上 下
105 / 211

リリー39(十七歳)

しおりを挟む

   
   上機嫌で喫茶店に向かう途中、通行人の中に、背の高いお洒落な人を発見した。

   黒のドレスのその人は、他の女性達よりも頭一つ出ている。帽子を被っているが、右肩に流すくせの無い長い黒髪。スラリとした長身でとても綺麗な後ろ姿。

   (……?)

   ウィンドウを見た横顔に、私はまさかを確信した。

   「アーナスターさん!」

   「!?」

   思ったよりも、大っきい声出たよ。レディーとして、ハシタナイって、ナーラさんが背後から睨んでいるのは見なくてもわかるよ。

   振り返った長身の美人は、やっぱりピアンちゃんだった。

   街中で会うなんて偶然だよね!

   これってきっと運命じゃない?

   引き寄せたんだよ、コレが……。

   プレゼントされた黒猫のブローチ。襟元のスカーフを押さえたそれを、見て見てーって、わざとらしく強調する。

   それに気づいたピアンちゃん。うるうるって涙目になった。

   ミートゥー……。

   私もおんなじ気持ちです。お友達、継続されていたって、これで自信が回復しました。

   「よければ、お時間あるかしら?」

   今から皆でお茶するの。ピアンちゃんも、ご一緒しませんか?

   私の突然の思いつき発言に警備員たちは、えっ? ってなったけど、それを無視して新しいお友達にピアンちゃんを紹介する私。

   「……」

   ぽかんと口を開けてピアンちゃんを見上げる少年。うふふ、わかるよ。格好いいでしょ? モデルさんみたいで緊張する? 小学生には刺激が強すぎたかな?

   お互いに見合ったまんまの長丁場。店先だったので、取りあえず店内にお見合いは持ち越された。

   
 **


   (いーねーいーねー)

   期待どおりのお洒落カフェ。メニューにもバッチリ最新スィーツが揃ってる。

   夏の陽気は近付いているけど、今日はかき氷は食べないの。お子様とご一緒なんだよ? こんなチャンスは滅多にない。

   パフェでしょ!

   一緒に大きなパフェ、食べるでしょ!

   緊張して、もじもじと口数の少なくなったファンくん。だから遠慮する彼の代わりに勝手にパフェを注文する。

   ピアンちゃんには、丁重にお断りされました。格好いいピアンちゃん、クールにブラックコーヒーが大人だね!

   私はね、季節限定お花のパフェ! そしてファンくんはたっぷりチョコレートスペシャルだよ!

   一口ほしい。

   ここにマナーとかは関係ない。

   スィーツ交換は基本中の基本なのです。

   お姉さんの私はね、お先にどうぞって、先に味見を譲ってあげるのよ。

   「はい、あーん」

   恥ずかしがると思って、遠慮した瞬間に口に突っ込んだ。

   もちろんナーラ姉さんの鋭い眼光を躱してのスピード勝負。ナーラさん、ローデルートさんセオさんの大人チームは、座席に座らず立ち話。その他の警備の皆様は、外で絶賛待機中。

   顔を真っ赤にお花パフェをもぐもぐ味わうファンくん。相変わらず声は出てないけど、今日はもじもじせずにクールを装う休日のピアンちゃん。

   食べたよね? 美味しいよね?

   では、私もあなたのチョコパフェを一口…。

   ーーガチャガチャ。

   人様のパフェを、天辺からすくったりしないよ。端っこの方の、でもチョコがこぼれそうにたっぷりしてる、側面から…ーーガチャッ。

   (なんか、さっきからガチャガチャうるさいな)

   「これはこれは、こんな所で出逢うとは、運命を感じますね」

   押し付けがましい男の声が、お洒落なカフェに響き渡る。ガヤガヤとやって来たのは、学院内でも有名なプライベートの侵害者。

   その代表みたいに現れたのは、名前交換した軽薄さんだった。

   「ご一緒しても、宜しいですか?」

   「宜しくないわ」

   あなた、お仕事中でしょう? なに言ってんの?

   私の迷いなしのお断りに、軽薄さんは「おやおや」って肩をすくめて軽薄ポーズ。

   それでも立ち去らない図々しさに、うちの警備員達を突破して、ここに入って来れた奴の立場を考える。

   結論。

   面倒くさい事が起きそうだから、早めにパフェの味見だけは完了させる事にした。

   邪魔なんかに負けないよ。奴が話してる間に、せっせせっせとパフェを口に運ぶ。
   
   「……」

  そんな意地汚い私に、いつの間にか人々の目線は集まっていた。   
  
     
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~

蘆屋炭治郎
ファンタジー
 平陽京の西、鳴松守の屋敷に居候する童――刀伎清士郎はモノノ怪に襲われ、窮地で自身の前世を思いだす。清士郎はなんと、前世で人々を恐怖におとしいれた大妖怪だったのだ。  天才陰陽師の安倍叡明に討たれた悲惨な末路を思いだし、今世では平穏に暮らしたいと願う清士郎。だが不運にも偶然居合わせた安倍叡明に正体こそ隠し通せたものの、陰陽師の才を見抜かれ、京の陰陽寮に仕官するように命じられてしまう。  陰陽寮――それはモノノ怪を打倒する傑物揃いの戦闘集団。  そんな陰陽師だらけの敵地真っ只中で、清士郎は正体を隠して陰陽師としての責務をこなしていくことになるのだが……。 ※諸事情あって週3、4更新とさせていただきます。火、木、土+‪α‬での更新になるかと思います。

東雲に風が消える

園下三雲
ファンタジー
明治後期、関東のとある山中に無機質な建物がある。そこには桔梗という名の青年と、牡丹という名の少女、そして、龍、虎、狼という三体の神獣が暮らしていた。日々平穏に暮らしていた彼らのもとに、新たな神獣が現れる。この出会いをきっかけに、強い劣等感を抱きながら生きてきた桔梗は少しずつ変わっていく。彼を支える友人や上司との関わり、過去との対峙、挑戦、そして戦争。運命の輪が回る時、それぞれの関係性も静かに変化する。 ※この物語はフィクションです。明治時代を舞台に設定していますが、登場するものはすべて架空のものであり、実際に存在した人や物などとは一切関係がありません。

可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?

りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。 オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。 前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。 「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」 「頼まれても引きとめるもんですか!」 両親の酷い言葉を背中に浴びながら。  行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。  王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。  話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。  それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと 奮闘する。      

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

弱小流派の陰陽姫【完】

桜月真澄
ファンタジー
神崎月音、十五歳。今日も白桜様と百合緋様を推して参ります!! ++ 陰陽師としては弱小流派の神崎流当主の娘・神崎月音。 同じ学校で陰陽師大家(たいか)の当主・白桜とその幼馴染の百合緋を推しとして推し活にいそしむ日々。 たまたま助けたクラスメイトの小田切煌が何かと構ってくる中、月音の推し活を邪魔する存在が現れる。 それは最強の陰陽師と呼ばれる男だった――。 +++ 神崎月音 Kanzaki Tsukine 斎陵学園一年生。弱小流派の陰陽師の家系の娘。推し活のために学校に通っている。 小田切煌 Odagiri Kira 月音のクラスメイト。人当たりのいい好青年。霊媒体質。 神崎碧人 Kanzaki Aoto 月音の父。神崎流当主。 月御門白桜 Tukimikado Hakuou 陰陽師の大家、御門流当主。 影小路黒藤 Kagenokouji Kuroto 斎陵学園二年の転校生。小路流次代当主。 水旧百合緋 Minamoto Yurihi 白桜の幼馴染。 2023.2.10~3.10 Satsuki presents

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

元自衛官、舞台裏日報

旗本蔵屋敷
ファンタジー
元自衛官、異世界に赴任する の、本編パートでは希薄であった日常編を描く番外編のようなもの。 怒涛の勢いで状況に流される中、本来は存在しながらも描かれなかった日々の出来事が書かれる。

夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。 ※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています

処理中です...