもん」と、返すアフロな娘。
 なんということだ。校則までもが、アフロに侵食されてしまっていたとは、アフロディーテもさぞかし驚いていることだろう。
 実家では、禿げた親父が残った髪をアフロにしていた。なんだかシャンプーハットのように見え、泣けてきた。
 会社では、同僚はもちろんのこと、社員全員がアフロにしていて、もはやアフロにしてないとクビにされそうな勢いだ。
 だが、俺はアフロにしなかった。
 例え、国民全員がアフロにしても、俺だけは絶対アフロにしないと、そう心に決めていた。

 そんなある日、アフロな妻が俺にプレゼントをくれた。
 礼を言い、プレゼントの箱を開けると、なんとそこにはアフロのカツラが入っていた。
「ふざけんな」と、俺。
「だって、近所の奥さんに言われるんですもの」と、アフロな妻。
「何てだ?」
「お宅のご主人、まだアフロじゃないんですのねって……」
 その言葉を聞いて思った。俺は知らぬ間に、妻を追い詰めてしまっていたんだと。
 俺の頑固な性格のせいで、妻に肩身の狭い思いをさせてしまっていたんだと。
 その日、妻は黙って床についた。
 夜中に目を覚まし妻を見ると、目から涙の通った線が残っているのに気付く。
 俺は、妻のアフロを撫で、アフロのカツラを手に、洗面所へと向かった。そして、鏡の前で恐る恐るとアフロを装着。
「悪くない」そう思った。
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