名探偵レン太郎

レン太郎

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コスプレ警官と殺人事件

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 警視庁捜査一課──。
 サングラスに不精ヒゲを生やした男が、不機嫌そうにタバコをくわえている。
 彼の名は、黒川ヒデキ。警視庁捜査一課の刑事である。
 黒川はイラついていた。なぜかというと、黒川は“最初から二回に渡って登場した刑事”であるにもかかわらず、名前さえ紹介してもらえなかったうえに、黒川がひそかに想いを寄せている女性、栗原ミホコが、前回の話でセクハラまがいの目に遭っているからである。
 そう、黒川をイラつかせている張本人──名探偵レン太郎。

 この男、名探偵と名乗ってはいるが、実際は現場に現れて、引っかき回すだけ引っかき回し、立ち去るだけといった、迷惑極まりない行為を繰り返しているだけの男。
 黒川はレン太郎を捕まえたい。すでにレン太郎は、不法侵入罪、ストーカー行為、公務執行妨害と罪を重ねている。罪は軽いが、犯罪者であることは明白なる事実。

「今度会ったら、必ず捕まえてやる」

 黒川は、そう小さく呟いた。
 とその時、朝のジョギングをしていた男性より、男が道端で血を流して死んでいるとの110番通報が入った。

「よし事件だ」

黒川は、タバコを灰皿で乱暴に揉み消すと、早速、現場へと向かった。

 現場に到着した──。
 現場はすでに、やじ馬でごった返しており、なかなか前には進めない状態だった。
 だが黒川は、そんな状態をものともせず、警察手帳を見せながら、どや顔で、やじ馬を押しのけて前へと進んだ。やっと遺体とご対面である。
 すでに遺体には、シートが被せられており、物々しい雰囲気をかもし出している。黒川は、遺体の確認をするべく、ゆっくりとシートをめくった。

「ナイフで心臓をひと突き……か」

 殺意を持っての犯行だという事は、明白のようだ。
 すると、

「刑事お疲れ様です」

 と、現場に先に駆け付けていた警官が話し掛けてきた。

「ああ、お疲れ……ん?」

 警官を見た黒川は違和感を覚え、ハッ気付いた。帽子を深く被っているが、その警官の顔に見覚えがあったのだ。

「おい、お前!」

 黒川は、その警官を睨みつけ、肩を掴み呼び止めた。

「はい」

「何でお前がここにいるんだ?」

「何でって、警官がここに居ちゃいけませんか?」

「お前は、警官じゃないだろ!」

「ふっふっふっ、さすが刑事さん。私の完璧な変装を見破るとは……」

 そう言うと、警官の男は、被っていた帽子を空高く放り投げ、その正体を現した。


 目隠しプレイ大好き!
 日本一の家畜人!
 名探偵レン太郎!


 なんと、警官の正体は、コスプレで現場で遊んでいた、あのレン太郎だったのだ。
 しかし、

「はい、ご苦労さん」

 レン太郎がポーズを決めてる間に、すかさず黒川は、その手を取った。そして、迷う事なく手錠をかけ、もう一方の手錠を自分の手にかけたのである。

「これでもう逃げられんぞ!」

 まんまとレン太郎を捕まえることに成功し、ご満悦な表情の黒川。だがレン太郎は、キョトンとした顔でこう言った。

「刑事さん。私、殺してませんよ」

 黒川は、呆れた顔でため息をついた。

「あのな、お前はすでに、ストーカーと不法侵入と公務執行妨害で、十分逮捕の対象になってるんだよ! しかも、ミホコにセクハラまがいなことまでしやがって……」

 するとレン太郎は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、黒川に近寄った。

「ははーん、さては刑事さん」

「なんだ?」

「ミホコさんのこと、好きなんですね?」

「な、何を言ってるんだ。お、俺はただ同僚としてだな……」

 図星を突かれた黒川は、動揺の色を隠せない。

「刑事さん知ってますか?」

「何をだ?」

 するとレン太郎は、更に近寄り、黒川の耳元で、こう囁いた。

「ミホコさんの左胸と内股に、可愛いホクロがあるんですよ」

 それを聞いた黒川は逆上し、拳銃を抜いて、レン太郎のこめかみに突き付けた。そして、かなりドスがきいた声で、レン太郎を怒鳴りつけたのである。

「てめえブッ殺されてぇか!」

「ア、アハハ……冗談ですよ。冗談」

 さっきとは打って変わり、レン太郎は顔を引きつらせている。

「フンッ!」

 怒りがおさまらない黒川ではあったが、拳銃をホルスターにおさめ、再び遺体と向き合った。
 だって黒川は、人間である前に、一人の刑事なのだから──。

 すると、黒川の背後から、レン太郎も遺体をじっと眺めだした。

「さて刑事さん。この事件をどう思われますか?」

「そうだな……死因は、心臓をナイフでひと突きだからな、そうとう恨みがある者の犯行だろう」

「それに、このナイフの入り方……かなり深く入ってますから、恐らく犯人は男ですね」

「よし、この男の人間関係から調べよう」

「恋愛関係もですね? 三角関係のもつれって線もありますから」

 事件について、レン太郎と話してた黒川。だがそのうちに、不思議そうに首をかしげていた。なぜかというと、黒川の脳裏に、ある一つ疑問が浮かび上がったからである。

「おい」

「はい?」

「お前、なんか探偵っぽくね?」

「だから最初っから探偵だって言ってたじゃないですか」

 そう、今、黒川の目の前にいるのは、迷惑で人騒がせな変態ではなく、事件と正面から向き合う一人の探偵だった。
 この時、黒川は思った。
「ひょっとしたら、こいつは本当に探偵で、今までも行動には問題があったが、本気で事件を解決しようと思ってるんではないか」と。
 すると、やけに神妙な面持ちで、レン太郎は黒川にこう言いはじめた。

「刑事さん」

「なんだ?」

「逃げませんから、この手錠を外してもらえませんか?」

「……うーん」

 黒川は迷った。確かに、手錠をしたままでは捜査の妨げになる。それよりも、目の前の殺人事件に集中したい。

「わかった手錠を外すぞ。だが、逃げるんじゃないぞ」

 そう言いながら黒川は、ポケットから鍵を取り出し、レン太郎の手錠を外した。だが、その時である。

「あ、あのう……すいません」

 そう言いながら、一人の男が手をあげて、ゆっくりと出てきたのである。

「な、なんだ、お前は?」

「その人殺しちゃったの僕なんですけど……」

 辺りに、異様な空気が流れた。黒川はボー然とした顔で、その男に再び確認をした。

「え、あんたが殺したの?」

「……はい」

「マジでかっ?」

 現場での犯人の自首という、意外な展開で、スピード解決した今回の事件。黒川は、複雑な想いと安堵が入り交じった表情で、レン太郎の方を振り返った。
 だが、すでにレン太郎の姿はそこにはなかった。

「あのクソ野郎! 逃げやがったな!」

 ペテン師のような話術と恐ろしいまでの逃げ足で、上手いこと逃げおおせた、名探偵レン太郎。
 次回は、どんな現場に現れるのであろうか。

「次会ったら絶対にブッ殺す!」

(つづく)
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