かずのこ牧場→三人娘

パピコ吉田

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第十六話 口下手な兄

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びす子:それで帰って来たって事なのか・・。
 
美留來:お兄ちゃんと別れても忘れられなかったんだねぇ・・。
 
花音:未練たらしいでしょ・・帰って来ても一緒に働いてるし、きっと数鋸さんに図々しい女だと思われてる。
 
根子:本当にそうかしら?数鋸くんに聞いてみたの?
 
花音:こっちに帰って来てから特に話してないです・・。
 
美留來:そもそも~、高校の時にお兄ちゃんと付き合ってたじゃない?どうして別れちゃったの?
 
びす子:あ、それ。私も別れた理由をちゃんと聞いてないや。
 
花音:私から別れを切り出した訳じゃないの。
 
美留來:え、じゃお兄ちゃんから?
 
花音:うん・・数鋸さんが大学に進学する時に言われたの。
 
びす子:それで?
 
花音:それで・・。
 
 花音は別れた日の事を思い出すと今でも胸が苦しくなるが、幼馴染の美留來とびす子にも今まで言えずにいた。
 
 でも、今なら聞いて貰っても良いのではないかと当時の事を思い出しながら声に出してみた。
 
 別れたあの日、数鋸が大学へ進学する際に新幹線のホームに花音は見送りに来ていた、
 
 花音は数鋸が大学に行って遠距離になったとしても交際は続けられるものとばかり思っていた。
 
 前日も特に数鋸の態度が変わった事もなく普段通り見送りに来て欲しいと言われたのもあったからだ。
 
 『距離は離れてても必ず連絡は取る』『一年経ったらこっちの大学に来るのを楽しみにしてる』
 
 そんな風に言ってくれると思って新幹線のホームの階段を登っていた。
 
 ホームに出ると数鋸がそろそろ花音が来ると思ったのかキョロキョロしていたのですぐに目につき数鋸がいる場所まで駆け寄った。
 
数鋸:お見送りに来てくれてありがとう。
 
花音:うん。出発まで後何分?
 
数鋸:後十分くらいかな・・その前に話があるんだ。
 
 それを聞いた花音はドキドキしていた。
 
 テレビドラマや漫画など見ていたせいもあるのかもしれないが、甘い言葉までとは言わないがそれなりの言葉を言ってくるのではないかと期待していた。
 
花音:な、何?
 
 自分のすぐ目の前に立つ数鋸を見上げると困ったような顔をしていたのが見えた。
 
 花音は数鋸の表情を見てこれは自分が思っている事とは逆の事が起きているのではないかと思い始めた。
 
数鋸:向こうに行ったら勉強で忙しくなると思う。だから、あまり連絡は取れないと思う。
 
花音う、うん。
 
数鋸:だから、しばらく距離を置く事になってしまう。ごめん。
 
 その言葉を聞きショックで一気に涙が溢れて来た。
 
 普通こんなシチュエーションならば泣いてる女性を抱きしめるのかもしれないが、数鋸は表情を変えずにポケットからお守りを出した。
 
数鋸:受験、頑張って。

花音:ありがと・・。
 
数鋸:じゃ、さよなら。元気で。
 
 花音に一方的にお守りを渡すと数鋸はスーツケースを片手に新幹線に乗ってしまった。
 
 今でも思い出すと涙が止まらず三人の前でポロポロと泣いてしまっていた。
 
びす子:その別れた方はえぐいわ。
  
花音:ごめん、思い出すと涙が。
 
根子:辛かったんだね。よしよし。
 
 根子は花音に胸を貸すように抱き寄せ肩をポンポンと叩いた。
 
美留來:でもさ、それって別れてなくない?
 
びす子:なんでだよ。最後にさよならって言われたんだろ?
 
花音:・・うん。
 
美留來:うちのお兄ちゃん口下手だからなぁ。私が思うに。距離を置く事になる、イコール、なかなか会えないけどごめんな。
 
びす子:まあそれは分かるけど。
 
美留來:それに受験頑張って、イコール、受かってこっちに来るの楽しみにしてるって意味だったんじゃないかな。
 
びす子:なんだそれ。家族じゃないと分かんないじゃん。
 
根子:って事は別れてたと思っていたのは花音ちゃんだけって事。

美留來:たぶん・・。だってお兄ちゃん大学に行って最初のお正月に帰って来た時に花音のとこに行かなくて良いの?って聞いたら、いくら連絡しても返事がないからって言ってたよ?
 
花音:えぇ・・だって別れたと思ったから連絡先を削除してブロックしちゃったから分からないよ。
 
びす子:おいおい。何やってんだよ。
 
根子:って事は、数鋸くんまだ花音ちゃんの事が好きな可能性は十分あるわよねえ・・。
 
美留來:あるとは思うけど、お兄ちゃん表情とか出さないから全く分からない。
 
びす子:かといって、うちらが聞くわけにもいかなよな。
 
花音:わ、私だって今更聞けない・・どうしよう。
 
 数鋸の本心を聞けない状態に途方に暮れる四人だった。
 
つづく
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