おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

31話 行動開始

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 セレナに連れられ、緋夜とガイはクリフォード侯爵邸へとやってきた。貴族の屋敷というだけあり、中は高級ではあるものの、シンプルなデザインなため、不快感を覚えることはない。

「さてと、ここでならゆっくり話ができるな」
「ここセレナの自宅だからね」
「それもそうだな」

面白そうに笑ったセレナは、出された紅茶を一口飲むと表情を真剣なものへと変えた。

「本来なら私達だけで解決すべきことだが、すでに被害は広まってしまっている。それに二人まで巻き込んでしまったからな。話す必要があるだろう」

セレナは深呼吸を一つすると、静かな調子で話し始めた。

「ここ最近、クリサンセマムで覆面をした者達が暴れていて被害が拡大しているんだ。しかし、捕らえて目的を吐かせようにも捕まえる前に自害されてしまう」
「……へえ? なかなかやるんだ」
「お陰で情報がなかなか手に入らず、苦戦していてな。しかも、奴らは逃げる時に必ず一般市民を巻き込むため、迂闊には手を出せない」
「人のいないところに追い詰めるのは?」
「それもやっているが、たとえ人気のないところに誘導しても、連中の仲間が騒動を起こすから、どのみち意味がないんだ」
「……ふうん? でも確かにそれをやられると迂闊には手を出せないか」
「ああ、本当に情けない」

セレナが悔しそうに唇を噛み締める。民を守る立場の人間であるセレナにとってはこの上なくもどかしいのだろうが、悔しがっていても意味はないことを緋夜は知っていた。

「それで、どうするの?」
「どうするって……」
「手詰まりだって言ってここでうだうだしているつもりなのかって聞いているんだけど?」
「そんなことはわかっている! わかっているが……民に危険が及ぶような方法を私達が取るわけにはいかないんだ!」
「まあそうだろうね」

そう言いながらも楽しそうに笑っている緋夜をセレナは見つめる。どうにも試されている気がしているのだろう。実際に緋夜はセレナを試している。貴族の令嬢は通常、領地経営や政治には関わらない。中には外交を担う令嬢もいるにはいるが、大半がそうではない。だからこそ、自ら率先して内政に領地に関わっているセレナに興味関心を向けるのだ。

「私達にわざわざ情報を与えたからには、用心しろという意味だろうけど警告を促すだけでは意味がない。根本の問題を断つ必要がある。そこのところをどうするか……」
「……手段が、ないわけではないんだ。だがそれをやると……」
「それをやると、協力者に危険が及ぶかもしれないってことかな?」
「っ! どうして」
「この場合は人海戦術使うよりは囮使って誘き出し、アジトの場所を見つける方が手っ取り早い。もちろんバレれば作戦だと敵に明かすようなものだから慎重にやる必要があるけど」
「……ああ、その通りだ。奴らは統率が取れているようで取れていない。おそらく寄せ集めの連中だろうから、頭を叩けばそこから情報を得ることはできそうだが……」

セレナはだいぶ顰めっ面をしている。作戦を立てるのはいいがそれで無関係な者を巻き込むのが嫌なのだろう。加えて別の問題があるように見える。そしてそれはーー

「内通者に情報が漏れる恐れがある」
「っああ、そうだ。しかし何故わかる?」
「いや、何故って……この場合で言葉を濁す理由は限られるから」
「……」
「……」
「まあいい。とにかくそういうことなんだ」
「なるほどね」

緋夜はもたらされた情報を頭の中で整理をしながらセレナを観察する。立場的に話せない内容は多々あるのだろうが、それでも今起きていることと自身の思いを語ってくれたことに変わりはない。

(でもここで手伝うのは違うよね。元々勝手にやると言った以上は表立って動かない方が良さそう。それにセレナは手伝うと言っても頷きはしないだろうし)

「でもやらなければより多くの被害が出てしまう。それだけは避けなければならない」
「そうだね。私も活動に支障が出るのは困る」
「ああ、わかっている。クリフォード侯爵家の名においてこれ以上の被害は決して出しはしない」

決意に満ちたセレナの表情に緋夜は笑みを浮かべ、席を立つ。

「情報をありがとう。私も巻き込まれないようにうまくやるよ」
「ああ、気をつけてくれ」
「それじゃあ私達はこれでお暇するよ。長居するのは申し訳ないし」
「今度来るときはゆっくりして行ってくれ」
「うん、ありがとう」
「外まで送ろう」


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「よかったのか? あれで」

 クリフォード侯爵邸からの帰り道でガイが唐突に話しかけてきた。

「正直言えばもう少し詳しい情報が欲しかったけど、まあ立場的に仕方ないのかな」
「明らかに何か隠してるか」
「うん。もしかしたら……黒幕が誰かわかってるのかもね。警吏の人も言っていたじゃない。何か心当たりがあるみたいって」
「じゃあ、明かさない理由は?」
「もし黒幕がいるとして、侯爵家に喧嘩を売れる人間がどれだけいると思う?」
「……ああ、そういうことか」

納得したように言葉を返すガイに緋夜は笑みを浮かべる。どう頑張っても並の一般人には手を出そうとした瞬間に、闇に葬られるだろう。だからこそ、セレナも躊躇っている。

「だからお前、勝手にやるっつったのか」
「それもあるけど……セレナの性格を考えれば人に借りを作るのは嫌だろうし、それに」
「それに?」
「私達に手を出した人間には直接お礼がしたい。あと慰謝料もらう」
「……思いっきり私情入ってんじゃねえか」
「やられっぱなしで大人しくしていたくない」
「お前って見かけによらず物騒だよな」
「そうかな」
「たまに喧嘩してるだろ。女と」
「勝手に妬んで勝手に襲ってくるんだもの。やってられないよ」
「相手したくなくても追いかけてくるもんな」
「ほんとそれ。いくら気に食わないからって一人を大勢で襲ってくるって卑怯だよね」
「そのやり方しか知らねえんじゃねえの。女はすぐ群れるからな」
「卑怯といえば今クリサンセマムで暴れている連中も十分卑怯だよ」
「お前、結局どうするんだ?」

ガイに問われ、緋夜はしばし思考を巡らせる。作戦を立てようにも現段階において情報が限りなく少ない。いくら練ったところで情報が足りなければそこが抜け穴になり、形勢逆転されてしまう。

「まずはこちらの情報を増やそう。話はそれからだよ」
「確かに情報が少ないか。んじゃ、被害者のところを回るのが一番か?」
「そうだね、少し聞き込みをしてみよう」
「じゃあ俺は行けるところ行ってみる」
「……分かった。それじゃあ手分けして情報を集めよう。一時間後にここに集合でいい?」
「ああ」

 
 ガイと別れた緋夜はふと立ち止まり、ガイの向かった方向を振り返る。

「ガイ、あのガラの悪さでちゃんと情報集められるのかな」

非常に失礼な疑問だと緋夜自身自覚しているものの、どうしても気になってしまう。容姿と声はいいので女性達からは話を聞けそうな気はするが、男性達は因縁を付けられているとでも思ってしまいそうだ。

「まあ、ガイだって子供じゃないし大丈夫……だよね」

やや不安を覚えながらも、緋夜は情報収集を始めた。こういう場合は酒場などに向かった方が効率がいいのだが、緋夜は居酒屋には一人で入ったことがないため、似たような雰囲気の酒場はどうしても入りづらいところだった。友人達と遊びはするものの、基本的には一人の時間を大切にしたい緋夜なので、大抵は居酒屋ではなく、バーに行っていたのだ。

(でも多くの情報が行き交う場所で真っ先に思いつくのはそこしかないし、今は昼間だから大丈夫だとは思うけど……まあ、行ってみますか)

緋夜はすれ違った人に一番近い酒場を聞き、そこに向かって歩き出した。

「それにしても……酒場の名前『俺のパラダイス』とか……ダサ……」

酒場の名前を聞いた時、緋夜は心の中で内心盛大に叫んだ。誰だよそんな名前つけた奴! とかなりの衝撃を受けたのだ。逆にユーモアがあるといえなくもないのかもしれないが。

(まあとにかくその酒場で聞き込みをしてみよう)

そう考えながら緋夜は酒場に向かって足を進めた。





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