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一頁 覚醒のロベリア
13話 カルからの呼び出し
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……と意気込んださっきの俺に誰か言ってやってほしい。お邪魔虫になり得るのは何も身内だけではない。むしろ外からやってくる虫の方が何倍も厄介なのだと。
「すげえ膨れっ面だなぁ、おい」
「……誰のせいだと思っているんだ」
今、目の前で楽しそうに金を数えているカルに俺は殺意を覚えていた。
……ことの起こりはほんの数十分前。
俺は押し花作りで机に向かっていた時、連絡用の窓が光った。けど俺は趣味の邪魔をされるのが嫌いなので無視をしようと決めた矢先、窓の光が点滅するという現象が起こった。初めてのことに驚いて窓を見ると嫌がらせかと思うほど、次々に手紙が落ちてきていた。その時点で窓を叩き割りたい衝動に駆られたが、緊急の用事かもしれないとなんとか抑え込んだというのに。
開いた手紙には楽しげな文面でこう書かれていた。
------------------------------
こんばんは~
お楽しみのところ悪いんだけど、公爵家所有の屋敷にある草花の一覧表の代金、追加請求するから持ってきて♪
カル
------------------------------
……その場で手紙を握りつぶした俺は悪くない。
「今かよっ!!!」
いやあいつの性質上、いつか請求してくるだろうとは思っていたけど! 今じゃなくてもいいだろうが!! 多分これ全部同じ内容だよなっ!? マジで嫌がらせか畜生!!!!!
「……知るかっつーの」
大量にきた手紙を持って乱暴にゴミ箱に捨てようした時、またしても窓が点滅し慈悲の心で確認すると催促の内容だった。しかも今すぐときた。ふざけてんのかあの野郎!!!!!
……で、このままじゃ大量の手紙に埋もれて窒息しかねないと思った俺は強い恨みを胸にご所望の金を持ってやってきたというわけだ。
「……うん、丁度だね。結構結構♪」
「……楽しそうだな」
「うわっ声低っ! なんだよそんなに怒ることか?」
「ああ、今すぐにその髪の毛引き抜いて針を刺してやりたいくらいはな」
「ええ~……酷くね?」
「あ?」
「……ナンデモナイデス」
反省の兆しなし。……本当に引っこ抜いてやろうかなマジで。
「でも俺の情報のおかげで有利に事が進んだんだからむしろ感謝されても良くね?」
「ああ、手紙寄越したのがあのタイミングじゃなかったらもう少し弾んでやってもよかったんだが」
「目、目! 怖いって。なんでそんなに怒ってんだよ。大量に手紙送ったからか?」
手紙だぁ? そんなものはどうでもいいんだよ馬鹿!!!!!
「お前はそれ以上の重罪を犯した」
「何さ」
「俺の趣味の邪魔をした」
「……は?」
「は? じゃねえよ! なんのために公爵と話つけたと思ってやがる!」
俺は今の思いを全力でカルにぶつけた。なんかドン引きしているが俺には関係ない。シュヴァリエのキャラが崩れようがこいつには言っておかなければいけない。こ・ん・ご・の・た・め・に!!!!!
……それから十五分後。
「えーと……なんか…………すみませんでした」
「わかればいい」
ようやくすっきりした俺は、出されたお茶を飲んでいた。うん、いい味。
カルは己の罪を理解できたのか縮こまっている。まあ言い過ぎた気はするけど。
「……お前、いろいろ吹っ切れ過ぎじゃね? そんなキャラだったっけ?」
「別にいいだろうが。夫人もいなくなったし、公爵も押さえ込んだんだ。少し浮かれても罰は当たらねえだろ」
「浮かれ…………まあいいや。手紙を送るときはもうちょい気をつけるわ。さっきみたいなのは一度でいい」
「ああ、そうしろ。俺も繰り返し言いたくねえから」
「……そうかよ」
カルがなんか疲れた顔になっているが自業自得だ。
「用事も済んだ。俺は帰らせてもらうぞ」
そう言って席を立った俺は何故かカルに腕を掴まれた。
「せっかちな野郎だな。まだ話は終わってねえよ」
「なんだ。金請求する以外にも用事があったのか」
「こんな時間に呼び出すのにそれだけなわけねえだろ」
……ああ、言われてみれば確かにそうか。邪魔された事が頭を占めていて思い至らなかったけど、無駄に多い催促の手紙と時間を考えれば金以外の目的があってもおかしくない。この国での成人年齢は十八歳。そして俺は今未成年だ。いくら用事があるからと言って貴族の子息、それも未成年者をこんな時間に呼び出すなんてことは普通しない。カルだってそのあたりはきっちりわきまえている。にも関わらず呼び出したんだから余程のことと捉えるのが筋だ。
「だったら手紙に一言添えればいいだろう。無駄に苛つく手段使ってんじゃねえよ」
「その方がお前は飛んでくるだろ」
「ウザい」
「ひどいなぁ」
笑いながら俺を無理矢理座らせると部下にお茶のおかわりを持って来させた。
「わざわざ茶まで入れ直させて一体なんの話だ」
「元公爵夫人と元筆頭侍女と元料理人のことで」
「……お前、どこまで知っている?」
「どこまでだと思う?」
「……愚問か」
全部知っているんだろうな。断罪劇から公爵との交渉、その後の処遇なんかもこいつに筒抜けだと思うとマジで気味が悪い。……今更だけど。
「まずファボルとかいう男だけど、今所持金ゼロになっている」
「追い出されたのは昨日だろ。なんでもう素寒貧なんだ?」
「公爵家での給金の残高を賭場の資金にしたんだよ」
「負けて全額飛ばしたのか」
「正解。飛ばしたどころか借金背負った」
「しょうもないクズだな」
「完全に同意だわ。追い出された昨日のうちに賭場に行って、全額かけて、借金」
「……まさか賭場で退職金の代わりを稼ごうとしたのか?」
「それもあるだろうが、あの男の趣味はもともとギャンブルだったんだよ」
ギャンブル好きっていうのは何処にでもいるらしい。そっちよりも自分の生活金の方が大事だろうに、俺には到底理解できないね。
「解雇されたその日に借金作るとか馬鹿だな」
「賢かったらこんなことになっていないだろ」
「それもそうか。まあ馬鹿のことはどうでもいい。元夫人とその腰巾着は?」
「ご婦人の方は今馬車で実家に向かっている最中で、弟である侯爵が楽しそうに姉を迎える準備をしている」
なんだそれ。いくら姉が好きだからと言って一応罪人として戻されてくるっていうのになんでそんなことになっているんだ。離縁という提案に二つ返事だったと公爵も言っていたし、脳みそ入っているんだろうかその侯爵は。
「……あっそ。で腰巾着は?」
「もっと言うことねえのかよ」
「別次元に生きている奴の頭を想像しても無駄だ」
「ああそうかい。元筆頭侍女も実家に帰っている最中だけど、ご婦人のところに行く可能性が高い」
「どういうことだ?」
「アクナイトでの犯罪に加担したことで、向こうは絶縁する気満々みたいだからな」
「……そっちにも情報が伝わっているのか」
昨日今日の出来事なのに情報の伝達速度は一体どうなっているのやら。
しかしご主人を頼るとしても、また置いてもらえるとは限らないのに本当にそっちへ行くんだろうか。
「いくら主従仲が良かったとしても尻尾掴まれるようなヘマをした部下を、あの女がまた手元に置くと?」
「ん? そりゃ、あの両家はお友だちだからだ。……表でも裏でもな」
「…………ああ、そういうことか」
カルの言葉の意味がわかった俺は思わず口角を上げた。随分とまあ親切なことで。
「別に手紙でも良かったのに来させるとか、迷惑な野郎だなお前は」
「俺は用心深い性分でね。基本的に人は信用しないんだよ。特にお貴族様なんてどこにどんな敵が潜んでいるかわからないもんだ」
「それには同感だ」
シュヴァリエも散々経験してきたことだ。環境にはあまり恵まれていなかったし、シュヴァリエ自身の出生も理由だろうけど、日本で生きてきた身としてはもう少し穏やかであっても良かったんじゃないかとも思う。
「だろ? お前も気をつけろよ~? 自分にとって最大の敵っていうのは案外近くにいるもんだ」
「それはお前の経験談か?」
「そんなところだ。……お前のことは結構気に入っているんでね。末長くご利用いただきたいんだよ」
「ほざけ。金目当てのくせに」
「八・二でお金と本心だ」
「九・一だろ。盛るんじゃねえよ」
「いいじゃねえかよ。心配しているのは事実だ」
「金払いのいい顧客を失うわけにはいかないだろうからな」
「その通り! 俺の懐のためにも間違っても変なことに巻き込まれるんじゃねえぞ」
「聞き流しておく」
「ひどっ!!!」
なんか言っているカルを無視して俺は出口へと向かう。
「待てよ」
「まだ何かあるのかよ」
「ほい」
カルが何かを投げつけてきた。危うく顔面に当たるところだったが、なんとか受け取ったそれは仄かに熱を帯びた宝珠だった。……おい。
「これ、『焔の宝珠』だろ。どこで手に入れた?」
「気にするな貰い物だ。今後もご贔屓にって証。別名賄賂ともいう」
「いらねえ」
「まあまあ、持っているだけでもいいから。どっかでは使い道あると思うぞ。例えば……お前の趣味とかに、な」
「……ちっ、嫌な奴」
俺は思い切り扉を閉めた。本当に気味悪いわあいつ。……確かに欲しいとは思っていたけど、用意してあるっておかしいだろ。
俺の手の中で不規則に点滅しているこの『焔の宝珠』は空気中にある魔力を吸って発熱する不思議な宝珠だ。発せる熱の温度に限度はあるが、物を乾燥させたり、冬場はカイロの役割も果たしてくれる。
これがあれば花を乾燥させるのにかける時間を大幅に減らす事ができる。押し花やドライフラワーを作った事がある人間ならわかるだろうが、乾燥の作業が一番気を使うんだよ。時間をかけすぎると変色する可能性があるから。まああと気をつける点はいくつかあるけど、俺は乾燥作業に神経を使ったね。こまめに取り替えなきゃいけないから始めた頃は面倒くさいなって思ってたっけ懐かしい。
……まあどんな目的があるにせよ、これが便利なのは間違いない。大きい物でもないから持ち運んでも負担にならない優れ物。せっかくだし学園に持って行こう。
それじゃあ、さっさと帰って作業の続きをするとしましょうか!
「すげえ膨れっ面だなぁ、おい」
「……誰のせいだと思っているんだ」
今、目の前で楽しそうに金を数えているカルに俺は殺意を覚えていた。
……ことの起こりはほんの数十分前。
俺は押し花作りで机に向かっていた時、連絡用の窓が光った。けど俺は趣味の邪魔をされるのが嫌いなので無視をしようと決めた矢先、窓の光が点滅するという現象が起こった。初めてのことに驚いて窓を見ると嫌がらせかと思うほど、次々に手紙が落ちてきていた。その時点で窓を叩き割りたい衝動に駆られたが、緊急の用事かもしれないとなんとか抑え込んだというのに。
開いた手紙には楽しげな文面でこう書かれていた。
------------------------------
こんばんは~
お楽しみのところ悪いんだけど、公爵家所有の屋敷にある草花の一覧表の代金、追加請求するから持ってきて♪
カル
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……その場で手紙を握りつぶした俺は悪くない。
「今かよっ!!!」
いやあいつの性質上、いつか請求してくるだろうとは思っていたけど! 今じゃなくてもいいだろうが!! 多分これ全部同じ内容だよなっ!? マジで嫌がらせか畜生!!!!!
「……知るかっつーの」
大量にきた手紙を持って乱暴にゴミ箱に捨てようした時、またしても窓が点滅し慈悲の心で確認すると催促の内容だった。しかも今すぐときた。ふざけてんのかあの野郎!!!!!
……で、このままじゃ大量の手紙に埋もれて窒息しかねないと思った俺は強い恨みを胸にご所望の金を持ってやってきたというわけだ。
「……うん、丁度だね。結構結構♪」
「……楽しそうだな」
「うわっ声低っ! なんだよそんなに怒ることか?」
「ああ、今すぐにその髪の毛引き抜いて針を刺してやりたいくらいはな」
「ええ~……酷くね?」
「あ?」
「……ナンデモナイデス」
反省の兆しなし。……本当に引っこ抜いてやろうかなマジで。
「でも俺の情報のおかげで有利に事が進んだんだからむしろ感謝されても良くね?」
「ああ、手紙寄越したのがあのタイミングじゃなかったらもう少し弾んでやってもよかったんだが」
「目、目! 怖いって。なんでそんなに怒ってんだよ。大量に手紙送ったからか?」
手紙だぁ? そんなものはどうでもいいんだよ馬鹿!!!!!
「お前はそれ以上の重罪を犯した」
「何さ」
「俺の趣味の邪魔をした」
「……は?」
「は? じゃねえよ! なんのために公爵と話つけたと思ってやがる!」
俺は今の思いを全力でカルにぶつけた。なんかドン引きしているが俺には関係ない。シュヴァリエのキャラが崩れようがこいつには言っておかなければいけない。こ・ん・ご・の・た・め・に!!!!!
……それから十五分後。
「えーと……なんか…………すみませんでした」
「わかればいい」
ようやくすっきりした俺は、出されたお茶を飲んでいた。うん、いい味。
カルは己の罪を理解できたのか縮こまっている。まあ言い過ぎた気はするけど。
「……お前、いろいろ吹っ切れ過ぎじゃね? そんなキャラだったっけ?」
「別にいいだろうが。夫人もいなくなったし、公爵も押さえ込んだんだ。少し浮かれても罰は当たらねえだろ」
「浮かれ…………まあいいや。手紙を送るときはもうちょい気をつけるわ。さっきみたいなのは一度でいい」
「ああ、そうしろ。俺も繰り返し言いたくねえから」
「……そうかよ」
カルがなんか疲れた顔になっているが自業自得だ。
「用事も済んだ。俺は帰らせてもらうぞ」
そう言って席を立った俺は何故かカルに腕を掴まれた。
「せっかちな野郎だな。まだ話は終わってねえよ」
「なんだ。金請求する以外にも用事があったのか」
「こんな時間に呼び出すのにそれだけなわけねえだろ」
……ああ、言われてみれば確かにそうか。邪魔された事が頭を占めていて思い至らなかったけど、無駄に多い催促の手紙と時間を考えれば金以外の目的があってもおかしくない。この国での成人年齢は十八歳。そして俺は今未成年だ。いくら用事があるからと言って貴族の子息、それも未成年者をこんな時間に呼び出すなんてことは普通しない。カルだってそのあたりはきっちりわきまえている。にも関わらず呼び出したんだから余程のことと捉えるのが筋だ。
「だったら手紙に一言添えればいいだろう。無駄に苛つく手段使ってんじゃねえよ」
「その方がお前は飛んでくるだろ」
「ウザい」
「ひどいなぁ」
笑いながら俺を無理矢理座らせると部下にお茶のおかわりを持って来させた。
「わざわざ茶まで入れ直させて一体なんの話だ」
「元公爵夫人と元筆頭侍女と元料理人のことで」
「……お前、どこまで知っている?」
「どこまでだと思う?」
「……愚問か」
全部知っているんだろうな。断罪劇から公爵との交渉、その後の処遇なんかもこいつに筒抜けだと思うとマジで気味が悪い。……今更だけど。
「まずファボルとかいう男だけど、今所持金ゼロになっている」
「追い出されたのは昨日だろ。なんでもう素寒貧なんだ?」
「公爵家での給金の残高を賭場の資金にしたんだよ」
「負けて全額飛ばしたのか」
「正解。飛ばしたどころか借金背負った」
「しょうもないクズだな」
「完全に同意だわ。追い出された昨日のうちに賭場に行って、全額かけて、借金」
「……まさか賭場で退職金の代わりを稼ごうとしたのか?」
「それもあるだろうが、あの男の趣味はもともとギャンブルだったんだよ」
ギャンブル好きっていうのは何処にでもいるらしい。そっちよりも自分の生活金の方が大事だろうに、俺には到底理解できないね。
「解雇されたその日に借金作るとか馬鹿だな」
「賢かったらこんなことになっていないだろ」
「それもそうか。まあ馬鹿のことはどうでもいい。元夫人とその腰巾着は?」
「ご婦人の方は今馬車で実家に向かっている最中で、弟である侯爵が楽しそうに姉を迎える準備をしている」
なんだそれ。いくら姉が好きだからと言って一応罪人として戻されてくるっていうのになんでそんなことになっているんだ。離縁という提案に二つ返事だったと公爵も言っていたし、脳みそ入っているんだろうかその侯爵は。
「……あっそ。で腰巾着は?」
「もっと言うことねえのかよ」
「別次元に生きている奴の頭を想像しても無駄だ」
「ああそうかい。元筆頭侍女も実家に帰っている最中だけど、ご婦人のところに行く可能性が高い」
「どういうことだ?」
「アクナイトでの犯罪に加担したことで、向こうは絶縁する気満々みたいだからな」
「……そっちにも情報が伝わっているのか」
昨日今日の出来事なのに情報の伝達速度は一体どうなっているのやら。
しかしご主人を頼るとしても、また置いてもらえるとは限らないのに本当にそっちへ行くんだろうか。
「いくら主従仲が良かったとしても尻尾掴まれるようなヘマをした部下を、あの女がまた手元に置くと?」
「ん? そりゃ、あの両家はお友だちだからだ。……表でも裏でもな」
「…………ああ、そういうことか」
カルの言葉の意味がわかった俺は思わず口角を上げた。随分とまあ親切なことで。
「別に手紙でも良かったのに来させるとか、迷惑な野郎だなお前は」
「俺は用心深い性分でね。基本的に人は信用しないんだよ。特にお貴族様なんてどこにどんな敵が潜んでいるかわからないもんだ」
「それには同感だ」
シュヴァリエも散々経験してきたことだ。環境にはあまり恵まれていなかったし、シュヴァリエ自身の出生も理由だろうけど、日本で生きてきた身としてはもう少し穏やかであっても良かったんじゃないかとも思う。
「だろ? お前も気をつけろよ~? 自分にとって最大の敵っていうのは案外近くにいるもんだ」
「それはお前の経験談か?」
「そんなところだ。……お前のことは結構気に入っているんでね。末長くご利用いただきたいんだよ」
「ほざけ。金目当てのくせに」
「八・二でお金と本心だ」
「九・一だろ。盛るんじゃねえよ」
「いいじゃねえかよ。心配しているのは事実だ」
「金払いのいい顧客を失うわけにはいかないだろうからな」
「その通り! 俺の懐のためにも間違っても変なことに巻き込まれるんじゃねえぞ」
「聞き流しておく」
「ひどっ!!!」
なんか言っているカルを無視して俺は出口へと向かう。
「待てよ」
「まだ何かあるのかよ」
「ほい」
カルが何かを投げつけてきた。危うく顔面に当たるところだったが、なんとか受け取ったそれは仄かに熱を帯びた宝珠だった。……おい。
「これ、『焔の宝珠』だろ。どこで手に入れた?」
「気にするな貰い物だ。今後もご贔屓にって証。別名賄賂ともいう」
「いらねえ」
「まあまあ、持っているだけでもいいから。どっかでは使い道あると思うぞ。例えば……お前の趣味とかに、な」
「……ちっ、嫌な奴」
俺は思い切り扉を閉めた。本当に気味悪いわあいつ。……確かに欲しいとは思っていたけど、用意してあるっておかしいだろ。
俺の手の中で不規則に点滅しているこの『焔の宝珠』は空気中にある魔力を吸って発熱する不思議な宝珠だ。発せる熱の温度に限度はあるが、物を乾燥させたり、冬場はカイロの役割も果たしてくれる。
これがあれば花を乾燥させるのにかける時間を大幅に減らす事ができる。押し花やドライフラワーを作った事がある人間ならわかるだろうが、乾燥の作業が一番気を使うんだよ。時間をかけすぎると変色する可能性があるから。まああと気をつける点はいくつかあるけど、俺は乾燥作業に神経を使ったね。こまめに取り替えなきゃいけないから始めた頃は面倒くさいなって思ってたっけ懐かしい。
……まあどんな目的があるにせよ、これが便利なのは間違いない。大きい物でもないから持ち運んでも負担にならない優れ物。せっかくだし学園に持って行こう。
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