上 下
97 / 211

リリー37 (十七歳)

しおりを挟む


   春休みでもないのに、誕生日休暇をダナーの家で満喫したお貴族様の私の気分は絶好調。

   だったのに……。

   教室に向かう途中、白ウサギに遭遇したら、気分はピキンてひきつった。

   「休暇は楽しかったかい?」

   「そうね、今も余韻に浸っているわ。だから道を開けて隅に寄っていただける?」

   「十七歳に、なれたんだね、リリエル・ダナー」

   おや?

   なれたんだねって、言ったよね?

   なりましたね、ではなくて、なれたんだねって言ったよね?

   こいつ、私の過去世からの念願である、十七歳への進化のなんたるかを、知っているかの様な口ぶり。

   「それが、何か?」

   「ダナーそちらの家の令嬢は、十六歳以上は難しいと、そう聞いていたのだが」

   「難しい…?」

   こいつはフェアリーンさんに、モラハラ貴族って言われてた。モラハラって、脳内から溢れ出そうな嫌みを、いつまでも溜め込んで保存維持している陰湿タイプ。

   意味の分からないいちゃもんに、メイヴァーさんが、「はあ? 何言ってんだお前」って前に出そうになったけど、ここは私にお任せあれ。

   「ずいぶんと、我が家に興味がおありのようね? お勉強なされたの?」

   「百年ほど前から歴代ダナー家の令嬢は、十七歳の前に亡くなっている。まさか知らなかったわけではあるまい?」

   ハハッて笑った白ウサギ。言ってる意味が一瞬分からなかったけど、直ぐにあることに気が付いた。

   「……」

   歴代ダナー家の令嬢って、うちの家のご先祖様の話だよね?

   こいつ、私でもよく知らない我が家の系譜、ご先祖様の亡くなった年齢を、百年遡って知ってるなんて……。

   偏執的マニアじゃない?

   しかも右側うちの、女性のご先祖様に興味を持っている…。

   奴の気持ちの悪さに、メイヴァーさんが私の気持ちを体で表現してくれたけど、左側あっちのメンバーに邪魔された。

   白ウサギに似て嫌みな白色メンバー。バチバチを通り越して、本気の喧嘩に発展するかとちょっとヒヤリとしたけれど、珍しく白ウサギがやる気を無くして、すごすごと撤退していった。

   ウィナー……。

   完全勝利を鼻で笑う私は、今も悪役らしさを保っている。

   横ではメイヴァーさんが、やり過ぎましたってしょんぼりしてたけど、私も心の中では「やっちまえ」ってシンクロしてたから、逆に「惜しかったよね」って一緒に悔しがったの。


 **

   
   春学期も流れる様に過ぎ去って、もう直ぐ春休みがやって来る。

   なってみれば、なんて事ないいたって普通の十七歳の学院ライフ。

   十五冊ある分厚い奴隷関連書物も、ようやく読み終わったんだけど、この国の闇の歴史は底が深く、「はい、止めて」って、簡単には取り除けなさそうという事だけは理解した。

   奴隷制度を、王様が認めてるって、そこが最大の問題点。

   グーさんのお父さん、パッと見は、穏やかそうに見えるのに。しかも左側アトワを王族に引き入れたり、グーさんと右側わたしを婚約させたりしたいのは、王様が仲を取り持って、右と左が歩み寄れればいいのにねって、そんなお考えらしい。

   歴代の王様よりも、とても温厚らしいというのは巷の噂。

   (ふーーむ……ん?)

   授業中に後からやって来た新米先生が、何やら語学担任に相談し始めた。

   なんでもトイ国の昔の言葉が分からず、至急翻訳してほしいらしい。

   ここで私は、スッと立ち上がる。

   「お手伝い致しましょうか?」

   トイ国って、山を挟んで右側うちの隣の山岳部族。国交は無いけれど、むしろ警戒してるけど、だからこそ、彼らの言語は学習済みなのです。

   仲間たちは代わりに出ようとしたけれど、ここも私にお任せあれ。

   見てごらん、左側やつらの悔しそうなお顔を。話せないでしょ? 読めないでしょ? トイ語の文字なんて。

   優越感に奴らの前を通り過ぎ、ありがとうする語学担任に任せなさいって軽く頷く。

   「資料室は、少し遠いのですが……」

   うむ、もちろん知っています。

   ペコペコしている腰の低い新米教師の後に続いて資料室に向かう途中、突然ビシッって大きなヒビが入った廊下の窓ガラス、グラッと何かが倒れてきた。


  
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そして乙女ゲームは始まらなかった

お好み焼き
恋愛
気付いたら9歳の悪役令嬢に転生してました。前世でプレイした乙女ゲームの悪役キャラです。悪役令嬢なのでなにか悪さをしないといけないのでしょうか?しかし私には誰かをいじめる趣味も性癖もありません。むしろ苦しんでいる人を見ると胸が重くなります。 一体私は何をしたらいいのでしょうか?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢なので舞台である学園に行きません!

神々廻
恋愛
ある日、前世でプレイしていた乙女ゲーに転生した事に気付いたアリサ・モニーク。この乙女ゲーは悪役令嬢にハッピーエンドはない。そして、ことあるイベント事に死んでしまう....... だが、ここは乙女ゲーの世界だが自由に動ける!よし、学園に行かなければ婚約破棄はされても死にはしないのでは!? 全8話完結 完結保証!!

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...