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リリー31 (十六歳)

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   昨日は情報量が多すぎて、早く寝た。

   頭がいっぱいいっぱいで、冷静に物事を考えられなかったのだけど、一晩ゆっくり寝たら、朝になって閃いた。

   あの主人公ヒロインに、この世界のあれこれを聞いてみたらいいんじゃないかって。

   だってあの人、悪役わたし生存こと、心配してアドバイスしてくれていた。

   やっぱりねって、うすうすねって、わかってはいたけどねって、常に思ってはいたけれど、改めて主人公に、リリーあんたは悪役なんだよって、はっきり言われたんだなー…って、そんな傷心もちょっとだけあったけど。

   前向きに、悪役頑張ろうと思います。

   主人公のトークは内容も速度も怒涛すぎて、ちょっとだけ頭の中で変換ミスされたり自己修正してるかもしれないけれど、大事なポイント四つはしっかり押さえてる。

   奴隷、白の貴公子、王太子、近寄ってはいけない謎のあの子。

   (確か、このまま行くと、奴隷とか…)

   突然の奴隷宣言、キモいエロいオッサンに今ももやんとしてるけど、奴隷って、この国に居るんだね。

   全然知らなかった。勉強不足の私。

   心当たりは捕まってた子猫と出会った善くない競り会場。確かに、あそこなら動物だけじゃなく、奴隷を競り札でハイハイしてそうな場所だった。

   あそこ、ピアンちゃんのお兄さんのお店だったんだよね。

   (裏社会の変態仮面、鞭、奴隷、やっぱりかなりヤバい奴)

   そして奴は、黒色の右側ダナーであるうちの兄貴との連絡係に、私を利用しやがった。

   帰ってから上の兄貴に報告したら、授業をサボった事もすぐ自白させられて、「ハ・ア?」って全身からにじみ出てたけど、変態仮面さんがお兄様に宜しくねって言ってたわよって、無事に話を逸らす事に成功した。

   でもそんな兄貴たちや黒色メンバーズに、絶対言えない過去世の私。きゅるんとした白ウサギのグッズをガチャしようとしてた秘密は墓場まで持っていく。

   そこだけ内緒で、境会の新米祭司の悪口は、もちろんしっかり報告したよ。足出されたぜってね。

   グレイお兄様は、普段は見てるだけの私からの突然の情報提供に、「むーーん」としばらく考え込んでいた。

   この辺は、やっぱり私たち兄妹なんだなって。私と同じ様な顔して腕を組んでいた。

   そして次に、モラハラだからやめた方がいい白の貴公子と、悪役にはお勧めの王太子。

   これはわかりやすいよね。モラハラ白の貴公子って、どう考えても左側アトワのあいつ。そして王太子ってグーさんだよね。

   主人公にモラハラって言われてたけど、奴はもはや、私の中ではきゅるんとしたチビキャラの連想スイッチと化している。そして白色は左側アトワなので、お勧めされてもどうにもならない。

   主人公のイチオシは王太子のグーさんだったんだけど、グーさん……。

   中途半端な婚約は、ふんわり宙に浮いている。

   数年前に王様から婚約してもいいよって、お手紙来たんだけどね、あの後私が公然とグーさんを何年か無視したでしょ?

   王様からも特に何もなく、グーさんとは学校で再会したけど、まあ、挨拶とランチは極たまにしたよねって、そんな感じでね。

   多分、自然婚約破棄されてるんじゃないかとか、お父様が上手くビリッて破いたんじゃないかとか、そんな感じだよね?

   周囲が悪役わたしがグーさんに惚れこんでいるとか、付きまとっているとか、悪役わたしがグーさんに婚約申し込んだとか、無いこと無いこと噂話してるのは知ってるけど、それは悪役だから、そんな感じだよね?

   だからなのかな、グーさんて、やっぱり今のところ、普通の友達っていうか…、友達破棄したからか、普通の顔見知りっていうか…、お仕事頑張ってねっていうか…。

   そんな感じだよね。

   だからお勧めされてもね、私の一存ではどうにもならないと思うんだよね。

   それより今は、主人公ヒロインと近寄ってはいけない謎のあの子の正体が一大事なんだよ。

   学院に着いて、授業受けて、主人公探して、授業受けて、主人公探して、主人公探して。

   黒色メンバーズに怪しまれても、黒色メンバーズに手伝ってもらっても、探しても探しても、この日は主人公に会えなかった。

   そして次の日も、次の日も、あの日以降、親切な主人公に出会える事はなかった。


  
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