上 下
8 / 24

聖騎士団に追われる?

しおりを挟む
 数日ワルバーン家で過ごしてから、フィリップお兄様とお父様が迎えに着てくれた。
 社交界では、アレの一件以降、私はリヒャルト様の嫁確定された。パーティーで「可愛い俺の嫁」発言が会場に響いたから。恥ずかしい。

 手紙は連日届いている。聖騎士団の所属試験の手紙が……。う、受けたくない。行きたくない。けれど、1ヶ月近く手紙を無視していたら、「頼む、1度だけでいいから!!」とお兄様が。
 お兄様のために、受けることにしたけど。

 王宮の敷地にある聖騎士団の訓練場の近くで、【与える者】の所属試験が行われる。
 教会の人が、試験をすることになっていて、聖騎士団の副団長・アルバルト様も立ち会う。

 「大丈夫、俺も立ち会っているから」
 「アリガトウゴザイマス」
 「ははっ、よっぽどなんだね? マリア嬢は」
 「……なら、今から帰っていいですか?」
 「それは、無理かな」

 覚悟を決めて、試験を受ける。
 教会の人は、魔法で判定すると説明してくれた。私の足元から、魔方陣が浮かび全身を包む。

 パンッ!!

 「……これは……マリア嬢、最近誰かに祝福を与えましたか?」
 「祝福? いえ、誰……えっ、えっ、えぇぇぇ!!」
 「マリア嬢、もしかして……」
 
 ヤバイ、何か、ヤバイ気がする!! この場合、どうすべき? 言うべき? 確定じゃない事項だけど。

 【言う】
 【言わない】
 【笑ってごまかす】

 「えぇっと……祝福って」
 「キスでも与えられますから、最近、誰かと交わしましたか?」
 「教会長、不躾ぶしつけな言い方は令嬢レディに失礼かと」
 
 教会長、って。すんごく偉い人でしょ? 所属試験でくることないよね? なんで?
 アルバルトさんと教会長さん、顔を見合わせてるけど……。

 「マリア嬢、ここから帰る道は俺が同行します」
 「あの、試験は……」
 「コレで終わりですよ、マリア嬢。お疲れ様です」
 「はい。えっと、アルバルト様? 私は1人でも……」
 「アルバルト殿に送って貰った方がいいでしょう」
 
 教会長の強い念押しをされて、アルバルトさんと一緒に歩く。訓練場を抜けたところで、なんだか黒いモノが背中をゾクリと走る。
 
 「いいですか? 後ろは見ずに、俺が合図したら全速力で走ってください」
 「……っ……」

 背中を軽くポンと押され、全速力で走る。後ろから、男の怒号がする。剣のぶつかり合う音、魔法がぶつかり合ってビシビシと背中から振動が伝わる。
 脂汗、冷や汗が一気にわき上がる。黒い霧が見えかけた。

 「い、いやっ!!」

 思わず、足を止めてしまう。黒い霧が少しずつ黒くなる。

 「っ、い……やっ、やだ!!」
 「マリア!!」

 その声の後、翠色の光がはなたれて黒い霧が薄くなっていく。ぐっと身体を引き寄せられ、その人は、私をマントに隠し抱きかかえる。
 マントの外から、剣の音が響いている。片手で剣を扱い、追ってきている者から護ってくれている。

 「遅いぞ!!」
 「すまない!!」
 「「はっあぁぁぁ!!」」
 
 ドォーーーーン!!

 地響きを鳴らすような大きな音。2つの魔法が重なり、迎え撃った。
 「後は頼んだ」とマントの男が言って、私を抱きかかえていた。
 
 

 「大丈夫か? マリア」

 心配そうな顔をした彼がいた。

 「ふふっ、傷だらけ。ですね? リヒャルト様」
 「このくらい」
 「ダメ……です……」
 「君は?」

 彼の頬を撫でた。あぁ、彼がいる。夢でも彼といたい。
 
 チュッ……。

 「ま、マリア? なに、を……」
 「リヒャルト様……好き、です」
 「っ?!」
 「……す、き……」

 答えない彼に、私はキスをした。彼は、きっと……。

 
 眠りについた彼女の頬に触れる。
 答えられなかった。「好き」と言ってくれた。彼女は……。護るだけなのに、そのための婚約の申し出なのに。
 この俺を、好き?
 俺は……彼女をどうしたら……ロイには、正直にとは言われたが。無理だ。俺には、無理だ!!

 「彼女を帰そう」

 クロイツ家に手紙を出した。マリア嬢をクロイツ家に帰すと。
 アルバルトから手紙が届く。襲ってきた騎士たちは、聖騎士団の見習い騎士含め、一般の騎士団の見習いばかりだったと。
 どこかで、騎士たちは狂い始めている。
 やはり、あの、特別寮だろうか?
 
 これ以上、マリアを、彼女を危険な場所に置きたくはない。一番護りやすいと考えたが、逆だったかもしれない。

 「……最後に……」

 眠っている彼女にキスをする。1度のはずが、何度も何度も。彼女が目覚めている時にできないから……。
 
 「……マリア……」

 先月、デビュタンとで社交界デビューしたばかりの17歳の令嬢は。少しずつ大人の女性になってきていた。
 もう、触れることができない。俺は、彼女に相応しくないのだから……。

 「マリア、愛している」

 最後のキスを彼女にした。



 何度か見た天蓋が見えた。隣は、誰もいない。ゆっくりと身体を起こした。
 部屋にも、私以外、誰もいない。
 ワルバーン家のメイドが、着替えなど手伝ってくれた。が、彼は私を避けているみたいで……食堂にも、部屋にも顔を出さない。ギルバートさんは、「旦那様は執務が忙しく」と言っていた。
 お父様から手紙が届いて、「落ちついたら迎えに行く」と。
 手慰てなぐさみに刺繍をした。リヒャルト様を想って。

 ワルバーン家を出る日。彼は、見送れないらしく玄関に来なかった。

 「リヒャルト様に……渡して頂けますか?」
 「マリア様……必ず」

 出来上がった刺繍小物をギルバートさんに託す。
 玄関には、お父様がいた。
 執務室の方を見上げると、リヒャルト様がいた……気がする。あの高い背に、鍛えられた体躯。黒い髪に、黒い瞳。
 帰ってくることがない挨拶に、小さく手を振った。

 「マリア……大丈夫かい?」
 「行きましょう、お父様」 
 
 たぶん、無理矢理笑顔になっている顔だ。今、すごく泣きたい。けれど、そんな顔をここで見せられない。

 馬車に乗って、門を出て。窓越しに、屋敷を見る。
 きっと彼は、眠っている時だけ私に寄り添ってくれたと思う。ベッドは、少しあたたかみを感じる日もあったから……。

 「っく、ひっく……りひゃる、と、さ、ま」

 彼の名前をどんなに呼んでも、届かない。傍にいないから。でも、彼に言いたかった。好き、だと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

未亡人メイド、ショタ公爵令息の筆下ろしに選ばれる。ただの性処理係かと思ったら、彼から結婚しようと告白されました。【完結】

高橋冬夏
恋愛
騎士だった夫を魔物討伐の傷が元で失ったエレン。そんな悲しみの中にある彼女に夫との思い出の詰まった家を火事で無くすという更なる悲劇が襲う。 全てを失ったエレンは娼婦になる覚悟で娼館を訪れようとしたときに夫の雇い主と出会い、だたのメイドとしてではなく、幼い子息の筆下ろしを頼まれてしまう。 断ることも出来たが覚悟を決め、子息の性処理を兼ねたメイドとして働き始めるのだった。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

大嫌いなアイツが媚薬を盛られたらしいので、不本意ながらカラダを張って救けてあげます

スケキヨ
恋愛
媚薬を盛られたミアを救けてくれたのは学生時代からのライバルで公爵家の次男坊・リアムだった。ほっとしたのも束の間、なんと今度はリアムのほうが異国の王女に媚薬を盛られて絶体絶命!? 「弟を救けてやってくれないか?」――リアムの兄の策略で、発情したリアムと同じ部屋に閉じ込められてしまったミア。気が付くと、頬を上気させ目元を潤ませたリアムの顔がすぐそばにあって……!! 『媚薬を盛られた私をいろんな意味で救けてくれたのは、大嫌いなアイツでした』という作品の続編になります。前作は読んでいなくてもそんなに支障ありませんので、気楽にご覧ください。 ・R18描写のある話には※を付けています。 ・別サイトにも掲載しています。

異世界騎士の忠誠恋

中村湊
恋愛
異世界から飛ばされたされた王子と騎士。 騎士のハロルドは、現代の世界で歌音(かのん)と出会う。 歌音への恩義を果たそうと、四苦八苦する日々のハロルド。彼女とともに過ごすうちに、恩義以上のものを感じ始める。 歌音は、ハロルドに少しずつ惹かれていくが……。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

絶倫獣人は溺愛幼なじみを懐柔したい

なかな悠桃
恋愛
前作、“静かな獣は柔い幼なじみに熱情を注ぐ”のヒーロー視点になってます。そちらも読んで頂けるとわかりやすいかもしれません。 ※誤字脱字等確認しておりますが見落としなどあると思います。ご了承ください。

処理中です...