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第10章 友を助けよう
クアチフ王の煩悩
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恐らく、このタナンサ星域で最も達観という感情に近いのはワシだろう。
フルドゥイを滅ぼすと言っていたが、軍の首都の殲滅程度としか思わなかった。ワシもそう頼んだ筈。
それをまさかここまでやるとは思わなかった。いや、思い付くヤツなどいやしない。
フルドゥイは長年、クアチフを虐げて来たが、今では憐憫の念すら湧いてしまう。それはもはや戦争ではない、蹂躙ではない、支配でもなければ殲滅にもあらず。
王国にとっては虫けらを踏み潰す程度だろう。
それが起きた時はワシも艦隊に乗り、ナポリタン殿と一緒に司令室にいた。
王国の技術は本当に素晴らしい。恐らくどれも精密な機器なのだろう。クアチフの技術では仕組みを教えられたところで、とても再現できそうにない。
そこにはそれ程の、埋められそうにない技術格差が存在する。
だからワシは実に幸運なことに、そして実に不幸なことに、この目で見てしまった。
一つの国の、静寂なまでの消滅を。
砲撃の轟音ななかった、剣を振るう戦士はいなかった、銃を構える兵士はいなかった、地を駆ける軍士はいなかった、誇りをかけて戦う騎士はいなかった。
ナポリタン殿が『放射弾』を撃つ命令をくだし、『主力艦』の砲口から一筋の光が放たれる。やがて一筋の光は分散し拡がり、モニターには眩しいばかりの白が映る。
それだけだ。それ以外に何もなかった。全てを呑み込んだ白の後はただひたすらに黒しか映らなかった。
砦は消えた、太陽は消えた、見渡す限りのありとあらゆる存在が消えた。白が全てを塗り潰し、黒がその白を吸収した。
ワシは恐怖のあまりに、呆然としていた。どれくらいの時間が経ったのかは判らん。状況からして数分間程だろうが、その後も余韻は数時間も続いた。
我に返り、ナポリタン殿の顔を覗いた時は更なる恐怖がワシを襲った。
彼は、満足していなかった。
それを顔に書いているかの表情を浮かべていた。彼は腹芸があまり得意でないか、頗る程に得意かのどちらかだろう。
前者のような気もするし、後者のような気もする。王国の民であればなんでもありなのだろう。
彼が何故、満足していないかが分からん。偶然にも、ワシはそれが知りたくて堪らなかったから、つい聞いてしまった。
会話の中に、さり気なく聞いたら、逆に彼のほうから謝罪の言葉が返って来た。
曰く、フルドゥイを無傷で渡すつもりでしたが消滅させて申し訳ありません、と。
これを聞いて、ワシは戦慄と安堵に挟み討ちにされた。
腹芸が得意かどうかで疑問に思っていた。
今ならはっきりと答えられる。得手と不得手の問題ではない。
そもそもしようもしていない。
彼は、子供だ。エルフだからワシよりも遥かに年齢は上だろう。だが子供だ。
深く考えてない訳ではない。財務大臣をやっているから、仕事は相当できるだろう。情報によれば、王国の経済は彼だけで成り立っている。
それでも、外交に向いているとは思えん。彼がやっていることは正しい。同盟国の機嫌をとるのは当然とも言える
彼は理解できないだろう、同じ国の政界に蠢く陰謀を。何故一つ国の中で、権力の為に戦うのかを理解できない。
同一組織に所属する者は皆、その組織に貢献すべきだと思っているだろう。実際、ワシのそう思っている、だがそれは滅多にに叶わない。
王国では、全ての民が王に真なるの忠誠を誓い、理想国家を実現しているだろうか?もしそうなら、ワシの知る王国の偉大さは更に増えているな。
しかし、彼は知らない。合理性から乖離した行動をとる者もいるということを。
今回のことも、ワシのような何もかもを諦めている者でない限り、錯乱したかもしれない。かつては自分たちを脅かしていた敵国が簡単に消滅した。殲滅ではなく、消滅。
ワシは最初から全てを王国に献上するつもりだった。故に、錯乱せずに済んだ。
我々は圧倒的強者に出会うと、とる選択肢は二つ。
一つは恐怖し、全力をあげて拒絶し、滅ぼさんとする。
もう一つは畏怖をなし、全てを捧げ、神が如く崇め奉る。
我々はこのうち一つ、又は両方をとる。
ワシは迷わずに後者を選ぼうとした。されど、偉大なる王国はワシの考えが及ばぬところで計画を立てているらしい。
ワシに同盟を持ちかけ、ワシにも神の使者たる座を与えた。流石に神になれるとは思っていない。
王城に戻り、ナポリタン殿はそろそろ王国に帰ると言い出した。
こちらとしては止める理由がない。いや、早く帰ってほしいと願う大臣と貴族もいるようだ。
全く、ワシのようにささっと全てを差し出す覚悟をすれば良いものを。まだまだワシの境地に達するのは先か……
悟りを開ける程に至ったかと自惚れていたが、ワシもまだ修行不足らしい。
ナポリタン殿がワシを王国に招待した時は思わず抜けた声を出してしまった。
さて、神の在す地へ赴こう。
フルドゥイを滅ぼすと言っていたが、軍の首都の殲滅程度としか思わなかった。ワシもそう頼んだ筈。
それをまさかここまでやるとは思わなかった。いや、思い付くヤツなどいやしない。
フルドゥイは長年、クアチフを虐げて来たが、今では憐憫の念すら湧いてしまう。それはもはや戦争ではない、蹂躙ではない、支配でもなければ殲滅にもあらず。
王国にとっては虫けらを踏み潰す程度だろう。
それが起きた時はワシも艦隊に乗り、ナポリタン殿と一緒に司令室にいた。
王国の技術は本当に素晴らしい。恐らくどれも精密な機器なのだろう。クアチフの技術では仕組みを教えられたところで、とても再現できそうにない。
そこにはそれ程の、埋められそうにない技術格差が存在する。
だからワシは実に幸運なことに、そして実に不幸なことに、この目で見てしまった。
一つの国の、静寂なまでの消滅を。
砲撃の轟音ななかった、剣を振るう戦士はいなかった、銃を構える兵士はいなかった、地を駆ける軍士はいなかった、誇りをかけて戦う騎士はいなかった。
ナポリタン殿が『放射弾』を撃つ命令をくだし、『主力艦』の砲口から一筋の光が放たれる。やがて一筋の光は分散し拡がり、モニターには眩しいばかりの白が映る。
それだけだ。それ以外に何もなかった。全てを呑み込んだ白の後はただひたすらに黒しか映らなかった。
砦は消えた、太陽は消えた、見渡す限りのありとあらゆる存在が消えた。白が全てを塗り潰し、黒がその白を吸収した。
ワシは恐怖のあまりに、呆然としていた。どれくらいの時間が経ったのかは判らん。状況からして数分間程だろうが、その後も余韻は数時間も続いた。
我に返り、ナポリタン殿の顔を覗いた時は更なる恐怖がワシを襲った。
彼は、満足していなかった。
それを顔に書いているかの表情を浮かべていた。彼は腹芸があまり得意でないか、頗る程に得意かのどちらかだろう。
前者のような気もするし、後者のような気もする。王国の民であればなんでもありなのだろう。
彼が何故、満足していないかが分からん。偶然にも、ワシはそれが知りたくて堪らなかったから、つい聞いてしまった。
会話の中に、さり気なく聞いたら、逆に彼のほうから謝罪の言葉が返って来た。
曰く、フルドゥイを無傷で渡すつもりでしたが消滅させて申し訳ありません、と。
これを聞いて、ワシは戦慄と安堵に挟み討ちにされた。
腹芸が得意かどうかで疑問に思っていた。
今ならはっきりと答えられる。得手と不得手の問題ではない。
そもそもしようもしていない。
彼は、子供だ。エルフだからワシよりも遥かに年齢は上だろう。だが子供だ。
深く考えてない訳ではない。財務大臣をやっているから、仕事は相当できるだろう。情報によれば、王国の経済は彼だけで成り立っている。
それでも、外交に向いているとは思えん。彼がやっていることは正しい。同盟国の機嫌をとるのは当然とも言える
彼は理解できないだろう、同じ国の政界に蠢く陰謀を。何故一つ国の中で、権力の為に戦うのかを理解できない。
同一組織に所属する者は皆、その組織に貢献すべきだと思っているだろう。実際、ワシのそう思っている、だがそれは滅多にに叶わない。
王国では、全ての民が王に真なるの忠誠を誓い、理想国家を実現しているだろうか?もしそうなら、ワシの知る王国の偉大さは更に増えているな。
しかし、彼は知らない。合理性から乖離した行動をとる者もいるということを。
今回のことも、ワシのような何もかもを諦めている者でない限り、錯乱したかもしれない。かつては自分たちを脅かしていた敵国が簡単に消滅した。殲滅ではなく、消滅。
ワシは最初から全てを王国に献上するつもりだった。故に、錯乱せずに済んだ。
我々は圧倒的強者に出会うと、とる選択肢は二つ。
一つは恐怖し、全力をあげて拒絶し、滅ぼさんとする。
もう一つは畏怖をなし、全てを捧げ、神が如く崇め奉る。
我々はこのうち一つ、又は両方をとる。
ワシは迷わずに後者を選ぼうとした。されど、偉大なる王国はワシの考えが及ばぬところで計画を立てているらしい。
ワシに同盟を持ちかけ、ワシにも神の使者たる座を与えた。流石に神になれるとは思っていない。
王城に戻り、ナポリタン殿はそろそろ王国に帰ると言い出した。
こちらとしては止める理由がない。いや、早く帰ってほしいと願う大臣と貴族もいるようだ。
全く、ワシのようにささっと全てを差し出す覚悟をすれば良いものを。まだまだワシの境地に達するのは先か……
悟りを開ける程に至ったかと自惚れていたが、ワシもまだ修行不足らしい。
ナポリタン殿がワシを王国に招待した時は思わず抜けた声を出してしまった。
さて、神の在す地へ赴こう。
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