おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

42話 断罪の夜③

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 一瞬のやり取りを終えた二人はモルドール侯爵へと視線を戻す。

「彼もつい最近『ビジネス』が成功してな。先程までその話をしていたのだよ」
「ほう……どのようなビジネスを? 是非参考にさせてもらいたいな」
「ええ、ようやく金が採掘されたんですよ。勿論王室との共同ではありますがね」
「ほう、金を。それは随分と大胆だな」
「ええ、とても大変でしたが非常に良い収穫がありまして。金と一緒に清らかな水が手に入ったのです」
「水が……? 確かゼス殿はアザレア王国に居を構えていただろう」
「はい。……実は少々問題が起こりましてね。アザレアにある銀鉱山周辺の村々の農民達からの税が減っていたのですが、原因を突き止めたところ、どうやら銀鉱山に駆り出させていたようで……」
「……なるほど」

メディセインの言葉の周囲は僅かにわざめく。当然だろう。普通は他国の事情をバラすことはあり得ないのだが、今回ばかりは話が違う。

「いくら親戚とはいえ、そのようなことを他国の人間にその話をするのはどうなのだ?」

(ごもっともです。ですが、それを指摘する資格は貴方にはない)

メディセインはモルドール侯爵の言葉に意味深な笑みを浮かべながら言葉を返す。

「仰る通りですが、その鉱山で採掘された銀の足取りを追ったところ……このシネラに密輸されていたのですよ」

途端にざわめきが広がる。銀は高級でどの国でも国家事業にしているほどの重要なものであり、王族や皇族の許可を得ずに行えば厳重処罰は免れないほどの重罪になる。それは金鉱山も同じだ。それを密輸しているとなれば、さらに罪は重くなる。

「それは一大事だな。そんなことに手を染めている者がいるのならば一刻も早く国王陛下にご報告し、罪人を捕らえなければ。アザレアと我が国の関係に亀裂が入ってしまう」
「ええ。ですからこの国に足を運んだのですよ。真相を明らかにするために。その時にちょうど伯爵から招待状をいただいたわけですが」

メディセインがゆっくりと視線を動かすとレイーブ伯爵は笑みを消し、低い声でモルドール侯爵へと言葉を向けた。

「ゼインの情報をもとに徹底的に洗った」
「アザレアで採掘され、密輸された銀は全て……モルドール侯爵、貴方の領地に運ばれていましたよ」

メディセインが投下した爆弾は周囲に大きな波紋を呼び、気がつけば会場中の視線を集めていた。

「……随分とお粗末な調査だな。この国に忠誠を尽くしてきた我がモルドールに叛逆の汚名を着せる気か?」
「着せるのではなく事実ですよ」
「……あまり図に乗るなよ若造が。カルノよ、これは一体何の茶番だ?」
「茶番だったらどんなによかっただろうか」

そう言うレイーブ伯爵の表情は険しい。だが、彼の言っていることは貴族たちの総意のようだった。銀の密輸という重罪を犯していることに加えて、それを行っていたのがよりによってモルドール侯爵だとは信じたくないのだろう。しかし事実であればアザレアとの外交問題になるのは必須。だからこそ他の貴族達は口を挟むことができない。

「呆れたな。そのような冤罪を信じるとは誇り高き貴族だとは思えない。少し合わない間に随分と落ちぶれたようだ」
「まあ認めるわけがありませんよね」
「当然だ。そもそも私が銀の密輸を行う動機がないだろう」
「お金が必要だったのでしょう? クリサンセマムを手に入れるための工作費用として。まあ自身の懐に入れる分も入っているでしょうけど」
「……くだらん。これ以上の話は無駄だな」
「シラを切るのは構わないがこちらには明確な証拠がある」
「……何?」

そんなものがあるわけないと思っているのか、モルドール侯爵はレイーブ伯爵とメディセインを馬鹿にしたように笑った。側から見ていると小物が踏ん反り返っているとしか思えない姿にメディセインは必死に笑いを堪えている。

「先程ゼインから受け取った書類だ。思う存分見るがいい」
「……ふん。でっち上げだな」

そう言いながら書類を手に取るとモルドール侯爵は忙しなく目を動かし、勝ち気でいた顔を青ざめさせていく。手は震え力が入ったことで書類に皺が刻まれる。

「こんなのは出鱈目だ。私は全く身に覚えがない! このようなもので私を侮辱するとは……!!!」
「あくまでも無実と仰るのですね」
「当たり前だろう! シネラの侯爵である私がこのようなものをするはずがない!」

(書類を見て青ざめていたくせに随分と元気ですね。耳障りですが)

目の前の中年をメディセインは呆れながら見つめていた。その時、不意に足音が聞こえそちらに目を動かすと、苦虫を噛み潰したような顔をしたがゼスがエルメスによって連行されてきた。連れてきた本人は実にいい笑顔を浮かべ、父であるレイーブ伯爵の側に立つ。

「それほどまでに無実を主張したいのなら好きにしろ。だが……」

レイーブ伯爵が言葉を紡いでいると会場の空気が変わり、別のざわめきが起こった。どうやら誰かが入ってきたらしい。会場中の貴族達が自然と左右に割れてその人物達の道を作り頭を下げる。

「なんだ?」
「この方の前でも同じことを主張できるか?」
「何?」

モルドール侯爵が動揺する中、レイーブ伯爵とメディセインも頭を下げる。動揺と興奮の混じる中、靴音を響かせながら姿を現したのはーー

「な!? 貴方は!?」
「シネラ王国の第三王子殿下にご挨拶申し上げます。王族の家臣レイーブの当主、殿下のご帰還を心よりお喜び申し上げます」
「久しいな。皆、息災のようで何よりだ」

艶やかな漆黒の髪に淡い緑の目の美しく整った顔立ちに細いフレームの眼鏡をかけたシネラ王国第三王子オニキス・イル・シネラとその側近、そしてクリフォード侯爵とその令嬢であるセレナだった。

      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 一方、震えるミラノと共にいた緋夜はその場を離れてガイと合流し、柱の影に隠れて会場に入ってきた団体を見つめていた。

「ガイ、彼らって……? 第三王子って聞こえたけど」
「ああ、この国の第三王子オニキス・イル・シネラ。その周りにいるのが側近連中」
「約二名誰かさん達と同じ色彩しているんだけど」
「モルドールの子どもじゃねえの?」
「四人だったんだね。それに……何でセレナが王子達と一緒に入場してるの」
「事前に決まっていたんだろう。確か第三王子は留学中だったはずだが、今回の件で戻ってきたんだろうな」
「まあ、国の一大事だしね」
「ああ、それに外国にいたんなら別ルートで今回の裏を掴んでいてもおかしくねえし」
「それはそうだね。というか、もしかしなくても特別ゲストって」
「……あいつらだろうな」

特別ゲストは本当に特別な人物だった。一貴族のパーティーに側近を引き連れてやってきた王子というなんとも言えない状況に緋夜とガイは思わず無言になる。

「……私達、必要だった?」
「……知らね」
「……はっきり言われるより虚しい回答をありがとう」
「まあでも王族まで現れたってことは最早モルドール侯爵家に弁明の余地はなさそうだね」
「ああ。だが、このまま大人しくしてるとも思えねえな」
「だよね。やばくなったらオニキス王子にも噛みつきそう」
「その前に側近連中が動くだろうがな」
「会場にいる無関係な貴族を巻き込む可能性も考えて、いつでも動けるようにしておいたほうがよさそう」
「……お前、大丈夫なのか?」
「魔法使う時は透明化するから大丈夫。視界に入りさえしなければ」
「……お前がいいならいいけどな。とりあえず俺の側から離れるなよ」
「わかった」

会話を終えた二人は再び柱の影からメディセイン達に視線を向けた。

      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

 緋夜達が視線を向ける中、オニキス一行とクリフォード侯爵は揃ってモルドール侯爵とガゼスに視線を向けると、その目はとてつもなく冷たくなった。

「私が遊学をしている最中に随分な大罪に手を出した愚か者がいるとの情報を得て戻ってきてみれば、どういうことか説明してもらおうか。モルドール侯爵」












           
     
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