憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち

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学生編

テンプレキタキタ

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「この後って生徒会あんの?」

 廊下を二人で歩いていると、そんな質問がハルから投げかけられる。

「ええ、あるわね。こういう行事の時こそ仕事は多いのよ」

「うへぇ……マジ大変じゃん」

 ハルはやれやれと肩をすくめる。
 私としてはそれが当たり前だったので特に問題はないのだけれど。

「あらあら、白雪姫と王子様の二人じゃない?」

 すると前方から佐野さのさんを含めたグループが歩いて来ていた。
 ぞろぞろと佐野さんを先頭にクラスメイトが集団を作っている。
 すれ違う直前にお互いに足を止めた。

「こんな時も一緒なんて役作り頑張ってるのね? あれ、それとも他に絡む人がいないだけ?」

 佐野さんが嫌味を含んだ口調で煽ってくる。
 そもそも私たちがこの役になったのは貴女が原因だし、一緒にいる人が少ないのもグループを形成している佐野さんからのマウントのように思える。
 どちらにしても好意的な印象はない。

「なんだお前?」

 そして隣のハルはドスが利いた声で佐野さんを睨みつける。
 普段こんな声を聞く事がないので、私の方がビクリと驚いてしまうのだが……。

「イキんなよ白花しらはな。お姫様がそんな事しても背伸びしてるようにしか見えないから」

 白雪姫を受け入れた経緯もあり、佐野さんはハルが本当の所では反抗してこないと踏んでいるのだろう。
 あくまでハルに対し上からの態度を改める気はないようだ。

(ねえ、こいつマジでやっていい?)

 ハルがヒソヒソ声で私にだけ聞こえる声量で許可を求めてくる。
 何をどう“やる”のかは分からないが、恐らく良い行為ではない事は分かる。

(ダメよ、クラスメイト同士で争っても良い事なんか一つもないわ)

(争うって……ケンカ吹っ掛けてきたの向こうだぜ?)

 確かに絡んできているのは佐野さんの方からだ。
 それだけにハルが一方的に我慢を強いられているのはストレスが溜まっているだろう。
 私としても決して気分が穏やかなわけではない。

(それでも相手と同じ土俵に立つ必要はないわ、私達は堂々としていればいいの)

(そうは言うけどさぁ……)

 ゴーサインを出さない私に対してハルはもどかしい感情を覚えている。
 ハルは論理よりも感情を優先させるタイプだから、私の言っている事は分かっていても体が受け付けないのだろう。
 それでもこうしてこらえてくれている事が、私は嬉しい。

「おいおいなんだよ近くで話し合ってさ、なに、もうキスでもするつもり? 演技に必死だねー」

 佐野さんはこれこれで無視されているようで気に入らなかったのか、更に煽ってくる。
 隣から“ピキッ”と聞こえたような気がするけど、恐らく聞き間違いだろう。

「そうね、私達は表に出るタイプじゃないから演技には悪戦苦闘しながら頑張っているのよ」

「ははっ、ご苦労様」

 そう仕向けた佐野さんにとっては私達が困っている姿を見るのが楽しいのだろう。
 彼女の笑い方は人の醜態を楽しむ様が垣間見える。

「いいえ、私達を支えてくれている佐野さんにも感謝しているわ」

「……は?」

「だって佐野さんは美術担当でしょ? それって背景や小道具を準備してくれているのよね? そんな土台から私達の事を支えてくれているのだから、頑張りたいと自然に思えるわ」

「……」

 決して美術を担当している方を揶揄やゆする気持ちは無い。
 むしろ私もそっち側になりかったのだから。
 ただ佐野さんにとっては私達を面白おかしい立場にしたいだろうから、佐野さんのポジションが私達を支えていると表現されるのは望むところではないだろう。
 現に佐野さんはなんとも言えない表情を浮かべ、口元を歪ませている。

「まー精々頑張ったら? あんまりに大根演技だったら見てる人に笑われちゃうかもしれないからさ」

 佐野さんはハルの方を見てほくそ笑む。
 ハルの演技が少しコミカルだった事は、もう噂で聞きつけているのかもしれない。
 明らかにその発言はハルに向けられてのものだった。

「なんだと――」

「佐野さんも、手元が不器用だと周りに迷惑を掛けるかもしれないから気を付けて」

 私が間に入る。
 佐野さんが案外手元が不器用なタイプで、出来る事が少ないというのは聞きつけていた。
 申し訳ないが、ハルを馬鹿にするのなら私も黙ってばかりではいられない。

「……ふん、あっそ」

 私の返しは佐野さんにとって面白くないだろう。
 彼女は鼻を鳴らして横を通り過ぎて行く。
 後に続いていくクラスメイトは神妙な面持ちをしていた。彼女らも特別敵対を好んでしたいわけではないだろう。
 リーダー格の佐野さんに合わせる他ないのかもしれない。

「くっそー、なんだよあいつムカつくなぁ」

 その場から姿を消すと、ハルはくしゃくしゃと頭を搔く。

「よく我慢してくれたわねハル、ありがとう」

「いや、いいんだけどさ。澪が上手いこと返してくれたし」

「ああいうのは真っ向からぶつかってもお互いに傷つくだけなのよ。流してしまえばどこかに飛んでいくわ」

「大人だな」

「まあハルよりはね」

「なんだよあたしは子供扱いか」

「まさか、そこがハルの良い所よ」

 逆に言うと私はハルのように真正面から人と向き合う事が出来ない。
 立場や環境を盾に会話をしてしまうのが私だから、むき出しの自分で訴えかけるハルに瑞々しさすら感じる。
 ハルには今はそれが裏目に出そうだから抑えてもらったけれど、これからもずっとそうであって欲しいと思っている。

「澪のその冷静さが羨ましいよ。あたしはすぐに頭に血が上って考えられなくなるからさ」

「私は考え過ぎて行動力に欠けてしまう時もあるから、デメリットもあるけれどね」

「それでもあたしは澪みたいなやり方は出来ないね」

「それは私もよ、ハル」

 私達は対極で、だからこそ補い合えているのかもしれない。
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