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銀行強盗の乱
しおりを挟むとある銀行で、強盗事件が発生した。
犯行後、犯人は逃走を謀ったが、通報により駆け付けた警察に阻まれ、銀行内に立てこもってしまっていた。
現場に待機している、警官の話によると、犯人は拳銃を所持しており、さらには女性を一人、人質にしているらしい。早く人質を救出し、犯人を確保しなければ──。
黒川とミホコは早速、現場へと向かった。
銀行へ到着──。
黒川は、現場に待機している警官に話し掛けた。
「今、どんな様子だ?」
「はい。依然として犯人は、人質をとって、立てこもったままです」
「人質は一人か?」
「客で来ていた女性が一人ですね。銀行の店員や他の客は、無事に脱出しました」
「ということは、単独犯か?」
「はい、そのようです」
「犯人の要求は?」
「逃走用の車を一台用意しろと言っています」
「やはりな……」
きっと犯人は、警察に囲まれてテンパっているだろう。逃げることしか考えられない犯人は、逃走用の車を要求している。
「ちょっとタチが悪いな」
黒川の顔は、苦虫を噛みつぶしていた。
追い詰められた犯人は、精神的にも危険な状態である。拳銃を所持しているから、いつ発砲してもおかしくない。犯人確保よりも、人質の救出を最優先に考えなければならない。
だが、捕まることをなによりも恐れている犯人は、人質を解放したりは絶対にしないだろう。
「犯人と話せるか?」
「はい、こちらで……」
そう言うと警官は、拡声器を黒川に手渡した。
だが、そこへミホコが、真剣な面持ちでこう言った。
「黒川くん、あたしにやらせてもらえる?」
「やれるか?」
「任せて」
実はミホコは、ネゴジエーター(交渉人)になりたいと常々思っており、今現在、勉強の真っ最中なのだ。
ミホコは、黒川から拡声器を受け取ると、ゆっくりと深呼吸をし、犯人に呼びかけた。
「おい! クソ野郎!」
(お、おい……ミホコ)
(大丈夫よ、黒川くん)
黒川とミホコは、アイコンタクトで会話をしている。
「テメーは人間のクズだ! 腐ったミカンだ! 生きる価値もねえ! だけど、投降すれば命だけは助けてやるわ。さあ! 大人しく銃を捨てて、人質を解放しなさーい!」
すると、犯人が人質を盾に、銀行から顔を覗かせた。
「うるせー! ヘボ刑事! 誰が投降なんかするか! 人質をぶっ殺されてーのか! アホ! ボケ! カス!」
(ミホコ、なんだか逆効果になってないか?)
(お、おかしいわね……)
(とりあえず犯人をなだめた方がいいんじゃないか?)
(そ、そうね……わかったわ)
ミホコは再度、犯人に呼びかけた。
「犯人さーん! さっきはゴメンねぇん。よかったら、人質をあたしと交換なんてしてくれないかしらーん。うふ」
「うるせー! キモいんだよ! この年増女!」
とここで、ミホコの血管がブチッとキレた。
「テメー年増だと! あたしはこう見えても、まだ二十代だ! もう許さねー! ぜってー殺す! ぜってー殺すぞコラ!」
そこへ、黒川がミホコを止めに入った。
「バ、バカ! それ以上、犯人を刺激するんじゃない!」
「だってあいつ、あたしのことを年増だって言ったのよ!」
「……ミホコ」
「なによ」
「お前、ネゴジエーターには向いてないぞ」
というわけで、事態は悪化してしまった。
そこへ、
「キャーッ!」
銀行の方から、恐怖に怯える女性の声が聞こえてきた。
「車の用意はまだかーっ! 早くしねーと、ぶっ殺すぞ!」
犯人は、人質の女性に銃を突き付け、再度車を要求している。どうやら、かなりイラついているようだ。
「マズイな、早く手をうたないと」
と、黒川が唇を噛み締めたその時である。
「どうやら、私の出番のようですね」
「誰だ!」
毎朝チンコを寒風摩擦!
弾切れ知らずな
すこぶる探偵!
名探偵レン太郎!
「また、お前か……」
「やあやあどーも、黒川さんにミホコさん。お困りのようですね?」
「お前が出てきて、さらに困っているところだ」
「どうですか。ここは一つ、私に任せてみては?」
「お前に?」
「はい」
「なにを?」
「犯人の説得を……ですが」
「んなもん、ダメに決まってるだろーがっ!」
「そうよ! あたしでもダメだったのにっ!」
黒川とミホコは、レン太郎を断固として拒否した。
すると、レン太郎は目に涙を浮かべた。
「……黒川さん」
「な、なんだ気持ち悪い」
「実は、あの人質の娘ですが、私の知り合いなんです」
「お前の知り合い?」
「はい、ユキちゃんっていいます」
「変態仲間か?」
「なんでそうなるんですかっ!」
「お前の普段の行動見てたら、まともな人間と知り合うなんて、有り得そうにないからだ」
「ユキちゃんは、私がよくDVDをレンタルしている、レンタルショップの店員さんですよ」
「どーせ、エロいやつばっかだろ?」
黒川がそう言うと、レン太郎は急に真剣な面持ちになった。
「黒川さん、今は冗談を言っている場合ではありません。ユキちゃんが人質にとられてるんです。お願いですから、私にその拡声器を貸して下さい。そして一言だけでもいいですから、話をさせて下さい」
そう言うと、レン太郎は黒川に深く頭を下げた。
「……わかったよ。ほら」
黒川は、レン太郎に拡声器を差し出した。
「黒川くん。いいの?」
だが、ミホコは心配そうだ。
「ああ、いいんだ。こいつがこんなに真剣に頭を下げるところなんて、見たことないからな」
と、言いながらも、黒川はなぜかレン太郎に期待をしていた。この八方塞がりの状況を、打破してくれるのではないかと。
「黒川さん、ありがとうございます」
レン太郎は、黒川から拡声器を受け取ると、犯人に向かって呼びかけた。
「犯人さん、その娘は、私の知り合いです。少し話をさせてもらえませんか?」
レン太郎がそう言うと、
「キャーッ! レン太郎さーん!」
と、人質の娘の声。どうやら、知り合いのユキちゃんというのは本当のようだ。
「ユキちゃーん! 大丈夫? 今助けるからねー!」
「ていうか、レン太郎さーん!」
「なんだーい?」
「レン太郎さんがレンタルしてる『はぐれ人妻‐淫乱派‐』の返却期限、明日までですから、ちゃんと返して下さいねー!」
「イヤーン! ユキちゃん、そんな大声で言われたら、レンたん恥ずかしーっ!」
「なんの話をしてるんだ! オメーらはっ!」
黒川はレン太郎から、拡声器を奪い返した。
そこへ、
「くだらねー事やってないで、早く車持ってこいや!」
犯人が怒鳴り声をあげ、怒り出した。
そしてついに──、
バァーン!
犯人の持っている銃が、火を吹いてしまった。
「キャーッ!」
「ひ、人質は大丈夫かっ?」
黒川は焦った。
「大丈夫よ、黒川くん。ただの威嚇みたいだわ」
と、ミホコの声。
「そ、そうか……」
黒川は安堵の表情を浮かべた。
だが、その時、
「ふっふっふっふっ……」
突然レン太郎が、不敵に笑い出した。
「お、おい。この非常事態に何を笑ってるんだ?」
「やっと、戻ることが出来ましたよ。黒川さん」
「戻ることだと?」
「銃声よ、黒川くん」
「……あ」
ここで、忘れてしまっている読書の皆さまに説明しよう。
レン太郎は二重人格者であり、銃声を聞く事によって、賢くなったりアホになったりしてしまう、特異体質なのだ。
なので、今のレン太郎は、賢い方のレン太郎ということになるわけだ。
「黒川さん、犯人の言う通り逃走用の車を用意して下さい」
「それじゃ、犯人の逮捕が困難になってしまうぞ」
「いえ、犯人を逮捕するために車が必要なんです」
「どういうことだ?」
「車に、ある仕掛けをするんですよ」
「どんな仕掛けだ?」
と、その時、
バァーン!
再び犯人が、威嚇射撃をした。
「イヤーン! レンちゃん怖いーっ!」
レン太郎はまた、アホになってしまった。
「クソッ! いいところで……」
しかし、
バァーン!
また、犯人が発砲した。
「いいですか黒川さん。逃走用の車にですね……」
レン太郎は、再び賢い方になった。
「は、早く言え!」
「遠隔操作で……」
バァーン!
「ニャハーッ!」
バァーン!
「エアバックが……」
バァーン!
「アハーン!」
バァーン!
「作動できるように……」
バァーン!
とここで、ついに黒川がキレてしまった。
「うるせー犯人! ややこしくなるから撃つんじゃねー! ぶっ殺すぞコラ!」
すると、黒川の言う通りにしたのか、犯人の銃声はピタリと止んだ。
「おい、それからどうするんだ?」
黒川は、レン太郎の顔を直視した。
だが、
「ヒデキったら、そんなに見つめちゃイヤーン!」
残念ながらレン太郎の人格は、アホの方で止まっていた。
すると黒川は、再び犯人に呼びかけた。
「おい、犯人」
「なんだ?」
「スマンが、もう一発だけ撃ってくれんか?」
「勝手なこと言ってんじゃねーよ!」
黒川の呼びかけも空しく、犯人が再び銃を撃つ事はなかった。
だがそこへ、
「でも、ヒントならあったわ」
と、ミホコの声。
「そうだな。えーと確か……」
黒川はレン太郎の言葉を、思い返している。
「車に遠隔操作で仕掛けとか……エアバックを作動とか……言ってたな、確か」
「あっ! そうよ!」
そこでミホコは、ひらめいた。
「わかったのか? ミホコ」
「ええ、わかったわ」
「で、どうするんだ?」
「犯人が車に乗り込んだ時に、エアバックを遠隔操作で作動させるのよ」
「そうか! そうすれば犯人は、身動きがとれなくなる」
「で、そのスキに、一気に確保すればいいわ」
「そうと決まれば、早速車の用意だ! ミホコは車を手配してくれ。俺は時間を稼ぐ」
「わかったわ」
そう言うと黒川は、拡声器を取ろうと手をのばした。
だが、
「ん? 拡声器はどこだ?」
肝心な時に拡声器が、どこかにいってしまっていた。
とその時、
「えーオホン。犯人に告ぐ、犯人に告ぐ……」
レン太郎が拡声器で、犯人に話しかけているのが聞こえた。
「私はユキちゃんでないと、気持ち良くエロDVDをレンタルする事ができません。なので今すぐ、ユキちゃんを解放しなさーい!」
すると、犯人は逆上し、レン太郎に銃口を向けた。
「うるせー! まずはテメーから、ぶっ殺してやる!」
「……あ、危ない!」
黒川は、レン太郎の元へと走った。しかし、それより先に、犯人は引き金を引いてしまったのだ。
カチ!
「あ、あれ?」
カチ! カチ!
犯人は、慌てた様子だ。
「黒川くん、もしかして……」
「どうやら、弾切れのようだな」
「てことは……」
「確保だーっ!」
黒川の合図で、警備隊は一気に銀行へ突入した。そして、あっという間に犯人を確保し、人質も救出することに成功した。
というわけで、事件は無事、解決したのであった。
すると、人質のユキちゃんが、元気に走ってくるのが見えた。
「レン太郎さーん!」
「イヤーン! ユキちゃん、無事でよかったぁ!」
「レン太郎さんのお陰ですね。ありがとうございます」
「いやーお礼なんて言わなくてもいいよ。ちょっと乳首をつまませてもらえれば……」
と、レン太郎の手が、ユキちゃんの胸元に伸びた瞬間──、
ガスッ!
ユキちゃんの鉄拳が、レン太郎の顔面に炸裂した。
「させるわけねーだろっ! このドスケベ!」
「ユ、ユキひゃん……」
レン太郎はその場に倒れ込んでしまった。
それを見ていた、黒川とミホコは、
「あーあ、せっかくまともになったのに、またアホになっちゃったわね」
「そ、そうだな……」
黒川は、冷や汗をかいている。
「あら、どうしたの黒川くん?」
「いや、女って怖いなって、思っただけだ」
「そお、あれくらい普通よ」
「お前も、ああなるのか?」
「さあ、どうかしらね」
ミホコがそう言っていると、黒川の手が、ミホコの胸元に伸びてきた。
ガスッ!
ミホコの鉄拳が、黒川の顔面に炸裂した。
「なにやってんのよ! 黒川くん!」
「い、いや、ちょっと試してみたくなっただけ……」
黒川も、その場に倒れ込んでしまった。
「まったく男って奴は、どうしようもないわね!」
そう言い残すとミホコは、黒川を放置したまま、現場を後にした。
今回も事件を解決へと導いた、名探偵レン太郎。
次回は、どんな現場に現れるのであろうか。
「乳首がダメなら、せめて尻だけでも揉ませ……」
ガスッ!
(つづく)
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