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第七話 地下室
しおりを挟む一兄が柚子が一人一人に宛てた手紙を読み始めた。
『孝へ。うちに来た頃は物静かで最初は心配していたが元気よく育って良かった。孝お前には私には分からない秘めた力を持ってる。まだまだ長い道のりがあるが決して挫けてはいけないよ。』
『瑳呂紋へ。病院にみんなが帰った後に寂しくしていたばあちゃんの元によく遊びに来てくれたね。おまえにはおまえの道がある。それを忘れずに突き進みなさい。』
『ぺんちゃんへ。気が強いが本当は心根の優しいぺんちゃん。最初来た日の事はまだ忘れてないよ。これからも兄達の面倒を見てあげておくれ。頼んだよ。』
『あれっくすへ。最初は日本に来た時は心細かっただろう。みんなの為に気を使って場を和ませてくれてたね。でも、もう少し自分の為にその力を使っておくれ。』
『一兄へ。おまえはおじいさんにそっくりで目立ちたがり屋で盛り上げ役だ。だが、もう少し控えめにする事も覚えなさい。五人のリーダーとしてこれからも頑張るんだよ。甲子園へ行くのを楽しみにしてるよ。
柚子ばあちゃんより。』
全員分のを読み終わった頃には聞いていた瑳呂紋、孝、あれっくすとぺんちゃんはすすり泣き言葉を失っていた。
読み終わった一兄も涙が止まらなくなりその場に立ち尽くしていた。
それを見た四人は一兄の周りに自然と集まり柚子を偲ぶかのようにお互い肩を抱き合った。
全員が落ち着いた頃に一兄が「まだ、ばあちゃんの遺言は終わってない」と言い出した。
瑳呂紋:まだ何かあるのか?
一兄:ああ。どうやらこの家には地下室があるらしい。開かない扉あるの覚えてるか?
孝:そういえば、地下室があるって母さんが言ってたな。
ぺん:それがどうかしただすか?
一兄:地下室に行ってから読むからついてきてくれ。
あれ:分かった♪
居間を出て廊下の一番奥の赤い扉の前に一兄達は立った。
一兄:開けるぞ。
ポケットから取り出した鍵を差し込むとギギっと軋む音がした。
力づくで扉を開けるとそこに地下へと続く階段が現れた。
降りていくと大きな鉄板二枚が一兄達の前に立ちはだかった。
一兄:どうやら戦時中に防空壕として使われてたみたいだな。
瑳呂紋:この扉は頑丈そうだな。
扉は観音開きになっていて兄と孝で左右に分かれて扉を押しのけた。
開けると部屋は十畳くらいの広さで大きな天体模型のようなものが部屋の真ん中に鎮座していた。
全員「わぁ!」と声を一斉にあげその周りを囲んだ。
ぺん:これもしかして地球だすかね?
あれ:惑星がいっぱいあるな、それにしても精巧に作られてるね♪
瑳呂紋:凄いな。惑星の配置を見ると太陽系の模型のようだね。
孝:なんか綺麗に出来すぎてて気持ち悪いな。
一兄:何でこんなものがうちにあるんだろ。
ぺん:へ? 知らなかっただすか?
孝:うん、見た事ない。
ぺん:一兄もだすか?
一兄:うん。
ぺん:不思議だすなあ。
一兄:じゃ、最後の手紙を読むぞ。
天体模型に興味津々の中で一兄が柚子の最後の手紙を読み出すとみんな固唾を飲んで聞き始めた。
「ここからがとても重要だからみんな聞いておくれ。
みんな知っての通りお爺さんが亡くなった時に一人で住むのは大変だろうと家政婦を雇う話しになり桃華さんに住み込みで働いて貰う事になった。
その桃華さんはうちで働く前に小児科の看護婦をしていて、夜勤明けに孝が救急で運び込まれたそうな。
まだ生まれたばかりの状態で身元も分からずそのまま桃華さんの病院に入院する事になったんだ。
そして桃華さんがずっと孝の面倒を見てるうちに施設に入れらるのは忍びないと我が子として育てる決意をしたそうだ。
その後、きちんと手続きをして孝の里親になり、これから子育てしながら看護婦を続けるか悩んでいる時に家政婦の張り紙を見て応募してくれたそうな。
住み込みで働く際に子供もいて大丈夫か?と聞かれ私は二つ返事で了承した。
赤子も一緒に住むには部屋の改装が必要になり、その間は桃華さんと孝は地下室で過ごして貰う事になった。
とある朝に桃華さんが大慌てで私を呼びに来た。
何が起きたと思い地下室へ行くとそこにはなかったはずの大きな天体の模型が現れて孝が楽しそうに目の前に座っていた。
私達はそれを見てどうすべきか判断がつかず孝をこの部屋から連れ出し鍵をかける事にした。
この手紙を読んでる頃にはみんながそれなりの年頃になってるはずだ。
一兄、瑳呂紋、ぺんちゃん、あれっくす、孝の事を頼んだよ。」
読み終わると自然とみんなの視線は孝に集まっていた。
つづく
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