83 / 211
リリー32 (十六歳)
しおりを挟む一週間、探しに探したけれど、主人公は見つからなかった。
だからね、最終手段。黒色メンバーズが止めるのも無視して、ピアンちゃんに突撃することにした。
主人公とピアンちゃん、中庭でお話してたの、ずっと二階から見ていた私。
きっと見かけなくなった主人公の、居場所を知っているかもしれない。
お昼に仲間たちの制止を振り切って、速やかに中庭に移動。そして定期的に現れるピアンちゃんに、背後から声かけてみた。
「お久しぶりね!」
簡単に言った様にみえるでしょ?
すんごい手汗かいてたからね。だって、心の中の、一人だけのお友達だよ? しかも、途中から他のニューフレンズが登場して、それから私とは音信不通だよ?
手に汗握るよね。
主人公を言い訳に、やっと話しかける事が出来た。乙女ゲームとか、恋愛どころではない。今は私、友達作りに必死。
「あ、…………ぉ…………」
「…………」
退化してる。
前はあんなにお腹から声出てたのに、更に更に聞こえなくなった…。
頭上でお仏壇に置いてある、チーー…ンて鳴らすあれが鳴り響いたよ。素晴らしい情景擬音、チーー…ン。
そして厳かに目を瞑る。あのチーーンを聞くお坊さんの心境を察する。
まあいいよ、気を取り直してもう一度。
「お元気にしていたかしら?」
「…………申し訳ありません…………」
今度ははっきり喋ったピアンちゃん。私が声をかけた事により、前みたいに赤くなるでもなく、切なくしょんぼり俯いて、頭を下げると早歩きで去って行った。
え、まじ? どーゆーこと?
これって…、私、たった一人のお友達を、たった今、失ったってこと…?
**
理由はわからない。だって話すことが出来ないから。
もしかすると、過去世のフレンズ関係者でもいたんだけど、あっちにくっつき、こっちにくっつき、利害関係により私はポイされたのかもしれない。
(そういえば…、最近きゅるん白ウサギ見てないな…)
前は学院来る度に何処からともなく現れて、イラッとさせられてバチバチしてたけど、白色メンバーズもあまりバチバチしてこない。
ていうか、居るんだけど、黒色に絡んで来ないよね。
パピーに言いつけてやった効果か、あれ以来、失礼な新米祭司も見かけない。
(……)
心がやさぐれているので、悪役らしく誰かに八つ当たりしたかったのに、それも叶わず……。
主人公探しも振り出しに戻り、それにより、謎のあの子が誰なのかもわからない。
(いや別に、元から友達なんて居ないから、仲間達が常に私をガードしているから、謎のあの子なんて、近寄ってこないけど…)
まあ、いいや。
次の案件に移ろうと思います。
奴隷探し。
問題は、ここだよね。
『このままいくと、奴隷に売られるよ』
この不安な忠告の解決策も、実はすでに閃いている。
親切な主人公が物語の都合上、やりたくなくても悪役をぐいぐい圧さなきゃいけない現場が発生しないとも限らない。
ならば根本解決は、その奴隷を無くしちゃえばいいんだよね。
こんなの全然サステナビリティじゃないよね。いやむしろ、持続可能してほしくない。
百害あって一利なしでしょ?
じゃあどーやって奴隷システム無くすのかって?
皆様、忘れてもらっては困ります。
我が家は揺るぎなき大企業。私、そこの長女なのです。ここぞとばかりに、それを利用するチャンスが来たのです。
まあつまり、この事により、お兄ちゃんズと黒色メンバーズは、みんな困り果ててたよね。
最近はわがままばっかり言って、迷惑かけて、皆を振り回して悪役満喫しているんだけど、なんだろう…。
実際にやってみると、なんかこう、ガッツポーズしたい気分には全然ならない。
悪役って、思ったよりも簡単には浸れないのかも。
これじゃ加害者にレベルアップしてる人達って、どんな心境で加害者やってるのかな。
虐めも暴力も、大体加害者側が笑いながらとかテンションアップして張り切ってやってるイメージある。
でも自分のわがまま最大フル活用して周りに迷惑かけて騒いだって、なんかこれ、全然、楽しくないよね。
0
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
前世ラスボスの陰陽師は正体を隠したい ~元大妖怪、陰陽寮に仕官する~
蘆屋炭治郎
ファンタジー
平陽京の西、鳴松守の屋敷に居候する童――刀伎清士郎はモノノ怪に襲われ、窮地で自身の前世を思いだす。清士郎はなんと、前世で人々を恐怖におとしいれた大妖怪だったのだ。
天才陰陽師の安倍叡明に討たれた悲惨な末路を思いだし、今世では平穏に暮らしたいと願う清士郎。だが不運にも偶然居合わせた安倍叡明に正体こそ隠し通せたものの、陰陽師の才を見抜かれ、京の陰陽寮に仕官するように命じられてしまう。
陰陽寮――それはモノノ怪を打倒する傑物揃いの戦闘集団。
そんな陰陽師だらけの敵地真っ只中で、清士郎は正体を隠して陰陽師としての責務をこなしていくことになるのだが……。
※諸事情あって週3、4更新とさせていただきます。火、木、土+αでの更新になるかと思います。
東雲に風が消える
園下三雲
ファンタジー
明治後期、関東のとある山中に無機質な建物がある。そこには桔梗という名の青年と、牡丹という名の少女、そして、龍、虎、狼という三体の神獣が暮らしていた。日々平穏に暮らしていた彼らのもとに、新たな神獣が現れる。この出会いをきっかけに、強い劣等感を抱きながら生きてきた桔梗は少しずつ変わっていく。彼を支える友人や上司との関わり、過去との対峙、挑戦、そして戦争。運命の輪が回る時、それぞれの関係性も静かに変化する。
※この物語はフィクションです。明治時代を舞台に設定していますが、登場するものはすべて架空のものであり、実際に存在した人や物などとは一切関係がありません。
可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?
りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。
オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。
前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。
「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」
「頼まれても引きとめるもんですか!」
両親の酷い言葉を背中に浴びながら。
行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。
王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。
話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。
それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと
奮闘する。
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
弱小流派の陰陽姫【完】
桜月真澄
ファンタジー
神崎月音、十五歳。今日も白桜様と百合緋様を推して参ります!!
++
陰陽師としては弱小流派の神崎流当主の娘・神崎月音。
同じ学校で陰陽師大家(たいか)の当主・白桜とその幼馴染の百合緋を推しとして推し活にいそしむ日々。
たまたま助けたクラスメイトの小田切煌が何かと構ってくる中、月音の推し活を邪魔する存在が現れる。
それは最強の陰陽師と呼ばれる男だった――。
+++
神崎月音
Kanzaki Tsukine
斎陵学園一年生。弱小流派の陰陽師の家系の娘。推し活のために学校に通っている。
小田切煌
Odagiri Kira
月音のクラスメイト。人当たりのいい好青年。霊媒体質。
神崎碧人
Kanzaki Aoto
月音の父。神崎流当主。
月御門白桜
Tukimikado Hakuou
陰陽師の大家、御門流当主。
影小路黒藤
Kagenokouji Kuroto
斎陵学園二年の転校生。小路流次代当主。
水旧百合緋
Minamoto Yurihi
白桜の幼馴染。
2023.2.10~3.10
Satsuki presents
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
元自衛官、舞台裏日報
旗本蔵屋敷
ファンタジー
元自衛官、異世界に赴任する
の、本編パートでは希薄であった日常編を描く番外編のようなもの。
怒涛の勢いで状況に流される中、本来は存在しながらも描かれなかった日々の出来事が書かれる。
夜霧の騎士と聖なる銀月
羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。
※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます
※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる