おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

49話 ギルドからの依頼

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 ギルドからの緊急招集により、王都にいる冒険者たちはギルド内の広間に集められた。ベテランと思しき冒険者たちはやや緊張を纏わせながらもそこには期待も含まれているのが判る。一方、新人に近しい者たちはほとんどもしくははじめての経験に興奮を隠せずにいる。眺めてみればその違いは歴然だった。
 そんな中でも緋夜たちはいつも通り視線を受けながら普通に雑談していた。

「すごい人」
「王都にいる冒険者は全員集まっているからな。こんなことでもなきゃ、ここまで集まることはねえし。それに緊急招集がかかる場合は報酬もでかいからよっぽどのことじゃねえ限りは参加する」
「なるほどね。一攫千金の機会をみすみす逃す人はいないか」
「金貨五十枚は欲しいところ」
「だいぶふっかけるな……」
「いいではないですか。貰えるものは貰っておかないと」
「それは賛同する」
「さすがヒヨさん」
「お前らな……」

特に緊張感もなく、日常を繰り広げているとギルド職員が姿を現し、あたりが静まったところで一人の男性が壇上に上がった。おそらくギルドマスターだろう。

「皆、よく集まってくれた。今回お前たちを招集したのは、出来るだけ早い対処を行うためだ。つい先程、王宮より書状が届いた。内容は、ネモフィラ皇国との国境付近で魔物暴走スタンピードが起こる予兆があった、というものだ」

その言葉であたりはたちまち騒然となった。魔物暴走スタンピードは規模によっては一国を滅ぼしてしまうほどの脅威だ。それにより、普段は手を組むことのない城の騎士たちだけでなく周辺諸国とも連携して対処にあたる。魔物暴走スタンピードが発生した際にはたとえ敵国同士であっても戦争中であったとしても一時的に手を組むことがこの世界における国際ルールのひとつとして義務付けられている。

「ネモフィラ皇国からシネラ、アスチルに応援要請があり今回の魔物暴走スタンピードにはこの三国による討伐が決定された。よって、我々もこちらの対処にあたる」

ギルドマスターが言い終わると同時に、とある冒険者が声を上げた。

「今回の先駆け人は誰がやるんだ?」
「それを決めるためにもお前たちを招集した。今回はネモフィラの先駆け人が騎士だそうなのでシネラとアスチルは冒険者を派遣するということになった」

先駆け人とはそれぞれの連携をスムーズに行うため、他の者たちより一足早く現地へ向かい、他国の冒険者や騎士たちと合流し、情報共有及び作戦指揮を担う者たちのことだ。ただし、他の冒険者や騎士団が到着するまでの時間稼ぎも行うため、非常に危険が伴う役目でもある。そういった事情もあり、先駆け人はAランク以上の冒険者が務めるのが基本らしい。何故騎士がやらないんだ、と思う人もいるだろうが騎士と冒険者では視点も戦い方も違うため、普段最前で戦うことが多い冒険者の意見も必要だろう、という理由から必ず一か国からは冒険者を先駆け人にする、という決まりが追加されたという経緯がある。

「これまで先駆け人を務めた冒険者はAランク以上の者たちだった。よってできればAランク以上の冒険者を出したい」

正当な選出ではあるが、やはり危険は計り知れないため、該当する冒険者たちもすぐには頷くことができない。

「『漆黒一閃』がやりゃいいんじゃねえの?」

突然の推薦の声に、その場にいた全員が声の方を向いたその場所には二十後半から三十後半くらいの男女が五人が立っていた。顔はギルドマスターに向いているが、ガイにチラチラと視線を投げていた。

「『漆黒一閃』はソロでBランクだし、噂じゃAランクを軽く凌ぐらしいじゃねえか。だったら『漆黒一閃』が先駆け人やる方がリスクも減るし、あちらさんも納得するんじゃねえの?」

推薦理由は真っ当だが、その口元はニヤついている上、言葉の端々に悪意がチラついている。そのことに気づいた者たちはその冒険者の言葉に顔を顰めているが、理由が真っ当なので反論ができないのだろう。
 反論できない高位冒険者たちを尻目に、悪意に気づいていない冒険者たちが援護をはじめた。

「確かに『漆黒一閃』は誰もが知っているだろうが、彼のパーティはまだDランクだ」
「でも『漆黒一閃』と組むくらいだから他の二人も強えんだろ? だったら問題ねえだろ。なんせ『漆黒一閃』と組んでいるんだからな」

さらに顔を顰める者が出る中その言葉を聞いた緋夜たちはーー

「って言われてるけど、どうする?」
「私たち随分と妬まれていますね」
「面倒臭え……」
「ですが、他の方よりも報酬はいいのでしょう?」
「まあな」
「でしたらやらない理由はないと思いますが、ヒヨさんはどうします?」
「私はガイが問題ないならいいよ。仲間が嫌がっているのに無理に受けたくない」
「だそうですよ、ガイさん」
「……鍛錬くらいにはなるか」
「じゃあ、やるってことでいいかな」
「ああ」
「楽しくなりそうですね」

緊張感皆無の空気で雑談紛いに相談をし、近くにいた冒険者たちが顔を引き攣らせた。あまりにも余裕の態度に推薦をした冒険者たちは面白くなかったのか、緋夜たちを睨みつけてきた。そんな周囲をきれいに無視し、緋夜は壇上のギルドマスターへと向き直る。

「先駆け人お引き受けいたします」
「だが、いくらなんでも無謀だ。ガイはともかく、二人……特にあんたは冒険者なってから日が浅い。死にに行くようなものだ」
「……確かに私は二人に比べて日が浅く、戦闘経験自体も少ないですが、だからこそいい勉強になると思うのです。いつまでも守られているわけにはいきませんし」
「だがなあ……」
「それに私、今まで知識や技術は一切の下地もない状態で即実践というかたちで身につけたものばかりなのです。ですのでこの程度は無謀のうちに入りません」
『は?』

さらっと言われた内容に周囲は一瞬理解が出来なかった。ガイとメディセインでさえ緋夜に視線を向けている。

「ヒヨさん、それはどういう意味ですか?」
「そのままの意味だよ。ある日突然外で一週間過ごしてきてって親に言われていきなり野宿になったり、『ここでどうやったら生き延びられるか考えて実行しろ』って紙とともに窓も灯りもない場所に閉じ込められたこともあったし」
『……』

まるで天気の話をするかのような口調で語られた内容に周りはしばし言葉を失った。スパルタどころではなく、完全にアウトだろう。よく虐待で訴えられなかったものである。普通の人間だったらいろいろこじれてしまってもおかしくないと思うが、緋夜は悪態をつくことはあっても人間的に拗れることはなかった。むしろ性格は兄妹全員親譲りなので一切ブレることなく今まで育ってきたのである。

「……と、とりあえず本当にいいんだな?」
「はい、問題ありません」
「わ、判った。取り計らおう」
「はい、よろしくおねがいします」

ギルドマスターとの会話を終えた緋夜にガイが声をかけた。

「お前……どんな環境で育ったんだよ」
「別に教育がちょっとアレなだけで、普通……よりは少し裕福な家庭だけど」
「貴女の異様な万能ぶりはその過剰教育の賜物なのですね」
「まあ、両親揃ってへんじ……他の人とは違った感性を持っているのは事実だけど」

((今変人って言いかけた……))

ガイとメディセインの心の声がきれいに重なり緋夜に達観したような目を向ける、その間もギルドマスターの話は続いていた。

「我々は先駆け人から連絡があり次第出発する。全員いつでも出られるように準備をしておけ。では解散」

 解散宣言を受けて冒険者たちが各々動き出す中、緋夜たちはギルドマスターから呼び出され、ギルドの応接室へと通された。

「面と向かって話すのは初めてだな。俺はここのギルドマスターをしているグレンだ。よろしくな」
「ヒヨです」
「ガイ」
「メディセインと申します」
「おう。ゼノンから話は聞いているぜ。改めて聞くが本当に先駆け人をやるつもりか?」
「ええ、ガイは問題ないと言っていますし、私たちも得るものが多そうですから」
「しかしなあ、今のお前たちのランクはDだ。俺らはよくても他国の奴らは納得しねえだろ」
「そんなもの、納得させればいいだけでしょう」
「簡単に言っているが、あちらさん方は精鋭を寄越すだろうから舐められるぞ。お前らの実力を疑っているわけじゃえねがな」

それはもちろん緋夜も予想がついている。先駆け人は本当に実力者が行うものだという常識がある以上、どうしてもランクが低いと難色を示されるだろう。しかし、世の中にはランクでは測れない実力者が大勢いる。ガイはそのいい例だろう。ランクは確かにわかりやすいが、上位になれる実力はあるが様々な事情からなれない人はいる。そういう人をランクが満たされていないという理由で爪弾きにするのはおかしいだろう。

「低ランクでもAランクやSランクに相当する実力を持つ人はいます」
「ガイみてえにか」
「はい、私は未熟であることは理解していますしそこを否定しません。ですが一度決めたことを簡単に覆したくはないのですよ」

強い意志を宿した緋夜の眼差しにグレンは息を呑み続いた緋夜の言葉に顔を引き攣らせた。

「それに、この一件を無事に終わればうるさい輩も黙るでしょう」

上品に笑う緋夜は確かにいいところ育ちのお嬢様に見えるだろう。……その笑みの背後に般若の姿がなければ、の話だが。

「わ、判った。そこまで言うなら止めねえよ」

引き攣りながらもどうにか笑顔を浮かべながらグレンは言い、即座に真剣な顔つきになる。

「いいか、何があっても生き延びることを考えろよ。絶対に死ぬんじゃねえぞ」

グレンの強い言葉に緋夜は笑みを浮かべ、ガイはいつもの表情を崩さず、メディセインは獲物を見つめるかのように怪しい光を宿し、声を揃えて言い切った。

「「「言われるまでもない」」」











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