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始まりの章
2話 理不尽すぎません!?
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翌日からセルビア・キサラギとしての生活が始まった。とりあえず様子見をすることにしたセルビアはレオンハルトからこの国のことを聞き出す。
「まずこの世界の一般常識、教えてください」
「かしこまりました」
それからレオンハルトはこの国の成り立ちや文化、通貨などセルビアが質問した全てに答えていった。質問をしていくうち、ふと思った。
(ここまでいろんな知識があるということは十中八九貴族だろうな。振る舞いにも品がある)
実はセルビアがした質問には平民には答えられないだろうものも多くあったのだがレオンハルトは平然と答えていた。
(まあなんでもいいわ、必要事項が聞ければ関係ない)
「ありがとう、とりあえずはこんなもんで」
「はい、何かあればいつでもお聞きください」
(誠実な男。気高く、清廉だ)
セルビアが心の中で彼を称えたその時、ノックが聞こえメイドが顔を出した。その手にはバゲットらしきものがあった。
「失礼します、お食事です」
そう言うとメイドはこちらを見て薄っすらと口元を歪ませた。本当に分からない程の微笑だったがセルビアには分かった。そしてそこにある感情が嘲りだということも。
(嫌な予感)
レオンハルトが食事を受け取り持ってきた。
「食べたら呼ぶから」
「かしこまりました」
嫌な予感だったためレオンハルトを追い出し、バゲットにかかった布を取ると案の定まともなものではなかった。中身は硬そうなパンと見るからに冷え切ったスープと僅かなチーズのみ。
(うわ~お。予想を外さないね~メイド共よ、グルかい)
メイドの持ってきた食事を見て場違いにも少々感動した緋夜はおそらく現実逃避をしたのだろう。せっかくだし、と一応スープに口をつけたセルビアはしばし固まった。
(クソ不味い……)
薄いどころか味がほとんどなく具材も入っていない、言ってしまえば色のついた水だ。流石にこれはないだろう。
結局ほとんど残してしまったセルビアはほんの少し落ち込んでいる。見知らぬ世界に召喚されて右も左も分からない人間に対してのこの仕打ち。理不尽と言わざるを得ないだろう。
その日はそのまま終えてしまい、ろくに眠れもせず朝を迎えた。
そして朝食、昨日と全く同じメニューだった。拒否したかったが食べなければいつか倒れる。セルビアは心を殺し不味い食事を無心で完食した。
「キサラギ様、本日は散歩に出られてはいかがでしょう。お部屋に篭りきりではよくありませんし」
セルビアを心配してか、レオンハルトが散歩を進めてきた。確かに引きこもりは良くない上、彼女自身あまり部屋に籠る性格でもなかった。本を読むにしても公園や木の上、屋上などいろいろな場所で読書をしていたので、部屋のこもった空気が苦手なのである。セルビアは少し考えてレオンハルトの提案を受け入れることにした。
「じゃあ行こうかな」
セルビアはこの世界に来て初めての外の空気に触れることを楽しみにしながら外へ出た。
外はとても綺麗だった。王城内ということもあるだろうが整えられた庭と建物がまるで絵画のように美しい。
とりあえず、いろいろ歩いてみることにしたセルビアの後ろをレオンハルトが黙ってついてくる。
ふと目に止まったのは剣を交える騎士達だった。
「ここは騎士団の訓練場ですね」
レオンハルトに説明されセルビアは少しばかり騎士達の方に視線を向けていた。すると視線に気づいた一人の騎士と目が合ったためセルビアが軽くお辞儀をすると騎士達がこちらに歩いてくる。
(おっ……と? これは……)
これから起こりそうなことにセルビアが半目になっていると騎士達が目の前までやってきた。
「これはこれはレオンハルト様、あなたのような方が一体このような場所に何用でしょう?」
明らかに見下してくる騎士達にレオンハルトは反応を示さない。そんなレオンハルトをセルビアは少し観察することにした。
「てっきり、聖女様の護衛を外され辺境に戻ったものと思っておりましたが・・・・・・」
「まさか、このご令嬢の護衛になっていたとは・・・・・・実に憐れですな」
(ご令嬢? どういうこと? 私が聖女と一緒に召喚された人間って知らないのかな)
疑問を覚えている間も騎士達の発言は続いていたがそのことに一切反応見せないレオンハルトに苛立ったのか、先程セルビアと目が合った騎士がこちらを向きあからさまに見下した笑みを浮かべた。
「あなた様はいつまでこちらにおいでで? お国へ帰られないのですか? いえ失礼しました。帰れないのでしたな」
(なんでこんな見下されないといけないのかな。あとペラペラうるさい)
これが騎士と呼ばれる連中か、と不快に感じながらも笑顔を浮かべるセルビアに何を思ったのか、騎士は更に笑みを深くした。
「国から追い出されるなど一体何をやったのやら……貴族であるにも関わらず品位を疑いますね」
そこでセルビアは気づいた。どうやら上の人間は私を異世界の人間であることを隠すために他国から来た令嬢だ、とでも言ったのだろう。そして詳細は説明しなかったに違いない。要するに詳細がない→詳細を説明できない→訳あり→罪を犯して国外追放された、となったというわけだ。あの物置小屋のような場所にいることがその噂に拍車をかけたのだろう。
(あの食事も要は広まった噂を鵜呑みにした連中の暴走ってわけか。それを訂正しないのは単に面倒だからか、それとも……いずれにしろ城の人間達の態度の理由が分かった)
理由さえ分かれば対策はいくらでもあるが、セルビアはあえて対応しないことにした。
(動くのは今じゃない。彼らにとって最悪の状況でないと意味がないもの)
湧き出る怒りを抑え笑顔を浮かべる。ドラマでもセルビアの任務中にこんなシーンあったな、と思いながらも目の前の騎士に意識を向ける。
「失礼ながら今のあなたにはこの王城は不釣り合いかと存じますが、貴族の感覚が抜けていないようですね? あなたのような身の程知らずがうろついていい場所ではっゴフッッッッ!!!!!」
突如ペラペラと喋っていた騎士が声を上げて吹っ飛び、飛ばされた方向にいた騎士達共々壁に叩きつけられた。
(人間って本当に吹っ飛ぶのね)
こんな状況においても場違いな感動をするセルビアの隣でレオンハルトが氷の視線で騎士達を見ていた。その様子から吹っ飛ばした犯人はレオンハルトだろうことは明確だった。
「騎士の風上にもおけんな。ましてやこのお方を侮辱するとは万死に値する」
殺気の孕んだ絶対零度の眼差しにそばにいた騎士が数人倒れた。
(レオンハルトさん本当に視線で人殺せるかもしれない。でもこの程度で倒れるって……大丈夫かこいつら。たぶん下っ端だろうけど)
「キサラギ様、申し訳ありません。騎士ともあろう者達がとんだ無礼を致しました」
倒れた騎士達には目もくれずセルビアに謝罪するレオンハルトへの評価が更に上がる。
「あ、気にしてないんで。大丈夫です」
(むしろ私への無礼っていうよりもあなたへの無礼の方がはるかに問題な気がするけどな)
セルビアの言葉に頭を上げるレオンハルトの目には申し訳なさが全力で現れていた。セルビアそんなレオンハルトに笑顔を向け腕を取って歩き出す。
(レオンハルトさんありがとう、ごめんなさいも許しても言わないけど貴方を信じるよ)
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
騎士達を気絶させたままセルビアはレオンハルトと共に王城内を見て回っていた。中庭のような場所に来た時、咄嗟にレオンハルトの腕を掴んで木の影に隠れた。
「キサラギ様?」
セルビアは口に指を当てて視線を向ける。それを追ってレオンハルトも視線を向けるとそこには綺麗に着飾られた女の子が数人の男性に囲まれていた。その中にはあの時女の子に手を差し出した男性もいたためおそらく護衛もしくは後見人だろう。
「レオンハルトさん、あの人達誰?」
「あれはこの国の第一王子ルドルフ様とその側近です」
「そうですか」
王子の側近に囲まれている女の子を見て酷い扱いを受けていないことに心の中で安堵しつつ見ていると一人の男性がこちらに向かって歩いてきた。
「こんなところで何をしている?」
とても冷たい声を容赦なくセルビアに浴びせる男性は召喚の場にいた人の一人だった。男性は明らかに侮蔑の眼差しを向けており、まるで害虫でも相手にしているかのような態度だった。
普通の人ならば怯えるほどだったがセルビアには全く通用しない。むしろ膨れ上がる怒りを抑えるのに苦労しつつも完璧な笑顔で対峙する。
「何って? ただ散歩をしていただけだけど? いつまでも部屋にこもってても仕方ないし、折角こちらに来たんだから閉じこもってんのは勿体なくね?」
完全に敬語を外し、にこやかに告げられ男性は一瞬たじろいだが更に冷めた視線を緋夜に向ける。
「ふん、役立たずの分際で随分と偉そうだな。少しは身の程を弁えろ。聖女様には今後一切近づくな」
「え~それは無理。聖女様がいつどこにいるか分からない状況で近づくなって……街中で嫌いな人とたまたま会っただけで俺の視界に入るなって言ってるようなものだよ?」
「黙れ」
「嫌だ」
「貴様っ……」
そんなやり取りをしているといつの間にかレオンハルトが緋夜の一歩前に出ていた。
「このお方を侮辱するのはやめろ」
「なんだレオンハルト、やけに庇うな? この女は魔力すらない無能だぞ。聖女様の盾になることすらできないだろう。そんな存在を聖女様と同等に扱う必要があるのか? セフィロスに無能は必要ないんだよ」
(おい? 無礼ってレベルじゃないよこれ)
あたりの空気が急激に冷えていくなか、それに気づいた女の子達と目が合った。ちょっと煽ってやろうと、睨み合う二人を無視し女の子に向かって手を振るセルビアに気づいた王子達がこちらを睨んできた。女の子はこちらに来ようとしていたが王子がそれを阻止しそれに気づいた男性がセルビアから女の子を隠した。
「無礼な女だな。貴様如きが聖女様に軽々しくするな。早々に立ち去れ!」
その言葉に剣の柄に手を添えたレオンハルトを視線で止め、踵を返すセルビアは振り返り、にこやかに手を振って歩き出すのをレオンハルトは黙ってついてくる。
「よろしいのですか? キサラギ様」
「うん、大丈夫。私のために怒ってくれてありがとね」
そう笑顔で返した緋夜だが内心は相当にダメージを受けていた。
(なんなのこれ……マジふざけんなよ。ああ……映画の撮影でアメリカにいるお父さん、パリコレのモデルとしてフランスにいるお母さんそして今もどこかでピアノとヴァイオリンをを弾いているであろう空兄と月兄……本当に暴走そうです。私の心を保つ手助けをしてください)
異世界生活は非常に前途多難である……。
「まずこの世界の一般常識、教えてください」
「かしこまりました」
それからレオンハルトはこの国の成り立ちや文化、通貨などセルビアが質問した全てに答えていった。質問をしていくうち、ふと思った。
(ここまでいろんな知識があるということは十中八九貴族だろうな。振る舞いにも品がある)
実はセルビアがした質問には平民には答えられないだろうものも多くあったのだがレオンハルトは平然と答えていた。
(まあなんでもいいわ、必要事項が聞ければ関係ない)
「ありがとう、とりあえずはこんなもんで」
「はい、何かあればいつでもお聞きください」
(誠実な男。気高く、清廉だ)
セルビアが心の中で彼を称えたその時、ノックが聞こえメイドが顔を出した。その手にはバゲットらしきものがあった。
「失礼します、お食事です」
そう言うとメイドはこちらを見て薄っすらと口元を歪ませた。本当に分からない程の微笑だったがセルビアには分かった。そしてそこにある感情が嘲りだということも。
(嫌な予感)
レオンハルトが食事を受け取り持ってきた。
「食べたら呼ぶから」
「かしこまりました」
嫌な予感だったためレオンハルトを追い出し、バゲットにかかった布を取ると案の定まともなものではなかった。中身は硬そうなパンと見るからに冷え切ったスープと僅かなチーズのみ。
(うわ~お。予想を外さないね~メイド共よ、グルかい)
メイドの持ってきた食事を見て場違いにも少々感動した緋夜はおそらく現実逃避をしたのだろう。せっかくだし、と一応スープに口をつけたセルビアはしばし固まった。
(クソ不味い……)
薄いどころか味がほとんどなく具材も入っていない、言ってしまえば色のついた水だ。流石にこれはないだろう。
結局ほとんど残してしまったセルビアはほんの少し落ち込んでいる。見知らぬ世界に召喚されて右も左も分からない人間に対してのこの仕打ち。理不尽と言わざるを得ないだろう。
その日はそのまま終えてしまい、ろくに眠れもせず朝を迎えた。
そして朝食、昨日と全く同じメニューだった。拒否したかったが食べなければいつか倒れる。セルビアは心を殺し不味い食事を無心で完食した。
「キサラギ様、本日は散歩に出られてはいかがでしょう。お部屋に篭りきりではよくありませんし」
セルビアを心配してか、レオンハルトが散歩を進めてきた。確かに引きこもりは良くない上、彼女自身あまり部屋に籠る性格でもなかった。本を読むにしても公園や木の上、屋上などいろいろな場所で読書をしていたので、部屋のこもった空気が苦手なのである。セルビアは少し考えてレオンハルトの提案を受け入れることにした。
「じゃあ行こうかな」
セルビアはこの世界に来て初めての外の空気に触れることを楽しみにしながら外へ出た。
外はとても綺麗だった。王城内ということもあるだろうが整えられた庭と建物がまるで絵画のように美しい。
とりあえず、いろいろ歩いてみることにしたセルビアの後ろをレオンハルトが黙ってついてくる。
ふと目に止まったのは剣を交える騎士達だった。
「ここは騎士団の訓練場ですね」
レオンハルトに説明されセルビアは少しばかり騎士達の方に視線を向けていた。すると視線に気づいた一人の騎士と目が合ったためセルビアが軽くお辞儀をすると騎士達がこちらに歩いてくる。
(おっ……と? これは……)
これから起こりそうなことにセルビアが半目になっていると騎士達が目の前までやってきた。
「これはこれはレオンハルト様、あなたのような方が一体このような場所に何用でしょう?」
明らかに見下してくる騎士達にレオンハルトは反応を示さない。そんなレオンハルトをセルビアは少し観察することにした。
「てっきり、聖女様の護衛を外され辺境に戻ったものと思っておりましたが・・・・・・」
「まさか、このご令嬢の護衛になっていたとは・・・・・・実に憐れですな」
(ご令嬢? どういうこと? 私が聖女と一緒に召喚された人間って知らないのかな)
疑問を覚えている間も騎士達の発言は続いていたがそのことに一切反応見せないレオンハルトに苛立ったのか、先程セルビアと目が合った騎士がこちらを向きあからさまに見下した笑みを浮かべた。
「あなた様はいつまでこちらにおいでで? お国へ帰られないのですか? いえ失礼しました。帰れないのでしたな」
(なんでこんな見下されないといけないのかな。あとペラペラうるさい)
これが騎士と呼ばれる連中か、と不快に感じながらも笑顔を浮かべるセルビアに何を思ったのか、騎士は更に笑みを深くした。
「国から追い出されるなど一体何をやったのやら……貴族であるにも関わらず品位を疑いますね」
そこでセルビアは気づいた。どうやら上の人間は私を異世界の人間であることを隠すために他国から来た令嬢だ、とでも言ったのだろう。そして詳細は説明しなかったに違いない。要するに詳細がない→詳細を説明できない→訳あり→罪を犯して国外追放された、となったというわけだ。あの物置小屋のような場所にいることがその噂に拍車をかけたのだろう。
(あの食事も要は広まった噂を鵜呑みにした連中の暴走ってわけか。それを訂正しないのは単に面倒だからか、それとも……いずれにしろ城の人間達の態度の理由が分かった)
理由さえ分かれば対策はいくらでもあるが、セルビアはあえて対応しないことにした。
(動くのは今じゃない。彼らにとって最悪の状況でないと意味がないもの)
湧き出る怒りを抑え笑顔を浮かべる。ドラマでもセルビアの任務中にこんなシーンあったな、と思いながらも目の前の騎士に意識を向ける。
「失礼ながら今のあなたにはこの王城は不釣り合いかと存じますが、貴族の感覚が抜けていないようですね? あなたのような身の程知らずがうろついていい場所ではっゴフッッッッ!!!!!」
突如ペラペラと喋っていた騎士が声を上げて吹っ飛び、飛ばされた方向にいた騎士達共々壁に叩きつけられた。
(人間って本当に吹っ飛ぶのね)
こんな状況においても場違いな感動をするセルビアの隣でレオンハルトが氷の視線で騎士達を見ていた。その様子から吹っ飛ばした犯人はレオンハルトだろうことは明確だった。
「騎士の風上にもおけんな。ましてやこのお方を侮辱するとは万死に値する」
殺気の孕んだ絶対零度の眼差しにそばにいた騎士が数人倒れた。
(レオンハルトさん本当に視線で人殺せるかもしれない。でもこの程度で倒れるって……大丈夫かこいつら。たぶん下っ端だろうけど)
「キサラギ様、申し訳ありません。騎士ともあろう者達がとんだ無礼を致しました」
倒れた騎士達には目もくれずセルビアに謝罪するレオンハルトへの評価が更に上がる。
「あ、気にしてないんで。大丈夫です」
(むしろ私への無礼っていうよりもあなたへの無礼の方がはるかに問題な気がするけどな)
セルビアの言葉に頭を上げるレオンハルトの目には申し訳なさが全力で現れていた。セルビアそんなレオンハルトに笑顔を向け腕を取って歩き出す。
(レオンハルトさんありがとう、ごめんなさいも許しても言わないけど貴方を信じるよ)
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
騎士達を気絶させたままセルビアはレオンハルトと共に王城内を見て回っていた。中庭のような場所に来た時、咄嗟にレオンハルトの腕を掴んで木の影に隠れた。
「キサラギ様?」
セルビアは口に指を当てて視線を向ける。それを追ってレオンハルトも視線を向けるとそこには綺麗に着飾られた女の子が数人の男性に囲まれていた。その中にはあの時女の子に手を差し出した男性もいたためおそらく護衛もしくは後見人だろう。
「レオンハルトさん、あの人達誰?」
「あれはこの国の第一王子ルドルフ様とその側近です」
「そうですか」
王子の側近に囲まれている女の子を見て酷い扱いを受けていないことに心の中で安堵しつつ見ていると一人の男性がこちらに向かって歩いてきた。
「こんなところで何をしている?」
とても冷たい声を容赦なくセルビアに浴びせる男性は召喚の場にいた人の一人だった。男性は明らかに侮蔑の眼差しを向けており、まるで害虫でも相手にしているかのような態度だった。
普通の人ならば怯えるほどだったがセルビアには全く通用しない。むしろ膨れ上がる怒りを抑えるのに苦労しつつも完璧な笑顔で対峙する。
「何って? ただ散歩をしていただけだけど? いつまでも部屋にこもってても仕方ないし、折角こちらに来たんだから閉じこもってんのは勿体なくね?」
完全に敬語を外し、にこやかに告げられ男性は一瞬たじろいだが更に冷めた視線を緋夜に向ける。
「ふん、役立たずの分際で随分と偉そうだな。少しは身の程を弁えろ。聖女様には今後一切近づくな」
「え~それは無理。聖女様がいつどこにいるか分からない状況で近づくなって……街中で嫌いな人とたまたま会っただけで俺の視界に入るなって言ってるようなものだよ?」
「黙れ」
「嫌だ」
「貴様っ……」
そんなやり取りをしているといつの間にかレオンハルトが緋夜の一歩前に出ていた。
「このお方を侮辱するのはやめろ」
「なんだレオンハルト、やけに庇うな? この女は魔力すらない無能だぞ。聖女様の盾になることすらできないだろう。そんな存在を聖女様と同等に扱う必要があるのか? セフィロスに無能は必要ないんだよ」
(おい? 無礼ってレベルじゃないよこれ)
あたりの空気が急激に冷えていくなか、それに気づいた女の子達と目が合った。ちょっと煽ってやろうと、睨み合う二人を無視し女の子に向かって手を振るセルビアに気づいた王子達がこちらを睨んできた。女の子はこちらに来ようとしていたが王子がそれを阻止しそれに気づいた男性がセルビアから女の子を隠した。
「無礼な女だな。貴様如きが聖女様に軽々しくするな。早々に立ち去れ!」
その言葉に剣の柄に手を添えたレオンハルトを視線で止め、踵を返すセルビアは振り返り、にこやかに手を振って歩き出すのをレオンハルトは黙ってついてくる。
「よろしいのですか? キサラギ様」
「うん、大丈夫。私のために怒ってくれてありがとね」
そう笑顔で返した緋夜だが内心は相当にダメージを受けていた。
(なんなのこれ……マジふざけんなよ。ああ……映画の撮影でアメリカにいるお父さん、パリコレのモデルとしてフランスにいるお母さんそして今もどこかでピアノとヴァイオリンをを弾いているであろう空兄と月兄……本当に暴走そうです。私の心を保つ手助けをしてください)
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