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五頁 孤立したホオズキ
73話 真の嘘つきは
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心の底からの嘲弄を浮かべた。
「何笑っているわけ? そんな状態でまだ何かあるっていうの?」
それではみなさんお待ちかね! ネタばらしといこうか。
「君の計画を知ったとき、私とオルニス公子で阻止するための算段を立てた」
「はあ?」
「君の標的は私と町だ。暗殺するなら町が混乱しているときが一番動きやすいだろうことは明白。それならば私自身を囮にしている間に魔法術式を書き換えればいい。場所は手伝いをしたときにおおよその検討はつけられた。術式の書き換えはそれほど難しいものでもないからな」
「嘘だ! そんなにうまくいくものか! ほんとうに術式を書き換えたのならなんで燃えているんだよ!」
「それは魔術師に頼んだのだ。彼にこのことを話したら真っ青になりながら協力してくれてな。だが魔術師はその際、施した魔術が書き換えられた痕跡があると言っていた」
「術式を元に戻し、音と光の魔術を追加させた。……君が上手くいったと勝手に思い違いをしてくれるように。もちろんそれなりに時間が必要になる。だからあえて君の手に堕ち、意識を向けさせたということだ」
あり得ないものを見るような目で俺とアウルを交互に目を動かした。
「はあぁぁぁっ!!??? 自ら囮になったわけ? 馬鹿じゃねえの!?」
「俺も囮になる作戦は反対したんだが、アクナイト公子は意見を変えなかったものでな」
そのほうが手間が省けるんだからいいじゃん。刃物向けられるのは怖いけど町が燃えるのはごめんだし、なによりもホオズキをそんなことに使われるのは我慢ならない。どうせ狙われているんだ。ホオズキを守るためなら多少の不利益くらいなんてことないんだよ。ついでに町にも被害を出すのも後が面倒だしね。町のためとか国のためとか、そんなもの現代日本の一般市民の意識が強く残っている人間に期待されても困る。
俺とアウルの解説という名の刃にヌカヅキの顔色が面白いくらい変わった。
「じゃあ、町は…………」
「傷一つついていないし怪我人一人いない」
途端ヌカヅキは傷を負うのも気に留めずアウルに体当たりを食らわせ一瞬の隙をついて俺たちから距離を取った。その顔は憤怒と憎悪に染まっている。
「ほんっとに………………ムカつくなぁアンタらは! この程度で勝った気でいるんじゃねえよ!」
感情に呼応するようにヌカヅキの体から膨大な魔力が膨れ上がるのを感じた。あ~まずいな、暴走しかけているのかもしれない。魔力は自然エネルギーそのものだ。たとえ生物に宿っていようとそれは変わらない。そして人間の体はそのエネルギーに耐えられるほどの強度はない。だから制御する方法を学ぶ必要があるのだ。人間が生存本能によって無意識に力を制限しているのと同じように魔力も無意識にリミッターをかけている。魔力量と属性には個人差があるけど魔力量が多い人ほど制御が難しい。そして魔力の暴走はそのリミッターが外れることを意味する。その先に迎える末路は——死。
だけどこの段階ならほんの少し意識を逸らしてやれば制圧は可能だ。この状況で意識を逸らす一番手っ取り早い方法は、一発殴ること。脳筋と思われるかもしれないが呑気な事言っていられない……っていうか早いところ手当てしないと俺の傷口が大変なことになるし、さっさと終わらせましょうか。
「俺が相手をしよう。君はそこにいてくれ。そんな状態で動いてはいけない」
あ、はーい。今の自分では役立たずであることは百も承知です。それに今この中で一番体力残っているのはおそらくアウルだろう。
ヌカヅキから奪った武器をちゃっかり俺に預けてさっさとヌカヅキを制圧しに行った。多分相手が丸腰だからっていう理由だと思うけど向こうは暴走しかかっているんだから武器持っていても問題ないと思うけど……律儀なことで。
暴走する魔力を自分の魔法で相殺しながらあっさりとヌカヅキの間合いに入り込み奴の腹に躊躇いなく拳を叩きこんだ。ヌカヅキはまたもや木にぶつかり、暴走はあっさりと収まる。だけどやっぱアウルって強いよね。ちょっとばかり嫉妬してしまいそうだ。
「ぐはっ……!? ゲホゴホッ……! はあっ……はあっ……アンタ、ほんとに手加減なさすぎでしょ」
「生憎とあのまま暴走させて死なせるわけにはいかないからな」
「君にはまだ吐いてもらわないといけないこともある。それに暴走しかけた以上しばらく動けないのだから大人しくしていろ」
「ちっ……わかったよ。めっちゃ体重いし指一本まともに動かせないわ。これじゃあ反撃したくてもできないからなぁ。大人しくしておくよ」
本当に動けないのか地面に仰向けになった。ヌカヅキが動かないとわかったらなんか俺も気が抜けてきた。でもまた倒れるわけにはいかない。肝心な情報も引き出せていないし、今までの会話で気になる点もある。それにアウルの前でぶっ倒れるのはごめんだ。……って、あのアウルさん? 真顔でこっちに来てどうしたんですか?
「前回といい今回といい君は本当に無茶をするな。こんなに切り傷だらけになって挙句の果てに太ももに木の枝を突き立てるなんていったい何を考えているんだか」
「私が好きで面倒ごとを引き起こしているとでも思っているんですか? 傷を負うのも面倒ごとに関わるのも心の底から嫌いなのですよ」
「……その割には随分と積極的に動いていたように思うんだが」
「気のせいでしょう」
すみません無茶した自覚あります。だって普段なら絶対にこんなことはやりません。うぅ……めっちゃズキズキする。
その時アウルが俺のそばにしゃがみ込んで俺の膝裏に手を入れてそっと持ち上げる。いろいろな意味で一番酷いであろう枝で作った刺し傷をじっと見つめた後、それはもう深々とため息を吐きカバンを俺に手渡してきた。どうせ荷物は取られるだろうからと思ってアウルに持っていてもらったのだ。この中には前回のことがよほど堪えたらしいサリクスが薬や包帯その他諸々を詰め込んだのである。できれば使いたくなかったなぁ……。
「まったく。……その中に傷薬は入っているか?」
「ええ、嫌味なほどに」
ゴソゴソとカバンを漁り、傷薬を取り出す。治療用の魔法薬だ。これは傷を塞ぐというよりも本人の魔力を利用して治癒の力に変換するというものであるため、魔力量の少ない人間には効果が薄いという欠点がある。まあ怪我の程度にもよるんだけどね。
俺は瓶の蓋を開けて一番深傷を負っている太ももにかける。これまた超~痛いんだけど。残りの傷は……うん、ちまちまかけるの面倒だし頭からぶっかけちゃえ。
「ア、アクナイト公子……」
「うわぁ~……」
問答無用で次々と頭から流していく様を見えていたアウルとヌカヅキが何やら引いている気がしたが、俺の知ったことではない。傷の手当ての方が大事だ。頭から伝っていった液体は傷口に染み込んでいきかなりの痛みと魔力を消費をもって傷口を癒していく。なんで怪我の治療でこんな痛みを経験しないといけないのか心の底から物申したいところだけど。……これでよし。
「あの魔法薬を頭からぶっかけるとか……アクナイトのお坊ちゃまって実は異常者?」
「……」
ほんとに口が減らねえ野郎だな! そんでもってなんで静かに目を逸らすのかなアウルさんよ。はあ……まあいいや。
それにしてもサリクスは本当に優秀だな。体内浄化用の魔法薬も入っているとは。これは言ってしまえば万能解毒薬みたいなものだ。ついでにこれも飲んでおこう。
「そんなものまで用意してあるとか……なるほどそれがあるからあんなイカれ行動をとったわけだ」
「ふん、騒々しい平民だな」
人のことをあーだこーだ言っている場合かよ。ぶっちゃけこの中で一番危ないのはこいつだというのに。暗殺なんて引き受けるんだから失敗した際の末路なんて承知しているんだろうけど、生まれ変わっても利用されるなんてさすがに哀れだ。だけど前世については知る必要はないとも思う。『少年と嘘』の真実はヌカヅキが言った通りとして、その真実の中でもさらにとびきりの悪党、諸悪の根源である真の嘘つきは——
だが、それとこれと話は別だ。
「そんなに喋りたいのならせめて有益な情報でも話してもらおう」
「いいよ。ぶっちゃけ俺守秘義務とか知ったことじゃねえし、つーか計画をぶっ壊された時点でなにもかもどう~でもいいし」
やけに素直だな。だけどその前にやらなきゃならないことがある。
「その前に君が依頼主から借り受けた無属性魔法が付与された物があるはずだ。それを出せ」
「なんで?」
「いいから早くしろ」
「……わかったよ。でも今体動かないからアンタが取り出してよ。ネックレスになっているからさ」
「……いいだろう。オルニス公子は下がっていてください。先ほどは前に出させてしまいましたが、貴方は他国の人間です。我が国の民に手出しさせるわけにはいきません」
「だが君も危険だろう。俺は問題ないが?」
「そういうわけにはいきません。お下がりください」
「……はあ、君は一度言い出したら聞かないからな」
呆れ笑いを浮かべながらアウルは俺から数歩下がった。たぶん俺の顔を立てる意味も踏まえて引いてくれたんだろう。よかった、これ以上アウルの前で無様は晒したくないし。
静かにヌカヅキへ歩み寄り首から見える紐に手をかけたその時、
——駄目だよ——
「……は?」
どこからともなく声が聞こえた。ほぼ条件反射だったと思う。即座に紐から手を離しヌカヅキから距離を取った。……結果としてそれはこの上ないほどの英断だったと知る。
「ぐっあ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!」
離れた直後ヌカヅキの体が激しい炎に包まれたことを考えたら。
「何笑っているわけ? そんな状態でまだ何かあるっていうの?」
それではみなさんお待ちかね! ネタばらしといこうか。
「君の計画を知ったとき、私とオルニス公子で阻止するための算段を立てた」
「はあ?」
「君の標的は私と町だ。暗殺するなら町が混乱しているときが一番動きやすいだろうことは明白。それならば私自身を囮にしている間に魔法術式を書き換えればいい。場所は手伝いをしたときにおおよその検討はつけられた。術式の書き換えはそれほど難しいものでもないからな」
「嘘だ! そんなにうまくいくものか! ほんとうに術式を書き換えたのならなんで燃えているんだよ!」
「それは魔術師に頼んだのだ。彼にこのことを話したら真っ青になりながら協力してくれてな。だが魔術師はその際、施した魔術が書き換えられた痕跡があると言っていた」
「術式を元に戻し、音と光の魔術を追加させた。……君が上手くいったと勝手に思い違いをしてくれるように。もちろんそれなりに時間が必要になる。だからあえて君の手に堕ち、意識を向けさせたということだ」
あり得ないものを見るような目で俺とアウルを交互に目を動かした。
「はあぁぁぁっ!!??? 自ら囮になったわけ? 馬鹿じゃねえの!?」
「俺も囮になる作戦は反対したんだが、アクナイト公子は意見を変えなかったものでな」
そのほうが手間が省けるんだからいいじゃん。刃物向けられるのは怖いけど町が燃えるのはごめんだし、なによりもホオズキをそんなことに使われるのは我慢ならない。どうせ狙われているんだ。ホオズキを守るためなら多少の不利益くらいなんてことないんだよ。ついでに町にも被害を出すのも後が面倒だしね。町のためとか国のためとか、そんなもの現代日本の一般市民の意識が強く残っている人間に期待されても困る。
俺とアウルの解説という名の刃にヌカヅキの顔色が面白いくらい変わった。
「じゃあ、町は…………」
「傷一つついていないし怪我人一人いない」
途端ヌカヅキは傷を負うのも気に留めずアウルに体当たりを食らわせ一瞬の隙をついて俺たちから距離を取った。その顔は憤怒と憎悪に染まっている。
「ほんっとに………………ムカつくなぁアンタらは! この程度で勝った気でいるんじゃねえよ!」
感情に呼応するようにヌカヅキの体から膨大な魔力が膨れ上がるのを感じた。あ~まずいな、暴走しかけているのかもしれない。魔力は自然エネルギーそのものだ。たとえ生物に宿っていようとそれは変わらない。そして人間の体はそのエネルギーに耐えられるほどの強度はない。だから制御する方法を学ぶ必要があるのだ。人間が生存本能によって無意識に力を制限しているのと同じように魔力も無意識にリミッターをかけている。魔力量と属性には個人差があるけど魔力量が多い人ほど制御が難しい。そして魔力の暴走はそのリミッターが外れることを意味する。その先に迎える末路は——死。
だけどこの段階ならほんの少し意識を逸らしてやれば制圧は可能だ。この状況で意識を逸らす一番手っ取り早い方法は、一発殴ること。脳筋と思われるかもしれないが呑気な事言っていられない……っていうか早いところ手当てしないと俺の傷口が大変なことになるし、さっさと終わらせましょうか。
「俺が相手をしよう。君はそこにいてくれ。そんな状態で動いてはいけない」
あ、はーい。今の自分では役立たずであることは百も承知です。それに今この中で一番体力残っているのはおそらくアウルだろう。
ヌカヅキから奪った武器をちゃっかり俺に預けてさっさとヌカヅキを制圧しに行った。多分相手が丸腰だからっていう理由だと思うけど向こうは暴走しかかっているんだから武器持っていても問題ないと思うけど……律儀なことで。
暴走する魔力を自分の魔法で相殺しながらあっさりとヌカヅキの間合いに入り込み奴の腹に躊躇いなく拳を叩きこんだ。ヌカヅキはまたもや木にぶつかり、暴走はあっさりと収まる。だけどやっぱアウルって強いよね。ちょっとばかり嫉妬してしまいそうだ。
「ぐはっ……!? ゲホゴホッ……! はあっ……はあっ……アンタ、ほんとに手加減なさすぎでしょ」
「生憎とあのまま暴走させて死なせるわけにはいかないからな」
「君にはまだ吐いてもらわないといけないこともある。それに暴走しかけた以上しばらく動けないのだから大人しくしていろ」
「ちっ……わかったよ。めっちゃ体重いし指一本まともに動かせないわ。これじゃあ反撃したくてもできないからなぁ。大人しくしておくよ」
本当に動けないのか地面に仰向けになった。ヌカヅキが動かないとわかったらなんか俺も気が抜けてきた。でもまた倒れるわけにはいかない。肝心な情報も引き出せていないし、今までの会話で気になる点もある。それにアウルの前でぶっ倒れるのはごめんだ。……って、あのアウルさん? 真顔でこっちに来てどうしたんですか?
「前回といい今回といい君は本当に無茶をするな。こんなに切り傷だらけになって挙句の果てに太ももに木の枝を突き立てるなんていったい何を考えているんだか」
「私が好きで面倒ごとを引き起こしているとでも思っているんですか? 傷を負うのも面倒ごとに関わるのも心の底から嫌いなのですよ」
「……その割には随分と積極的に動いていたように思うんだが」
「気のせいでしょう」
すみません無茶した自覚あります。だって普段なら絶対にこんなことはやりません。うぅ……めっちゃズキズキする。
その時アウルが俺のそばにしゃがみ込んで俺の膝裏に手を入れてそっと持ち上げる。いろいろな意味で一番酷いであろう枝で作った刺し傷をじっと見つめた後、それはもう深々とため息を吐きカバンを俺に手渡してきた。どうせ荷物は取られるだろうからと思ってアウルに持っていてもらったのだ。この中には前回のことがよほど堪えたらしいサリクスが薬や包帯その他諸々を詰め込んだのである。できれば使いたくなかったなぁ……。
「まったく。……その中に傷薬は入っているか?」
「ええ、嫌味なほどに」
ゴソゴソとカバンを漁り、傷薬を取り出す。治療用の魔法薬だ。これは傷を塞ぐというよりも本人の魔力を利用して治癒の力に変換するというものであるため、魔力量の少ない人間には効果が薄いという欠点がある。まあ怪我の程度にもよるんだけどね。
俺は瓶の蓋を開けて一番深傷を負っている太ももにかける。これまた超~痛いんだけど。残りの傷は……うん、ちまちまかけるの面倒だし頭からぶっかけちゃえ。
「ア、アクナイト公子……」
「うわぁ~……」
問答無用で次々と頭から流していく様を見えていたアウルとヌカヅキが何やら引いている気がしたが、俺の知ったことではない。傷の手当ての方が大事だ。頭から伝っていった液体は傷口に染み込んでいきかなりの痛みと魔力を消費をもって傷口を癒していく。なんで怪我の治療でこんな痛みを経験しないといけないのか心の底から物申したいところだけど。……これでよし。
「あの魔法薬を頭からぶっかけるとか……アクナイトのお坊ちゃまって実は異常者?」
「……」
ほんとに口が減らねえ野郎だな! そんでもってなんで静かに目を逸らすのかなアウルさんよ。はあ……まあいいや。
それにしてもサリクスは本当に優秀だな。体内浄化用の魔法薬も入っているとは。これは言ってしまえば万能解毒薬みたいなものだ。ついでにこれも飲んでおこう。
「そんなものまで用意してあるとか……なるほどそれがあるからあんなイカれ行動をとったわけだ」
「ふん、騒々しい平民だな」
人のことをあーだこーだ言っている場合かよ。ぶっちゃけこの中で一番危ないのはこいつだというのに。暗殺なんて引き受けるんだから失敗した際の末路なんて承知しているんだろうけど、生まれ変わっても利用されるなんてさすがに哀れだ。だけど前世については知る必要はないとも思う。『少年と嘘』の真実はヌカヅキが言った通りとして、その真実の中でもさらにとびきりの悪党、諸悪の根源である真の嘘つきは——
だが、それとこれと話は別だ。
「そんなに喋りたいのならせめて有益な情報でも話してもらおう」
「いいよ。ぶっちゃけ俺守秘義務とか知ったことじゃねえし、つーか計画をぶっ壊された時点でなにもかもどう~でもいいし」
やけに素直だな。だけどその前にやらなきゃならないことがある。
「その前に君が依頼主から借り受けた無属性魔法が付与された物があるはずだ。それを出せ」
「なんで?」
「いいから早くしろ」
「……わかったよ。でも今体動かないからアンタが取り出してよ。ネックレスになっているからさ」
「……いいだろう。オルニス公子は下がっていてください。先ほどは前に出させてしまいましたが、貴方は他国の人間です。我が国の民に手出しさせるわけにはいきません」
「だが君も危険だろう。俺は問題ないが?」
「そういうわけにはいきません。お下がりください」
「……はあ、君は一度言い出したら聞かないからな」
呆れ笑いを浮かべながらアウルは俺から数歩下がった。たぶん俺の顔を立てる意味も踏まえて引いてくれたんだろう。よかった、これ以上アウルの前で無様は晒したくないし。
静かにヌカヅキへ歩み寄り首から見える紐に手をかけたその時、
——駄目だよ——
「……は?」
どこからともなく声が聞こえた。ほぼ条件反射だったと思う。即座に紐から手を離しヌカヅキから距離を取った。……結果としてそれはこの上ないほどの英断だったと知る。
「ぐっあ゛あ゛あ゛あ゛っっっ!!!!!」
離れた直後ヌカヅキの体が激しい炎に包まれたことを考えたら。
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