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川崎での思い出
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おじいちゃん、おばあちゃんには二人の息子がいた。言ってみれば彼の母のお兄さん達だ。
長男の彼はあだなをあんちゃんと言った。あにきだからか、あんちゃんというあだなで呼ばれていたのだろう。
あんちゃんは結婚はせず、独身だった。
そんなあんちゃんは仕事から帰って来ても、着替えずいつもワイシャツ姿にネクタイという出立ちだった。ワイシャツにネクタイ姿はまだ働いたことのない彼にはとてもかっこよく見えた。働いていて家族を支えているんだということがその姿、においに伺いしてれたからだ。
あんちゃんはよく彼の体を両足で持ち上げ飛行機みたいな体勢にして遊んでくれた。
いつの日だったかそのあんちゃんと彼の父が彼を動物園へ連れて行きたいと言うタイミングがかぶってしまったことがあった。
彼はふたりから同時に
「どっちと動物園に行きたい、剛」
と、問い詰められ、いささか困惑したが、悩んだ末に
「あんちゃんと一緒に動物園に行く」
と答えた。
実の父を選ぶよりあんちゃんを選択した。それほど彼はふるさと川﨑の人が好きだった。
あんちゃんの弟はゆうちゃんと言った。名前が豊《ゆたか》だからゆうちゃん。ゆうちゃんはいつもパチンコか競馬ばかりやっていた。また昼間から酒ばかり飲んで顔を赤くしていた。仕事はしていなかった。
今でいうニートみたいな生活を送っていた。あんちゃとは対照的だった。彼には大人になっても働かずにいつも家にいるということがすごく不自然に思えた。
社会だとか、仕事だとか分別もつかない幼心の彼がそう思ったのも、彼の父が典型的なサラリーマンだったし、あんちゃんもまたスーツにネクタイといういでたちの典型的なサラリーマン。働いていないゆうちゃんだけが彼の眼には異質に見えたからかもしれない。ビールで作られたお腹は立派に肉付いていた。
そんなゆうちゃんに、彼は良くパチンコ屋に連れて行かれた。店内はタバコ臭く、だらしの無い私服姿の大人達が機械に向かってぶつぶつ言いながらじっとしてる姿が彼にはとても異様な光景に見えた。
「剛、お前もパチンコやってみろよ」
ゆうちゃんが俺が見ててやるからとでも言いたそうないたずらな眼で彼にそう言った。
彼は言われた通りゆうちゃんのとなりの台に座りパチンコを打ち始めた。すると早くも七が揃い大当たりを引いたみたいだ。
その後も大当たりは連発した。
「剛、良くやった。お前パチンコの才能あるんじゃねぇか。今日の夜はご馳走だな」
彼は何がなんだかわからなかったが、ビギナーズラックと言うものを引いたらしい。ゆうちゃんの台も同じ様に大当たりを連発していた。
その日の夜はゆうちゃんの言ってた通りご馳走となった。肉やら魚やら豪華な料理ばかりが食卓に並んだ。
ゆうちゃんは仕事はしていなくいつも暇なので、そんな風に彼を自分の遊びに付き合わさせて日々を過ごしていた。彼も勝てば夕飯が豪華になるため、付き合わされるのもまんざらでも無かった。
そんなゆうちゃんもまた独身だった。
ふるさと川崎で彼を取り囲んだ親戚達はそんな目上の親戚達だけではない。彼と同じ歳くらいで仲のいい子供たちもいた。親戚同士の子供と子供の関係の繋がりなんてうまくは説明できないが、端的に言えばいとこと言う関係だろう。
そんな彼を取り巻くいとこの一人をかずちゃんと言った。
名前は和子だからあだ名はかずちゃん。眼鏡をかけいつも元気いっぱいな女の子。お笑い芸人の光浦靖子似の、彼より四つくらい年上のお姉さんだ。そのお姉さんとは当時流行っていた心霊写真の本などを怖がりながら恐る恐る一緒に見た記憶がある。
かずちゃんは大きな団地に住んでいた。その団地の中で良く追いかけっこやかくれんぼをした記憶もある。
「もういいかい」
「まぁーだたよ」
等のお決まりの掛け声は巨大な団地にこだまし、喧騒の中かげろうのように消えていった。逃げ足の遅い彼はいつもすぐに見つかり捕まった。
彼はそんな毎日が楽しくて仕方なかった。
そのかずちゃんの弟にはまちゃきがいた。
名前は正樹だから、あだ名はまちゃき。彼より二つくらい年上のお兄さん。まちゃきは少し意地悪く彼をよくからかった。
ある日、彼の顔にマジックで落書きをしたためかずちゃんがまちゃきをひどく叱ったことがあった。そんな優しいかずちゃんと、いたずら好きなまちゃきとの時間も彼にとっては楽しいひと時だった。
彼はと言うと、普段は人見知りで大人しかったが、とてもひょうきん者の一面もあった。猿の真似をして人を笑わせたり、変な顔をして笑わせてみたり、彼を取り囲む人も皆彼はとてもひょうきんもので、面白いやつだと信じて疑わなかった。そんなこんなで川﨑の人達と楽しいときを過ごしていた。
長男の彼はあだなをあんちゃんと言った。あにきだからか、あんちゃんというあだなで呼ばれていたのだろう。
あんちゃんは結婚はせず、独身だった。
そんなあんちゃんは仕事から帰って来ても、着替えずいつもワイシャツ姿にネクタイという出立ちだった。ワイシャツにネクタイ姿はまだ働いたことのない彼にはとてもかっこよく見えた。働いていて家族を支えているんだということがその姿、においに伺いしてれたからだ。
あんちゃんはよく彼の体を両足で持ち上げ飛行機みたいな体勢にして遊んでくれた。
いつの日だったかそのあんちゃんと彼の父が彼を動物園へ連れて行きたいと言うタイミングがかぶってしまったことがあった。
彼はふたりから同時に
「どっちと動物園に行きたい、剛」
と、問い詰められ、いささか困惑したが、悩んだ末に
「あんちゃんと一緒に動物園に行く」
と答えた。
実の父を選ぶよりあんちゃんを選択した。それほど彼はふるさと川﨑の人が好きだった。
あんちゃんの弟はゆうちゃんと言った。名前が豊《ゆたか》だからゆうちゃん。ゆうちゃんはいつもパチンコか競馬ばかりやっていた。また昼間から酒ばかり飲んで顔を赤くしていた。仕事はしていなかった。
今でいうニートみたいな生活を送っていた。あんちゃとは対照的だった。彼には大人になっても働かずにいつも家にいるということがすごく不自然に思えた。
社会だとか、仕事だとか分別もつかない幼心の彼がそう思ったのも、彼の父が典型的なサラリーマンだったし、あんちゃんもまたスーツにネクタイといういでたちの典型的なサラリーマン。働いていないゆうちゃんだけが彼の眼には異質に見えたからかもしれない。ビールで作られたお腹は立派に肉付いていた。
そんなゆうちゃんに、彼は良くパチンコ屋に連れて行かれた。店内はタバコ臭く、だらしの無い私服姿の大人達が機械に向かってぶつぶつ言いながらじっとしてる姿が彼にはとても異様な光景に見えた。
「剛、お前もパチンコやってみろよ」
ゆうちゃんが俺が見ててやるからとでも言いたそうないたずらな眼で彼にそう言った。
彼は言われた通りゆうちゃんのとなりの台に座りパチンコを打ち始めた。すると早くも七が揃い大当たりを引いたみたいだ。
その後も大当たりは連発した。
「剛、良くやった。お前パチンコの才能あるんじゃねぇか。今日の夜はご馳走だな」
彼は何がなんだかわからなかったが、ビギナーズラックと言うものを引いたらしい。ゆうちゃんの台も同じ様に大当たりを連発していた。
その日の夜はゆうちゃんの言ってた通りご馳走となった。肉やら魚やら豪華な料理ばかりが食卓に並んだ。
ゆうちゃんは仕事はしていなくいつも暇なので、そんな風に彼を自分の遊びに付き合わさせて日々を過ごしていた。彼も勝てば夕飯が豪華になるため、付き合わされるのもまんざらでも無かった。
そんなゆうちゃんもまた独身だった。
ふるさと川崎で彼を取り囲んだ親戚達はそんな目上の親戚達だけではない。彼と同じ歳くらいで仲のいい子供たちもいた。親戚同士の子供と子供の関係の繋がりなんてうまくは説明できないが、端的に言えばいとこと言う関係だろう。
そんな彼を取り巻くいとこの一人をかずちゃんと言った。
名前は和子だからあだ名はかずちゃん。眼鏡をかけいつも元気いっぱいな女の子。お笑い芸人の光浦靖子似の、彼より四つくらい年上のお姉さんだ。そのお姉さんとは当時流行っていた心霊写真の本などを怖がりながら恐る恐る一緒に見た記憶がある。
かずちゃんは大きな団地に住んでいた。その団地の中で良く追いかけっこやかくれんぼをした記憶もある。
「もういいかい」
「まぁーだたよ」
等のお決まりの掛け声は巨大な団地にこだまし、喧騒の中かげろうのように消えていった。逃げ足の遅い彼はいつもすぐに見つかり捕まった。
彼はそんな毎日が楽しくて仕方なかった。
そのかずちゃんの弟にはまちゃきがいた。
名前は正樹だから、あだ名はまちゃき。彼より二つくらい年上のお兄さん。まちゃきは少し意地悪く彼をよくからかった。
ある日、彼の顔にマジックで落書きをしたためかずちゃんがまちゃきをひどく叱ったことがあった。そんな優しいかずちゃんと、いたずら好きなまちゃきとの時間も彼にとっては楽しいひと時だった。
彼はと言うと、普段は人見知りで大人しかったが、とてもひょうきん者の一面もあった。猿の真似をして人を笑わせたり、変な顔をして笑わせてみたり、彼を取り囲む人も皆彼はとてもひょうきんもので、面白いやつだと信じて疑わなかった。そんなこんなで川﨑の人達と楽しいときを過ごしていた。
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