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プロローグ
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――王宮の茶会――
「イヤですわ!! フォンは、シェノン様とおちゃをしますの!! となりでないと、イヤですわ!!」
大きな声でバタバタと走り始めた小さな令嬢を止めようと、その両親は追いかけているが。彼女は、大きな大人たちの間をするりと抜けていく。幼いながらも緩やかなウェーブがかった黄金色の髪が揺れている。小さな紫色の入った茶色い瞳には、第一王子のリエル殿下しか見えていない。
「待ちなさい!! フォンテーヌ!!」
「フォンテーヌ!! 危ない!!」
そう、両親が言った矢先。彼女はお茶を運ぶ侍女の横を通るも、それに驚きよろめいた侍女のティーポットから熱いお茶が流れ落ちようとしている。
誰もが悲鳴を上げ、フォンテーヌもそれに驚きへたり座り込んで動けない。
ドンッ――
フォンテーヌは、一瞬何が起きたのか分からない。ただ、自分が座り込んでいた場所から動いている。そして、自分と同じらいの小さな令嬢が自分が座っていた場所にいた。
「キャーーーーーー!!」
周りの女性が叫び声をあげた。
流れ落ちてきた熱いお茶が、小さな令嬢の首元から左腕へと被る。バタリと倒れた小さな令嬢は、辛そうな表情をしながらも「だいじょうぶ?」と弱々しく言っている。
「メイ!! メイ!! なんてことだ!!」
「どうした?! リゲル? メイ?! 治癒魔法士の許へ急ぐぞっ!!」
「は、はい、父上!!」
メイと呼ばれた女の子は、そのまま王宮の治癒魔法士の許へと行き茶会には戻らなかった。茶色い伸ばしかけの髪に、少し翠がかった茶色い瞳だった。
フォンテーヌは、両親にこっぴどく叱られた。彼女に助けてもらわなかったら、大きな火傷を……。
ドライモス男爵家の長女で、メイ・ドライモス男爵令嬢。彼女が、王宮の医務室で治癒魔法士が治療をすぐに施したが火傷の跡が遺った。茶会の翌日、フォンテーヌは父に聞かされて父の前で大泣きした。
火傷で、数日間、メイは高熱でうなされた。
それまで、メイを煩わしい妹としか思っていなかったリゲルは変わった。彼女にかばって貰ったフォンテーヌは、メイの見舞いで足しげく男爵家に行き。今まで真面目に祈ったこともない教会で、祈った。
『聖女様、お願いです。あの子の、メイの……傷を治してください。これから、わたし……わたくし、ワガママはいいません!! おべんきょうも、いっしょうけんめいがんばります!!』
リゲルも家の聖女の像に向かって跪いて祈った。
『今まで、煩わしい妹としか思ってなかった俺が間違ってました。どうか、メイを助けてください。あの子のためなら、俺は……俺はメイだけを、メイだけ大事にしていきます!!』
2人の祈りが無事に通じたのか、定かではないが。メイは高熱が下がり少しずつ食事もとれるようになった。目を覚ました時、酷く驚いた表情をして、「り、リゲル……に、い、さま?」と疑問形だった。
医師が言うには、「高熱でうなされていたので、記憶が混乱しているのでしょう」と。
メイのなかでは、記憶は確かに混乱していた。メイ・ドライモスとしての記憶と、その前の記憶。つまり、前世の記憶。乙女ゲームをこよなく愛して、【聖杯の乙女】という18禁乙女ゲームにハマった女子。と、してだけの記憶。
20歳になって、お酒が飲める!! とぬか喜びして乙女ゲーム仲間とお酒を飲んだ。そこで、記憶が途切れているので、多分、その後、自分は死んでしまったのかもしれない。
「メイ、その……言いにくいのだけれど、貴女の身体に、火傷の跡が少し残っているかもしれないの?」
「だいじょうぶです。おかあさま!! メイはこのあいだの女の子にけががなかったのが良かったです!!」
「~~っ!! メイ!! これからは、お兄ちゃんが、俺がお前を守るからな!! お兄ちゃんの傍を離れたらだめだからな!!」
「リゲル、お前いつからそんなにメイを可愛がるようになったんだ?」
「何を言いますか父上!! メイほど可愛い子は、どこにもいません!!」
「「…………」」
リゲルはベッドの上で半身を起こしているメイを抱きしめて頬ずりして、「メイ~」と言っている。
推しがメイの兄・リゲルだったから嬉しいような、複雑。なにしろ、メイは悪役令嬢の友人で、一緒に主人公を虐めている令嬢。そして、兄からは酷く嫌われ、両親の分からないところで妹を虐めていた。
メイとは違い、父に似た鮮やかな黄金交じりの茶色い髪の毛と黄金色の瞳。メイより2つ上の兄・リゲルはがらりと変わった。黄金色の双眸には、メイしか入ってこない状態に陥っていた。
兄の頬ずり抱きしめ状態の最中、フォンテーヌが見舞いにやってきて「メイがぶじでよかった!! これからは、わたくしがまもりますわ!!」とどこかで聞いたセリフを言われた。
「イヤですわ!! フォンは、シェノン様とおちゃをしますの!! となりでないと、イヤですわ!!」
大きな声でバタバタと走り始めた小さな令嬢を止めようと、その両親は追いかけているが。彼女は、大きな大人たちの間をするりと抜けていく。幼いながらも緩やかなウェーブがかった黄金色の髪が揺れている。小さな紫色の入った茶色い瞳には、第一王子のリエル殿下しか見えていない。
「待ちなさい!! フォンテーヌ!!」
「フォンテーヌ!! 危ない!!」
そう、両親が言った矢先。彼女はお茶を運ぶ侍女の横を通るも、それに驚きよろめいた侍女のティーポットから熱いお茶が流れ落ちようとしている。
誰もが悲鳴を上げ、フォンテーヌもそれに驚きへたり座り込んで動けない。
ドンッ――
フォンテーヌは、一瞬何が起きたのか分からない。ただ、自分が座り込んでいた場所から動いている。そして、自分と同じらいの小さな令嬢が自分が座っていた場所にいた。
「キャーーーーーー!!」
周りの女性が叫び声をあげた。
流れ落ちてきた熱いお茶が、小さな令嬢の首元から左腕へと被る。バタリと倒れた小さな令嬢は、辛そうな表情をしながらも「だいじょうぶ?」と弱々しく言っている。
「メイ!! メイ!! なんてことだ!!」
「どうした?! リゲル? メイ?! 治癒魔法士の許へ急ぐぞっ!!」
「は、はい、父上!!」
メイと呼ばれた女の子は、そのまま王宮の治癒魔法士の許へと行き茶会には戻らなかった。茶色い伸ばしかけの髪に、少し翠がかった茶色い瞳だった。
フォンテーヌは、両親にこっぴどく叱られた。彼女に助けてもらわなかったら、大きな火傷を……。
ドライモス男爵家の長女で、メイ・ドライモス男爵令嬢。彼女が、王宮の医務室で治癒魔法士が治療をすぐに施したが火傷の跡が遺った。茶会の翌日、フォンテーヌは父に聞かされて父の前で大泣きした。
火傷で、数日間、メイは高熱でうなされた。
それまで、メイを煩わしい妹としか思っていなかったリゲルは変わった。彼女にかばって貰ったフォンテーヌは、メイの見舞いで足しげく男爵家に行き。今まで真面目に祈ったこともない教会で、祈った。
『聖女様、お願いです。あの子の、メイの……傷を治してください。これから、わたし……わたくし、ワガママはいいません!! おべんきょうも、いっしょうけんめいがんばります!!』
リゲルも家の聖女の像に向かって跪いて祈った。
『今まで、煩わしい妹としか思ってなかった俺が間違ってました。どうか、メイを助けてください。あの子のためなら、俺は……俺はメイだけを、メイだけ大事にしていきます!!』
2人の祈りが無事に通じたのか、定かではないが。メイは高熱が下がり少しずつ食事もとれるようになった。目を覚ました時、酷く驚いた表情をして、「り、リゲル……に、い、さま?」と疑問形だった。
医師が言うには、「高熱でうなされていたので、記憶が混乱しているのでしょう」と。
メイのなかでは、記憶は確かに混乱していた。メイ・ドライモスとしての記憶と、その前の記憶。つまり、前世の記憶。乙女ゲームをこよなく愛して、【聖杯の乙女】という18禁乙女ゲームにハマった女子。と、してだけの記憶。
20歳になって、お酒が飲める!! とぬか喜びして乙女ゲーム仲間とお酒を飲んだ。そこで、記憶が途切れているので、多分、その後、自分は死んでしまったのかもしれない。
「メイ、その……言いにくいのだけれど、貴女の身体に、火傷の跡が少し残っているかもしれないの?」
「だいじょうぶです。おかあさま!! メイはこのあいだの女の子にけががなかったのが良かったです!!」
「~~っ!! メイ!! これからは、お兄ちゃんが、俺がお前を守るからな!! お兄ちゃんの傍を離れたらだめだからな!!」
「リゲル、お前いつからそんなにメイを可愛がるようになったんだ?」
「何を言いますか父上!! メイほど可愛い子は、どこにもいません!!」
「「…………」」
リゲルはベッドの上で半身を起こしているメイを抱きしめて頬ずりして、「メイ~」と言っている。
推しがメイの兄・リゲルだったから嬉しいような、複雑。なにしろ、メイは悪役令嬢の友人で、一緒に主人公を虐めている令嬢。そして、兄からは酷く嫌われ、両親の分からないところで妹を虐めていた。
メイとは違い、父に似た鮮やかな黄金交じりの茶色い髪の毛と黄金色の瞳。メイより2つ上の兄・リゲルはがらりと変わった。黄金色の双眸には、メイしか入ってこない状態に陥っていた。
兄の頬ずり抱きしめ状態の最中、フォンテーヌが見舞いにやってきて「メイがぶじでよかった!! これからは、わたくしがまもりますわ!!」とどこかで聞いたセリフを言われた。
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