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二頁 アジサイの涙
19話 予兆
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はあ……なんでこう、萎える出来事が連発するんだろうか。
俺は今、非常に対応に困る現場に出くわしていた。ある特定の人物を複数人が取り囲んで一方的にあれこれ畳み掛けるというお決まりの光景に。ぶっちゃけると取り囲まれているのは件の主人公君で取り囲んでいるのは選民意識の塊みたいな貴族子息たちである。
数日前に来たばかりの生徒に対してこれはないよな。まだまだわからないことだらけで新しい環境に慣れるのに大変だっていうのに、敵意剥き出しに迫られたら悲しいって。しかも相手はお貴族様だから下手に言い返すこともできない。
クラルテは率直に言って可愛い顔をしているし、頭も性格もいい。自分に自信がない奴とか人の上に立っていたい奴からすればさぞ妬ましいだろ。しかもクラルテはほぼアウルと行動を共にしている。それも気に食わないらしく度々嫌がらせの現場を目撃する。そこは主人公というべきかすかさず攻略対象の誰かが助けに入っていた。
しかし現在、人の気配がまるでしないこんな場所で目撃者が俺だけという状況だ。目の前の光景には腹が立つけど、クラルテとは関わらないということが俺の目的のために必須事項なんだよな。既に関わってしまっているんだけどね初日に! だったらこのまま知らん振りして通り過ぎるか……? それともさりげなく助けに入る?
「うーん……」
……。
少なくともシュヴァリエなら絶対に助けない。チラ見して一切興味を抱くことなく立ち去る。
柊紅夏ならさりげなく助けに入るか正義感が強くて頼りになる奴に割って入ってもらう。
「うーん……ん?」
俺が考えている間にエスカレートしていたようで、リーダーらしき奴が荒々しく地面を踏みつけてって…………あ゛ぁ?
地面の咲いていたらしい小さな花が踏みつけられているではないか!!!
……あんの野郎共、許すまじ!!!
そう思った時には既に物陰から飛び出していた。せっかく咲いていた俺のコレクション候補をよくも踏みつけやがったなこんちくしょう!!!!!
「……なにをしている?」
俺の声を背中に浴びた連中が思いきり肩を跳ねさせ、機械人形のようなぎこちない動きで振り返った。
「シュ、シュヴァリエ様!」
あ゛? こいつら復学初日に耳障りな会話していた奴とその取り巻き連中じゃねえか。朝から不愉快にさせて俺のコレクション候補まで荒らすとか……殺すぞ。
「な、いつからこちらにおられたので……?」
「質問に質問で返すな。君はまだ私の問いに答えていない。……言え」
「こ、この平民が生意気だったので、この学園での礼儀を教えていたところなのですよ」
「……礼儀ね。私に対してろくな挨拶もできないのに礼儀とは」
面白いなーーそう言って笑ってやれば連中は愉快なほど体を震わせた。ついでにクラルテも一緒になって震え出した。……なんで?
まあいいや。それよりも、だ。
「君は二度目だな。次はないと、言ったはずだが忘れたか?」
「いいえ! ……わ、忘れておりません」
「そうか? 忘れていないのにまた私の気分を害するとは、君たちはよほどアクナイトに喧嘩を売りたいと見える」
「「め、滅相もございません!」」
顔面蒼白、真っ青。おまけに日陰だから余計に体調不良感増している。滅相もございませんって、ねえ? あの時はくだらねえこと言ってんじゃねえ的な話だったけど、先日も今も平民に向けているという点は共通なんだよなぁ。……ウザいわ。
「……去れ」
俺は今の心境をありったけ込めた一言を発した。予想よりも冷たい声が出た。でも仕方ない。だって柊紅夏はど平民だから。前世では生粋の金持ちとの交流はほとんどなかったし、平民を差別云々の話は小説やドラマの中だけだったのに今は日常の一部になってしまっている。毎日同じ道を歩くだけで同じ場所に立つだけで聞こえてくるんだ。……まじで気分が悪い。
俺の怒りを感じ取ったのか知らないが、クラルテを取り囲んでいた連中は謝罪も言わず一目散に駆けて行った。
「……この程度で終わりかよ腰抜け共が」
連中が完全に去ったことを確認して俺はクラルテに向き直る。
「ここでなにをしている?」
「あ……」
できるだけ普通に声をかけたつもりが思っていたよりも引きずっていたらしくクラルテが凍りついた。
「……あ、あの」
「用事がないのならさっさと行け。私は君に対しても去れと言ったつもりだが?」
「……あ、す、すみません!」
びくつきながら謝罪してクラルテも脱兎のごとく去って行ったが俺の意識は既に地面へと向いていた。
そこには踏まれたことで茎が折れて花弁の潰れてしまった花が一輪。こんな状態になってしまってはもう再生できないし切り離して花瓶に生けることも叶わないだろう。それに靴の裏についた土が花弁全体に移ってしまっているから押し花にもなれない。
……やってくれたなクソ野郎。嗚呼……あいつらも身体中から水分が抜けて上と下がお別れしてくれないかな。
「お前……なんでこんな場所で咲いているんだよ」
俺はしゃがみ込んですっかり力をなくしてしまった花に独り言をこぼした。せっかくきれいに咲いていたのに、あんな連中に踏み荒らされるなんて運のない。
「次はもっといい場所で咲いてくれよ」
それだけ言って立ち上がりその場を去ろうとした時、忙しない気配がやってきた。
「シュヴァリエ様」
……この声は。内心ため息を吐きながら振り返るとリヒトが真顔でこちらに向かっていた。その後ろからやや慌てながらクラルテが追いかけてきている。クラルテの奴、よりにもよってこいつと遭遇したのかよ。
「シュヴァリエ様。お話があります」
「私にはないんだが」
「貴方にはなくとも私にはあるのですよ」
「くだらない用事に付き合う気はない」
「貴方にとってはくだらないことでも私にはそうではありません」
一触即発の空気になりかけたところでオロオロしながらクラルテが入り込んできた。
「リヒト、違うんだ。あの、」
「クラルテ、下がっていて。僕が話すから」
「違うんだ。僕、この方にはなにもされていないんだ」
「けど僕と会った時怯えていたじゃないか」
もうタメ聞いているって……ゲーム内ではチュートリアル時点でタメ口だったか。なんてうっかり思考を飛ばしていたら、反応を示さないことが気に食わなかったらしいリヒトが思いきり睨んできた。
「あの怯えようは普通じゃない……シュヴァリエ様、一体クラルテに何をしたのか正直に答えていただけませんか?」
リヒトはまるで俺がやったと確信しているような言い方をしてくる。リヒトがシュヴァリエを嫌っているのはゲームをプレイしていた全ユーザーが知っているし、俺もプレイしていた時はシュヴァリエが嫌いでいつも痛烈な一言をかますリヒトが結構好きだった。だけど実際にシュヴァリエとして一方的な理論で物を語られるのは、正直めちゃくちゃ腹が立つ。
「何故私がやったことを前提で話すのか理解ができないな」
「貴方以外に誰がいるというのです?」
「少なくとも彼を嫌っている人間は私だけではないだろう」
「ですがクラルテは貴方の名前を出しましたよ。そして確かめに来たら貴方がいた。これをどのようにご説明なさるおつもりですか?」
「私が説明せずともその平民が教えてくれるだろ。人の言葉は最後まで聞いた方が身のためだ」
最後にほんの少し凄んでやるとリヒトは少しばかり怯んだものの、剣呑な目つきは変わらず俺を貫いている。
「……クラルテ、真実を話してくれ」
「私がいないところでやれ」
「逃げるおつもりですか?」
なんでそうなるんだよ。むしろ俺がいたら話しづらいだろうが。元々お前がまともに話を聞かなかったからこんなことになってんだろうがよ。……そういやゲームでも思い込みでクラルテを責めていた時があったっけ。経緯こそ違えど状況だけは同じだ。残念ながらリヒトの悪癖が緩和されるのはゲームの終盤で、もうちょい先のお話。
……やっぱり主人公と攻略対象たちとは関わるべきじゃない。改めてその事実を実感した。
「つまらないことを言っている暇があるのならそれの話でも聞いてやる方が有意義だろ。次期宰相殿?」
嫌味を込めてそう言ってやる。案の定面白い顔になった。ああ、この顔を今すぐ写メってエフェクトつけて焼き増ししたい。スマホがないのが残念でならないよ。
リヒトの顔を見て満足した俺はくるりと背を向けて歩き出した。今日の夕飯はさぞ美味だろうな。……俺って結構悪役向いているのかもしれない。
……まあリヒトのことはいいや。それよりもこれから学園内のガゼボにでも行こうかな。あそこそれなりに花の種類豊富だし。なんならいくらか押し花にしたいな。まずは管理人に許可取らなきゃならんのだけど。
……ん?
なんか今水音がしたような。ここを右に抜ければ小さい噴水があるんだっけ。あまり日当たりが良くないかた行く人は少ないけど、結構きれいな場所だったはずだから誰かしらはいるんだろうな。
なんて思いながら俺は足取り軽くガゼボへと向かった。
俺は今、非常に対応に困る現場に出くわしていた。ある特定の人物を複数人が取り囲んで一方的にあれこれ畳み掛けるというお決まりの光景に。ぶっちゃけると取り囲まれているのは件の主人公君で取り囲んでいるのは選民意識の塊みたいな貴族子息たちである。
数日前に来たばかりの生徒に対してこれはないよな。まだまだわからないことだらけで新しい環境に慣れるのに大変だっていうのに、敵意剥き出しに迫られたら悲しいって。しかも相手はお貴族様だから下手に言い返すこともできない。
クラルテは率直に言って可愛い顔をしているし、頭も性格もいい。自分に自信がない奴とか人の上に立っていたい奴からすればさぞ妬ましいだろ。しかもクラルテはほぼアウルと行動を共にしている。それも気に食わないらしく度々嫌がらせの現場を目撃する。そこは主人公というべきかすかさず攻略対象の誰かが助けに入っていた。
しかし現在、人の気配がまるでしないこんな場所で目撃者が俺だけという状況だ。目の前の光景には腹が立つけど、クラルテとは関わらないということが俺の目的のために必須事項なんだよな。既に関わってしまっているんだけどね初日に! だったらこのまま知らん振りして通り過ぎるか……? それともさりげなく助けに入る?
「うーん……」
……。
少なくともシュヴァリエなら絶対に助けない。チラ見して一切興味を抱くことなく立ち去る。
柊紅夏ならさりげなく助けに入るか正義感が強くて頼りになる奴に割って入ってもらう。
「うーん……ん?」
俺が考えている間にエスカレートしていたようで、リーダーらしき奴が荒々しく地面を踏みつけてって…………あ゛ぁ?
地面の咲いていたらしい小さな花が踏みつけられているではないか!!!
……あんの野郎共、許すまじ!!!
そう思った時には既に物陰から飛び出していた。せっかく咲いていた俺のコレクション候補をよくも踏みつけやがったなこんちくしょう!!!!!
「……なにをしている?」
俺の声を背中に浴びた連中が思いきり肩を跳ねさせ、機械人形のようなぎこちない動きで振り返った。
「シュ、シュヴァリエ様!」
あ゛? こいつら復学初日に耳障りな会話していた奴とその取り巻き連中じゃねえか。朝から不愉快にさせて俺のコレクション候補まで荒らすとか……殺すぞ。
「な、いつからこちらにおられたので……?」
「質問に質問で返すな。君はまだ私の問いに答えていない。……言え」
「こ、この平民が生意気だったので、この学園での礼儀を教えていたところなのですよ」
「……礼儀ね。私に対してろくな挨拶もできないのに礼儀とは」
面白いなーーそう言って笑ってやれば連中は愉快なほど体を震わせた。ついでにクラルテも一緒になって震え出した。……なんで?
まあいいや。それよりも、だ。
「君は二度目だな。次はないと、言ったはずだが忘れたか?」
「いいえ! ……わ、忘れておりません」
「そうか? 忘れていないのにまた私の気分を害するとは、君たちはよほどアクナイトに喧嘩を売りたいと見える」
「「め、滅相もございません!」」
顔面蒼白、真っ青。おまけに日陰だから余計に体調不良感増している。滅相もございませんって、ねえ? あの時はくだらねえこと言ってんじゃねえ的な話だったけど、先日も今も平民に向けているという点は共通なんだよなぁ。……ウザいわ。
「……去れ」
俺は今の心境をありったけ込めた一言を発した。予想よりも冷たい声が出た。でも仕方ない。だって柊紅夏はど平民だから。前世では生粋の金持ちとの交流はほとんどなかったし、平民を差別云々の話は小説やドラマの中だけだったのに今は日常の一部になってしまっている。毎日同じ道を歩くだけで同じ場所に立つだけで聞こえてくるんだ。……まじで気分が悪い。
俺の怒りを感じ取ったのか知らないが、クラルテを取り囲んでいた連中は謝罪も言わず一目散に駆けて行った。
「……この程度で終わりかよ腰抜け共が」
連中が完全に去ったことを確認して俺はクラルテに向き直る。
「ここでなにをしている?」
「あ……」
できるだけ普通に声をかけたつもりが思っていたよりも引きずっていたらしくクラルテが凍りついた。
「……あ、あの」
「用事がないのならさっさと行け。私は君に対しても去れと言ったつもりだが?」
「……あ、す、すみません!」
びくつきながら謝罪してクラルテも脱兎のごとく去って行ったが俺の意識は既に地面へと向いていた。
そこには踏まれたことで茎が折れて花弁の潰れてしまった花が一輪。こんな状態になってしまってはもう再生できないし切り離して花瓶に生けることも叶わないだろう。それに靴の裏についた土が花弁全体に移ってしまっているから押し花にもなれない。
……やってくれたなクソ野郎。嗚呼……あいつらも身体中から水分が抜けて上と下がお別れしてくれないかな。
「お前……なんでこんな場所で咲いているんだよ」
俺はしゃがみ込んですっかり力をなくしてしまった花に独り言をこぼした。せっかくきれいに咲いていたのに、あんな連中に踏み荒らされるなんて運のない。
「次はもっといい場所で咲いてくれよ」
それだけ言って立ち上がりその場を去ろうとした時、忙しない気配がやってきた。
「シュヴァリエ様」
……この声は。内心ため息を吐きながら振り返るとリヒトが真顔でこちらに向かっていた。その後ろからやや慌てながらクラルテが追いかけてきている。クラルテの奴、よりにもよってこいつと遭遇したのかよ。
「シュヴァリエ様。お話があります」
「私にはないんだが」
「貴方にはなくとも私にはあるのですよ」
「くだらない用事に付き合う気はない」
「貴方にとってはくだらないことでも私にはそうではありません」
一触即発の空気になりかけたところでオロオロしながらクラルテが入り込んできた。
「リヒト、違うんだ。あの、」
「クラルテ、下がっていて。僕が話すから」
「違うんだ。僕、この方にはなにもされていないんだ」
「けど僕と会った時怯えていたじゃないか」
もうタメ聞いているって……ゲーム内ではチュートリアル時点でタメ口だったか。なんてうっかり思考を飛ばしていたら、反応を示さないことが気に食わなかったらしいリヒトが思いきり睨んできた。
「あの怯えようは普通じゃない……シュヴァリエ様、一体クラルテに何をしたのか正直に答えていただけませんか?」
リヒトはまるで俺がやったと確信しているような言い方をしてくる。リヒトがシュヴァリエを嫌っているのはゲームをプレイしていた全ユーザーが知っているし、俺もプレイしていた時はシュヴァリエが嫌いでいつも痛烈な一言をかますリヒトが結構好きだった。だけど実際にシュヴァリエとして一方的な理論で物を語られるのは、正直めちゃくちゃ腹が立つ。
「何故私がやったことを前提で話すのか理解ができないな」
「貴方以外に誰がいるというのです?」
「少なくとも彼を嫌っている人間は私だけではないだろう」
「ですがクラルテは貴方の名前を出しましたよ。そして確かめに来たら貴方がいた。これをどのようにご説明なさるおつもりですか?」
「私が説明せずともその平民が教えてくれるだろ。人の言葉は最後まで聞いた方が身のためだ」
最後にほんの少し凄んでやるとリヒトは少しばかり怯んだものの、剣呑な目つきは変わらず俺を貫いている。
「……クラルテ、真実を話してくれ」
「私がいないところでやれ」
「逃げるおつもりですか?」
なんでそうなるんだよ。むしろ俺がいたら話しづらいだろうが。元々お前がまともに話を聞かなかったからこんなことになってんだろうがよ。……そういやゲームでも思い込みでクラルテを責めていた時があったっけ。経緯こそ違えど状況だけは同じだ。残念ながらリヒトの悪癖が緩和されるのはゲームの終盤で、もうちょい先のお話。
……やっぱり主人公と攻略対象たちとは関わるべきじゃない。改めてその事実を実感した。
「つまらないことを言っている暇があるのならそれの話でも聞いてやる方が有意義だろ。次期宰相殿?」
嫌味を込めてそう言ってやる。案の定面白い顔になった。ああ、この顔を今すぐ写メってエフェクトつけて焼き増ししたい。スマホがないのが残念でならないよ。
リヒトの顔を見て満足した俺はくるりと背を向けて歩き出した。今日の夕飯はさぞ美味だろうな。……俺って結構悪役向いているのかもしれない。
……まあリヒトのことはいいや。それよりもこれから学園内のガゼボにでも行こうかな。あそこそれなりに花の種類豊富だし。なんならいくらか押し花にしたいな。まずは管理人に許可取らなきゃならんのだけど。
……ん?
なんか今水音がしたような。ここを右に抜ければ小さい噴水があるんだっけ。あまり日当たりが良くないかた行く人は少ないけど、結構きれいな場所だったはずだから誰かしらはいるんだろうな。
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