チェリーボーイ

レン太郎

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驚愕のスマタ作戦

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 翌日、大学にて──。

「払えよ」

「いいじゃん」

「よくねーよ」

「バナナミルク、一口あげるからいいじゃん」

「だから、よくねーよ」

「ユウタのケチ」

「どっちがだよ」

 学食の自販機の前で、口論しているタクヤとユウタ。タクヤは、怒っているユウタをあしらうかの如く、バナナミルクを飲んでいた。いったい二人に何があったというのだろうか。

「ユウタくん。過去にこだわるなんて、君らしくないなあ」

「いいから払えよ。昨日のパンツ代、五百円をよ!」

 どうやら、そういうことのようである。

 昨日、保健室で夢精したタクヤは、ユウタに新しいパンツを買ってきてもらった。しかし、肝心のパンツ代を、タクヤはまだ支払っていなかったのである。

「じゃあ、昨日の夢精パンツをあげるから、それでチャラってことで……」

「んなもん、いるかよ!」

 と、口論が白熱している二人の背後に、また二人、怪しい人影が迫っていた。

「ちょっといいかしら?」

「え?」

 タクヤとユウタは、同時に振り向いた。
 見るとそこには、ミチヨとアキナの二人が立っていたのであった。

 しかし、二人とも、いつもと違い様子がおかしい。確固たる決意を胸に秘めているようにも読み取れるその表情は、真剣そのものだったのである。
 タクヤとユウタも瞬時にそれを読み取った。そして、何も言わず。いや、言えずに、ミチヨの真剣なブサイク顔、アキナの真剣な美しい顔を、ただただ見つめていた。
 すると、ミチヨとアキナは同時に一歩踏み出し、それぞれの自分の彼氏に、こう言い放ったのである。

「今から、ラブホテルに行かない?」

「……へ?」

 ラブホテルニイカナイ?

 この言葉が、タクヤとユウタの耳に響いていた。
 耳の穴に、フンドシ姿の勇ましい男が太鼓のバチを持ち、ドンドコドンドコと鼓膜を打ち鳴らすかの如く。

「じゃあ、行くわよ」

 ミチヨとアキナは、同時に振り返り歩きだした。まるで、タクヤとユウタを誘惑するかの如く、尻をプリプリとさせながら。

「お、お供しまぁーすっ!」

 当然のことながら、飢えた二匹のハイエナは、どんどん進んでいく御馳走(尻)の後を、追いかけて行ったのであった。
 もちろん、ポコチンを勃起させたまま──。

 ラブホへの道のり。ミチヨとアキナは終始無言のまま、黙々と歩き続けた。その後ろから、前かがみでついて来る、明らかに不審なチェリーボーイが二人、プリプリとした桃に導かれていた。

 そして、そのまま電車に乗り、揺られること数十分──。
 ラブホ行き御一行の皆さまは、潮が香る公園へとたどり着いた。

「着いたわよ」

 そう言うと、ミチヨとアキナは足を止めたと同時に、プリプリも止めた。

「え?」

 と、前かがみの二人が見上げたそこには、『ウォーターフロント』と書かれた、お城みたいな建物がそびえ立っていたのであった。

「ま、まさか本当に……」

 ユウタはおもわず息を飲んだ。前にも話したが、『ウォーターフロント』とはラブホテルであり、遊園地デートの帰りに、ユウタがアキナと立ち寄ろうと思い描いていたホテルなのである。

「じゃあ、入るわよ」

 慣れた感じで、何の抵抗もなくホテルへと足を踏み入れる、ミチヨとアキナ。

「ち、ちょっと、置いてかないでー」

 と、勃起ブラザーズは、前かがみのまま後に続いたのであった。

 ラブホの一室にて──。
 今タクヤは、ミチヨと二人っきりである。いきなり「ラブホに行かない?」と言われ、誘われるままにたどり着いた、ラブホテル『ウォーターフロント』。ユウタはアキナと別の部屋へと、消えて行っってしまっていた。
 初めてのラブホに、目線はキョロキョロ鼓動はドキドキのタクヤ。
 そんなタクヤとは対照的なのが、ミチヨである。落ち着いてソファーに座り、紅茶を飲み、「ラブホなんか何回も来たことあるわよ的オーラ」を発していた。

「先にシャワー浴びてくるわ」

 タクヤの方をチラリと見た後、ミチヨはバスルームへと向かった。

「は、はい! 行ってらっしゃいませ!」

 そんなミチヨを、ソファーの上で正座をしたまま、タクヤは見送った。
 最高に元気な、ペニ佐衛門とともに──。

 シャワーを浴びるミチヨ。白い湯気に包まれ、何かを企んでいるかのような顔でニヤリと微笑んでいた。
 実は、ミチヨはタクヤにヤラせる気など更々ない。今現在、別室でユウタと一緒にいるアキナもである。
 ではなぜ、ミチヨとアキナはそれぞれの自分の彼氏をラブホに誘ったのであろうか。
 実はミチヨは、タクヤに“ヤったと思い込ませる作戦”を企てていたのである。

 そう、知る人ぞ知る「スマタ作戦」である。

「スマタ作戦」を知らない方には、説明をせねばなるまい。「スマタ作戦」とは、女の太ももの付け根にポコチンを挟み、その体勢のまま男がピストン運動することにより、まるで本当にヤっているかのような快楽を得られる、究極の作戦なのだ。
 この作戦を思い付いたミチヨは、アキナに電話をした。

「とりあえず、ヤったと思い込ませよう」と。

 そうすれば、アキナがタクヤに告ったことをユウタが聞いたとしても、水に流すだろうし、ミチヨはヤラずしてタクヤを虜にできるのだ。
 しかも、ユウタと同時にタクヤに童貞を捨てたと思い込ませることにより、二人の友情も深まり、一石二鳥──いや、三鳥というわけだ。

 もしタクヤが、童貞を捨てたことにより、ミチヨと別れようなどと考えていたら、こう言えばいい。

「シュナイダー。あなたはまだ、チェリーボーイなのよ」と。

 ミチヨはコックをひねり、シャワーを止めた。そして、濡れた身体にバスタオルを巻き、バスルームを出てこう言った。

「次はシュナイダーがシャワーを浴びてきて」

「え?」

 その時、ミチヨは見てしまった。全裸のタクヤが、ピンク色のローターをプルプルといわせ、テーブルの上で遊んでいるのを。

 ミチヨを待っている間タクヤは、あの夢のように、全裸でベッドに横になった。聞こえてくるのは、シャワールームからの水の音だけ。
 これまでは夢の通りなのだが、自分はタバコを吸わないことに、タクヤは気付いた。仕方ないのでビールを飲もうと思い、冷蔵庫に近寄った時、タクヤは見てしまったのだ。
 アダルトビデオでしか見たことのない、ピンク色の物体を。
 興味本位で、タクヤはその物体を取り出した。細長いピンク色のピンポン玉のようなものに、コードが繋がっていた。そして、そのコードの先にはスイッチのような物が付いている。

「AVで観たまんまだな」

 タクヤはそう呟き、スイッチをオンにした。

 すると、そのピンクローターは、ブィィィーンと鈍い音をたて、小刻みに震えだしたのである。

「うおー! スゲー!」

 タクヤのテンションが、ぐっとアゲアゲ状態になった。
 小刻みに震えるピンクローターを、手にしたタクヤは、真っ先にペニ佐衛門と対決させようと思った。
 幸いなことに、タクヤは今、全裸である。
『ペニ佐衛門VSピンクローター』これはまさに、沖縄名物『ハブVSマングース』に匹敵する戦いではないだろうか。
 タクヤは恐る恐る、ペニ佐衛門にピンクローターを近付けていった。

 だが、

「いや、待て」

 タクヤは、ピンクローターを持つ手を止めてしまった。そして、テーブルの上にピンクローターを乗せたのである。
 ブィィィーンという音が、拍車をかけて大きくなり、テーブルの上のピンクローターは、まるで生命を授かったかの如く、カタカタと踊りだしたのだ。

「うおー! おもしれー!」

 もはや、大人の玩具で遊ぶ子供の状態のタクヤ。
 では、いったいなぜ、タクヤはペニ佐衛門とピンクローターの対決を、止めてしまったのであろうか。
 答えは簡単。いたってシンプルである。

 そうそれは、すぐにイッてしまいそうだったからである。

 タクヤは早漏である。ただでさえ発射寸前だというのに、うっかり刺激を与えてしまったら、ペニ佐衛門は、ものの三秒ももたずに果ててしまうだろう。
 タクヤほどの若さであれば、すぐに復活するかもしれない。だがタクヤは、ピンクローターでイッてしまうのが“もったいない”と思っていたのである。
 同じイクなら、チェリーボーイを卒業する時にイキたいと、タクヤは考えていた。

 全裸のまま、タクヤはピンクローターで遊ぶのに夢中になってしまっていた。テーブルの上で不器用に踊るピンクローターを眺めながら、ニヤニヤとしていた。
 そんな時である。ミチヨがシャワールームから出てきたのは。

「次はシュナイダーがシャワー浴びてきて」という、背後からのミチヨの言葉に、タクヤは鳩が豆鉄砲をくらいすぎたような顔をして、「え?」と振り向くしかなかったのであった。

「あ、ああ、シャワーね」

 そしてペニ佐衛門をプルプルとさせながら、タクヤはシャワールームへ滑るように入って行ったのであった。
 呆気にとられてしまったミチヨは、未だにテーブルの上で踊り続けているピンクローターを手に取り、一言こう呟いた。

「アリかもしれないわ」

 果たして「スマタ作戦」は成功するのであろうか。
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