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第五十三話 暗い館
しおりを挟む館に着くと最低限の電灯しか点いていなかった。
梅男は我先にと車から降りると呼び鈴を押さずに扉を開けた。
中に入ると玄関ホールは真っ暗で不安に駆られた梅男は思わず娘の名前を叫んでいた。
梅男:美留來!美留來!いるのか?
その後ろからナツとセブンが入って来た。
ナツ:まさか誰もいないの・・?
すると、左手の階段から給仕が慌てた様子で降りて来た。
給仕:ナツ様、こんな時間にどうされました?
ナツ:良かった・・誰もいないかと思ったわ。
梅男:あの、うちの娘の美留來がここに来てませんでしたか?
給仕:美留來様でしたら荒正様と狩猟小屋にてお泊まりでらっしゃいます。
ナツ:どういう事?
給仕:ここでは何ですからティールームでご説明させて頂きます。
ナツ:分かったわ。セブン、梅男さん行きましょ。
梅男:は、はい。
セブンは軽く会釈すると後ろから付いて来た。
四階にあるティールームに入ると丸いテーブルが真ん中に置かれており、何やら会議でもした後のように見えた。
給仕:今、お茶をお持ちしますのでお座りになって少々お待ち下さい。
ナツ:ありがとう。この地図のマークは何かしら。
テーブルの真ん中にはパヨペウン国の地図があり、国立公園と飛行場と狩猟小屋にマジックで丸が書かれていた。
セブン:先程、美留來様と荒正様が狩猟小屋にいると言ってたので、他の方々は国立公園と飛行場に向かわれたのでは?
ナツ:そうみたいね。まずは話を聞いてから考えましょ。
ナツは梅男に気を遣っているのか説明を聞くまでは具体的な話は避けてるようだった。
少しすると給仕がティーセットを持ってやって来た。
給仕:お待たせしました。急いでらっしゃると思いますのでお茶を注ぎながらご説明していきます。
梅男:お、お願いします。
給仕は丁寧にお茶を注ぎながらびす子達が館に来てからの事を全て話してくれた。
ナツ:そういう事だったのね・・。
セブン:その話からするとおかしいですね。
梅男:何がです?
セブン:軍がこの辺りで動いてる形跡はありません。
梅男:じゃあ、マツダさん達が囮になって飛行場に行ったり、美留來と荒正君が狩猟小屋に行く必要はなかったと?
セブン:そうなりますね・・。
ナツ:でも、二人を狩猟小屋に残して来て大丈夫なの?
給仕:それがマツダ様達が出発された後、二人を小屋に連れて行ったら使用人達は館に戻るようにとカイ様からの命令でしたので・・。
梅男:連れ戻す事は出来ないのですか?
給仕:可能ですが、今からだと足元も見えませんし、今から山を登るのは得策ではないかと・・。
ナツ:それなら明日の朝一番で迎えに行きましょう。あなた名前は?
ナツは給仕に名前を聞いた。
ファルコン:私の名前はファルコンです。
ナツ:ファルコンさん、明日小屋まで案内して貰えますか?
ファルコン:かしこまりました。
セブン:では、私はナツ様達がお戻りになるまで情報収集をしてきます。
ナツ:うん、頼んだ。
セブンは立ち上がり軽く会釈するとティールームからいなくなった。
ナツ:梅男さん、今すぐ娘さんに会いたい気持ちは理解出来ますが今夜はきちんと疲れを取って朝一番に登りましょう。
梅男:はい。ナツさん、ファルコンさんよろしくお願いします。
ファルコン:こちらこそです。
ナツ:それで部屋は空いてるのかしら。
ファルコン:男性用の客室はこの階に、女性用は上の階に御座います。今から支度して来ますのでお待ち下さい。
ファルコンはお辞儀をすると支度をする為にティールームから退出した。
ナツ:こんな予定じゃなかったのに・・。
梅男:すみません、私が人違いしたばかりに・・。
ナツ:梅男さんのせいじゃないですよ。完全にこちらの不手際です。
梅男:そう言って頂けると助かります。
梅男が申し訳なさそうにしてるのを見てナツが優しく肩を叩いてくれた。
ナツ:さてと、とりあえず娘さん達をここに連れて来ないとですね。えっと、ここの道を通ってここから登るのね・・。
梅男:結構険しそうですね・・。
ナツと小屋までの道を地図で確認しながら梅男は脳裏では昨日の事が頭から離れないでいた。
何故カイが待ち合わせ場所が変わったと言って違う女性を引き合わせたのか梅男には理解が出来なかったからだ。
モヤモヤとした気分のままだったが今は美留來と会う事が優先だと自分に言い聞かせた。
そこへ支度が終わったのかファルコンがティールームにやって来た。
ファルコン:お待たせしました。お部屋の準備が出来ましたのでご案内します。
ナツ:ありがとう。梅男さん先にどうぞ。
梅男:そういえば私の荷物はこちらに運んである筈なのですが。
ファルコン:はい。御座います。では、こちらへ。
梅男:良かった。
梅男は自分の荷物がきちんと届いてるのを聞いてホッとしていた。
ナツの家で借りた服はどうも馴染めず、持って来た自分の服に早く着替えたくてしかたなかった。
つづく
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