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エピローグ
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7年後ーー
ジヴェル・ニアでの春を8回迎えた。6歳になった息子、4歳の娘。そして、3人目の子どもがお腹にいる。久し振りに、ハンナたちがやってきている。
ジヴェル湖で、みんなで弁当を作ってピクニックをしている。アンリはお腹も大きく目立つようになり、木陰でシートの上でゆっくりしている。ハンナが編んだブランケットを膝に掛け、ハンナの娘の子ども達と遊ぶ息子たちを見ている。
少し離れたところで、ガヴは、息子たちをデッサンし。アンリをデッサンしていた。
個展の後、ガヴはアンリにプロポーズし婚姻した。戸籍は、モントマルト家の籍に入った。「我が家の籍に入った方が、アンリ姉さんも良いと思える」とクリストファーたっての申し出だった。
意外な申し出に、アンリは戸惑いの表情をしていたがガヴも彼女に婚姻するのに除籍された件で戸籍の問題があり受け容れた。
「ガヴ様。わたしも、今年が最期になると思います」
ハンナがガヴの隣にゆっくりと座り、話しかけた。たしかに、ハンナは、あれから8年もの年月で大分年齢を重ねた。アンリに子どもが2人生まれ、3人目が今、お腹の中。ハンナの娘の子ども達も3人。
アンリのもとへ、手紙のやりとり以外に、婚姻式の日を境に、毎年訪れてくれていた。ハンナの娘と。1年。また、1年。彼女も白髪が大分増え、足腰も弱ってきていた。
汽車に乗るのがやっとだった今年。最期、なのだろう……。ガヴはアンリを見る瞳は、本当の母親だった。きっと、最期の最期まで。血が繋がっていようと、いまいと、彼女の母親なのだろう。
「アンリは、知っているのか?」
「……そうですねぇ、お嬢様は。とても賢い子ですから……あの子は……」
「……そうか……」
「ガヴ様は、ご存じだったのでしょう?」
「……すまない……」
「いいんですよ。一緒にきている娘も、同じく知っているでしょう。あの子たちは、本当に賢くて、わたしには勿体ないくらいの素晴らしい宝です。亡くなった旦那も、愛してましたから。あの子たちを……」
同じ瞳の色をしたアンリとハンナの娘。商家の両親にはなかった瞳の色。ハンナの瞳の色と同じの娘が2人。
ハンナはきっと、自分の墓まで持っていく。ハンナの旦那と同じように……。
「「おばぁちゃん!!」」
「はい、はい。どうしたんだい?」
「あのね、僕、メリー姉ちゃんと同じ瞳だよ?」
「そうだねぇ。綺麗な瞳だよ」
アンリの息子が呼んだ、メリー姉ちゃん。ハンナの娘、メリー。息子は嬉しそうに言っている。メリー姉ちゃんの子らと、同じ瞳で嬉しい、と。「家族みたいで嬉しい」と。
ーーあぁ、そういえば。メリーも、アンリも。同じ事を幼い時に言って喜んでいたーー
思い出したハンナは、嬉しく涙する。
少し離れた所にいたアンリは、ハンナの涙の理由を知っている。メリーも一番下の息子を抱きかかえ、アンリの傍に座る。
「母さん。思い出して、泣いているのね? あの時のこと」
「メリー? 」
「だって、アンリは……賢い子だもの」
「血は関係ないの。ただ、ハンナ……メリーや、商会の皆といられた時間は嬉しかった。今も、もちろん幸せよ」
「良かった。母さんにも伝わってる」
1週間後、ハンナ達がジヴェル・ニアから帰り、数か月後にアンリの3人目の子どもが無事に産まれた。
次の春、ハンナは来れなかった。正確には、彼女は亡くなった。産まれて半年のアンリの子どもを見て、ベッドの上で抱き微笑んだ翌日に。
「アンリ。俺は君が哀しい思いをしても、辛い思いをしても……傍にいたい」
「エル……ありがとう……わたしも、貴方と一緒に……この子たちと一緒に過ごしたい」
ジヴェル・ニアでの生活は、穏やかで優しい風が吹く。冷たすぎず、乾きすぎず。頬を優しく撫でる風。
四季折々の花々や、木々。
子ども達は、毎日、ガヴとデッサンで競争をして過ごす。彼の変な遊びをも、子ども達は愉しむ。誰が、最初にママを喜ばすデッサンを描けるか? エルのデッサンが選れない時は、子どものように彼は「俺が一番ママの色を知っているんだ!!」と自慢する。
屋敷は賑やかだけれども、それも彼の好きな絵に囲まれ。愛する彼と、彼の子ども達に囲まれ。アンリは、楽しくなる。
「ここにわたしの居場所を見つけた」
アンリは、蒼い空を仰ぎ見て小さく言った。
finーー
ジヴェル・ニアでの春を8回迎えた。6歳になった息子、4歳の娘。そして、3人目の子どもがお腹にいる。久し振りに、ハンナたちがやってきている。
ジヴェル湖で、みんなで弁当を作ってピクニックをしている。アンリはお腹も大きく目立つようになり、木陰でシートの上でゆっくりしている。ハンナが編んだブランケットを膝に掛け、ハンナの娘の子ども達と遊ぶ息子たちを見ている。
少し離れたところで、ガヴは、息子たちをデッサンし。アンリをデッサンしていた。
個展の後、ガヴはアンリにプロポーズし婚姻した。戸籍は、モントマルト家の籍に入った。「我が家の籍に入った方が、アンリ姉さんも良いと思える」とクリストファーたっての申し出だった。
意外な申し出に、アンリは戸惑いの表情をしていたがガヴも彼女に婚姻するのに除籍された件で戸籍の問題があり受け容れた。
「ガヴ様。わたしも、今年が最期になると思います」
ハンナがガヴの隣にゆっくりと座り、話しかけた。たしかに、ハンナは、あれから8年もの年月で大分年齢を重ねた。アンリに子どもが2人生まれ、3人目が今、お腹の中。ハンナの娘の子ども達も3人。
アンリのもとへ、手紙のやりとり以外に、婚姻式の日を境に、毎年訪れてくれていた。ハンナの娘と。1年。また、1年。彼女も白髪が大分増え、足腰も弱ってきていた。
汽車に乗るのがやっとだった今年。最期、なのだろう……。ガヴはアンリを見る瞳は、本当の母親だった。きっと、最期の最期まで。血が繋がっていようと、いまいと、彼女の母親なのだろう。
「アンリは、知っているのか?」
「……そうですねぇ、お嬢様は。とても賢い子ですから……あの子は……」
「……そうか……」
「ガヴ様は、ご存じだったのでしょう?」
「……すまない……」
「いいんですよ。一緒にきている娘も、同じく知っているでしょう。あの子たちは、本当に賢くて、わたしには勿体ないくらいの素晴らしい宝です。亡くなった旦那も、愛してましたから。あの子たちを……」
同じ瞳の色をしたアンリとハンナの娘。商家の両親にはなかった瞳の色。ハンナの瞳の色と同じの娘が2人。
ハンナはきっと、自分の墓まで持っていく。ハンナの旦那と同じように……。
「「おばぁちゃん!!」」
「はい、はい。どうしたんだい?」
「あのね、僕、メリー姉ちゃんと同じ瞳だよ?」
「そうだねぇ。綺麗な瞳だよ」
アンリの息子が呼んだ、メリー姉ちゃん。ハンナの娘、メリー。息子は嬉しそうに言っている。メリー姉ちゃんの子らと、同じ瞳で嬉しい、と。「家族みたいで嬉しい」と。
ーーあぁ、そういえば。メリーも、アンリも。同じ事を幼い時に言って喜んでいたーー
思い出したハンナは、嬉しく涙する。
少し離れた所にいたアンリは、ハンナの涙の理由を知っている。メリーも一番下の息子を抱きかかえ、アンリの傍に座る。
「母さん。思い出して、泣いているのね? あの時のこと」
「メリー? 」
「だって、アンリは……賢い子だもの」
「血は関係ないの。ただ、ハンナ……メリーや、商会の皆といられた時間は嬉しかった。今も、もちろん幸せよ」
「良かった。母さんにも伝わってる」
1週間後、ハンナ達がジヴェル・ニアから帰り、数か月後にアンリの3人目の子どもが無事に産まれた。
次の春、ハンナは来れなかった。正確には、彼女は亡くなった。産まれて半年のアンリの子どもを見て、ベッドの上で抱き微笑んだ翌日に。
「アンリ。俺は君が哀しい思いをしても、辛い思いをしても……傍にいたい」
「エル……ありがとう……わたしも、貴方と一緒に……この子たちと一緒に過ごしたい」
ジヴェル・ニアでの生活は、穏やかで優しい風が吹く。冷たすぎず、乾きすぎず。頬を優しく撫でる風。
四季折々の花々や、木々。
子ども達は、毎日、ガヴとデッサンで競争をして過ごす。彼の変な遊びをも、子ども達は愉しむ。誰が、最初にママを喜ばすデッサンを描けるか? エルのデッサンが選れない時は、子どものように彼は「俺が一番ママの色を知っているんだ!!」と自慢する。
屋敷は賑やかだけれども、それも彼の好きな絵に囲まれ。愛する彼と、彼の子ども達に囲まれ。アンリは、楽しくなる。
「ここにわたしの居場所を見つけた」
アンリは、蒼い空を仰ぎ見て小さく言った。
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とても美しいお話でした。お互いの純粋な気持ちが心地よくて、静かに涙してしまいました。
感想ありがとうございます。
これからも、色んな作品を少しずつ書いていければと思います。励みになり、嬉しいです。