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アーナスター編

リリー51(十七歳)

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   こんなに泣いたのは、転生してきてからは赤ちゃんの頃以来。

   ってくらいに、夜になって部屋で一人きりになると、しくしく毎日泣いたよね。 

   まあ、涙が続いたのは一週間くらいだけど。

   どうせ悪役だからって自分に言い聞かせて、その場のノリで皆とお別れしようと思っていたら、何故か代わりにセオさんが行ってしまった。

   「……っうっ、」

   「リリー様…」

   いけない。セオさんを思い出して、一緒にお散歩していたファンくんに心配させた。

   セオさん、王都に来てからは何となくいつも顔を見ていたから、いつだって会えていつだって話し出来ると思っていた。

   まさかこんな、私の代わりにあの世界に行くなんて、思ってもいなかった。

   ーー「僕はあなたに、もう一度、会いたかったんだ」

   私だって、セオさんに会いたかった。

   ここ最近姿を見ることはなかった。だってセオさん、うちの上の兄の勘違いのせいで、死神って総評される右側うちの身内たちに、理不尽に追いかけ回されていたと想像出来る。

   だからなんか、いつもと違ってヨレヨレな格好してた。

   自由奔放に生きてるような私の環境、実はこう見えて、生まれて自我が芽生えてから、ずっと周りの顔色伺って、家族や身内の爆発スイッチ、押さない様にギャンブルしながら生きてきて今がある。

   親や周りの顔色を伺うって、子供はみんな経験あるとは思うけど、うちはちょっと違ったんだ。

   ポロッと生まれ出てまだ目も見えなかったはずだけど、肌寒くって不安で、毎日ひんやり冷たいシーツだけを感じて、赤ちゃんながらに命の危機を感じたのか、誰か来てー! 誰か来てー! って悲しくて悲しくて、毎日毎日泣いてばかりいたはず。

   目が見えて、冷たーい顔して私をチラ見していくファミリーたちを確認出来るようになってから始まったのは、虐待というデッドオアアライブを賭けた攻防戦。

   気難しいうちの家族たち。彼らの何処を何処まで突っついたらセーフとか、きっとアレを押したら爆発するとか、皆のスイッチ、いつ何が飛び出るか、試し試し押してきた私のダナー人生。

   その中で、唯一スイッチを気にしないで、顔見たら安心できるのがセオさんだったのに。

   別になめていたわけではない。

   彼からは、いつも優しさがにじみ溢れていた。

   昔々、木登りのせいで転勤させられたり、そんな幼児の失敗も、まるまる見逃してくれた優しいセオさんは本当に優しすぎて、今度は私の代わりに魔方陣に入ってしまった。

   どんだけだよ。

   どんだけ天使なんだよ。

   「……はぁ。…………はぁ……」

   うざいくらいに溜め息ばかり出ちゃう。

   セオさん、今はどうしてる?

   あちらの世界に無事に着けたの?

   セオさんの金髪な見た目から、私の居た国に着地しないで、多種多様な人々が集ってる国の方が、直ぐに皆と溶け込めるかもしれないとか、何のアドバイスにもならない余計な事ばかり考えてる。 

   それよりも何よりも、生きてるの?

   怪我していない?

   心配……。

   「そういえば、リリー様にもあの音が聞こえるのですよね?」

   うざい私に気を遣ってくれる小学生。ファンくんが質問してきた。

   「あの音?」

   「境会アンセーマが仕掛けた魔方陣、空を裂くあの鐘の音です」

   うんうん。そういえば、そうなんだよね。

   後から聞いた話だと、あの防災訓練の様なガラーンガラーンは、私とファンくんにしか聞こえていないみたい。

   聞くとあれはファンくんの周りの人たちには聞こえるけど、右側うちや王都の人たちには聞こえない様だった。

   「なんでかしらね?」

   同じ様に首を傾げるファンくんだけど、そういえば、セオさんも聞こえないって言ってたし、エンヴィー祭司には聞こえていたのかな?

   エンヴィー祭司、何故かセオさんと一緒に、彼もあの場所から居なくなっていた。

   襲ってきたマントたちやフェアリーさんたちの件とか、空から降ってきたアレとか、動けない皆とか、いろいろ混乱していたあの現場。

   その中で私を仲間認識し、あちらの世界に旅行とか、皆が居なくなって二人だけでどうだとか、虐待され過ぎて大人になっても中二病的な犯罪ドリームをはっきり語った彼に、今は何処に立っている? って現実突き付けてあげたけど、結局、なんか怒ってたよね。

   ーー「その人に訳の分からないことばかり言われて…」

   どうでもよくなっちゃった、みたいな。傷ついてる彼のこと、これ以上傷付けないようにけっこう考えて話してた私にめんどくさって顔して言ってた投げやり発言。

   空の赤いのが気になったけど、あの状況でもしっかり聞こえてたよ。こっちもちょっとイラッとしたから無視したけどね。

   その彼も居なくなり、なんであんたがセオさんと一緒にって、変なジェラシーも沸き上がった。

   「……ハァ…」

   また出たうざい溜め息。それを悲しげに見上げるファンくん。ごめんね…。

   庭を見て、とぼとぼと部屋に戻るとメルヴィウスが待っていた。

   メルヴィウスには笑顔で纏わりつく事が効果覿面なのは知っているけれど、そんな元気ない。  

   「お前、学院再開されたら、行く?」

   「?」

   学校かー…。

   戦争の件が落ち着いてきたみたいだし、ウサギはイラつくけどピアンちゃんには会いたいし、……そうだ、グーさん。

   グーさんに、文句言ってやろう。

   「行くわ。学院」

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