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五頁 孤立したホオズキ
68話 シュヴァリエの企み
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ヌカヅキの奴、今何て言った? 俺を殺すって言ったのか? ……そういうことかよ。ヌカヅキがここへ来るよう誘導したのは、俺をこの町で暗殺するためだったってわけだ。ははっ……さすがにこの展開は予想外だわ。俺の暗殺ねえ? ……初めてだなぁ。柊紅夏の意識がある状態で命を狙われるのは。
「あ~……ただでさえ憂鬱なのにこんなこと聞きたくなかったんですけど」
元義母には毒殺されかけて今度は暗殺計画を聞くことになるとかどんな人生だよ。でもゲームの末路を考えるとそういうものなのかもとか……。
…………え、嘘だろ? よりによって今思い出すのかよ。あ~あ、ここまでくるといっそ嫌がらせだっていってくれたほうがいいなぁ。
ヌカヅキたちはゲームで祭り当日に飾られるホオズキランタンを導火線にして町に火を放つ。それをクラルテが攻略対象と共に阻止するっていうのが四章の大まかな内容だ。だけどその最中にクラルテが命を狙われる場面がある。ヌカヅキがクラルテを殺そうとする間一髪のところで攻略対象に助けられるというお約束展開でスチルもついているこのイベント。問題はファルカタの放火もクラルテの暗殺も裏で糸を引いている人物、つまり依頼主がいるってことだ。その人物こそこの本編のラスボス——シュヴァリエ・アクナイト。
要するに俺は今シュヴァリエ・アクナイトがゲーム中でクラルテに仕掛けたものがそのまま俺にきているってことだ。なんたる因果。…………ほんと、やってらんねえわ。
だけど今回俺は一切動いていない。ということはシュヴァリエ・アクナイトの代わりに裏で糸を引く人物が現れたことになるわけだ。もはやストーリー変わっているとかいう次元じゃねえぞこれ。
「まあ、だからって大人しく甘受する気はさらさらないけど」
仕方ない? シュヴァリエ・アクナイトの運命? ……冗談じゃねえよ。何が悲しくて何度も死にかけにゃならんのだ。まあもう一回死んでいるんですけどね!? 前回は事故死、今回は暗殺で臨終とかどっちも碌な死に方しないじゃないねえか。まだまともに押し花活動できていないし、なんならせっかく手に入れたフェイバースパイダーの糸も一回も使えてないし! 暗殺何てわけわからん理由でくたばってたまるかっつーの! 一回死んだ人間の図太さ見くびるなよ青二才! こう見えても俺精神年齢三十路なんだからな! …………そっか、俺今三十路かぁ。
「……精神年齢は考えてはいけない。それよりも…………このクソみたいな未来、どうぶっ潰してやろうかなぁ?」
俺は今ブラックコーヒーよりも黒い笑顔をしている自覚がある。俺自身が死ぬのもごめんだが、なによりも…………あんな可憐な花を咲かせるホオズキを導火線だぁ? はん、上等じゃねえか。
「万死に値するその所業、骨の髄まで後悔させてやる」
首洗って待ってろよヌカヅキ!
♦♦♦♦♦♦♦
「アクナイト公子! どこに行っていたんだ! 遅いから心配したんだぞ」
「外の空気を吸っていたら時間を忘れていただけですよ」
「まったくせめて時間くらいは守ってもらいたいものですね」
うっせーよ。別に遅れたわけじゃないんだからいいだろうが。リヒトの奴、まじでいつでもどこでも突っかかってくるな。
「君に言われずともわかっている」
「でしたらもう少し早く戻ればよかったでしょう」
「……まあまあリヒト。あ、これアクナイトさんの分の飲み物です」
リヒトを宥めつつクラルテが俺にカップを渡してきた。中身は……なんだこれ。
「それお祭り限定で販売されているジューンベリーっていう果物の果実水なんです」
「産地はこの国ではないな。交易品か?」
「はい! ツヴィトークの北にある国の果物らしいんですけど、行商人が持ち込んだそうで。結構人気なんですよ」
「……物珍しさだろうな」
「なかなか美味しかったぞ」
……北国、ねえ?
「それよりももうすぐ後半始まっちゃうよ。急ごう!」
クラルテに急かされ俺たちは席へ向かった。しかし俺は今後起こるであろう出来事をどう潰すかを考えるのに頭の中が埋め尽くされ、劇の内容などほとんど入っていなかった。……まあ劇なんてまた見ればいいだけだ。優先事項が違ったんだよ、うん。
♦♦♦♦♦♦♦
「あ~面白かった!」
何気誘った人間が一番満喫していた気がするな。俺はそれどころじゃなかったって言うのに。
「この後はどうするの?」
「そうだな……そうだ! これからランタンを町中に飾るんだ。せっかくだからみんなも手伝ってみない?」
「やれるのならばやってみたい気持ちもあるが、俺たちのような素人が手を出して逆に迷惑にならないか?」
アウルのもっともな疑問にリヒトもこくりと頷く。リヒトもやりたそうにしているのはちょっと面白いな。
不安そうにしている友人二人の姿にクラルテは目を瞬かせた後、ケラケラと笑いだした。あんまりおかしかったのか涙まで出ている。
「大丈夫だよっ! そんな難しいことなんか何もないし。町のことを知ろうとしてくれているってむしろ歓迎されると思うよ!」
そうそう、心配するだけ無駄だって。この町の人たちすげえ陽気だから。なんで知っているかって? ゲームでそうだったからだよ。嬉しさで舞い上がった町民が全力で歓迎してその勢いにちょっと引いたってクラルテ自身が言っていたくらいなんだから。
楽しそうに笑うクラルテの様子に安心したらしく二人は頷き合い、いまだに笑い続けるクラルテに向き直る。いつまで笑ってんだお前は。
「じゃあお願いしようかな」
「何事も経験だ。ぜひ参加させてくれ」
「うん、もちろん」
「アクナイトさんも来ますか?」
準備に参加ねぇ。ふむ、ホオズキをいくつか貰えるのなら行ってもいいかな。それにあれはゲームで導火線になっていた。出発点が同じなら祭りの直前で充分に防げるけど、万が一発火場所がゲームと違っていたら探す手間ができてしまう。準備に混ざれば大方の予想はつけられるはずだ。ヌカヅキに協力者がいないとも限らないから人ごみに紛れれば疑われる確率は下がるだろう。……もっともそれは向こうも同じこと考えていると思うが。
「……暇つぶしにはなるか」
俺が了承の意を示すとクラルテがこれまた嬉しそうに顔を綻ばせた。そんなに喜ぶことか?
「じゃあ飾りつけは午後から行われるからいったん解散にしてまた一時間後に宿の前に集合でいいかな?」
「俺は構わない」
「僕も問題ないよ」
「私もそれでいい」
それぞれが同意を示したことでその場は解散になった。クラルテは飾りつけ担当の人に話をつけてくると意気揚々と駆けて行き、残された俺たち三人は……
「この後どうするんだ?」
「私はせっかくですし宿近くの出店に行こうと思います。劇場へ向かう道中で興味深い本があったので」
「そうか。アクナイト公子は?」
「そうですね……私は例の本の続きでも読みますよ」
「……そうか。ならば俺は一度宿に戻ろう。どうせなら劇の感想でもまとめたい。感想楽しみにしている」
「あまり急かさないでいただきたい」
「急かしているつもりはない」
「……ふん」
リヒトとアウルをその場に残して俺は一時間を有効活用するために歩き出した。二人が見えなくなったところでそっと後ろを振り向く。……やっぱり後付けられているよな……。たぶん劇場を出た後からずっといたんだろ。劇場に来たときはいなかった、ということは。
「盗み聞きしてたのばれていたのか。しくったなぁ」
だけど、作戦は決まった。
♦♦♦♦♦♦♦
「アクナイト公子、待っていたよ」
部屋にはすでにアウルが待っていて、快く出迎えてくれた。
「それでその本、面白かったか?」
「ええ、それなりに」
「そうか。……それで、なにかあったか?」
件の本の感想、というのは隠語だ。昨日のやり取りから連想させて情報共有ないし作戦会議の合図にしてみたけどうまく伝わったようで何より。直球で聞いていたアウルに俺は見たことをすべて話して聞かせた。もちろん明日の祭りでホオズキランタンを吊るしている紐を導火線にして町を火の海にしようとしていることも会話を聞いたということにして。案の定アウルの表情が険しくなる。
「それは由々しき事態だな。だが祭りは明日だろう。阻止する手立てはあるのか?」
「発火場所さえわかれば後は水魔法を使うだけですので、この後の飾りつけ作業中に場所の当たりをつけます」
「そうか……」
「それから……どうやらその混乱に乗じて私の暗殺計画も進んでいるようです」
「な、に……?」
信じられないというようにアウルが俺を見る。残念ながら事実でございます。びっくりだよねぇ。
「……まさか劇場を出た直後からの妙な視線は」
「お気づきでしたか。どうやら盗み聞きしていたのがばれたようで。今日中にでも動くのではないですか?」
「……どうする気だ?」
「巻き込まれる気ですか?」
「当たり前だ。そもそも俺を巻き込む気でないのなら初めから伝えないだろ」
「他国の人間を利用しようとしているのに随分寛容ですね」
巻き込まれる気満々なアウルにせめてもの嫌味をかましてみるが引く気は全くない様子に俺はため息をつく。まあ黙っていればアウルもただでは済まないんだし、協力せざるを得ないんだろうけど。
「……リヒトやクラルテには伝えないのか?」
「幼馴染がこんなこと企んでいるなんて知らせる気ですか?」
「……幼馴染だからこそ伝えるべきだと思うが」
「私は中身のない押し問答をする気はないんですよ」
その言葉だけで俺の言いたいことは察したらしい。ほんと賢い人ってすごいと思う反面、むかつくわ。
「……なにを企んでいる?」
「聞くんですか? 聞いたからには反対などしないでくださいね」
「……君のことだ。止めても無駄だろう」
「私のことにご理解があるようでなによりですよ」
「……」
俺の言葉にアウルは一度目を閉じた後、強い眼差しを向けてきた。
「聞こう」
アウルの発言に俺は口元を歪ませた。
さて、ヌカヅキよ。
「——、——」
ラスボスに刃を向けたその意味を、思い知る覚悟はいいか?
「あ~……ただでさえ憂鬱なのにこんなこと聞きたくなかったんですけど」
元義母には毒殺されかけて今度は暗殺計画を聞くことになるとかどんな人生だよ。でもゲームの末路を考えるとそういうものなのかもとか……。
…………え、嘘だろ? よりによって今思い出すのかよ。あ~あ、ここまでくるといっそ嫌がらせだっていってくれたほうがいいなぁ。
ヌカヅキたちはゲームで祭り当日に飾られるホオズキランタンを導火線にして町に火を放つ。それをクラルテが攻略対象と共に阻止するっていうのが四章の大まかな内容だ。だけどその最中にクラルテが命を狙われる場面がある。ヌカヅキがクラルテを殺そうとする間一髪のところで攻略対象に助けられるというお約束展開でスチルもついているこのイベント。問題はファルカタの放火もクラルテの暗殺も裏で糸を引いている人物、つまり依頼主がいるってことだ。その人物こそこの本編のラスボス——シュヴァリエ・アクナイト。
要するに俺は今シュヴァリエ・アクナイトがゲーム中でクラルテに仕掛けたものがそのまま俺にきているってことだ。なんたる因果。…………ほんと、やってらんねえわ。
だけど今回俺は一切動いていない。ということはシュヴァリエ・アクナイトの代わりに裏で糸を引く人物が現れたことになるわけだ。もはやストーリー変わっているとかいう次元じゃねえぞこれ。
「まあ、だからって大人しく甘受する気はさらさらないけど」
仕方ない? シュヴァリエ・アクナイトの運命? ……冗談じゃねえよ。何が悲しくて何度も死にかけにゃならんのだ。まあもう一回死んでいるんですけどね!? 前回は事故死、今回は暗殺で臨終とかどっちも碌な死に方しないじゃないねえか。まだまともに押し花活動できていないし、なんならせっかく手に入れたフェイバースパイダーの糸も一回も使えてないし! 暗殺何てわけわからん理由でくたばってたまるかっつーの! 一回死んだ人間の図太さ見くびるなよ青二才! こう見えても俺精神年齢三十路なんだからな! …………そっか、俺今三十路かぁ。
「……精神年齢は考えてはいけない。それよりも…………このクソみたいな未来、どうぶっ潰してやろうかなぁ?」
俺は今ブラックコーヒーよりも黒い笑顔をしている自覚がある。俺自身が死ぬのもごめんだが、なによりも…………あんな可憐な花を咲かせるホオズキを導火線だぁ? はん、上等じゃねえか。
「万死に値するその所業、骨の髄まで後悔させてやる」
首洗って待ってろよヌカヅキ!
♦♦♦♦♦♦♦
「アクナイト公子! どこに行っていたんだ! 遅いから心配したんだぞ」
「外の空気を吸っていたら時間を忘れていただけですよ」
「まったくせめて時間くらいは守ってもらいたいものですね」
うっせーよ。別に遅れたわけじゃないんだからいいだろうが。リヒトの奴、まじでいつでもどこでも突っかかってくるな。
「君に言われずともわかっている」
「でしたらもう少し早く戻ればよかったでしょう」
「……まあまあリヒト。あ、これアクナイトさんの分の飲み物です」
リヒトを宥めつつクラルテが俺にカップを渡してきた。中身は……なんだこれ。
「それお祭り限定で販売されているジューンベリーっていう果物の果実水なんです」
「産地はこの国ではないな。交易品か?」
「はい! ツヴィトークの北にある国の果物らしいんですけど、行商人が持ち込んだそうで。結構人気なんですよ」
「……物珍しさだろうな」
「なかなか美味しかったぞ」
……北国、ねえ?
「それよりももうすぐ後半始まっちゃうよ。急ごう!」
クラルテに急かされ俺たちは席へ向かった。しかし俺は今後起こるであろう出来事をどう潰すかを考えるのに頭の中が埋め尽くされ、劇の内容などほとんど入っていなかった。……まあ劇なんてまた見ればいいだけだ。優先事項が違ったんだよ、うん。
♦♦♦♦♦♦♦
「あ~面白かった!」
何気誘った人間が一番満喫していた気がするな。俺はそれどころじゃなかったって言うのに。
「この後はどうするの?」
「そうだな……そうだ! これからランタンを町中に飾るんだ。せっかくだからみんなも手伝ってみない?」
「やれるのならばやってみたい気持ちもあるが、俺たちのような素人が手を出して逆に迷惑にならないか?」
アウルのもっともな疑問にリヒトもこくりと頷く。リヒトもやりたそうにしているのはちょっと面白いな。
不安そうにしている友人二人の姿にクラルテは目を瞬かせた後、ケラケラと笑いだした。あんまりおかしかったのか涙まで出ている。
「大丈夫だよっ! そんな難しいことなんか何もないし。町のことを知ろうとしてくれているってむしろ歓迎されると思うよ!」
そうそう、心配するだけ無駄だって。この町の人たちすげえ陽気だから。なんで知っているかって? ゲームでそうだったからだよ。嬉しさで舞い上がった町民が全力で歓迎してその勢いにちょっと引いたってクラルテ自身が言っていたくらいなんだから。
楽しそうに笑うクラルテの様子に安心したらしく二人は頷き合い、いまだに笑い続けるクラルテに向き直る。いつまで笑ってんだお前は。
「じゃあお願いしようかな」
「何事も経験だ。ぜひ参加させてくれ」
「うん、もちろん」
「アクナイトさんも来ますか?」
準備に参加ねぇ。ふむ、ホオズキをいくつか貰えるのなら行ってもいいかな。それにあれはゲームで導火線になっていた。出発点が同じなら祭りの直前で充分に防げるけど、万が一発火場所がゲームと違っていたら探す手間ができてしまう。準備に混ざれば大方の予想はつけられるはずだ。ヌカヅキに協力者がいないとも限らないから人ごみに紛れれば疑われる確率は下がるだろう。……もっともそれは向こうも同じこと考えていると思うが。
「……暇つぶしにはなるか」
俺が了承の意を示すとクラルテがこれまた嬉しそうに顔を綻ばせた。そんなに喜ぶことか?
「じゃあ飾りつけは午後から行われるからいったん解散にしてまた一時間後に宿の前に集合でいいかな?」
「俺は構わない」
「僕も問題ないよ」
「私もそれでいい」
それぞれが同意を示したことでその場は解散になった。クラルテは飾りつけ担当の人に話をつけてくると意気揚々と駆けて行き、残された俺たち三人は……
「この後どうするんだ?」
「私はせっかくですし宿近くの出店に行こうと思います。劇場へ向かう道中で興味深い本があったので」
「そうか。アクナイト公子は?」
「そうですね……私は例の本の続きでも読みますよ」
「……そうか。ならば俺は一度宿に戻ろう。どうせなら劇の感想でもまとめたい。感想楽しみにしている」
「あまり急かさないでいただきたい」
「急かしているつもりはない」
「……ふん」
リヒトとアウルをその場に残して俺は一時間を有効活用するために歩き出した。二人が見えなくなったところでそっと後ろを振り向く。……やっぱり後付けられているよな……。たぶん劇場を出た後からずっといたんだろ。劇場に来たときはいなかった、ということは。
「盗み聞きしてたのばれていたのか。しくったなぁ」
だけど、作戦は決まった。
♦♦♦♦♦♦♦
「アクナイト公子、待っていたよ」
部屋にはすでにアウルが待っていて、快く出迎えてくれた。
「それでその本、面白かったか?」
「ええ、それなりに」
「そうか。……それで、なにかあったか?」
件の本の感想、というのは隠語だ。昨日のやり取りから連想させて情報共有ないし作戦会議の合図にしてみたけどうまく伝わったようで何より。直球で聞いていたアウルに俺は見たことをすべて話して聞かせた。もちろん明日の祭りでホオズキランタンを吊るしている紐を導火線にして町を火の海にしようとしていることも会話を聞いたということにして。案の定アウルの表情が険しくなる。
「それは由々しき事態だな。だが祭りは明日だろう。阻止する手立てはあるのか?」
「発火場所さえわかれば後は水魔法を使うだけですので、この後の飾りつけ作業中に場所の当たりをつけます」
「そうか……」
「それから……どうやらその混乱に乗じて私の暗殺計画も進んでいるようです」
「な、に……?」
信じられないというようにアウルが俺を見る。残念ながら事実でございます。びっくりだよねぇ。
「……まさか劇場を出た直後からの妙な視線は」
「お気づきでしたか。どうやら盗み聞きしていたのがばれたようで。今日中にでも動くのではないですか?」
「……どうする気だ?」
「巻き込まれる気ですか?」
「当たり前だ。そもそも俺を巻き込む気でないのなら初めから伝えないだろ」
「他国の人間を利用しようとしているのに随分寛容ですね」
巻き込まれる気満々なアウルにせめてもの嫌味をかましてみるが引く気は全くない様子に俺はため息をつく。まあ黙っていればアウルもただでは済まないんだし、協力せざるを得ないんだろうけど。
「……リヒトやクラルテには伝えないのか?」
「幼馴染がこんなこと企んでいるなんて知らせる気ですか?」
「……幼馴染だからこそ伝えるべきだと思うが」
「私は中身のない押し問答をする気はないんですよ」
その言葉だけで俺の言いたいことは察したらしい。ほんと賢い人ってすごいと思う反面、むかつくわ。
「……なにを企んでいる?」
「聞くんですか? 聞いたからには反対などしないでくださいね」
「……君のことだ。止めても無駄だろう」
「私のことにご理解があるようでなによりですよ」
「……」
俺の言葉にアウルは一度目を閉じた後、強い眼差しを向けてきた。
「聞こう」
アウルの発言に俺は口元を歪ませた。
さて、ヌカヅキよ。
「——、——」
ラスボスに刃を向けたその意味を、思い知る覚悟はいいか?
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