11 / 21
ナースDEパラダイス
しおりを挟むとある病院で、入院患者の若い男性が、病院の屋上から転落死するという事件が発生した。死亡したのは、村井タケシ、24歳。
警察は当初、闘病を苦にしての自殺とみていたが、司法解剖の結果、微量の睡眠薬が検出されたことがわかった。
しかも、その患者の病気は、決して治らないものではなく遺書も書かれてはいなかった。
警察は、誰かに突き落とされた可能性もあるとみて、捜査を始めた。そして、この事件の担当は、女刑事、栗原ミホコ。
ミホコは早速、事件が発生した病院へと到着した。そして、病院に入るとミホコは、その死亡した男性患者の、担当看護師に話を聞くために、ナースステーションへと向かったのであった。
ナースステーションにて──。
「あの、ちょっとすみません」
ミホコは、ナースステーションにいた一人の看護師に声をかけた。
「はい、何でしょうか?」
見た感じ、二十代半ばの女性看護師だ。
「あのー先日亡くなった、村井タケシさんの、担当看護師の方はどちらに?」
「あっ、はい、私ですが……」
(よしっ!)
いきなりのビンゴで、ミホコは小さくガッツポーズをした。
「私は、警視庁捜査一課の刑事で、栗原ミホコといいます」
と、ミホコは警察手帳を見せた。
「私は、この病院の看護師の、神田トモミです」
「神田トモミさんね。トモミさんって呼んでいいかしら? あたしの事もミホコでいいから」
「あっ、はい、ぜんぜん構いません」
これは、聞き込みの際にミホコがよく使うやり方で、お互いをファーストネームで呼び合う事により、親密度をアップさせ、より多くの詳しい情報を聞き出すことができるのだ。
「じゃあ、トモミさん。聞いていいかしら?」
「はい、どうぞ」
「亡くなった村井さんは、どんな人だったのかしら?」
「とてもカッコイイ人でした。人あたりも良くて、ナースの間では人気がありましたね」
「どんな病気だったの?」
「盲腸です」
「盲腸?」
「はい、手術は必要でしたが」
「そう……」
トモミの話を聞いて、ミホコは考えた。
人あたりが良くてカッコイイ男が、手術が必要とはいえ、盲腸で自殺するだろうか。
(やっぱり、他殺の線は消せないわね)
ミホコはそう思った。
「最後にもう一ついいかしら?」
「はい」
「村井さんは、自殺だったと思う?」
「ええ、自殺だと思います」
「……え?」
ミホコの考えとはうらはらに、トモミは自殺だと言う。担当看護師にしかわからない事情でもあるのだろうか。
「どうして、自殺だと?」
「彼は手術の後も、傷口が痛いと言って、鎮痛剤や睡眠薬を多量に服用していました」
「……彼?」
「なにか?」
「何でもないわ、続けて」
「こんなに痛いなら、死んだ方がマシだとも言ってました」
「だから、自殺だと?」
「ええ、そうです」
「……そう、わかったわ」
「お役に立ちましたか?」
「ええ、いろいろ聞けてよかったわ。じゃあ、あたしはこれで……」
「はい、お疲れ様です」
(でもなんか腑に落ちないわ)
そうミホコは思ったが、聞くことは全部聞いたし、これ以上いても仕方ないので署に戻ることにした。
だがその時、
「キャーッ!」
と、廊下の先から、女性の悲鳴が聞こえてきた。
「な、何かしら?」
ミホコが悲鳴の聞こえてきた方を見ると、一人のナースが、何かから逃げるように走ってきた。
「どうしたの?」
ミホコは、そのナースに聞いた。
「せ、先生が、お尻を……」
「先生が?」
とそこへ、聞き覚えのある声が、聞こえてきた。
「せっかく診察してあげようとしてるのに、逃げなくってもいいじゃなーい」
「ま、まさか……」
恐る恐ると声の主の方を見ると、そこにはなんと、白衣を着て医者になりすましたレン太郎が、スケベ顔でナースを追い掛け回していたのであった。
「ちょっと、あんた!」
ミホコは、レン太郎を怒鳴り付けた。
「……え」
レン太郎は、ミホコの方を振り向いた。
「……えへ」
レン太郎は、軽く笑ってみた。
「えへ、じゃないわよっ!」
だが、ミホコは軽くキレている。
「あっ! そうだ!」
「なによ」
「私は診察がありますので、これで……」
レン太郎は、その場を立ち去ろうとした。
「逃げんなーっ!」
「ていうか、何でミホコさんがここにいるんですか?」
「それはこっちの台詞よ。しかも、何で医者の格好なんか……」
「それには訳があります」
「訳?」
「でも、それをお話する前に……」
そう言いながらレン太郎は、着ていた白衣を脱ぎ捨てた。
お注射しましょう
お好みサイズ!
伸縮自在なおまかせ探偵!
名探偵レン太郎!
「ニョキーン!」
と、ついでに、ズボンとパンツも脱ぎ捨てていた。
「早くパンツを履けーっ!」
「おっと、これは失礼」
だが、
「キャー!」
それを見ていたナース達は、なぜか黄色い悲鳴をあげている。
「あんたらも喜ぶなーっ!」
「まあまあ、ミホコさん。そんなに、怒んない怒んない」
「ていうか、何でここにいるのか、早く言いなさいよ」
するとレン太郎は、急に真面目な面持ちになった。
「実は私は、ある組織の、潜入捜査中なんですよ」
「ある組織って?」
「白の組織です」
白の組織──。
レン太郎の口から発せられた『白の組織』とは、いったいどんな組織なのだろうか。
「なにそれ?」
「白の組織とは、白ずくめの服を身にまとい、男を魅了し、なおかつ食い物にしている、ふてえ女の組織です」
「白の組織って、もしかして」
ミホコは、指をパキパキ鳴らした。
「白ずくめの服ってナース服?」
「そうです」
「男を食い物って治療費?」
「そうです」
「それであんたは、医者の格好をして潜入捜査をしてるって訳ね?」
「さすがミホコさん。話しが早いで……」
ボス!
と、レン太郎が言葉を言い終わる間もなく、ミホコはレン太郎の腹に、グーで一発入れた。
「びぼごばん……びぼいべず」
(訳・ミホコさん……ヒドイです)
「さて、帰るわよ。トモミさん、お邪魔したわね」
「あ……はい、どうも」
一部始終を見ていたトモミは、顔を引きつらせながら、ミホコを見送った。
「じゃあね」
ミホコはトモミに軽く手を振ると、うずくまるレン太郎を引きずりながら病院を出たのであった。
そして病院の外──。
「じゃあ、あたしは署に戻るから、あんたも大人しく帰るのよ」
ミホコは、レン太郎を指差しながらそう言った。
「はーい。わかりました」
レン太郎は、ふて腐れながら返事をした。
(まったくもう……)
そうミホコが、思っていると、レン太郎が話し始めた。
「ところで、ミホコさん」
「なによ?」
「ミホコさんは、何でこの病院に?」
「何でって、転落死の捜査よ」
「村井タケシの?」
「よく知ってるわね」
「ええ、色男でナースにモテモテでしたから、覚えてるんです」
「あんた、いつからこの病院にいたの?」
「もう、かれこれ一週間くらいですが……」
「あんたの行動も問題だけど、この病院の管理体制にも問題があるわね」
ミホコは、呆れてため息をついた。
「じゃあミホコさん、私はこの辺で失礼します」
と、帰ろうとするレン太郎を、ミホコは呼び止めた。
「ちょっと待って」
「なにか?」
「一週間ってことは、村井タケシが死亡するまでの様子も、見てきたってことよね?」
「ええ、知ってますけど……」
「どんな様子だった? 例えば、痛がったりとかしてなかった?」
「いいえ、元気でしたよ。トモミさんとスゲー仲良くしてましたし。あと、彼女も見舞いに来てましたね」
「彼女が見舞いに来たのっていつ?」
「え? 死ぬ前日ですけど」
「なんですって!」
ミホコは、声を荒らげたまま話し続けた。
「あんたはそんな大事なこと、なんで早く言わないのっ!」
「だって、聞かれなかったんだもーん」
「ガキみたいなこと言ってんじゃないわよっ!」
そう言うとミホコは、再び病院に向かって歩き始めた。
「ミホコさん、どちらへ?」
「ちょっとね、確かめたい事があるの」
「私も行きまーすっ!」
「ついてくんなーっ!」
だが、ミホコの必死の抵抗も空しく、結局レン太郎はついてきてしまった。
再びナースステーション──。
幸いな事に、トモミはまだナースステーションにいた。
「何度もごめんなさい。ちょっといいかしら?」
「あらミホコさん、お帰りになったんじゃないんですか?」
「ヤッホー! レンちゃんトモミさんに会いたくて、戻って来ちゃった!」
「あんたは、黙ってろ!」
「こ、怖い……ミホコさん」
レン太郎は、蛇ににらまれた蛙のように静かになった。
「トモミさん、大事な質問があるんだけど、いいかしら?」
「え、ええ……どうぞ」
「あなた、村井タケシのことを、好きだったんじゃないの?」
その問いに、トモミの動きは止まり、ミホコから目をそらした。だがミホコは、トモミを見据えたまま話し続けた。
「トモミさん、あなたは、村井タケシが好きだった。そして、彼もまた、あなたのことを好きだと言った……違う?」
トモミは、うつむいたまま黙っている。だが、ミホコは話を続けた。
「あなたは、彼が退院したら付き合えると思っていた。でも、その思いは、村井タケシの彼女が見舞いに来たことで、打ち砕かれた。そうよね?」
「……だから?」
と、トモミはゆっくりと顔を上げた。
「だから、何だって言うんですか? 看護師が、患者に恋しちゃいけませんか?」
今度は逆に、トモミがミホコに詰め寄った。だがミホコは、それに怯む事なくこう言い放った。
「あなたが殺したんでしょ? 自殺に見せかけて」
「な、何を根拠に……」
「そお? 殺す動機としては、十分だと思うけど」
「いくらなんでも、患者さんを屋上まで連れて行って、突き落とすなんて出来ません」
「へえ、呼び出したんじゃなくて、連れて行ったんだ?」
「……あ」
ミホコは、してやったりの表情だ。
とそこへ、レン太郎が話に割り込んできた。
「ミホコさんって、探偵みたいですね?」
「あんたが、不甲斐なさ過ぎんのよ!」
「よかったら、私の助手になりませ……」
ガン!
言葉をいい終わる間もなく、ミホコのかかと落としが、レン太郎の脳天に炸裂した。
「何であたしが助手なのよ!」
レン太郎は、その場に倒れ込んでしまった。
「これでしばらく静かになるわ。さて話の続きよ」
ミホコは、乱れたスーツを直しながらトモミの方を見た。
「普通、屋上へ呼び出したとしても、突き落とすのは困難だわ。だからあなたは、睡眠薬で眠らせてから車椅子で屋上へ連れて行き、突き落とした」
「そんなの言い掛かりです」
「そうかしら? 村井タケシの遺体からは、睡眠薬が検出されているのよ」
「それは彼が、痛くて眠れないって言うから……」
「それはウソよ」
「どうしてウソだと?」
「村井タケシは、手術後も元気で順調に回復していたわ。睡眠薬なんて飲んでいない。ちゃんと証言もあるわ」
「…………」
「後でカルテを調べればわかることよ」
すると、トモミは涙を流しながら話し始めた。
「だってあの人、あたしに付き合ってくれって言っくせに、彼女がいたんですよ。だからあたし、悔しくって……」
「それは、自白と受け取っていいのかしら?」
ミホコがそう言うと、トモミは何も言わずに小さくうなずいた。
そして、ミホコの連絡により、駆け付けたパトカーまで連行された。
「ねえ、ミホコさん」
トモミは、パトカーに乗り込む前に、ミホコに声をかけた。
「なに?」
「どこから、私が犯人だと思ってたんですか?」
「あなたは、村井タケシのことを村井さんではなく彼だと言ってたわ。普通、看護師が、患者をそういう風には言わないでしょ?」
「それだけでわかったんですか?」
「いいえ、確証は全然持てなかったわ。まあ、しいて言うなら……」
「言うなら?」
「女の勘……かな」
ミホコがそう言うと、トモミは納得した様子でパトカーに乗り込んだ。そして、ミホコも続いて、パトカーに乗り込もうとした。
だが、その時である。
「キャーッ! 痴漢よー!」
と、病院の方から、悲鳴が聞こえてきた。
「あ、あいつのこと、すっかり忘れてた」
あいつとは、言うまでもなく、レン太郎のことである。
「ゴメン、先に署に戻っててくれる?」
パトカーに同乗している刑事に、そう告げるとミホコは、再び病院へと向かって歩き始めた。
もちろん、レン太郎を連れ戻すために──。
そして10分後──。
顔をボコボコにされたレン太郎が、ミホコに引きずられ病院から出てきた。
「ミ、ミホコさん……も、も少し手加減して下さい」
「うるさい! 殺されなかっただけでも、ありがたいと思いなさい!」
そして、事件は幕を閉じた。
今回は、まったく見せ場がなかった名探偵レン太郎。
次回は、どんな現場に現れるのであろうか。
「白の組織の調査が、まだ終わってませーん!」
「やかましいっ!」
(つづく)
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
私の優しいお父さん
有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。
少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。
昔、私に何があったんだろう。
お母さんは、どうしちゃったんだろう。
お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。
いつか、思い出す日が来るのかな。
思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる