満月に吼える狼

パピコ吉田

文字の大きさ
上 下
54 / 182
第三章 現る!過去の亡霊

第十話 ベッドのメモ

しおりを挟む


 壱乃は臨月になっても食堂で働きたいと聞かないので王は彼女が出来ない事を手伝っていた。

 そしていつもと同じバイトの帰り道で壱乃が突然うずくまった。

王:どうした。大丈夫か?

壱乃:う、産まれ・・・タクシー捕まえてきて。

王:わ、わかった。

 大通りで大きく手を振りタクシーを捕まえた王は壱乃を乗せ病院へと急ぐのであった。

 病院に着くと壱乃は車椅子に乗せられ診察の後にそのまま分娩室へと連れていかれた。

 医者からは産まれるまで分娩室の隣の待合室で待つようにと言われた王だった。
 
 そうは言われても素直に待てるわけもなく、分娩室と待合室を行ったり来たりしていた。

 そんな事を繰り返し数時間後に元気な産声が分娩室から聞こえ看護婦が出て来た。
 
看護婦:元気な女の子ですよ。奥様もお待ちですどうぞ。

 分娩室にに入ると壱乃が赤ちゃんを抱きかかえ王に微笑みかけた。

壱乃:無事に産まれたわ。名前は私が付けても良い?

王:勿論。壱乃が付けた名前なら構わない。それにしても君に似て強気な瞳だな。

 王は娘が無事に生まれた事に安心しきっていた。

 娘が生まれてから一週間経ち壱乃が病院を退院する日がきた。

 退院する前に赤ちゃんを検査をする事になり廊下で新生児室から出てくるのを王と壱乃は待っていた。

 その時に後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。

タカ:やっと見つけた・・。探したぞ。

 振り向くと地球人の格好をしたタカールがいたのであった。

王:タカール何故ここに?

タカ:ちょっと話があるこっち来い。

王:分かった。壱乃、前に話したタカールだ。ちょっと待っててくれ。

壱乃:あ、はじめまして。私なら大丈夫。出てくるの待ってるから。

 壱乃は深々とお辞儀をしたのに対し、タカールはというと壱乃を一瞥し王の腕を掴み隅っこへと移動をしたのであった。

王:何しにしに来たんだ。まさかアリュバス星で何かあったのか?王子達は無事か?それとも壱乃達の記憶を消す為に来たのか?

タカ:落ち着け。その用事で来たのではない。今回はもっと重大な・・・。

 タカールが言いかけたその時に看護婦が慌てた様子で新生児室から出てきた。

看護婦:すみません。ちょっと目を離した隙に赤ちゃんがいなくなってるんです。

 それを聞いた王はすぐさま新生児室に飛び込んだ。

 中に入ると娘の姿は見当たらずベッドの上に紙切れが不自然に残っていた。

 王が紙切れを拾い広げてみるとそこには「子どもは預かった・以下の場所に来い」と地図も書いてあった。

 タカールと壱乃がそのメモを横から見ていた。

壱乃:どうして私の赤ちゃんが・・・。

タカ:さっきの重要な事なんだが。どうやらダマールの末裔が絡んでるらしい。

王:ダマールは滅んだと聞いていたが・・まだ血は耐えてなかったというのか。そんな事より娘をなんとしても助けなければ。

壱乃:私も行く‼︎

王:だめだ。壱乃を危ない目に合わせられない。タカールお願いだ。娘は必ず連れて帰って来るから壱乃を頼む。

タカ:分かった。

王:壱乃、お願いだからタカールとアパートで待っててくれ。必ず娘を連れて一緒に帰るから。

 そう言うと壱乃を抱きしめ、「分かった、必ず帰ってきて。」と壱乃は王を抱きしめ返した。

 そして病室の窓から王は翼を広げ飛び立っていった。

 壱乃はタカールとアパートに戻ると王の帰りを待つ事にしたが何時間経っても帰ってくる気配が無かった。

壱乃:やっぱり一緒に行けば良かった・・・。

タカ:お前が行ったところで足手まといだ。

 壱乃は窓辺に座って王が娘を抱いて帰ってくるのをひたすら待った。

 それから王は深夜過ぎても帰ってくる気配がなかった。

壱乃:さすがに遅過ぎない?おおかみのとこにやっぱり行く。

 壱乃は上着を取って玄関に行こうとしたのをタカールは止めた。

タカ:だめだ。ここで待つと約束しただろう。

 その時に王が赤ちゃんを抱いて窓から入ってきた。

 だが、王は傷だらけで服もボロボロになっていた、壱乃は慌てて王に駆け寄りを抱きしめた。

壱乃:おおかみお帰りなさい。赤ちゃんも無事で良かった・・。

タカ:とりあえずアリュバスに帰るぞ。壱乃も身支度をしろ。

壱乃:分かった!でもおおかみの手当てもしないと・・。

タカ:向こうに行けばすぐ傷は治せる。

 王は赤ちゃんを抱きしめている壱乃を愛おしそうに見つめるとタカールの方を見て首を横に振ったのであった。

つづく
しおりを挟む

処理中です...