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しおりを挟むダナーの馬車を襲わせたが、標的の令嬢は無事だった。そして学院内で、再び令嬢が襲われたが、それはエンヴィーの知らぬところで計画が進められていた。
「何度も何度も失敗ばかり、この、役立たずめ!!」
怒りに投げ付けられた銀色の杯は、エンヴィーの額を掠め音を立てて床に転がっていく。
「無駄に核を使うとは、ダナーとアトワの領地へ行って、お前が、残りをすべて盗ってこい!」
「…………」
切れた額から頬を伝い流れ落ちた赤い血。エンヴィーは、身に覚えのない事に、顔を歪める赤外套の老人を見上げた。
「簡単だろう? 他とは違う。それが血統だからな」
「……」
同じ灰色の外套を身に纏い、壁際に立っている。学院で令嬢を襲った数名は、言い訳をしないエンヴィーに胸を撫で下ろし、内心では笑う。
学院の厚い硝子窓を砕くため、試しに核を使ってみた。魔力の干渉により、簡単に粉々になった硝子。
失敗しても、やはりエンヴィーの所為にされた。
それを他の者に指示した祭司クラウンは、立ち竦むエンヴィーに「下がりなさい」と冷たく言い放った。
そして苛立ちが収まらない祭司オーカンを見て、背後に待機する者に目で合図する。
「そういえば、今回の召喚異物オーは、今までで一番使えるかもしれません。核そのものが、攻撃物質にならないのかと、提案したのはオーなのです」
今回の実験では、数個の設置で学院の強化硝子を破壊できる事が判明した。
そしてオーはフェアリオと名を与えられてからも、自分勝手に行動せずに境会の祭司に従順だった。
「残念ながら、核爆弾に関する製作知識はありませんが、兵器開発に核を使用するのは良い考えかもしれません」
祭司クラウンに、年老いた祭司オーカンは否定に首を振る。
「だが街一つ壊滅させる量が無い。実験などしなくてもすむ様に、異界からの兵器召喚が目的だったのだ。我々で造り出せる程度ならば、そもそも召喚などしてはいない」
「確かに」
「それもあるが、王への献上品を早く形にせねば、我ら境会に、不審を抱かせてはならないぞ」
「そうですね。それに、近頃は結界が不安定な事も気になります」
国を覆う結界の不具合が次々と報告されている。再び始まった左側の境会に対する追及、未だ生きている右側の令嬢、山積する問題にクラウンは溜め息したが、現れた灰色の祭司の姿を見て、取りあえず目の前の面倒事を片付けようと老人に声をかけた。
「祭司オーカン、お気持ちを整えましょう」
歴代の主祭司は、若い少年を好む。
奥の部屋に用意されるのは、見た目が整った灰色祭司達の子供たち。
気難しい老人をその部屋に導くと、厚い扉は閉められた。
**
「いつもお邪魔してごめんなさい。私、人見知りなので、新しい場所に、簡単には馴染めなくて…」
控えめだが、柔らかな笑顔。
「私に出来る事なら、なんでも言って下さい!」
積極性はあるが器用ではない。
「こんな事しか出来なくて…」
従者の代わりにお茶を運んで恐縮した。そのお茶は、とても渋くて飲めたものではなかった。
「グランディア様が王太子様なら、きっとこの国は安心ですね」
耳に伝わる、軽く心地よい声。
「だって、いつもそんなに忙しく国の為にお仕事されて、頼もしく思わない国民はいないと思います!」
言葉は常に勇気づける。グランディアだけを見つめ、追いかけてくる空色の瞳。
数日前に出会ったばかりのフェアリオは、グランディアの心に入り込んだ。
「グランディア様、今日もお昼をご一緒してもいいですか?」
境会で聖女としての学びを受けると、定時に執務室を訪れる。明るい笑顔に、それを断る理由のないグランディアだったが、フェアリオと歩く王宮の中庭に、いるはずの無い人物を見て足を止めた。
ドキリと鼓動が強く打った。
「……」
暖かい陽の満ちる庭園に、それには一切溶け込まず、その場に反する姿の黒の制服。
『あれは、』
何か呟いたフェアリオが、物怖じして背後に下がった。その気持ちを、グランディアは理解できた。
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