おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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壱 出会いの章

23話 後のことは勿論放置

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「なっ……!?」
「はあ???!!!!!」
「えっ……!?」

 女達には何が起きたのか一瞬わからなかった。何故なら緋夜に剣を突き出した次の瞬間、武器を持っていた二人は地面に仰向けで倒れていたのだから。

「なん……あんた…………魔法が使えなきゃ……戦え、ないんじゃ……」
「誰もそんなこと言っていませんが」
「嘘よ! だって……接近戦はできないって前、酒場で……」
「あら、盗み聞きとはよい趣味をお持ちで」
「なっ……!」
「たしかに私は接近戦はできませんよ。……私の家族と比べれば、ですが」
「は、はあっ……!?」
「ですので、感情に任せて振われた剣を避け、勢いを利用して地面に転がす程度のことはできます。そのついでに武器を弾き飛ばすことも、ね」
「……なっ!」
「いつの間にっ!」

女達は武器がなくなっていることに初めて気づき、驚愕の中に恐怖を滲ませた。しかも三人のうち二人は仰向けになっているので緋夜の顔が嫌でも目に入る。自分達を地面に転がした女はーー先程と変わらず笑っていた。
その様子を見て、更に恐怖が募る。

「まだご用事が?」
「クッ……なんであんたなんかが……どんな冒険者が誘っても見向きもしなかったガイがあんたみたいな女を選ぶのよ!!!」
「ガイさんは相手にしてくれたことなんて一度もなかったのに……なんでなんで!」

(ああ、なるほど…………くだらない)

最終的には涙まで滲ませながら叫んでくる女達に緋夜の心は冷えていくばかりだ。ガイに恋心を抱く人間共の暴走、しかもやったことはお子様レベルの『嫌がらせ』だ。周囲の人間にも被害が及びかねなかったものを感情に踊らされてやる人間に緋夜が抱く感情は嫌悪のみ。本来であればこの程度の人間相手に動く必要はないが、この者達に同調する馬鹿が出てこないとも限らない。であるならば、ここで徹底的にその可能性を叩き折っておくのがいい。フラグは盛大に折るのが一番だろう。人を貶めたいのなら貶められる覚悟が必要なのだから。

(ああ、本当に…………つまらないなぁ)

緋夜は目の前で睨みつけてくる女達を見下ろしながら、絶対零度の笑みを浮かべる。

『ひっ……!!!』
「ふふ、そんなに怯えるのなら初めから手を出さなければよかったのですよ」

パキ、パキン

緋夜がそう言う間にあたりを氷が侵食し作り出された鋭利な先端は女達の服の一部を切り裂いた。

「実に愚かですね」

氷の影響で周囲の温度が一時的に下がっただろう。同時に太陽光で反射する氷の先端。これだけで恐怖を煽る。既に恐怖で顔面蒼白になっている人も少なくないのだから。
いくら冒険者やギルドの職員でもこの恐怖の前では青ざめるどころが白くなり、震えるしかない。下手に口を開こうものなら鋭利な氷の刃に貫かれかねない。
 勿論緋夜は人を殺したこともなければ刃物で脅したこともない。武器を持ち歩いただけで銃刀法違反だ。だがこの世界にはそんな決まりはない。必要があれば脅しのひとつやふたつわけないのだ。それが災厄と言われる芹原家の人間なのだから。
 
 すっかり恐怖に呑まれた女達に一切興味がなくなった緋夜はすっかり大人しくなった女達を放置し、さっさと踵を返すのだった。


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 緋夜がギルドの扉を開けるといつもの如く一斉に視線が注がれる。だが、その意味は明らかに変わっているが気にせずカウンターの前に立った。

「よう、嬢ちゃん。聞いたぜ? いろいろやらかしたんだって?」
「だって依頼の邪魔されたし、ここでやっとかないとつけあがるから」
「まあ今回は相手に非があるからな。うちの職員も絡んでいたようだし、今回の件はお咎めなしってことになった」
「もう報告入ってるのはさすがだね」
「偶然見てた奴がいるんだよ。俺としては嬢ちゃんに手を出さないように祈ってたんだが、結局こうなったな」
 
ゼノンが若干顔を顰めた。嫌悪半分、憐れみ半分といったところだろう。そんな様子に緋夜は苦笑する。

「起こったものはどうしようもないよ。それよりの依頼完了の手続きお願い」
「お、おう。分かった」

さっさと話題を変えた緋夜に顔を引き攣らせながらも完了手続きを済ませたゼノンは内心で加害者連中に憐れみを向ける。もう緋夜の中に奴等は既にないと気づいたから。

「ほい手続き終了だ。お疲れさん。とりあえず今日はゆっくり休みな」
「どうも」
「お迎えもいるしな」
「迎え?」

ニヤリと笑みを浮かべるゼノンに首を傾げていると、背後から首に腕を回された。緋夜が振り向くとガイが立っている。

「ガイ」
「ったく、何やってんだお前は」
「まさか来てくれるとは思わなかった」
「うるせえ、終わったんならさっさと帰るぞ」
「はーい、それじゃゼノンまたね」

そう言って緋夜はガイと共にギルドを出て行った。


      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ギルドを出た後、緋夜はガイと酒場に来ていた。机には相変わらずアルコール度数の高いものが並んでいる。

「で? ずいぶん派手に暴れたみてえだな」
「相手が悪い」
「そんなん気にしてねえ。怪我なかったかって聞いてんだ」
「あの程度相手に怪我すると思う?」

仄暗い笑みを浮かべるとガイも悪い顔になって口角を少し上げた。

「いや? ありえねえ」
「それはどうも」
「お前、接近戦できるんじゃねえか」
「なんで知ってるの?」
「見てた」
「じゃあガイがギルドに知らせたの?」
「ああ」
「なるほど」
「ゼノンの奴が珍しく顔しかめてやがった」

そう言って酒を煽るガイを見て色気あるな、と思ったのはここだけの秘密だ。

「まあこれでお前に変なちょっかい出す奴もいなくなるだろ」
「そのためにやった」
「ったく、何考えてんだかな」
「そろそろダンジョン潜りたいって考えてる」

 さらりと言った緋夜のセリフにガイは思わず飲んでいた酒を吹き出しかけた。緋夜が目の前にいたから耐えたが。

「いきなりだなおい」
「いいじゃん別に。どんなところか気になるし。いいダンジョン知ってる?」
「……北東のクリサンセマムってとこにそこそこのダンジョンがある。ちょっと変わったとこだが、飯は美味かった」
「うん。選択理由がガイらしいね」
「うっせ。で、行くのか行かないのか?」
「行く」
「……即答かよ」
「そりゃあね」
「向こうに滞在するのか?」
「そうだね、一週間……長くて二週間くらい?かな」
「なんか気になるもんでもあるのか」
「そういうわけじゃないけど……なんとなく、一、二週間は王都こっちにいない方がいい気がする」
「……分かった。明日にでも出発するか?」
「そうだね、それがいいかも」

 緋夜はせいぜい二、三日程度を考えていた。しかし、滞在をかなり延長した理由は、ここにいると厄介なことになりそうだから。緋夜にちょっかいを出してきた連中とは関係ない、緋夜を妬む連中も違う。もっと別の何かが近づいている、そんな気がするのだ。緋夜のこういった感は今まで外れたことがない。だからこその延長。厄介事はごめんである。

「んじゃ、まあ今日はさっさと休め。明日から馬車移動だ」
「はーい」

そう言って最後の酒を煽り、緋夜達は宿に戻った。
 



 
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