31 / 51
学生編
テンプレキタキタ
しおりを挟む「この後って生徒会あんの?」
廊下を二人で歩いていると、そんな質問がハルから投げかけられる。
「ええ、あるわね。こういう行事の時こそ仕事は多いのよ」
「うへぇ……マジ大変じゃん」
ハルはやれやれと肩をすくめる。
私としてはそれが当たり前だったので特に問題はないのだけれど。
「あらあら、白雪姫と王子様の二人じゃない?」
すると前方から佐野さんを含めたグループが歩いて来ていた。
ぞろぞろと佐野さんを先頭にクラスメイトが集団を作っている。
すれ違う直前にお互いに足を止めた。
「こんな時も一緒なんて役作り頑張ってるのね? あれ、それとも他に絡む人がいないだけ?」
佐野さんが嫌味を含んだ口調で煽ってくる。
そもそも私たちがこの役になったのは貴女が原因だし、一緒にいる人が少ないのもグループを形成している佐野さんからのマウントのように思える。
どちらにしても好意的な印象はない。
「なんだお前?」
そして隣のハルはドスが利いた声で佐野さんを睨みつける。
普段こんな声を聞く事がないので、私の方がビクリと驚いてしまうのだが……。
「イキんなよ白花。お姫様がそんな事しても背伸びしてるようにしか見えないから」
白雪姫を受け入れた経緯もあり、佐野さんはハルが本当の所では反抗してこないと踏んでいるのだろう。
あくまでハルに対し上からの態度を改める気はないようだ。
(ねえ、こいつマジでやっていい?)
ハルがヒソヒソ声で私にだけ聞こえる声量で許可を求めてくる。
何をどう“やる”のかは分からないが、恐らく良い行為ではない事は分かる。
(ダメよ、クラスメイト同士で争っても良い事なんか一つもないわ)
(争うって……ケンカ吹っ掛けてきたの向こうだぜ?)
確かに絡んできているのは佐野さんの方からだ。
それだけにハルが一方的に我慢を強いられているのはストレスが溜まっているだろう。
私としても決して気分が穏やかなわけではない。
(それでも相手と同じ土俵に立つ必要はないわ、私達は堂々としていればいいの)
(そうは言うけどさぁ……)
ゴーサインを出さない私に対してハルはもどかしい感情を覚えている。
ハルは論理よりも感情を優先させるタイプだから、私の言っている事は分かっていても体が受け付けないのだろう。
それでもこうして堪えてくれている事が、私は嬉しい。
「おいおいなんだよ近くで話し合ってさ、なに、もうキスでもするつもり? 演技に必死だねー」
佐野さんはこれこれで無視されているようで気に入らなかったのか、更に煽ってくる。
隣から“ピキッ”と聞こえたような気がするけど、恐らく聞き間違いだろう。
「そうね、私達は表に出るタイプじゃないから演技には悪戦苦闘しながら頑張っているのよ」
「ははっ、ご苦労様」
そう仕向けた佐野さんにとっては私達が困っている姿を見るのが楽しいのだろう。
彼女の笑い方は人の醜態を楽しむ様が垣間見える。
「いいえ、私達を支えてくれている佐野さんにも感謝しているわ」
「……は?」
「だって佐野さんは美術担当でしょ? それって背景や小道具を準備してくれているのよね? そんな土台から私達の事を支えてくれているのだから、頑張りたいと自然に思えるわ」
「……」
決して美術を担当している方を揶揄する気持ちは無い。
むしろ私もそっち側になりかったのだから。
ただ佐野さんにとっては私達を面白おかしい立場にしたいだろうから、佐野さんのポジションが私達を支えていると表現されるのは望むところではないだろう。
現に佐野さんはなんとも言えない表情を浮かべ、口元を歪ませている。
「まー精々頑張ったら? あんまりに大根演技だったら見てる人に笑われちゃうかもしれないからさ」
佐野さんはハルの方を見てほくそ笑む。
ハルの演技が少しコミカルだった事は、もう噂で聞きつけているのかもしれない。
明らかにその発言はハルに向けられてのものだった。
「なんだと――」
「佐野さんも、手元が不器用だと周りに迷惑を掛けるかもしれないから気を付けて」
私が間に入る。
佐野さんが案外手元が不器用なタイプで、出来る事が少ないというのは聞きつけていた。
申し訳ないが、ハルを馬鹿にするのなら私も黙ってばかりではいられない。
「……ふん、あっそ」
私の返しは佐野さんにとって面白くないだろう。
彼女は鼻を鳴らして横を通り過ぎて行く。
後に続いていくクラスメイトは神妙な面持ちをしていた。彼女らも特別敵対を好んでしたいわけではないだろう。
リーダー格の佐野さんに合わせる他ないのかもしれない。
「くっそー、なんだよあいつムカつくなぁ」
その場から姿を消すと、ハルはくしゃくしゃと頭を搔く。
「よく我慢してくれたわねハル、ありがとう」
「いや、いいんだけどさ。澪が上手いこと返してくれたし」
「ああいうのは真っ向からぶつかってもお互いに傷つくだけなのよ。流してしまえばどこかに飛んでいくわ」
「大人だな」
「まあハルよりはね」
「なんだよあたしは子供扱いか」
「まさか、そこがハルの良い所よ」
逆に言うと私はハルのように真正面から人と向き合う事が出来ない。
立場や環境を盾に会話をしてしまうのが私だから、むき出しの自分で訴えかけるハルに瑞々しさすら感じる。
ハルには今はそれが裏目に出そうだから抑えてもらったけれど、これからもずっとそうであって欲しいと思っている。
「澪のその冷静さが羨ましいよ。あたしはすぐに頭に血が上って考えられなくなるからさ」
「私は考え過ぎて行動力に欠けてしまう時もあるから、デメリットもあるけれどね」
「それでもあたしは澪みたいなやり方は出来ないね」
「それは私もよ、ハル」
私達は対極で、だからこそ補い合えているのかもしれない。
138
お気に入りに追加
631
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる