悪役令息の花図鑑

蓮条緋月

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三頁 ローダンセの喜劇

32話 学外ワークは波乱の予感!?

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「一週間後の学外ワークのグループ分けと行き先が決まりましたので伝えに来ましたのよ」

 ……はい?

 学外ワークというのは読んで字の如く学園外での授業のことだ。年に一度二週間ほど各グループごとにそれぞれの領地へと赴いてその地の名産品や人々の暮らし、森がある場所ではその生態などを直接調べに行く。そして実地で見た感想・考察・改善点などをまとめて報告書として提出するというのが大まかな流れだ。
 学生の授業にしては本格的だから生徒を通して領地の実態調査をしているのではと俺は密かに疑っていたりする。
 まあそこはいい。憂鬱なのは変わりないけど修学旅行と思えば気分は上がる。だが、今年は話が別だ。
 ーーこの学外ワークこそが本編ストーリー第二の事件現場なんだよ。
 行きたくない。絶対に行きたくない。

「個人的なお話は終わりましたし、オルニス公子様とオルテンシア公子様も交えてお話しましょう」
「なぜその二人が出てくる」
「最近お兄様とよくご一緒しているではありませんか。ついでなのでそのお二人の分の概要書も持って来ていますのよ」

 ルアルの強引さに押し切られた俺は、将来夫となる人は尻に敷かれそうだなとか考えながらため息をつき、トボトボと来た道を戻って行った。


       ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


「こちらが学外ワークの概要書ですわ」
「ありがとうございます。アクナイト嬢」

 ガゼボに戻って来た俺たちは再びテーブルにつきなぜかルアルも加わり四人で概要書の確認を始めた。
 俺は困惑しつつも概要書をめくっていく。まあ書いているものは毎年大体同じもので特別目に留めるような記載はない、と思ったのも束の間。
 行き先とグループメンバーを見た途端、その場で発狂しそうになった。

【グループ アウル・オルニス
      シュヴァリエ・アクナイト
      ルーフ・パフィオペディラム
      プレア・ブバルディア
      シャリテ・サフィニア
      イデアル・オルテンシア
      クラルテ

「どうやら俺とアクナイト公子それからオルテンシア公子は同じグループのようだな」

 ……終わった。しかもクラルテいるし。更に問題なのは……。

【領地 コランバイン領地センダンの町】

 これだよこれ。コランバイン領地のセンダンってまさにゲームの舞台になった場所なんだよ! 俺がそこに行くなんてどう考えても面倒ごと発生するやつ! というか既に発生すること確立しているんだけどさ。
 ため息が出そうになるのを必死に耐えながらなんとか最後まで概要書を読み、俺は抜け殻のようになっていた。

「クラルテも一緒か。せっかくの機会だしアクナイト公子もクラルテと親交を深めてみないか?」

 余計なお世話だ攻略対象め。俺はあんたらとは関わりたくないってのに。どうしても必要な時でも最低限でいいんだよ。

「大きなお世話ですよ」
「それはすまない」
「お兄様もう少し愛想というものも覚えてくださいまし。そんなでは社交界でやっていけませんわよ」
「私は愛想などというくだらないものは持っていない」
「では覚えてください」
「結構だ」
「まあ冷たい」
「アクナイト兄妹は仲がいいんだな」

 仲がいいも何もまともに会話をしたのはついさっきが初めてですが? なんて思いつつ変な反応もできないのでここは黙ろう。そんなことよりもまずはこの学外ワークをどう乗り切るか考えたほうがいい。……あれ?
 ゲームとメンバーが違くないか? 確かここには俺じゃなくてリヒトが入っていた気がするけど。……まあもうすでに色々なところが変わっているからなあ。本来ならこの場にいるのは俺じゃなくてクラルテだし。ベルデもいない。

「……コランバイン領地ですか」
「オルテンシア公子……どうした?」
「あ、いえ……その、コランバイン領地は数年前に領主が代替わりしたんです。というよりは領地が隣と併呑されたんですけど……」

 ……ああこの話か。

「コランバイン領地は元々ローダンセという名前でしたが数年前にローダンセ伯爵夫妻と御子息が行方不明になり、領主不在となってしまったローダンセ領をコランバイン伯爵が管理することになったのです」
「普通そこは残っている一族の人間がやるものではないのか?」
「本来であればそうです。ですが契約書が見つかったらしくて」
「どんな?」
「『ローダンセに何かあった場合、領地の管理はコランバイン伯爵に一任する』という内容です」
「はあ?」

 流石に困惑を隠せなかったらしいアウルが声を上げた。うん、気持ちはわかる。こんなん意味わからんよね。まあ知っていたんですけど。

「その契約書はすでに陛下からも了承されているものでしたので、ローダンセ一家が消息を絶った後、速やかに併呑されたんです。ただ……」

 イデアルは僅かに口籠もり、声を顰めて続きを話した。

「実は今あまり治安が良くないらしいんですよ」
「きちんとした経営が行われていないと?」
「そうだと思います。あくまでも噂ですけど」
「私もそのお話は何度か耳にしましたわ。王家も不審に思い調査員を派遣したのですがこれと言った証拠はなく、併呑してそれほど経っていないが故の一時的な不振だろうと判断されたそうで……」
「そんなところに私たちは行かされるというわけか」
『……』
 
 全員が無言になった。まあそういうところも含めて見てこいっていう授業なんだろうけど、気分は乗らないよなぁ。俺だって治安悪いって噂のあるところに旅行なんぞ行きたくない。しかもゲーム内容を知っている身としては二重の意味で行きたくない。
 ……サボりたい。成績に響くから無理だけど。
 今回は何がなんでもクラルテに動いてもらう。俺は答えを知っているし面倒ごとは前回の件で懲りている。

「まあでも学園の外に出られるのは楽しみではある。普段と違う場所から学べることも多いだろう」
「それはそうですね。それにセンダンの町にも幻と呼ばれる景色があるんですよ」
「自然が創り出す景色は美しいと先日知ったばかりだからとても興味があるな。前回はアクナイト公子が見せてくれたから今回も共にいれば見られるかもしれない」
「私に変な期待をかけないでください」
「私は皆様とは別グループですが、その地でしか見られない景色を探してみるのも面白そうですわね。お二方、お兄様のことよろしくお願いします」
「なぜルアルがそんなことを言う」
「お兄様が無愛想で捻くれ者で通常のコミュニケーションが取れないからですわ。このお二人ならフォローしてくださいますでしょう?」
「余計なお節介は不要だ」

 妹から信用なさすぎじゃね? もっとこうなんかあるだろ。しかもこの二人に頼むのかよ。俺はマジで関わりたくないのに、どんどん交流する機会が増えていっている気がする。……泣きたい。

「アクナイト嬢は隣の領地なんだな」
「ええ。ですから途中まで皆様とご一緒させてもらうと思いますわ」
「それはいい。向かっている間にも興味深いものが見られるといいが」
「ふふ、我が国には美しいものが沢山ありますのよ。オルニス公子様にはぜひこの国を楽しんでいただきたいですわ」
「もう充分楽しませてもらっている」

 話に花を咲かせている三人を尻目に俺はこっそりと概要書へ視線を落とし、ゲームの内容を思い出していた。
 序盤の内容なのに結構胸糞だったんなだよなこれ。コランバイン伯爵はユーザーの間でかなり嫌われていたし、俺もいろんな意味で嫌っていた。ゲーム内でクラルテが遭遇した時はかなり面倒なことになっていたんだよな。奴はできるだけ避けたほうがいい。
 ……それから、この二人。
 俺は概要書に書かれている名前に視線を移す。
 ーールーフ・パフィオペディラム
 ーーシャリテ・サフィニア

 この二人もだいぶこれからのストーリーの肝なんだよなぁ。特にルーフ・パフィオペディラムは重要な鍵だ。この前俺のことを呼びに来たから接点もできてしまっている。
 ……どうか嫌な予感が当たりませんように。
 
 


 



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