おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月

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始まりの章

6話 国境で

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「アーハハハハハっ!!!!!」
「キサラギ様いつまで笑ってらっしゃるのですか」

 城を飛び立ち先に城を出ていたレオンハルトに追いついたセルビアは事の次第を一通り報告し、腹を抱えて爆笑していた。

「ごめんごめん。でも……プッ……アハハハハハッこんなにうまくいくとは思ってなかった……」

 セルビアが計画したことは実に単純でアホらしいものだった。というのもーー

①聖女の元に行く際わざと見回りの兵の視界
 に入る(それを見た兵が第一王子らに報告
 に行くだろうと仮定)
②入り口ではなく窓から行くことで後から来
 るであろう取り巻きを煽る
③取り巻きが入ってきたら更に煽り騒ぎを大
 きくする
④騒ぎを聞きつけた連中が集まったところで
 自分の立場を暴露する
⑤彼らの前で魔法を使いそのまま去る

 セルビアからすればもう少し派手にやってもいいと思ったが、彼らの『これから』を考えればこれでもかなり悪質だろう。何故なら今まで聖女のおまけとして蔑み、嘲り、ないものして扱ってきた王子達は大勢の人がいる前でそのことを暴露され、噂を鵜呑みにしていた使用人達は自分達が蔑んできた人間の立場を知ることになる。加えて魔法を使った姿を見れば鑑定を行った者はどうなるのか。王族も使用人も魔導師も末は見えていた。
 そしてセルビアはちょっとしたでこの計画の決行前夜に城下町の酒場へ行って聖女と一緒に召喚された女性とその女性の城の中での待遇、そして全属性を使えることを話していた。その話を耳にした直後にその女性が国を出て行ったとなれば……さて民の反応はどうなるのか。誰もが想像できるだろう。
 現にこの計画を聞いたレオンハルトはちょっと引いていた。だが、セルビアにとっては軽いでしかない。

「まさかあのようなことを頼まれるとは思いませんでしたが」
「ごめんごめん。レオンハルトには悪いことしたね」
「いえ、貴女が謝ることではございません。むしろ偽りとはいえ貴女に対して失礼をしてしまい申し訳ありませんでした」
「失礼も何も私が頼んだことだから気にしないでよ」

 セルビアは計画を実行する前、レオンハルトに自分の護衛を降りると言ってこいと頼んでいた。理由としてはセルビアから不要と切り捨てられればレオンハルトはさらに馬鹿どもの愚言に晒されるだろうが自分から降りれば周囲はレオンハルトにまで見捨てられた人間としてセルビアへの対応は今まで以上にひどいものとなる。どん底まで堕ちた状況で計画を実行すればその効果はどれほどになるだろう。
 そう思ってレオンハルトに頼んだが、即座に断られた。頑なに首を縦に振らないレオンハルトをセルビアはなんとか説得して計画実行の前日の昼間に城を出てもらった。レオンハルトは馬を使っていたがセルビアが追いつきやすいようにとそれほど進むことをしなかったためすぐに追いついた。

「そう言っていただけると救われます」
「それはよかった」
「我々が今いる場所から国境までは馬で五日かかります。キサラギ様は馬には乗れますか?」
「うん。乗馬は親から教わったことあるし、時々一人でも乗ってたから大丈夫」
「分かりました。ですが、疲れた場合はおっしゃってください。休憩を取りますから」
「ありがとう」

 セルビアはレオンハルトが用意していた馬に跨った。

「それじゃ、行こうか!」
「はい」

 そう言ってセルビアとレオンハルトは同時に馬をかけた。


       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


 馬をかけて移動と休憩を繰り返してセルビアとレオンハルトは遂にレオンハルトの務める辺境の町・ミルノーラに着いた。

「着きました。ここが私の務めるミルノーラ砦です」
「砦なんて初めて見た。ていうかレオンハルトが戻ってくること砦の皆は知ってるの?」
「はい。キサラギ様の計画を聞いた日は丁度ミルノーラから定期報告が届く日でしたので、キサラギ様の件も含めて送り返しましたから砦の者達は知っているでしょう」
「ならいいけど」
「旅立つまでの間ここの砦で過ごされるのが良いでしょう。私もいますし砦の者には貴女に一切の無礼がないように致します」
「? うん、ありがとう」
「それでは中に入りましょう」

 そう言ってレオンハルトが扉を開けると

『団長おかえりなさい!!!!!』

 屈強な男達の野太い声が一斉に響き渡った。

(耳が痛い……さすが軍人)

 あまりの声の大きさに咄嗟に耳を覆ったが意味はなかった。

「団長~待ってましたよ!」
「お疲れ様っした!」

 口々に笑顔でレオンハルトに話しかける男達を前にセルビアは完全に固まっている。生まれてこの方ここまで屈強な男達と接したことなどないセルビアにとってはまさに未知の経験だった。内心パニックになりかけて思わずレオンハルトの袖を引っ張ってしまったのは仕方ないことだろう。
 そんなセルビアの様子に気づいたレオンハルトが前に出た。

「お前らとりあえず落ち着け!!! 話は後で聞くからまずはこの方のことを話さねばならん」

 レオンハルトがそう言うと、男達の視線が一斉にセルビアに向いた。

「団長。ひょっとしてこちらの女性が例の?」
「ああ。詳しく話すから中に入れてくれ」
「あ、はい」
「くれぐれも無礼な態度は取るなよ」
『はっ!!!!!』
「キサラギ様どうぞ中へ」
「あ、うん」

 すっかり置いてけぼり状態で話が進み、そのまま中に入ったセルビアは一つの部屋に案内された。

「おかえりなさいませ、団長」
「カミロ。お前もよく留守を守ってくれたな」
「いえ、これが俺の務めですから。……貴女がセルビア・キサラギ様ですね。ようこそ我が砦へ。私はカミロと申します。ここの砦の副団長を務めております。よろしくお願いします」

 すごく丁寧に挨拶された。

「セルビア・キサラギだよ。こちらこそよろしく」
「キサラギ様、砦の者達を集めて事情説明をしたいのですがよろしいでしょうか」
「うん。いくら手紙で知ってるとはいえ状況把握は必要だろうからね」
「ありがとうございます。カミロ、皆を集めろ」
「はい」
「キサラギ様もこちらへ」

 レオンハルトはそう言って砦の広い一室にセルビアを連れて行った。


 しばらくして砦の人達が全員集められた。誰もが一目で鍛えられているのがわかる。その中で女が一人。セルビアは明らかに浮いていた。

「改めて、こちらはセルビア・キサラギ様。聖女召喚の儀の際聖女様と共に召喚された女性だ。本来なら王城にて保護されるべきお方だが、彼女自身が国を出るとおっしゃったため、護衛としてここに戻った」
「何故国を出ると?」
「それは……」
「いいよ、私が話す」
「では……」

 セルビアは国を出ることを決めた経緯について隠すことなく話した。
 しばらく黙って聞いていた男達はセルビアが話し終えると同時に強烈な殺気を立たせた。

「ありえねえだろそれ」
「ああ、正気とは思えんな」
「勝手に召喚したのはこちらなのになんでそんなことができるんだか……」

 口々に正論をぶちまけてくださっているご様子の男達を見てセルビアは内心で感動していた。久しぶりにまともな集団に会えた、と。

「国の中枢がそんなんでこの国は大丈夫なのか?」
「大丈夫……ではないんじゃない?」
「キサラギ様?」
「大丈夫どころか今頃大騒ぎじゃないですかね」

 クスクスと笑うセルビアを見てレオンハルト以外の人間が全員首を傾げた。

「あの、できればご説明頂きたいのですが」
「実は……」

 セルビアが城を出る直前にやったことを話すと今度は皆が軽く引いたのは無理もないだろう。なかなかにえげつないことをやっているのだから。

「それは……なかなかに……」
「すごいですな……」
「でも、城の連中はこのくらいでよかったと思うな。キサラギ様に非はねえだろ」
「そうだな……んで、キサラギ様は国を出るってことだがいつ頃出てくんだ?」
「明日」
『明日!?』

 セルビアの言葉に全員が驚愕した。今日着いたばかりで明日の出発とは誰も思わなかったのだろう。

「おいおい、今日着いたばかりだろう」
「もう少しゆっくりしてったらどうだ?」
「ああ、いくらなんでも早すぎないか?」
「そうだけど……城の人間が私を探しにくるようなことになったら嫌だし~。他国に行けば簡単には手が出せないと思う。他国で一般人に紛れてしまえば探しづらくなる。ここの国境を越えたとしても必ずしも隣国にいるとは限らないし」
「それはそうだが……」
「しかし……」
「近年は魔物も増加しております。危険です」
「そうですが、こういうことは早いに越したことはないっしょ。それに私のことで貴方達が変な言いがかりをつけらてたら気分悪いし」
「キサラギ様……」

 しばらく沈黙が訪れた。危険さをわかっているからこそ誰も安易に頷かない。だがセルビアが引かないと悟り、男達は息を吐いた。

「セルビア様がそうお決めになったのなら」
「ああ、俺らに止める権利はねえ。元はと言えばこの国のせいだからな」
「貴女の下した決断ならばそれが最善なのでしょう」

 男達が次々に頷く中、レオンハルトが口を開いた。

「貴女に対する我が国の無礼の数々、誠に申し訳ありませんでした。貴女の下した決断に私達に否やはございません。本日はここで体を休めて下さい。その間に我々は貴女の旅の準備をしておきましょう」
「ありがと。でも旅の準備って?」
「ここの国境をを越え隣国シネラに入るには通行証もしくは通貨が必要になります。加えてシネラの国境に着くまで魔物に遭遇することもございましょう。なので資金と共に対魔物用の武器などをご用意したく」
「国境越えの通貨っていくら?」
「銀貨五枚です」

 この世界の通貨は四種類で大金貨、金貨、銀貨、銅貨で銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚。そして金貨が百枚で大金貨一枚になる。銅貨一枚で百円くらいだ。ただし大金貨は貴族しか持っていない。平民の生活は大体銀貨で事足りるのだ。

「なら、銀貨二十枚貰えれば大丈夫だよ。魔物対策とやらもいらない」
「は? ですが、それでは……」
「キサラギ様さすがにそれは無理がございます。そんな少量のお金ではすぐに無くなりますし、魔物の対策がなければ命に関わります」
「問題ないよ。飛んで行くから」
『飛ぶっ!?』
「うん。あとは明日のお楽しみ」
「いやいやいや! 無理あるって!」
「そうっすよ!」

 ごもっともだろう。シネラの国境までは森があり国境につくのに三日はかかる。それを飛んで行くというのは明らかに無理がある。普通であれば。

「無理かどうかは明日になればわかるよ。いくら危険といえども私の護衛として貴方達がここを離れるわけにはいかんし。それにお金だって軍の資金を削らせるのは申し訳ないから、銀貨二十枚貰えればあとは向こうで手に職つければ生活資金は稼げますし」
「ですが……無謀では?」
「もう決めたこと」
「……分かりました。銀貨二十枚用意しましょう」
「ありがとう」

 セルビアが満面の笑みを浮かべた時、お腹が盛大に音を立てた。

『……』

 あたりに訪れる静寂に耐えられなくなったセルビアは笑顔を保ったまま。

「お腹すいた~」

 途端にあたりに響き渡る男達の笑い声にセルビアも釣られて笑っていた。




 





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