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壱 出会いの章
19話 アルスの洞窟で
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洞窟内を疾走して行く緋夜達は床一面に転がっているレッドバットの群れの前にいた。全羽見事に気絶してる。やはりコウモリに超音波は有効なようだ。緋夜は丸ごと凍らせそのままバッグにしまった。
「討伐の証は翼の部分だけどこの数からいちいち取ってられないね」
「無駄に数が多いからな。しっかしよくもまあここまで増えたもんだ」
「これ絶対Eランクじゃないよね。ゴブリンだけじゃないんだから。報酬上乗せできそう」
「完全に確認ミスだしな」
「まあね。コウモリは終わったから次は」
「スモールタラテクト」
「だね。よくこんだけ魔物の巣窟になってること」
文句を言いつつ先へ進むと、今度はスモールタラテクトが群れでいた。緋夜はタラテクトの糸を接着剤にして全てのクモをくっつくてそのまま熱湯で包んだ。クモは火に弱いため、熱湯で大火傷を負い全滅した。火傷の跡は消してそのままバッグに放り込む。
「さて……どうやら本命のご登場みたいだよ」
「みてえだな」
二人で洞窟の奥に視線を向けると、いくつもの足跡が聞こえ、やがて青緑色の人型が姿を現した。
「まあ随分と殺気立ってること」
「敵だからな、俺達は」
「こいつらも丸ごと収納でいいよね」
「面倒くさがりだな」
「ガイもでしょ?」
「違いねえ」
なんでもないことのように会話をする緋夜達に怒りを募らせたのか、ゴブリンが一斉に襲ってきた。
「どっちからやる?」
「そのままでいいだろ。俺は左だ」
「じゃあ私は右ね」
ガイはゴブリンの群れを左側から斬り崩し、緋夜は右から酸素を奪い窒息死させていく。
ものの数十秒でゴブリン百匹を駆除した二人は、左右でそれぞれ倒しゴブリンの死骸は緋夜の空間収納へ吸い込まれていく。そのまま洞窟内を疾走し、二人は最深部の入り口に辿り着いた。
「この先が洞窟の最深部みたいだけど……どうする? 今まで通りやってボスは仲良く半分こする? それともどっちかがボスをやってどっちかが雑魚を潰す?」
「ボスは譲る」
「いいの?」
「ああ、残りの雑魚は俺がやる」
「ガイなら剣を持って一回転しただけでしそうだけど」
「やってみるか?」
「見てみたいね」
「決まりだな」
簡単に話したあと同時に最深部に踏み込むと、ホブゴブリンがすでに戦闘態勢になっており、その奥でゴブリンキングがふん反り返っていた。
「うわ~なんかふんぞり返ってるのがいるんだけど。ちょっとうざい」
「どっちみち倒すんだ。構いやしねえよ。危ねえから下がってろ」
「了解」
緋夜は少し下がり、ガイに邪魔にならない位置に立つ。ガイは飛び上がってホブゴブリンの塊のど真ん中に降り立ち、その場で一回転した。一瞬の間を置き、ホブゴブリンが全匹同時に血飛沫と共に地面に倒れ込んだ。緋夜は思わず口笛を吹く。
「ホントに出来たね。さすが」
「余裕だろ。遊びにもなんねえよ」
「わ~嫌味♪」
「うっせ。あとはあれだけだ。任せたぞ」
「はいはーい」
とてつもなく軽い会話をした後、緋夜はゴブリンキングと対峙した。にこやかにゴブリンキングへと近づいて行く緋夜にゴブリンキングが襲いかかった。それを見ながら、このまま倒してもつまらないな、と思いガイを振り返る。
「ガイ、ちょっと遊んでもいい?」
「あんま時間かけんなよ」
「はーい」
(さて……)
緋夜は魔法でゴブリンキングの進路を一部凍らせた。直後、氷で滑りそのままこける。すぐに氷を解き、立ち上がったゴブリンキングはまたこちらに来ようとするが、再び進路上を一部氷漬けにしてまた転ばせすぐに氷を解く。
それを何度か繰り返していると流石に学習したのかゴブリンキングは氷を飛び越えた……が。
着地寸前に地面がなくなり、一瞬止ってそのまま落下していった。
綺麗に落ちていったゴブリンキングを見て緋夜は大笑いしながら穴に近づき、上からゴブリンキングを覗き込んだ。
「おい」
いつの間にかガイが隣に立っていた。
「あ、ガイ」
「何やってんだお前。あんな転ばせて最後は落とし穴とはな。遊ぶってそういう事かよ。ガキじゃねんだぞ」
「いいじゃん。面白かったし」
「まあ、綺麗にこけてはいたな。落とすタイミングも完璧だ」
「でしょ?」
「向こうはキレてるみてえだがな」
「みたいだね」
落とし穴の底で緋夜と目が合ったゴブリンキングはその目に凄まじいほどの怒りを宿していた。ここまで馬鹿にされれば当然である。雄叫びを上げながら登ってこようとするゴブリンキングの顔面に氷の玉を一つ落とした。顔に氷の玉が命中したゴブリンキングはそのまま落下し再び穴の底へ。完全にいじめである。ガイはゴブリンキングにささやかな同情を向けた。
「……そろそろ仕留めろ」
「はーい」
緋夜はゴブリンキングに当たった氷の塊をそのまま大きくしてゴブリンキングを丸々氷の玉の中に閉じ込め、そのままバッグの中へ。
「はい、終了」
「……ゴブリンキングに同情するぜ。ったく」
「怒らせれば隙ができてやりやすいからいいの」
「完全に遊んでいたろうが」
「いいじゃん。これで依頼は達成できたんだから。それにしてもちょっと多過ぎたね。あのまま放置していたらちょっと面倒なことになってたと思う」
「それは否定しない」
「折角最深部まで来たからちょっと清めようか」
「できるのか?」
「私全属性だよ? できないと思う?」
「思わねえな」
口角を上げ、面白そうに笑うガイに笑みを深くしながらガイの倒したホブゴブリンを収納した。そのまま目を閉じ洞窟全体に浄化魔法をかけた。
「これでしばらくはいいはずだよ」
「んじゃ帰るか」
「了解」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
緋夜達は討伐完了報告のため、ギルドに戻ってきた。討伐依頼にも関わらず短時間で戻ってきた緋夜達に視線が集中する。まあその視線は主に緋夜に向けられていたが。
「ゼノン!」
「おお、もう終わったのか! まあゴブリンだからな。嬢ちゃんなら楽勝だろ」
「ゴブリンだけじゃなかったよ」
「へ? どういう意味だそりゃ」
「見たほうが早いと思う。ここじゃ狭いから出せない。いろいろ数が多すぎていちいち証だけ取るのが面倒だったから全部持ってきた」
「それほど大きな群れだったのか?」
「……とりあえず出したいんだけど」
「お、おう。分かった。じゃあ外に行こう」
ゼノンに連れられ、緋夜達はシートの引かれた場所にやってきた。
「んじゃ嬢ちゃんこの上に出してくれ」
「はーい」
緋夜はシートの上に討伐した分全てを出すと、途端にあたりは大騒ぎになった。ゼノンも口をあんぐりと開けて瞬きをして視線を何度も緋夜達と魔物の間を行き来させている。
「……おい、お二人さん。こりゃなんだ? ……スモールタラテクトとレッドバットにホブゴブリンやゴブリンキングもあるんだが……」
「全部アルスの洞窟の中にいたんだよ。レッドバット、スモールタラテクト、ゴブリンって順番だったんだけど、邪魔だったから全部倒しちゃった」
「……邪魔…………ってなあ。見たところ真っ二つになってんのと傷一つないのがあるんだが」
「傷があるのは俺で、傷がないのはこいつが倒した」
「びっくりしたよ。一回転すれば倒せんじゃないってガイに言ったら本当にそれで真っ二つになるんだもんホブゴブリン」
「お前だってゴブリンキングをこけさせて遊んでたろうが」
「そうだっけ?」
「おい」
などと言い合う二人に周りの心の声はハモった事だろう。
『いや、おかしいだろ!!!!!』
と。
ガイの強さは異次元だとして、ゴブリンキングをこけさせて遊んでいたとはなんだ? あの洞窟内で一体何が起こっていたのか。ゼノンはその疑問を軽い調子で会話する二人にぶつけた。
「おい! 説明しろ二人とも!!!!!」
絶叫とも言うべきゼノンの言葉に鬱陶しいとばかりに二人同時に耳を塞ぐ。見事に息ぴったりだった。
その後、二人はゼノンに捕まり、ことの顛末を語らさせられ、その場にいた冒険者や職員には緋夜への評価を改め、『漆黒一閃』と並ぶ規格外枠として認定されたのだった。
「討伐の証は翼の部分だけどこの数からいちいち取ってられないね」
「無駄に数が多いからな。しっかしよくもまあここまで増えたもんだ」
「これ絶対Eランクじゃないよね。ゴブリンだけじゃないんだから。報酬上乗せできそう」
「完全に確認ミスだしな」
「まあね。コウモリは終わったから次は」
「スモールタラテクト」
「だね。よくこんだけ魔物の巣窟になってること」
文句を言いつつ先へ進むと、今度はスモールタラテクトが群れでいた。緋夜はタラテクトの糸を接着剤にして全てのクモをくっつくてそのまま熱湯で包んだ。クモは火に弱いため、熱湯で大火傷を負い全滅した。火傷の跡は消してそのままバッグに放り込む。
「さて……どうやら本命のご登場みたいだよ」
「みてえだな」
二人で洞窟の奥に視線を向けると、いくつもの足跡が聞こえ、やがて青緑色の人型が姿を現した。
「まあ随分と殺気立ってること」
「敵だからな、俺達は」
「こいつらも丸ごと収納でいいよね」
「面倒くさがりだな」
「ガイもでしょ?」
「違いねえ」
なんでもないことのように会話をする緋夜達に怒りを募らせたのか、ゴブリンが一斉に襲ってきた。
「どっちからやる?」
「そのままでいいだろ。俺は左だ」
「じゃあ私は右ね」
ガイはゴブリンの群れを左側から斬り崩し、緋夜は右から酸素を奪い窒息死させていく。
ものの数十秒でゴブリン百匹を駆除した二人は、左右でそれぞれ倒しゴブリンの死骸は緋夜の空間収納へ吸い込まれていく。そのまま洞窟内を疾走し、二人は最深部の入り口に辿り着いた。
「この先が洞窟の最深部みたいだけど……どうする? 今まで通りやってボスは仲良く半分こする? それともどっちかがボスをやってどっちかが雑魚を潰す?」
「ボスは譲る」
「いいの?」
「ああ、残りの雑魚は俺がやる」
「ガイなら剣を持って一回転しただけでしそうだけど」
「やってみるか?」
「見てみたいね」
「決まりだな」
簡単に話したあと同時に最深部に踏み込むと、ホブゴブリンがすでに戦闘態勢になっており、その奥でゴブリンキングがふん反り返っていた。
「うわ~なんかふんぞり返ってるのがいるんだけど。ちょっとうざい」
「どっちみち倒すんだ。構いやしねえよ。危ねえから下がってろ」
「了解」
緋夜は少し下がり、ガイに邪魔にならない位置に立つ。ガイは飛び上がってホブゴブリンの塊のど真ん中に降り立ち、その場で一回転した。一瞬の間を置き、ホブゴブリンが全匹同時に血飛沫と共に地面に倒れ込んだ。緋夜は思わず口笛を吹く。
「ホントに出来たね。さすが」
「余裕だろ。遊びにもなんねえよ」
「わ~嫌味♪」
「うっせ。あとはあれだけだ。任せたぞ」
「はいはーい」
とてつもなく軽い会話をした後、緋夜はゴブリンキングと対峙した。にこやかにゴブリンキングへと近づいて行く緋夜にゴブリンキングが襲いかかった。それを見ながら、このまま倒してもつまらないな、と思いガイを振り返る。
「ガイ、ちょっと遊んでもいい?」
「あんま時間かけんなよ」
「はーい」
(さて……)
緋夜は魔法でゴブリンキングの進路を一部凍らせた。直後、氷で滑りそのままこける。すぐに氷を解き、立ち上がったゴブリンキングはまたこちらに来ようとするが、再び進路上を一部氷漬けにしてまた転ばせすぐに氷を解く。
それを何度か繰り返していると流石に学習したのかゴブリンキングは氷を飛び越えた……が。
着地寸前に地面がなくなり、一瞬止ってそのまま落下していった。
綺麗に落ちていったゴブリンキングを見て緋夜は大笑いしながら穴に近づき、上からゴブリンキングを覗き込んだ。
「おい」
いつの間にかガイが隣に立っていた。
「あ、ガイ」
「何やってんだお前。あんな転ばせて最後は落とし穴とはな。遊ぶってそういう事かよ。ガキじゃねんだぞ」
「いいじゃん。面白かったし」
「まあ、綺麗にこけてはいたな。落とすタイミングも完璧だ」
「でしょ?」
「向こうはキレてるみてえだがな」
「みたいだね」
落とし穴の底で緋夜と目が合ったゴブリンキングはその目に凄まじいほどの怒りを宿していた。ここまで馬鹿にされれば当然である。雄叫びを上げながら登ってこようとするゴブリンキングの顔面に氷の玉を一つ落とした。顔に氷の玉が命中したゴブリンキングはそのまま落下し再び穴の底へ。完全にいじめである。ガイはゴブリンキングにささやかな同情を向けた。
「……そろそろ仕留めろ」
「はーい」
緋夜はゴブリンキングに当たった氷の塊をそのまま大きくしてゴブリンキングを丸々氷の玉の中に閉じ込め、そのままバッグの中へ。
「はい、終了」
「……ゴブリンキングに同情するぜ。ったく」
「怒らせれば隙ができてやりやすいからいいの」
「完全に遊んでいたろうが」
「いいじゃん。これで依頼は達成できたんだから。それにしてもちょっと多過ぎたね。あのまま放置していたらちょっと面倒なことになってたと思う」
「それは否定しない」
「折角最深部まで来たからちょっと清めようか」
「できるのか?」
「私全属性だよ? できないと思う?」
「思わねえな」
口角を上げ、面白そうに笑うガイに笑みを深くしながらガイの倒したホブゴブリンを収納した。そのまま目を閉じ洞窟全体に浄化魔法をかけた。
「これでしばらくはいいはずだよ」
「んじゃ帰るか」
「了解」
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
緋夜達は討伐完了報告のため、ギルドに戻ってきた。討伐依頼にも関わらず短時間で戻ってきた緋夜達に視線が集中する。まあその視線は主に緋夜に向けられていたが。
「ゼノン!」
「おお、もう終わったのか! まあゴブリンだからな。嬢ちゃんなら楽勝だろ」
「ゴブリンだけじゃなかったよ」
「へ? どういう意味だそりゃ」
「見たほうが早いと思う。ここじゃ狭いから出せない。いろいろ数が多すぎていちいち証だけ取るのが面倒だったから全部持ってきた」
「それほど大きな群れだったのか?」
「……とりあえず出したいんだけど」
「お、おう。分かった。じゃあ外に行こう」
ゼノンに連れられ、緋夜達はシートの引かれた場所にやってきた。
「んじゃ嬢ちゃんこの上に出してくれ」
「はーい」
緋夜はシートの上に討伐した分全てを出すと、途端にあたりは大騒ぎになった。ゼノンも口をあんぐりと開けて瞬きをして視線を何度も緋夜達と魔物の間を行き来させている。
「……おい、お二人さん。こりゃなんだ? ……スモールタラテクトとレッドバットにホブゴブリンやゴブリンキングもあるんだが……」
「全部アルスの洞窟の中にいたんだよ。レッドバット、スモールタラテクト、ゴブリンって順番だったんだけど、邪魔だったから全部倒しちゃった」
「……邪魔…………ってなあ。見たところ真っ二つになってんのと傷一つないのがあるんだが」
「傷があるのは俺で、傷がないのはこいつが倒した」
「びっくりしたよ。一回転すれば倒せんじゃないってガイに言ったら本当にそれで真っ二つになるんだもんホブゴブリン」
「お前だってゴブリンキングをこけさせて遊んでたろうが」
「そうだっけ?」
「おい」
などと言い合う二人に周りの心の声はハモった事だろう。
『いや、おかしいだろ!!!!!』
と。
ガイの強さは異次元だとして、ゴブリンキングをこけさせて遊んでいたとはなんだ? あの洞窟内で一体何が起こっていたのか。ゼノンはその疑問を軽い調子で会話する二人にぶつけた。
「おい! 説明しろ二人とも!!!!!」
絶叫とも言うべきゼノンの言葉に鬱陶しいとばかりに二人同時に耳を塞ぐ。見事に息ぴったりだった。
その後、二人はゼノンに捕まり、ことの顛末を語らさせられ、その場にいた冒険者や職員には緋夜への評価を改め、『漆黒一閃』と並ぶ規格外枠として認定されたのだった。
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