おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

32話 囚われから余興は始まる

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「うわ~予想通りすぎてなんか拍子抜けなんだけど」

 緋夜は今、どこぞの地下牢にいた。冷たい鉄格子の中で冷たい床に座りながら苦笑する。

 何故こんなことになっているのか、しばし時は遡りーー


 緋夜は情報収集のため、ダサ……独特な名前の酒場に足を運んだ。昼間だというのに随分と人でごった返している。これならば多少は目眩しになるだろうと思いカウンターに座り、注文した果実水を口に含む。

(これだけ人がいるなら、いい情報が得られる可能性はある。しばらく様子をみてみよう)

そう思いながら果実水を飲んでいると、隣に顔立ちのいい男が座ってきた。

「ねえ君。もしかして一人?」
「ええ。急に飲みたい気分になって」
「あ~わかる。俺も時々あるからさ。結構いける口?」
「どうでしょうね。ほとんど一杯ほど飲んで終わりにすることが多いので」

嘘である。流石に一杯で止めることはほとんどない。普通に三杯は飲んでからやめることが多く、一杯だけの時は予定が入っている時くらいだ。

「へえ、そうなんだ。もっといけるかと思ってたけど」
「よく言われます」
「それにしても……この町にこんな美人がいたとはびっくりだよ」
「あら、この町の人ではないのですか?」
「まあね。今は絶賛旅行中」
「旅行ですか。いいですね」
「そう思う? 嬉しいなあ。俺旅行が趣味なんだよ」
「それは素敵な趣味をお持ちで」
「君はこの町の子?」
「いいえ。母からの使いの帰りに立ち寄ったのですよ。一度は来てみたかったもので」
「そうなんだ。いいところだよねこの町は」
「はい、とても」
「いい宿も酒場もいいものがいっぱいあるよね。さすが商業領地だ。 ……もちろん、君みたいな美人も、ね」

緋夜は目を細めながら男性の話に合わせていく。こういうおしゃべりな人間は情報収集にはうってつけだ。

「ありがとうございます。私もあなたのような殿方に会えて光栄ですよ」
「あはは! 君口がうまいね」
「ですが、そろそろ出ようかと思っています」
「なんで?」
「最近よからぬことが立て続けに起こっていてこれ以上いるのは危険かなって」
「ああ確かに。最近物騒だよね。なんか変な奴らが荒らし回っているんだろ?」
「ええ、そう聞いています。なんでも警吏の方も数人怪我を負ったとか」
「ああそれ俺も聞いたよ! 黒服の連中にやられたんだろ? ほんと勘弁してほしいよな」
「そうですね。ですからちょっと素直に楽しめなくて」

少し落ち込んだような声色で俯きがちに話すと男性が緋夜の顔を覗き込んできた。

「大丈夫? 顔色悪いけど飲みすぎた?」
「ええ、少し。すみません、なんだか」
「ああ気にしないでいいよ。気分が優れないことはあるし。なんなら送って行こうか?」
「ですが、初対面の方に甘えるわけには」
「いいっていいって。具合の悪い女性を放っておくのは俺のポリシーに反するってね」
「! フフッ……面白い方ですね」
「あ、そう? まあよく言われるけどな」

愉快な男性が支払いをし、緋夜を支えながら歩いていく。

「それで、どっち? お使い途中に寄ったってことは宿に泊まっているんだよね?」
「ええ、大通りに面した緑色の屋根の宿です」
「緑の屋根ね! 了解。それじゃしっかり掴まってて」
「はい、ありがとうございます」

緋夜は少々申し訳なさそうに微笑みながら男性に支えられて歩いていく。

(あれ? なんだか甘い香りがする……)

緋夜はその香りで次第に眠くなり、微睡の中に落ちていく。

「ゆっくり眠りな、綺麗な綺麗な俺達の商品」

という男の言葉を薄らと耳にしながらーー


ーーそして時は戻り、現在

「普通に怪しまれてるとか思わないのがすごいわ」

 緋夜は酔ってもいないし具合が悪いわけでもない。何かあると確信した上で、男について行ったのだ。そもそも緋夜が飲んでいたのは果実水なので、酔えるはずもない。
よって、緋夜は自らこの渦中の飛び込んだことになるのだが、ここがどこかという情報は緋夜が眠ったフリをしながら聞いていた会話の内容で十分だった。

「タイミングから考えて今クリサンセマムを荒らしている連中かな。私がセレナの屋敷に出入りしたことが漏れたのかもね。もしくは全く別の連中って可能性もなくはないけど」

緋夜はそう言いながら申し訳程度に開けられている地上が見える隙間に視線を向けた。状況から既に一時間はとっくに過ぎているだろう。

「ガイをここに連れてくる方が早そうだね」

バッグは取り上げられているが、緋夜には空間収納がある。そこには緋夜が地球から持ち込んだ物が入っており、その中からあるものを取り出す。

「えーっと……取扱説明……書? によると…………本当になんでこんなの作るかなあの色彩音痴。これ自作していたせいで必修単位落としたっていうんだから世話ないよね。ていうかバッテリー大丈夫これ……あららご丁寧に予備の電池まで入っていることで」

ぶつくさ言いながらも取り出した物を組み立て隠し撮りしていたガイの写真をそれに入れ、スイッチを押し仕上げに魔法をかけて格子の間から外へと飛ばす。

「これで後は『あれ』がガイをここまで連れてくるでしょう。それまでどうしようかな……」

男は商品と言っていたため、おそらくここにはこれまでも多くの人が囚われている可能性が高い。そしてその理由はオークションに出すことだろうが、もしこれが例の黒服連中の行いだとするならばそれによって得られるメリットはなんなのか。
緋夜は思考を巡らせながら笑みを浮かべる。

「さて……鬼が出るか蛇が出るか、しばらくこの余興を楽しもうかな」


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 きっかり一時間後、ガイは待ち合わせ場所に戻ってきたもののそこにいるはずの緋夜はいなかった。

「あ? まだ戻ってねえのかあいつ」

(あいつは時間は守る奴だからてっきり俺より先に戻っていると思ったんだが)

今まで緋夜が時間を守らなかったことは一度もなかった。朝は苦手と言いながらも時間にはしっかり起きてくるし、寝過ごしても起こせばものすごく眠そうな顔はするものの一度の声がけできちんと起きる。
だからこそ、時間遅れるということはあまり考えられない。

(まさか、なんかあったか?)

そう思った時、ガイの目に変な鳥のようなものが映った。具体的には派手という言葉を具現化したようなありえない色彩の鳥のような『何か』だ。しかも驚くことにあれほど派手にも関わらず、周囲の人々は反応していない。どうやらガイ以外には見えていないらしい。

「……なんだありゃ。いやそれよりも、あんな物飛ばしながら周囲に見えないようにできる奴は……あいつしかいねえよな」

その鳥(だと思っておく)は自分目掛けて飛んできたと思ったら目の前で一回転した後、再び来た方向へと向かって行った。

「はいはい、ついて来いってか。ったくしょうがねえな」

ため息をつきながらもガイは自分を呼んでいる女の元へと走り出した。


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ガイの元に鳥を飛ばしてからしばらくうたた寝していた緋夜は不意にした物音で目を覚ます。

「目覚めはどうかな眠り姫?」

鉄格子越しに声をかけてきたのは酒場で緋夜に奢り、宿まで送ると言ったあの男だった。

「ここは一体どこでしょう? 私の泊まっている宿ではないようですが」
「あはは、本当に送ってくれると思ってたわけ? 随分といい環境で育ったんだね。人を疑う事を知らないような、清らかな世界でさ」
「あら? あなたは女性に対して紳士的な方だと思っていましたが」
「ああ、俺は紳士だよ? だからわざわざ眠らせて運んであげたじゃん? 男相手だったら問答無用で路地裏に引っ張り込んで、そのまま気絶させるんだからさ。っていうか君、結構肝据わってるね。今まで捕まえた女の子はみんな目を覚ました途端に喚き出したんだけど」

面白いものを見るように緋夜を見つめるその男はどこかその目に狂気を宿していた。

「わざわざ眠らせてまでこのような品のない場所に連れてきたからには、それ相応の理由があるんですよね?」
「あはは、君がそれを知ってどうするのさ? どうせ逃げられやしないのに」
「たとえ逃げられなくても……私を騙した殿方に一矢報いたいなとは思いますよ? 私、騙すのは好きですけど騙されるのは嫌いなので」
「は? 何言ってんだアンタ」
「男を騙し、悦に浸るのが私の至高の楽しみなんですよ。だから、ね?」

緋夜が笑顔を浮かべながら首を傾げると、男は数回瞬きした後、盛大に笑い出した。

「あっはははは! 君俺のこと笑い殺す気!? この状況でそんな言葉が出てくるとは思わなかった!」

男はひとしきり笑った後、ようやく息が整ったのか獲物を見つめる獣のような笑みを浮かべた。

「アンタ気に入ったよ。こんなに笑わせてくる女は初めてだ。俺の名前はセン。アンタは?」
「リタ、と申します」
「リタ、ねよろしく。俺を笑わせたご褒美にアンタが知りたい情報を教えてあげるよ」
「あら、それはありがたいですが、ただで教える訳はないですよね」
「ああ、普通に教えるのはつまらないからな。アンタだって普通に情報もらってもつまんなねえだろ?」
「ええ、それには同意しますよ」
「ククっ! アンタほんと肝据わってんのな」
「それで、どうすれば教えてくださるのですか?」

緋夜のその問いに、男はその瞳をぎらつかせながら口を開いたーー
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