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壱 出会いの章

10話 冒険者登録と初仕事

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 翌朝、冒険者ギルドにとある噂が飛び交う中、一人の女性がギルド内に入ってきた。質素な服を着ているが、育ちの良さが一目でわかる華やかな美女だ。誰もが目を奪われるなか、次いで入ってきた男にギルド内にいた者たちは皆、驚愕の視線を送らざるを得なかった。何故ならその男は誰かと組むことも、ましてや指名の依頼にすら応じないと言われており、そんな人物が誰かと共に歩くなど、それこそ絶対にありえないことなのだから。
 一方、件の二人組は周囲の空気などものともせず平然とギルド内を歩いていく。

「混んでますね」
「朝はだいたいこんなもんだ。依頼は早いもん勝ちだから」
「なるほど。だから皆早起きなんですね」
「早起きって……普段いつ起きてんだ」
「大体七時くらい? でしょうか」
「遅すぎねえか?」
「これでも早い方だと思うのですが……」
「いい依頼受けてえんならもうちっと早く起きろ」
「……善処します」
「善処じゃねえ、やるんだ」

そんな会話をしながら受付の席に向かうと中年の男性が出迎えた。

「すみません」
「……お、おう! なんだ?」
「冒険者登録に来た者ですが、よろしいでしょうか」

突然の言葉に職員員は思わず瞬きをした。いや、このカウンターに来たのだから登録をしに来たということは確かだろうが、どう見ても冒険者には向かないであろう娘が登録希望ということに少々思考が追いつかない。冒険者になる権利は十歳未満の子供を除いて誰にでもあるが、それでも戦えることが前提条件だ。しかし目の前にいるのはどう考えても冒険者のような荒事には縁遠い雰囲気の女。理性が待ったをかけるのは仕方ないだろう。冒険者は高ランクになればなるほど命の危険が伴う職業だから。

「嬢ちゃんが冒険者すんのか?」
「ええ。あれ? だめでしたか?」
「い、いや気分悪くしたんなら謝る。だがあんまり血とかに縁遠そうだからよ」
「ああ……血なら全然平気ですよ。心配してくださってありがとうございます。ですが決して向こうみずで登録するわけではないのでご安心ください」
「そ、そうか。じゃあ登録手続きをしよう。俺はゼノンだ。よろしくな」
「ヒヨと申します。こちらこそよろしくお願いします」
「ああ、敬語はなしでいいぜ」
「ですが……」
「いいんだよ。俺は堅苦しいのが苦手なんだ」
「……そういうことなら、改めてよろしく」
「おう」
「それで登録ってどうやるの?」
「ちょっと待ってな」

 そう言ってゼノンは奥へ行き、球体のものを持って戻ってきた。

「なにこれ?」
「今からこれで登録をするんだ。嬢ちゃんこれに手を置いてくれ」
「どっち?」
「好きな方でいいぜ」

 緋夜が言われるがままに球体に手を置くと、球体が光り出しそのまま下の方へ集まってやがて光の塊が長方形へと変化し球体の下のトレイに落ちた。

「これは……」
「ギルドカードだ。これで後はギルドに登録するための必要事項を記入すればあとはこっちで処理して登録完了だ」
「へえ……それじゃあ」

緋夜はゼノンから渡されたカードに必要事項を記載していく……が。

(羽ペン書きづらっ!)

ペンについている羽がなんとも邪魔くさく緋夜は少し苦戦しながらも書き終え、ガイに手渡す。推薦者枠にサインを終えたガイは出来立てのカードをゼノンに渡した。

「少し待ってな」

そう言って奥へと引っ込んだゼノンはしばらくすると戻り、側にあったプレートの上にカードを置いた。少し待つとカードが次第に光りだし、消えた。

「ほい、登録完了だ」
「ありがとう」
「ギルドカードには名前と種族、年齢、職業が記載される。んで依頼が達成すればその功績が追加されていく。冒険者のランクは低い方から順にF、E、D、C、B、A、Sになっている。嬢ちゃんは登録したばかりだからランクはFだ」
「わかった」
「しっかり依頼をこなせばランクが上がっていくから頑張れよ」
「うん」
「魔物図鑑は書店で売ってるから買うといい。ちょっと高えけどな。んで……ほれ」
「なにこれ」
「ギルドの規約だ。まあそんな難しいことは書いてねえから。さらっと読んでみな」
「普通こういうのは先に見せるものでしょ」
「あはは、悪い悪い」
「私だったからいいけど、他の人だったら詐欺とか言われるかもよ?」
「うお、まじか」
「次から気をつけてね」
「お、おう……」

にこやかに忠告され、たじろぐゼノンを見てガイがひっそりと笑っていた。

      ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

「読み終わりました」
「おう、ご苦労さん。早速なんか受けてくか?」
「そうだね……折角だから受けてみようかな。いいですか?」
「好きにしろよ」
「じゃあ受けるよ」
「おっし。依頼はランクによって分けられるが、自分と同じランクか自分より下のランクしか受けられない。嬢ちゃんは登録したばかりだから受けられる依頼ランクはGとFだ。左の壁にあるのから好きなものを選んでカウンターで受付する。まあ、まずは選んでみな」
「分かった。ガイさん」
「ああ」

 緋夜はガイと共にF、Gランクの依頼ボードの前に立った。魔物の討伐や薬草採取といったものがほとんどである。

(低ランクの依頼内容はどの小説やゲームでも同じなんだよね。そこはわかりやすくていいな。で、どれがいいのかな)

 依頼用紙には内容と金額が書かれている。薬草採取、魔物討伐、清掃活動など様々だ。 ざっと目を通していくと一つの依頼用紙を手に取った。

「これどうですか?」
「あん?」

【依頼内容:ホーンラービットの討伐
  ランク:F
 場  所:王都近くの草原
    数:二十
 報  酬:銀貨五枚(追加報酬なし)】
 
「まあ初心者にしては妥当だろう。これにするか?」
「はい」
「じゃあ、受付行ってこい」

 緋夜は依頼用紙を持ってゼノンのところに戻った。来た時よりもギルド内の人数が減っていた。

「お、持ってきたか」
「これにするよ」

 緋夜が依頼用紙を手渡すとゼノンが依頼を確認する。

「確かに。ホーンラービットは頭の角が討伐の証になるんだが、確か嬢ちゃん解体はできないって言ってたが、大丈夫か?」
「討伐証明のものが体内のものじゃないならやり方次第でどうとでもなるよ」
「分かった。行ってらっしゃい」

 緋夜はヒラヒラと手を振り、ガイと共に去って行った。



       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「さて、どうなることやら」

 ゼノンはギルドをたった今ギルドを出て行った娘、ヒヨのことを考えて口元に笑みを浮かべた。

「随分と楽しそうだな。あの人だろ?」
「まあな」
「でもまさか『漆黒一閃』が付き添いとは思わなかったな。どうやったんだ?」
「さあな。気になるんなら聞いてみりゃいいじゃねえか」
「無理だよ。あんな美人にどうやって声かけるってんだ。よく普通に話せんな」
「俺だって最初はビビったけどよ? 話してみると結構子どもっぽいぞ」
「そうか? けどあんな人がまともに冒険者出来んのかね。『漆黒一閃』と一緒にいりゃ女達の嫉妬買うだろう」
「そこはどうにかすんじゃねえの? 少なくともあの二人は互いに異性として全く意識していない。まあでも、嬢ちゃんのお手並み拝見、だな」

 久しぶりに現れた面白い人間なんだ。せいぜい暴れて見せろよ? 嬢ちゃん。


       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 ギルドを出た二人は王都が見える草原にやってきた。

「王都近くの草原って書いてありましたけど本当に近くですね。こんなところにも魔物が出るなんて」
「討伐系では最低ランクのものだがな。初心者にはちょうどいいだろ。それにEランク以下の魔物なら問題ない」
「それもそうですね。ですがホーンラービットって二十匹もいるのですか?」
「いたぞ」
「え?」

 緋夜がガイの視線の先を見ると十センチ程度の角を生やした体長五十センチ程度のウサギが数匹いた。

「あ、可愛い」

(角重そうだけど)

「なに言ってやがる。狩るんだろうが」
「すみません。でもあんな可愛いのを魔物とはどうしても思えなくて」

 討伐対象相手にとろけた表情をする緋夜に呆れながらもガイは忠告を促す。

「いくら見た目小動物でも、すばしっこいから気をつけろ。まずは一匹仕留めてみやがれ」
「はい。ついでにツノも回収しましょうか」
「ああ」

 緋夜は氷魔法を使って視線の先にいるホーンラービット数匹全てを閉じ込めた。氷の中に囚われたホーンラービットは動くこともできないまま息絶える。

 緋夜は氷漬けにされたホーンラービットの角を魔法で切り落とし、そのまま自分の手元に持ってきた。

「凍死か」
「この方法なら素材も汚れませんし、必要以上に傷つきませんから」
「んで、死んだとこを氷の刃で角を切り落としてそのまま手元に持ってきたわけか」
「この方法ならわざわざ自分から必要がない上、姿を確認するだけでできるので楽なんです」
「無駄に効率がいいな。んじゃとりあえず残りも片付けろ」
「討伐は依頼数超えても問題ないのでしょう?」
「ああ」
「ではここにいるもの全て片付けても問題ありませんね」
「何匹いるか分かってんのか?」
「何匹かはわかりませんが、気配なら分かります」
「……四十三だ」
「ありがとうございます」

 緋夜は水玉を網状に変形させると草原に張り巡らせ、中央に向かって滑らせていきホーンラービットを囲い込み逃げ場をなくした後、同じ要領で全てのホーンラービットを討伐した。

「随分とすんなり終わったな」
「そうですね。狩りは初めてなのですが、うまくいってよかったです」
「そうかよ。終わったんなら戻るぞ」
「はい」

 緋夜は角をウエストバッグに仕舞うと、ガイと共に王都へと戻った。

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