おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

50話 始まり

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 数日後、緋夜たちは馬車ネモフィラ皇国の国境付近へと向かっていた。王都を出た馬車はのどかな風景を縫うように進んでいく。

「静かな景色だね」
「王都を出りゃどこもこんなもんだろ」
「そうなの?」
「ええ、少なくとも王都から他の領地まではこのような景色が続きますよ」
「へえ……ネモフィラ皇国か……ちょっと楽しみだな」
「いくら国に入るっつっても今回は国境の砦だろ。あんまり観光できる時間もねえんじゃねえの」
「確かにそうだけど、でも国ごとにやっぱり雰囲気違うから楽しみにはなるよ」

 地球にいた頃は旅行をするのにも飛行機で割とすぐに行くことができるが、この世界での移動手段は馬車になるのでどうしても躊躇いがちになる。よってこういった仕事としてでなければ他国に行く機会も少ない。冒険者は拠点を定めず、国を転々とする者たちも大勢いるが、緋夜たちに今のところその予定はない。

「ネモフィラ皇国は山に囲まれているからシネラよりもかなり涼しい。避暑地としては最適だ」
「この時期の避暑地は……寒いんじゃ……」
「私、寒さは苦手なのですが……」
「俺らの装備なら暑さも寒さも気にならねえよ」
「……そういえば、この格好でもあまり暑いとか感じなかったね」
「腕だけはいいからなあのカマ野郎」
「シュライヤさんは素晴らしい方ですね」
「あんまり褒めるなよつけあがるぞ」

こちらも大変のどかな雰囲気の中、馬車は進んでいく。その途中、ガイは剣の柄に手を添え、メディセインは暗器を取り出した。

「どうしたの?」
「魔物です」
「上からだ」
「上って……」

緋夜が疑問に思った直後、窓の外を影が素早い速さで横切った。大型鳥類よりも大きいそれに緋夜は窓越しに上を見ると、そこには奇妙な姿の鳥系魔物が飛んでいた。

「あれってロッククロウ……?」
「の変異種だな」
「そんなのいるの?」
「ええ、稀にですが。しかし魔物の活性化に伴い、最近は変異種も増えているようですよ」
「解説どうも。たとえ変異種でも弱点は変わらないんじゃない?」
「基本的には」

基本的には、ということは例外も存在するということでもある。第一緋夜が使えることにしている属性は火と氷なのでロッククロウとの相性はそれほどよくない。

「どうするの?」
「お前、氷で足場作れるか?」
「え、うん。多分大丈夫だけど、何する気?」
「斬ってくる」
「そんなあっさり……」
「足場、頼めるか」
「……わかったよ」

馬車を止め、ガイの要求通りに氷魔法で宙に足場を作って行くと、馬車から飛び出したガイは氷の足場を使い剣を振り下ろすと、一筋の線が走ると同時にロッククロウは真っ二つに割れた。

「瞬殺……」
「さすがですね。少しは譲っていただきたいものです。次来た際は私が出ますよ」
「あ、うん。どうぞ」
「ありがとうございます」

メディセインは転がった残骸に目を向けると同時にガイが馬車へと戻ってくる。

「お帰り」
「ああ、あれ欲しいか?」
「うーん……変異種には興味あるけど、後から大量に魔物が手に入るだろうし、今はいいよ」
「わかった」
「確かにここでちまちま回収するよりもずっといいですね」
「うん。じゃあそろそろ先に進もう。メディセイン、御者交代しようか?」
「いいえ、大丈夫ですよ。結構楽しいですし、女性にこのようなことはさせられません。中にいてください」
「そう? メディセインがいいならいいけど、疲れたら言ってね」
「お気遣いありがとうございます」

そう言ってメディセインは御者台に座り、緋夜とガイは馬車の中へ入った。

「こうしていると魔物が活性化してるなんて、あまり実感湧かないよね」
「結構増えていると思うが」
「そうなの?」
「ああ」
「少なくとも、私が子どもの頃と比べるとはるかに増えていますよ」
「へえ……」
「おかげで、稼がせてもらっていましたが」
「……そう」

魔物が増えるということはそれに伴う被害も増えるということであり、対抗手段がない人々にとってはいい迷惑でしかないのだが、被害者が増える一方で、美味しい思いをする人もいる。これはどこの世界でも同じらしい。戦争をすれば国民は生活が困窮するが、戦争に必要な燃料や武器兵器を売っている人々は儲ける。世界を違えてもその法則は変わらないのだろう。

(やるせないよね……そういうものだって簡単に割り切っていいことでもないし、儲ける側になっている私がこんなこと思っても仕方ないんだけど)

「どうした」
「! なんでもない」
「? そうか」

いつの間にか考え事に没頭していたらしい緋夜はガイの声で我に返り、誤魔化すように外を見る。

「ネモフィラとの国境までは馬車で二日半か。そう考えると結構近いのかな」
「シネラ自体それほど大国ってわけでもねえからな」
「むしろネモフィラやアスチルの方が国土的には広いくらいですからね」
「……確かに。前に地図見せてもらったことあるけど、シネラを囲む国々の方が大きかったな」
「おや……そのような貴重なものを見る機会があったとは、もしや貴族の方とお知り合いですか?」
「……セレナに少しね」
「ああ、なるほど」

この世界で地図は割と貴重なもので正式なものは平民では基本的に手が出せない。地図が欲しいなら自分たちで作るしかない。と言ってもほとんどの冒険者たちはダンジョンの場所や国境部分を記した程度のものが多く、地図を作る際もギルドに申請を出す必要がある、という面倒な代物なのである。

(こういう時は世界の違いを感じるよね……地図なんてそこらの書店で普通に売ってあったからな……スマホのアプリもあるし、検索すればすぐ出てくるから大して困らなかったんだよね)

密かにため息をつきながら緋夜が再び窓の外に視線を向けると、景色に違和感を感じて目を細めた。

「ヒヨさん、ガイさん。気をつけてください。何かいますよ」
「わかってる。若い男だがありゃ手負いだな」
「怪我してるってこと?」
「ああ、血の匂いに釣られて獣や魔物が来やがりそうだ」

緋夜には目視で二足歩行の何かが動いているのが認識できる程度だが、ガイは姿までしっかり見えているらしく、メディセインはおそらく触覚と嗅覚で察知したのだろう。

「……どうしますか? このまま無視してもいいのですが」
「でもそれだと、私たちに余計な火の粉が飛びそう」
「助けるのか?」
「……そうだね。一刻も早く保護して治療しないと魔物暴走スタンピードの前に戦闘三昧になりそうだから。……二人ともそれでいいかな」
「ああ」
「貴女が決めたのなら従いますよ、リーダー」
「ありがとう。それじゃあ、メディセインはここで治療の準備をお願い」
「わかりました」
「ガイは私と一緒について来て。私一人じゃここまで連れて来るのに時間がかかる」
「ああ」

即座に役割分担をし、緋夜とガイは男性の保護のため走り出した。

「結構血が出てそうな気がするんだけど、大丈夫かな」
「いや、だいぶ出血量が多い。よく歩けるもんだ」
「うわ、急ごう!」
「ああ」

二人は速度を上げ、男性の元へと急ぐ。そして、男性の体がぐらつくと同時にその体を抱き止めた。

「ふう……とりあえず傷口を縛った方がいいよね」
「ああ」

ガイが男性の服を剥がすと痛々しい刀傷が露わになる。綺麗な斬り口は深く、服に染みた量から見ても重傷であることがうかがえた。

「……これ、明らかに」
「ああ……」

緋夜は応急処置の知識を記憶から引っ張り出しながら、止血を急いだ。ひとまずは傷口だけ縛り、氷魔法で患部を少しずつ冷やしていく。

「一旦はこれでいいと思う。ガイ」
「まかせろ」

手負いの男性を軽々と抱え、緋夜とガイは馬車へ急ぐとそこでは既にメディセインが準備の終えていた。

「メディセイン!」
「ポーションの準備はできていますよ。ですが、私が持っていたのは飲み薬です」
「問題なし!」
「はい?」
「ごめんなさい」

緋夜はメディセインからポーションを受け取ると自分の口に含みそのままーー

「……ヒヨさん!?」
「……まあ、こうなるわな」

口移しでポーションを男性に無理矢理飲ませた。幸いにもメディセインが持っていたのは上級ポーションなので、男性の傷口はすぐに塞がった。

「ふう……傷は……塞がったみたいだね」

口を拭いながら傷があった場所に視線を向けると、痛々しい刀傷は跡形もなく消えていた。

「強引なやり方ですね。貴女がその方法を取るとは思いませんでしたよ」
「仕方ないでしょ。緊急事態だし」
「ですが、躊躇いなくできる方はそうそういないでしょう」
「自分の恥じらいより命が大事」
「まあ、貴女らしいですね。……呼吸もだいぶ落ち着いたようですし、一安心でしょうか」
「そうだね。今日はここで野宿にしようか。少し休ませた方がいいでしょ」
「ああ、怪我人を乗せたまま走るのはリスクが高いし、馬車も広いわけじゃねえからな」
「では、あそこで支度をしましょうか。平らですし」

メディセインの言葉に緋夜とガイも賛同し、三人は野宿の準備を始めた。
















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