おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

文字の大きさ
上 下
36 / 68
壱 出会いの章

33話 誘拐の真実とほんの少しの正義

しおりを挟む
「俺と勝負をしてアンタが勝ったら、望み通り情報を教える。だがもしアンタが負けた場合は俺の手駒になってもらう。どう?」

男……センは獣のような獰猛な瞳を緋夜に向けながらそう言った。

(勝負の内容を言わなかった。まあでもこういう場合確実にこちらが不利な勝負であることがほとんどだから、話を聞いてやめると言わせないために、さっさと言質を取っておきたいってところだろうね)

緋夜としては正直なところ、好奇心で受けてみたいがあいにくそんな時間はないだろうと諦める。

「せっかくの申し出ですが、遠慮させて頂きます」
「あれ? アンタなら乗ってくると思ったけど、案外臆病なのかな?」
「大変魅力的なお誘いではありますが、お受けしている時間がないのですよ。そもそも勝負以前に勝敗は決していますし」

相も変わらない笑みでそう言った緋夜にセンは怪訝な表情をした。

「何言ってーー」

ドォンッ!!!!!

 突如センの言葉を遮るように、轟音が響き渡る。緋夜が光の漏れる格子に視線を向けるとあれがパタパタと羽を羽ばたかせた状態でガイに捕獲されていた。

「な、なに今の!?」
「センさん?」

緋夜はセンの名前を呼んだ後、無言で指を格子の外に向けた。緋夜の指を辿ったセンはそこに広がる光景に目を見開いた。

「は? 何、侵入者!? つーかなんでここがわかって……まさか」

センはは驚愕と疑いの混じった視線を今の今まで全く変わらない笑みを浮かべる緋夜へと向けられた。

「アンタの仕業? っていうかこの状況じゃそれしかないけど」
「捕らえた獲物に見張りをつけるのは基本ですよ。いくら牢に入れてもそれだけでは獲物に逃げろと言っているようなものです。まあそれを見越しての対策は立てていたようですが、意味ありませんでしたね」

そう言いながら緋夜は壁の隅を探り、思い切り引っ張ると、壁の中から魔法陣が現れた。一見壁のように見えていたそれは布でしかなく、本物の壁に描かれた魔法陣を隠すためのカモフラージュでしかなかったのである。

「あはは……まさかバレていたとはね。これは魔力が外に漏れないようになっているからたとえ魔法使いや魔術師、魔導師だったとしても気づけないと思っていたんだけど」
「残念でしたね。さて……おしゃべりはここまででいいでしょうか。でないと……」

ドガン!!!!! バキバキッ!!!!!

「私のお迎えがこの建物吹っ飛ばしてしまいますので」
「はあ!? ここにアンタがいるのにぶっ壊してんの!? ちょっと頭おかしくない!?」
「……それは本人に言ってください」
「アンタもなんで平然としてんのさ!? せめてもう少し狼狽えるとかしようよ!?」
「……わーたいへんだーこのままじゃあここがくずれるー」
「…………もういいわ。アンタら二人とも頭イカれてんだろ。誘拐する相手間違えたわクソが」

悪態をつきながらセンは牢の扉を開けた。

「出ていいよ。俺はアンタを死なせたいわけじゃないんでね」
「他の人達は?」
「……これから出す。あの野郎が派手に暴れた以上ここは確実にバレる。詳しいことはこっから出たら話すから」

そう言うセンは嘘をついている様子はないため、本当に全員を外に出すつもりなのだろう。

 その後、センは自分の部下と共に捉えていた人々全員を解放し、建物が完全に崩れる前に外に出た。

「ガイ」
「出てきたか」
「うん。でもこの状況は何?」
「いや、お前の閉じ込めらている場所が地下だってわかったから破壊音が聞こえれば、隙をついて脱出してくると思ってな」
「なんかちょっとおかしい気もするけど、まあいいや。来てくれてありがとう」
「ああ、にしても」

ガイは周囲に視線を向けながら緋夜に尋ねる。

「これは一体どういうことだ」
「さあ? 誘拐犯とその部下が捕らえていた人達を外に連れ出した」
「なんだそりゃ」
「私もそう思う」

互いにハテナマークを浮かべながら会話をしているとセンが緋夜達の元へやってきた。

「いや~参ったよ。まさかここまで破壊されるとは思ってなかった」

ケラケラと笑いながら歩いてくるセンの喉元にガイが一瞬で剣を突きつけた。目で追う余裕もなく死の危険が訪れたセンは笑顔を引き攣らせながらゆっくりと両手をあげた。

「あ、あの~……お兄さん? これ……」
「俺がこの首刎ねる前にこいつを攫った理由を吐け」
「……ハイ」

若干青褪めながらも、センは息を整え事の次第を語り出した。

「頼まれたんだよ。このクリサンセマムでなんか事件を起こしてくれって」
「誰にです?」
「それは知らない。俺らんとこにいきなり変な連中が来て、「もし事がうまくいけば金をやる」って言われて」
「お金に釣られて犯罪行為に手を染めたのですか?」
「俺達だって好きでやっているんじゃないんだ! お、脅されているんだよ!」
「脅されて? 先程金をやると言われたと言っていませんでしたか?」
「確かに言ったけど、明らかに犯罪行為だろ? だから断ったら、「お前らの家族や恋人がどうなってもいいのか」って言われて……それで、仕方なく」
「……なるほど。ではもう一つ聞きます。今、今この町で好き放題に暴れている連中は貴方方の仲間ですか?」
「いいや、俺らと違って連中の方はその手のプロだ。格が違う」
「……プロ、ね」

緋夜とガイは一瞬目配せをすると、ガイは剣を下ろし、緋夜は一歩前に出た。

「いかなる理由でも誘拐を起こしていたことに変わりはありません。それなりに処罰はあるでしょう。ですが、事情も事情ですから情状酌量の余地はあると思いますよ」
「まあ、処罰は覚悟の上だよ」

センが諦めたような表情で笑いながらそう言った。彼ら自身もわかっているのだろう。罪は罪、罰は罰。

どんな事情があるにせよ、犯罪に手を染めたという事実は変わらない。

「まあそこのところは私の仕事でもなんでもないのでどうしようもありませんが、最後にもう一つだけいいですか?」
「なに?」

緋夜は変わらない笑顔のまま、笑っていない目でセンに問いかける。

「あなた方のご家族や恋人が囚われている場所、ご存知ですか?」


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ーークリサンセマム外れの古びた屋敷

 センから人質の場所を聞き出した緋夜達はクリサンセマムの外れにある、ボロ……趣のある屋敷にやってきた。元は貴族の屋敷か何かだったのだろうが、今は人が寄り付かない館となってしまっている。

「……人の気配があるのはなんとなくわかるけど……」
「監視の奴らも含めてそれなりに数がいる。人質を先に逃した方が良さそうだ」
「人質がいるのは地下かな?」
「さあな。だが、守りながら戦うのは結構面倒だぞ」
「まあそうなんだけど……せめて人質がどこにいるかわかれば動きやすくもなるのに……ん?」

緋夜はふと、空間収納にしまっている荷物の中身を思い出し、キャリーバッグを取り出した。

「何してんだ?」
「えーっと確かこの中に……あ、あった」
「あ?」

気になったガイが見慣れないバッグから取り出した緋夜の手元を覗くと、そこには蝶の飾り(?)があった。

「なんだそれ?」
「確か『見せて蝶』って言ったっけ」
「ダセ」
「こら。本当のことでも口にしない」
「それフォローのつもりか?」
「……」
「……」
「黙秘!」
「おい」

非常に緊張感のない会話をしながら、空間収納にキャリーバッグをしまい蝶に視線を向ける。

「で、これをどう使うんだ。あの変な鳥みてえにただの蝶じゃねえんだろ?」
「これは蝶の形をした小型カメラだよ」
「カメラ?」
「まあ分かりやすく言えば今起こっている光景や見ている景色を記録するための道具だよ。向こうの世界では犯罪の証拠とか思い出を保存するために使用されていた。こっちだと記録の魔道具と同じようなものだよ」
「ああ、あれか」

ガイは納得したように頷いた。この世界のも記録の道具は存在するらしく、そういったものの開発なども魔術師や魔導師の仕事のひとつである。

「で、それをどうやって動かすんだ?」
「確かコントローラーがあるって……これかな?」
「魔法で動かすことはできないのか?」
「私の世界は魔法がないから完全機械式なんだよ。だから魔法というものに耐えられるかわからないもの」
「ああなるほど」

緋夜はコントローラーを動かしながら屋敷の様子を伺う。

「このコントローラーってので見れるのか」
「うん。カメラの映像と連動していて光景がそのまま見れるんだって?」
「だってってなんだ」
「作ったやつから聞いただけ」
「……なんでお前の荷物に入ってんだ」
「ん? 新しいのできるたび人の荷物に勝手に突っ込んで『新作完成したから愛のプレゼント受け取ってキャ♡』てさ」
「…………そいつ、頭大丈夫か?」
「さあね」

緊張感をどこかに置いてけぼりにしたのかと言わんばかりにお喋りをしながらも手を動かしていると、ガイが緋夜の手を掴んだ。

「どうしたの?」
「今のところ左」
「左?」

言われるまま左に動かすと複数の人が映り込んだ。

「これ」
「ああ、おそらく人質だろう。数が把握できればいいんだが」
「サーモセンサーならできるかも」
「なんだそれ?」
「熱を感知するためのものだよ。確か機能の一つにあったはず」
「……これ作ったやつは暇なのか?」
「さあ」

そう言いながら蝶を屋敷から少し遠ざけてサーモセンサー機能をいじると、かなりの数が表示された。

「どのくらいいるんだろうこれ」
「人質はこのまとまりだろ。全部で二十七か」
「じゃあ残りは全部……」
「敵だな」
「どうする?」
「俺が表から行って気を引く。お前はその間に人質のところへ行け。お前なら上手くやるだろ」
「分かった。気をつけてね」
「ああ」

一瞬で作戦会議を終え、緋夜は『見せて蝶』一式を空間収納に戻し、二人は再び屋敷に視線を向け、そしてーー

「行こう!」

屋敷に向かって駆け出した。



しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思うので、第二の人生を始めたい! P.S.逆ハーがついてきました。

三月べに
恋愛
 聖女の座を奪われてしまったけど、私が真の聖女だと思う。だって、高校時代まで若返っているのだもの。  帰れないだって? じゃあ、このまま第二の人生スタートしよう!  衣食住を確保してもらっている城で、魔法の勉強をしていたら、あらら?  何故、逆ハーが出来上がったの?

都市伝説と呼ばれて

松虫大
ファンタジー
アルテミラ王国の辺境カモフの地方都市サザン。 この街では十年程前からある人物の噂が囁かれていた。 曰く『領主様に隠し子がいるらしい』 曰く『領主様が密かに匿い、人知れず塩坑の奥で育てている子供がいるそうだ』 曰く『かつて暗殺された子供が、夜な夜な復習するため街を徘徊しているらしい』 曰く『路地裏や屋根裏から覗く目が、言うことを聞かない子供をさらっていく』 曰く『領主様の隠し子が、フォレスの姫様を救ったそうだ』等々・・・・ 眉唾な噂が大半であったが、娯楽の少ない土地柄だけにその噂は尾鰭を付けて広く広まっていた。 しかし、その子供の姿を実際に見た者は誰もおらず、その存在を信じる者はほとんどいなかった。 いつしかその少年はこの街の都市伝説のひとつとなっていた。 ある年、サザンの春の市に現れた金髪の少年は、街の暴れん坊ユーリに目を付けられる。 この二人の出会いをきっかけに都市伝説と呼ばれた少年が、本当の伝説へと駆け上っていく異世界戦記。 小説家になろう、カクヨムでも公開してましたが、この度アルファポリスでも公開することにしました。

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...