世界を救った後の勇者パーティの英霊生活

ニコニ

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序章

一つの世界を救った者たち

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 騒がしい街の一角に、小さな教会が佇んでいた。市場で大声で客の呼び込みを行なっている店番も、ここでは一礼をしてそそくさと離れていった。それはこの街の、この国の、この世界の常識的な行動だっだが、まだその常識に縛られていない者たちがやってきた。

 木の枝を持った子供たちが、お互いを追い回しながらズカズカと教会の境内に入ってきた。無邪気に大声を出しながら走り回り、チャンバラごっこをしている。すぐその後に、恰幅が良い女性と少し痩せている女性が慌てながらついてきた。

 「こっちには入って来ちゃダメって言ったでしょ!」

 「えぇ~、こっちの方は広いじゃん~。」

 恰幅が良い女性は息を切らしながらそう言ったが、少年は不服そうな顔をしている。駄々をこねながら「ここで遊ぶ」と言って譲らない。それでも女性の顔が険しくなるや否や渋々女性に従った。もう一人の少年はまだ抵抗を続けようとしたが、「今日のオヤツ」という言葉を聞いた途端に大人しくなった。

 2組の少年と女性がその場を離れようとした時、扉が開かれた音が境内に小さく響いた。それを聞いた女性たちは急いで振り向いて一礼をした。

 「やぁ、ご婦人方にその子供達よ。こんな寂れた教会でも飲み物くらいは出せるさ。急の用事がなければ一緒にささやかな茶会でもしないかね?久々の訪問者だから、わたしも嬉しくてね。勿論、無理強いはせんよ。」

 そう言ったのは初老にさしかかった神父だっだ。にこやかな表情で突然の来訪者を歓迎している。

 「ご迷惑にはなりませんか?うちのヤンチャがなにかを壊してしまったら大変ですし……」

 「形あるものは壊れやすい、仕方のないことだ。それに、元々こんなところに大した価値がある物はないさ。せっかくの客人だ、よければ歓迎させてもらいたいものだ。」

 ここまで言われると、女性たちも拒まなかった。

 少年たちもたどたどしく神父に向かって一礼する。女性たちがしたそれと比べて、少しぎこちないものだった。幾ばくか緊張しているようだ。

 「別にわたしは君たちをとって食いやしないさ、そんなに緊張することはない。」

 神父は終始にこやかに話しているからなのか、少年たちも緊張が多少はほぐれたようだ。片方の少年はもう一人の少年の後ろに隠れているが、その様子を見た女性たちと神父は小さく笑みをこぼした。

 神父を先頭に、女性たち、最後に少年たちが教会に案内された。応接間のような場所はなく、聖堂の椅子を使ったテーブルのないお茶会が開かれた。

 「申し訳ないが、テーブルはわたしの私室にしかなくてね。ここに引きずってくるのも手間でね。カップは近くの椅子にでも置くと良い。」

 少年たちの分も用意されているが、それよりも教会の壁画に興味があるらしい。年季が入っているからか、色が褪せてところどころ剥がれている。

 「君たちは舌で楽しむことより、目でこの世を楽しむ方なのかね?こっちに興味があるのなら是非ともこの絵の解説をさせてほしい。神学校で20年教え込まれた知識も、伝える誰かがいなければ必要を疑うからね。」

 「神父さ……まも、学校に通わなくちゃいけないの……ですか?20年も……ですか?」

 まだ慣れていない敬語を使う少年を優しく見守りながら、神父は慈しむように答える。

 「勿論さ、まぁ、わたしのように20年もいる者はごく稀だがね。君たちからすれば、わたしのような『長命種』はのんびりしていると思われがちだが、わたしはこれでも足りないと思っているさ。わたしはただ知るために学んでいるわけではない、誰かに伝えるためだよ。」

 そこで神父は苦笑いをしてため息をこぼす。

 「残念なことに、今日訪れた君たちを含めても、手で数えられる程度にしかその機会に恵まれていない。」

 神父は振り返って女性たちの方を見やる。

 「良ければ、そこのご婦人方も歴史講座はいかがかね?教養を深めるにしても、ただの昔話として聞くにしても、お茶を飲みながら楽しもうじゃないか。」

 この場の全員の賛同を得た神父はまず、少年たちにある問いを投げかけた。簡単に言えば要するに『自己紹介』、問いと言えるかすら疑わしいが、少年たちは流暢に自分の名前から趣味などを言った。

 神父はそれをきいて、どこか嬉しそうに頷いた。

 「なるほど、ネウェル少年はパン屋を目指しているのか、店を開いた時は君の売り上げに貢献しよう。ナリウス少年はお父さんと一緒に漁に出たいのだな、それなら大漁の祈願でもしてあげよう。もっとも、神はわたしの祈りを聞き漏らさないことを先に祈る必要があるだろうな。」

 だが、と神父は言った。

 「何か重要なことを言い忘れていないかね?例えば、そう、種族名とか。」

 少年たちはそれを聞いて、胡乱げに神父を見た。その視線を感じても、神父は笑みを深めるだけだった。

 「人族です。」

 「ハーフリングです。」

 神父はそこでようやく満足のいった答えを得たのか、大きく頷いている。

 何かに納得している神父とは対照的に、少年たちはますます意味がわからなくなった。

 一方、母親たちは神父の言いたいことがわかったのか、苦笑いをしてお茶をすすっている。

 「今の君たちからすれば、わたしのこの質問の意味がわからなかったのだろう。これは本来、する必要がない質問だから。自己紹介で性別をわざわざ言わないように、見ればわかることはわざわざ言ったりはせん。」

 神父は壁画の二つの場所を指した。片方に描かれているのはあるエルフの戦士の姿、黒い『人型の影』を切り開き、後ろに続く民衆を導いている。もう片方は構図は一緒だが、23の種族が力を合わせて大きな『黒い何か』と戦っている。

 「君たちからすれば、本当に馴染みがない話だろうが、昔は宗教も、国も、種族も互いに、そうだな……、と言えば良いのかな。左の絵はそんな時代に書かれたものだよ。今では黒く塗りつぶされているが、ここにはエルフと6種族が描かれていた。右の絵は勇者様たちが全ての種族をまとめた後の時代に書かれたものさ。わたしの産まれたばかりの頃には、想像もできなかったことだね。」

 何かを懐かしむように神父は目を閉じ、すぐにまた開かれた。

 「わたしが何を言っているのか、ちんぷんかんぷんなのかもしれない。それでいい。それを知識として知るのはいいことさ。でも、君たちが永遠にそれを理解しないことを祈ろう。さて、茶もそろそろ飲みきった頃だろう。おかわりと茶菓子ととって来よう。」
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