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リリー37 (十七歳)

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   春休みでもないのに、誕生日休暇をダナーの家で満喫したお貴族様の私の気分は絶好調。

   だったのに……。

   教室に向かう途中、白ウサギに遭遇したら、気分はピキンてひきつった。

   「休暇は楽しかったかい?」

   「そうね、今も余韻に浸っているわ。だから道を開けて隅に寄っていただける?」

   「十七歳に、なれたんだね、リリエル・ダナー」

   おや?

   なれたんだねって、言ったよね?

   なりましたね、ではなくて、なれたんだねって言ったよね?

   こいつ、私の過去世からの念願である、十七歳への進化のなんたるかを、知っているかの様な口ぶり。

   「それが、何か?」

   「ダナーそちらの家の令嬢は、十六歳以上は難しいと、そう聞いていたのだが」

   「難しい…?」

   こいつはフェアリーンさんに、モラハラ貴族って言われてた。モラハラって、脳内から溢れ出そうな嫌みを、いつまでも溜め込んで保存維持している陰湿タイプ。

   意味の分からないいちゃもんに、メイヴァーさんが、「はあ? 何言ってんだお前」って前に出そうになったけど、ここは私にお任せあれ。

   「ずいぶんと、我が家に興味がおありのようね? お勉強なされたの?」

   「百年ほど前から歴代ダナー家の令嬢は、十七歳の前に亡くなっている。まさか知らなかったわけではあるまい?」

   ハハッて笑った白ウサギ。言ってる意味が一瞬分からなかったけど、直ぐにあることに気が付いた。

   「……」

   歴代ダナー家の令嬢って、うちの家のご先祖様の話だよね?

   こいつ、私でもよく知らない我が家の系譜、ご先祖様の亡くなった年齢を、百年遡って知ってるなんて……。

   偏執的マニアじゃない?

   しかも右側うちの、女性のご先祖様に興味を持っている…。

   奴の気持ちの悪さに、メイヴァーさんが私の気持ちを体で表現してくれたけど、左側あっちのメンバーに邪魔された。

   白ウサギに似て嫌みな白色メンバー。バチバチを通り越して、本気の喧嘩に発展するかとちょっとヒヤリとしたけれど、珍しく白ウサギがやる気を無くして、すごすごと撤退していった。

   ウィナー……。

   完全勝利を鼻で笑う私は、今も悪役らしさを保っている。

   横ではメイヴァーさんが、やり過ぎましたってしょんぼりしてたけど、私も心の中では「やっちまえ」ってシンクロしてたから、逆に「惜しかったよね」って一緒に悔しがったの。


 **

   
   春学期も流れる様に過ぎ去って、もう直ぐ春休みがやって来る。

   なってみれば、なんて事ないいたって普通の十七歳の学院ライフ。

   十五冊ある分厚い奴隷関連書物も、ようやく読み終わったんだけど、この国の闇の歴史は底が深く、「はい、止めて」って、簡単には取り除けなさそうという事だけは理解した。

   奴隷制度を、王様が認めてるって、そこが最大の問題点。

   グーさんのお父さん、パッと見は、穏やかそうに見えるのに。しかも左側アトワを王族に引き入れたり、グーさんと右側わたしを婚約させたりしたいのは、王様が仲を取り持って、右と左が歩み寄れればいいのにねって、そんなお考えらしい。

   歴代の王様よりも、とても温厚らしいというのは巷の噂。

   (ふーーむ……ん?)

   授業中に後からやって来た新米先生が、何やら語学担任に相談し始めた。

   なんでもトイ国の昔の言葉が分からず、至急翻訳してほしいらしい。

   ここで私は、スッと立ち上がる。

   「お手伝い致しましょうか?」

   トイ国って、山を挟んで右側うちの隣の山岳部族。国交は無いけれど、むしろ警戒してるけど、だからこそ、彼らの言語は学習済みなのです。

   仲間たちは代わりに出ようとしたけれど、ここも私にお任せあれ。

   見てごらん、左側やつらの悔しそうなお顔を。話せないでしょ? 読めないでしょ? トイ語の文字なんて。

   優越感に奴らの前を通り過ぎ、ありがとうする語学担任に任せなさいって軽く頷く。

   「資料室は、少し遠いのですが……」

   うむ、もちろん知っています。

   ペコペコしている腰の低い新米教師の後に続いて資料室に向かう途中、突然ビシッって大きなヒビが入った廊下の窓ガラス、グラッと何かが倒れてきた。


  
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