68 / 68
壱 出会いの章
62話 暗雲
しおりを挟む
「長居をするつもりはないので単刀直入に言おう。君たちは先駆け人を舐めているのか?」
一瞬何を言われたのか分からなかった緋夜たちは揃って無反応になった。視線を合わせ4人の心境が同じであることを確認し合うと、一応パーティリーダーである緋夜が一歩前に出る。
「申し訳ありません。少々仰っている意味が分かりかねるのですが」
緋夜がそう言うや否や『煽動の鷹』の面々はますます冷めた目を向け、ケレイブはこれ見よがしにため息をこぼす。
「君たちのこれまでの態度は先駆け人として選ばれた者の態度ではないと言うことだ。魔物暴走は国の危機であり、各国が団結して対処にあたる。当然最前線に立つことになる上、こちらは詳しい状況は把握できないという点で危険も多い役目だ」
まるで何も分からない子どもに教えるような口調で説明を始めたケレイブだが、こんなことも理解できないのかと言わんばかりの呆れが滲んでいた。メディセインの笑みが深まるのをうっすらと感じながらも、緋夜はひとまず最後まで話を聞くことに。
「そんな重大な役目を任されておきながら君たちはおかしな作戦を提案したり、戦闘の間もずっと遊んでいるようにしか感じられない戦いぶりだった」
間違ってはいないな、と緋夜もそっと思った。余裕綽々の態度で言葉を交わし、魔物との戦いは明らかに手を抜き、真面目に仕事をしているとは言い難い。しかし、ガイたちにとっては本当に雑魚という認識でわざわざ本気を出してやる必要性を全く感じず、結局ただのお遊びになってしまうのだ。
実際、その場から動くことなく倒せる相手を真面目に対処していく方が馬鹿らしいと悪びれもなく馬鹿正直に宣ったのだから、本人としてはこれでも大人しく相手をしているだけマシという認識に違いない。
「先駆け人とは後から来る仲間たちの負担を少しでも減らすために送られる名誉ある仕事なんだ。だからこそ君たちの、まるで遊んでいるかのような態度は先駆け人としての自覚がないと思われても仕方ないだろう」
客観的に見ればその通りだろう。これには緋夜も同意する。国が関わっている以上は滅多なことはできない。民間人では到底背負いきれないほどの損害を国にもたらす可能性も考慮すれば、間違っても下手なことはしない筈だ。
そういう意味で彼の指摘は大いに正しい。普段の調子でやりすぎたかと思案していた緋夜だったが、隣から聞こえた言葉で強制的に思考をぶった斬られる。
「普段と大して変わらない仕事内容なのに、何故そこまで気負う必要があるのかな?」
はっとして声の方向を見ると心底不思議そうに首を傾げるアードが頬杖をついていた。驚きと僅かな困惑を滲ませた緋夜と目が合ったアードは任せてと声に出さない合図を送った。その意味を正しく受け取った緋夜はとりあえず任せることに。
「変わらないって……本当に理解していないのか? 今回の任務には国家が関わっているんだ。間違っても通常任務と同じにはなり得ない」
「でも内容は変わらないよね? 魔物の討伐なんて日常だし、高ランクの冒険者は高位貴族からの依頼だって受ける。君たちはAランク……だったよね?」
「ああ、そうだが……」
突然ランクを聞かれて一瞬困惑したのかケレイブは言葉に詰まりながらも答えた。しかしその顔にはそれがどうしたのか、という疑問と困惑、そして僅かな怒りが見て取れる。
そんなケレイブにアードは笑顔を向けた。
「だったら君たちは貴族からの指名依頼の経験が少なくとも一度はある筈だよ。国だってお偉方だ。それだけ見れば『いつもの依頼』って言えると思うけど……違うのかな?」
穏やかに、しかしその言葉はとても冷たく室内に響く。アードの言い分は間違っていない。
緋夜たちは今の所経験はないが、Aランク以上の冒険者は指名依頼というものがありそれらは基本的に豪商や貴族から出される。そして『煽動の鷹』もその依頼を何度か受けた経験があった。
「確かに指名依頼を受けたことはある。だからこそ魔物暴走の件は慎重になる必要がある。国の問題になる以上は君たちの態度は看過できないんだ」
「何が看過できないの? 自分達の活動が制限されてしまうことを恐れるのは勝手だけど、僕たちは特に問題は起こしていないし報告もしっかりと行っている。少なくとも君たちの不利にはなっていないはずだけど」
淡々としたアードの言葉に、障るものがあったのかケレイブはわかりやすく顔色を変えた。
「そんなことを言っているんじゃない! 君の言い方だとまるで自己保身のために君たちを諌めているみたいじゃないか! 我々はただ君たちの仕事への態度が大役を任された者ではないと!」
「何が問題? 魔物は片していたし、会議で意見も言った。仕事はこなしているよね?」
「しかし、戦闘は遊びじゃない。常に命の危険がある以上常に真剣にやるべきだ!」
「うん。それは間違っていないしむしろ大事なことだ」
あっさりとアードは言った。少なくともこれまでのケレイブの発言に間違いはないし緋夜もアードもそのことを理解していた。たとえ低ランクの魔物でも数次第で脅威へとなりえるし、何が起こるか分からない戦場では些細な油断が命取りになる。ケレイブが言いたいのはまさにそれだろう。
しかし。
理解しているからこそ、アードは彼の、彼ら『煽動の鷹』の態度に不快感を覚えたのだ。それはこの場をアードに譲っているガイとメディセインも同じであった。自分達が何も理解していないまま大役を掴み、ろくに仕事もしない連中だと思われていることが心から気に食わないのである。彼らは強い。それゆえにプライドもあるだろう。それがこんな貶され方をして憤りを覚えないはずはない。
「僕たちはいつも通りに仕事をして普段通りの会話をしているだけ。魔物暴走を軽視しているわけでもないし警戒を緩めているわけでもない。何がそんなに不満なの」
「……何故君たちがそんな捻くれた考えになるのか理解できない。もっと真剣に取り組むべきだと言っているのがわからないのか?」
「まじめにやっているとは言い難いかもしれないけど、変に気を張っていても疲れるだけだ。気負いすぎて仕事に支障が出る方が問題だし肩の力が抜ける程度の適度な緩さは必要だ」
「君たちは緩すぎるんだ。これでは先駆け人の任務に支障が」
「出していないよ」
「今後出してしまうかもしれないから、言っているんだ」
いつの間にか舌戦を始めたアードとケレイブに緋夜たちは完全に置いてけぼりを食らっていた。
そもそもどちらの言い分も間違っていないのに、全く折り合いがつく気配はなく、内容もだいぶ変わってしまっている気がした。緋夜としては自分たちの態度が職務怠慢に見えてしまったことは心当たりがあるので反省点として素直に受け入れようとしていた。しかし先ほどから食い違う言葉を注視していくと、どうにも違和感が拭えない。そしておそらく、その違和感の正体を緋夜以外は感じ取っているのだろう。その証拠にメディセインは表面的な笑みを消している。
2人の会話は平行線を辿り、埒があかないと思ったのか、ケレイブの視線が緋夜へと向けられた。
「君はどう思っているんだ? パーティリーダーなんだろう」
もともと緋夜が相手をしていたので話していた人物が元に戻っただけなのだが、なぜか緋夜の中で僅かに怒りが湧く。
「私たちの態度は決して真面目なものとは言えないことは自覚しておりますし、その点に関して反省もしています」
それは事実だったため、緋夜は素直に口にした。緋夜の答えにケレイブの口元に微かに笑みが浮かぶ。緋夜が素直に過ちを認めたことに対してだろう。
「リーダーである君が理解してくれているようで何よりだよ。ならこれからはもう少し真面目に取り組んでくれ。先駆け人はとても重大な仕事だ。ミスは許されないからね」
「はい、わざわざご忠告いただきありがとうございます」
「わかってくれればいいよ、それじゃあ、この後もよろしくね」
「はい」
その会話を最後に『煽動の鷹』は部屋を後にする。足音が完全に聞こえなくなったところでメディセインがやや冷たい声で尋ねた。
「何故、反論をしなかったのですか?」
苛立ちを隠そうとしないメディセインに緋夜はしれっと言った。
「だって無駄だもの」
なんの悪びれもなく放たれた言葉に3人は目を見開く。
「確かにお話はしていたかもしれないけど、今回の件に関する各国の動きの考察や魔物のことで完全な無駄話ってわけでもないし。ガイたちが手を抜いていたのだって、低ランク相手っていうのもあるけど、あの冒険者や騎士たちに配慮してでしょ? 3人が本気になったら二次被害がすごいし」
そう、緋夜たちはそこまで無駄な話をしていたわけではない。そもそも『煽動の鷹』とは場所が離れていた上、戦闘による騒音で会話などほとんど聞こえないのだ。つまり彼らは遠目から見ての感想しか言っておらず、同時によく見てもいない。戦闘に集中していたからというのもあるだろうが、一瞬の目視でしかものを語っていなかった。
ガイたちが不快に感じたのはまさしくこれだろう。一方で得た情報が全てのように受け止め、さらにそれを自分達の基準に当てはめ、それが当然のような物言いで緋夜たちに向けた。
「悪い部分は確かにあるけど、無自覚な上から目線はタチが悪い上にずっと平行線だったからこれは無駄だなって思ったの。だからこちらが非を認めて謝罪をすればこれ以上労力を割く必要はないでしょ。あとは極力関わらないようにすればいい」
そこまで説明され、僅かに溜飲が下がったメディセインを見た緋夜はもう一押しとばかりににっこりと笑った。
「無駄を削減するための虚言だよ。だから……私は謝罪を言っていない」
そこまで言うとメディセインに笑みが浮かびガイは呆れ、アードは納得に表情になると同時に吹き出した。
「あっははは! 確かに謝罪は言っていなかったね」
「面倒なやり方しやがって……」
「素晴らしいですよヒヨさん」
三者三様の反応は非常に彼ららしいもので緋夜も一緒に笑う。室内の空気も柔らかくなり、すっかり元に戻った。
「さて、だいぶ時間がとられたけど、しばらく休憩しよう」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ーー某所
とある場所でひとりの男がうっとりと頬を染めていた。男の目に映っているのは2つの検体でその体からは禍々しいほど邪悪な気を放っている。
「もうすぐ……もうすぐだ……私の研究成果が完成する……! これであのお方に褒めてもらえるぞ……」
その時を夢見ながら男は嗤う。その姿は狂気を孕み目を背けたくなるほどに不気味だった。
そして男の作品の完成は同時に災厄の宴の始まりを意味していたーー。
一瞬何を言われたのか分からなかった緋夜たちは揃って無反応になった。視線を合わせ4人の心境が同じであることを確認し合うと、一応パーティリーダーである緋夜が一歩前に出る。
「申し訳ありません。少々仰っている意味が分かりかねるのですが」
緋夜がそう言うや否や『煽動の鷹』の面々はますます冷めた目を向け、ケレイブはこれ見よがしにため息をこぼす。
「君たちのこれまでの態度は先駆け人として選ばれた者の態度ではないと言うことだ。魔物暴走は国の危機であり、各国が団結して対処にあたる。当然最前線に立つことになる上、こちらは詳しい状況は把握できないという点で危険も多い役目だ」
まるで何も分からない子どもに教えるような口調で説明を始めたケレイブだが、こんなことも理解できないのかと言わんばかりの呆れが滲んでいた。メディセインの笑みが深まるのをうっすらと感じながらも、緋夜はひとまず最後まで話を聞くことに。
「そんな重大な役目を任されておきながら君たちはおかしな作戦を提案したり、戦闘の間もずっと遊んでいるようにしか感じられない戦いぶりだった」
間違ってはいないな、と緋夜もそっと思った。余裕綽々の態度で言葉を交わし、魔物との戦いは明らかに手を抜き、真面目に仕事をしているとは言い難い。しかし、ガイたちにとっては本当に雑魚という認識でわざわざ本気を出してやる必要性を全く感じず、結局ただのお遊びになってしまうのだ。
実際、その場から動くことなく倒せる相手を真面目に対処していく方が馬鹿らしいと悪びれもなく馬鹿正直に宣ったのだから、本人としてはこれでも大人しく相手をしているだけマシという認識に違いない。
「先駆け人とは後から来る仲間たちの負担を少しでも減らすために送られる名誉ある仕事なんだ。だからこそ君たちの、まるで遊んでいるかのような態度は先駆け人としての自覚がないと思われても仕方ないだろう」
客観的に見ればその通りだろう。これには緋夜も同意する。国が関わっている以上は滅多なことはできない。民間人では到底背負いきれないほどの損害を国にもたらす可能性も考慮すれば、間違っても下手なことはしない筈だ。
そういう意味で彼の指摘は大いに正しい。普段の調子でやりすぎたかと思案していた緋夜だったが、隣から聞こえた言葉で強制的に思考をぶった斬られる。
「普段と大して変わらない仕事内容なのに、何故そこまで気負う必要があるのかな?」
はっとして声の方向を見ると心底不思議そうに首を傾げるアードが頬杖をついていた。驚きと僅かな困惑を滲ませた緋夜と目が合ったアードは任せてと声に出さない合図を送った。その意味を正しく受け取った緋夜はとりあえず任せることに。
「変わらないって……本当に理解していないのか? 今回の任務には国家が関わっているんだ。間違っても通常任務と同じにはなり得ない」
「でも内容は変わらないよね? 魔物の討伐なんて日常だし、高ランクの冒険者は高位貴族からの依頼だって受ける。君たちはAランク……だったよね?」
「ああ、そうだが……」
突然ランクを聞かれて一瞬困惑したのかケレイブは言葉に詰まりながらも答えた。しかしその顔にはそれがどうしたのか、という疑問と困惑、そして僅かな怒りが見て取れる。
そんなケレイブにアードは笑顔を向けた。
「だったら君たちは貴族からの指名依頼の経験が少なくとも一度はある筈だよ。国だってお偉方だ。それだけ見れば『いつもの依頼』って言えると思うけど……違うのかな?」
穏やかに、しかしその言葉はとても冷たく室内に響く。アードの言い分は間違っていない。
緋夜たちは今の所経験はないが、Aランク以上の冒険者は指名依頼というものがありそれらは基本的に豪商や貴族から出される。そして『煽動の鷹』もその依頼を何度か受けた経験があった。
「確かに指名依頼を受けたことはある。だからこそ魔物暴走の件は慎重になる必要がある。国の問題になる以上は君たちの態度は看過できないんだ」
「何が看過できないの? 自分達の活動が制限されてしまうことを恐れるのは勝手だけど、僕たちは特に問題は起こしていないし報告もしっかりと行っている。少なくとも君たちの不利にはなっていないはずだけど」
淡々としたアードの言葉に、障るものがあったのかケレイブはわかりやすく顔色を変えた。
「そんなことを言っているんじゃない! 君の言い方だとまるで自己保身のために君たちを諌めているみたいじゃないか! 我々はただ君たちの仕事への態度が大役を任された者ではないと!」
「何が問題? 魔物は片していたし、会議で意見も言った。仕事はこなしているよね?」
「しかし、戦闘は遊びじゃない。常に命の危険がある以上常に真剣にやるべきだ!」
「うん。それは間違っていないしむしろ大事なことだ」
あっさりとアードは言った。少なくともこれまでのケレイブの発言に間違いはないし緋夜もアードもそのことを理解していた。たとえ低ランクの魔物でも数次第で脅威へとなりえるし、何が起こるか分からない戦場では些細な油断が命取りになる。ケレイブが言いたいのはまさにそれだろう。
しかし。
理解しているからこそ、アードは彼の、彼ら『煽動の鷹』の態度に不快感を覚えたのだ。それはこの場をアードに譲っているガイとメディセインも同じであった。自分達が何も理解していないまま大役を掴み、ろくに仕事もしない連中だと思われていることが心から気に食わないのである。彼らは強い。それゆえにプライドもあるだろう。それがこんな貶され方をして憤りを覚えないはずはない。
「僕たちはいつも通りに仕事をして普段通りの会話をしているだけ。魔物暴走を軽視しているわけでもないし警戒を緩めているわけでもない。何がそんなに不満なの」
「……何故君たちがそんな捻くれた考えになるのか理解できない。もっと真剣に取り組むべきだと言っているのがわからないのか?」
「まじめにやっているとは言い難いかもしれないけど、変に気を張っていても疲れるだけだ。気負いすぎて仕事に支障が出る方が問題だし肩の力が抜ける程度の適度な緩さは必要だ」
「君たちは緩すぎるんだ。これでは先駆け人の任務に支障が」
「出していないよ」
「今後出してしまうかもしれないから、言っているんだ」
いつの間にか舌戦を始めたアードとケレイブに緋夜たちは完全に置いてけぼりを食らっていた。
そもそもどちらの言い分も間違っていないのに、全く折り合いがつく気配はなく、内容もだいぶ変わってしまっている気がした。緋夜としては自分たちの態度が職務怠慢に見えてしまったことは心当たりがあるので反省点として素直に受け入れようとしていた。しかし先ほどから食い違う言葉を注視していくと、どうにも違和感が拭えない。そしておそらく、その違和感の正体を緋夜以外は感じ取っているのだろう。その証拠にメディセインは表面的な笑みを消している。
2人の会話は平行線を辿り、埒があかないと思ったのか、ケレイブの視線が緋夜へと向けられた。
「君はどう思っているんだ? パーティリーダーなんだろう」
もともと緋夜が相手をしていたので話していた人物が元に戻っただけなのだが、なぜか緋夜の中で僅かに怒りが湧く。
「私たちの態度は決して真面目なものとは言えないことは自覚しておりますし、その点に関して反省もしています」
それは事実だったため、緋夜は素直に口にした。緋夜の答えにケレイブの口元に微かに笑みが浮かぶ。緋夜が素直に過ちを認めたことに対してだろう。
「リーダーである君が理解してくれているようで何よりだよ。ならこれからはもう少し真面目に取り組んでくれ。先駆け人はとても重大な仕事だ。ミスは許されないからね」
「はい、わざわざご忠告いただきありがとうございます」
「わかってくれればいいよ、それじゃあ、この後もよろしくね」
「はい」
その会話を最後に『煽動の鷹』は部屋を後にする。足音が完全に聞こえなくなったところでメディセインがやや冷たい声で尋ねた。
「何故、反論をしなかったのですか?」
苛立ちを隠そうとしないメディセインに緋夜はしれっと言った。
「だって無駄だもの」
なんの悪びれもなく放たれた言葉に3人は目を見開く。
「確かにお話はしていたかもしれないけど、今回の件に関する各国の動きの考察や魔物のことで完全な無駄話ってわけでもないし。ガイたちが手を抜いていたのだって、低ランク相手っていうのもあるけど、あの冒険者や騎士たちに配慮してでしょ? 3人が本気になったら二次被害がすごいし」
そう、緋夜たちはそこまで無駄な話をしていたわけではない。そもそも『煽動の鷹』とは場所が離れていた上、戦闘による騒音で会話などほとんど聞こえないのだ。つまり彼らは遠目から見ての感想しか言っておらず、同時によく見てもいない。戦闘に集中していたからというのもあるだろうが、一瞬の目視でしかものを語っていなかった。
ガイたちが不快に感じたのはまさしくこれだろう。一方で得た情報が全てのように受け止め、さらにそれを自分達の基準に当てはめ、それが当然のような物言いで緋夜たちに向けた。
「悪い部分は確かにあるけど、無自覚な上から目線はタチが悪い上にずっと平行線だったからこれは無駄だなって思ったの。だからこちらが非を認めて謝罪をすればこれ以上労力を割く必要はないでしょ。あとは極力関わらないようにすればいい」
そこまで説明され、僅かに溜飲が下がったメディセインを見た緋夜はもう一押しとばかりににっこりと笑った。
「無駄を削減するための虚言だよ。だから……私は謝罪を言っていない」
そこまで言うとメディセインに笑みが浮かびガイは呆れ、アードは納得に表情になると同時に吹き出した。
「あっははは! 確かに謝罪は言っていなかったね」
「面倒なやり方しやがって……」
「素晴らしいですよヒヨさん」
三者三様の反応は非常に彼ららしいもので緋夜も一緒に笑う。室内の空気も柔らかくなり、すっかり元に戻った。
「さて、だいぶ時間がとられたけど、しばらく休憩しよう」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ーー某所
とある場所でひとりの男がうっとりと頬を染めていた。男の目に映っているのは2つの検体でその体からは禍々しいほど邪悪な気を放っている。
「もうすぐ……もうすぐだ……私の研究成果が完成する……! これであのお方に褒めてもらえるぞ……」
その時を夢見ながら男は嗤う。その姿は狂気を孕み目を背けたくなるほどに不気味だった。
そして男の作品の完成は同時に災厄の宴の始まりを意味していたーー。
10
お気に入りに追加
590
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(15件)
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。
三月べに
恋愛
聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。
帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!
衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?
何故、逆ハーが出来上がったの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
都市伝説と呼ばれて
松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。
この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。
曰く『領主様に隠し子がいるらしい』
曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』
曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』
曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』
曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・
眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。
しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。
いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。
ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。
この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。
小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中
四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ぽっちゃり女子の異世界人生
猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。
最強主人公はイケメンでハーレム。
脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。
落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。
=主人公は男でも女でも顔が良い。
そして、ハンパなく強い。
そんな常識いりませんっ。
私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。
【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
読み易くて、楽しく読ませて頂いています~
とても個性的なメンバーなのでこの先が楽しみです。
続きをお待ちしています~♪
感想ありがとうございます。この先も皆さんに楽しんで頂けるよう頑張りますので今後ともよろしくお願いします😁
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます。これからも楽しんでいただけると幸いです。よろしくお願いします。
いつも楽しく読んでます!
こうゆう話を探してたのでとっても嬉しいです!!
更新待ちしてる間に何周も読み返してしまいましたw
欲を言うともう少し更新が早いともっともっと嬉しいですw
大変だと思いますが、無理せず程々に頑張ってください😁
応援してます!!
感想ありがとうございます。楽しんでいただけてなによりです。更新が遅いことに関しましてはお詫び申し上げます。ですが、これからも読んでくださったら幸いです。今後ともよろしくお願いします。