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第二部 ~二年と再会~

107 大団長再び

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 突如訪れた火の騎士団員によると、この男が所属する火の王国の騎士団の任務で、大量に運んでいた酒が急に不要になったと王国から連絡が入ったとの事。当初は目的の街へ届ける予定だったがそれが無くなり、火の王国へ戻っても廃棄する予定なので、帰るまでに団員達が好きに飲んでも良し、通りすがりの人に分けるでも良し。兎に角不要になったので好きにしてくれと言われたらしい。

 そのまま持ち帰ってもただ道中荷が重いだけであり、既に廃棄する事が決まっているならばと団員達は当然飲む事を選んだ。酒が苦手な者は口にしなかったが、好きな者達にとってはこれ以上ないラッキーな出来事。皆日常のご褒美だと言わんばかりに火の騎士団員は楽しくその酒を飲んだ。

 そこそこの量があった為、自分達だけでは飲みきれないと飲み仲間を探していたところ、ランベル率いる第9師団を見つけたとの事だ。事情を全て聞いたランベルと団員達。少しばかり判断に迷ったランベルであったが、話を聞いた団員達はもう既にその気になっており、とても「ダメだ」等と空気の読めない事を言える雰囲気ではなかった。

 水の王国はもう目と鼻の先。任務も無事に完了している事に加え、ランベルは任務の報告ついでに現状の出来事を騎士団の屯所まで伝えると、「次の任務に支障をきたさない程度なら」と大団長からも許可が下りた為、火の王国の誘いを受ける事にしたのだった。

 他国の騎士団との交流も大事な経験。その日の夜は、火の王国の騎士団と水の王国の騎士団によるささやかな宴会が楽しく行われた。

 互いの団員達は飲んでは語り、語ってはまた飲んだ。合わせて100人ぐらいはいただろうか……。盛り上がった宴会は夜が更ければ更ける程1つまた1つと声が止んでいき、全ての声が聞こえなくなった数時間後、そこかしこに横たわる団員達に1日の始まりを告げるかの如く、心地よい朝日が一行に差し込んだのだった――。

「――ん~……。やば。今何時だ?」

 徐に目を覚ましたランベル。朝日を差し込んだ太陽は既に真上まで登っていた。時刻は正午……。既に目を覚まして片付けや身支度をしている団員もいれば、まだ爆睡している団員も多くいた。

 思っていたよりも大分寝過ごしてしまったランベル達は直ぐに帰り支度を始めた。それはまた火の騎士団も然り。お互いに十分楽しめたのだろう。少しばかり羽目を外してしまったが、何かと忙しい日常の些細な楽しみに、心身共にリフレッシュ出来た団員も多かった。

 ひょんなことから親交も深め、帰り支度を済ませた団員達は互いに別れを告げそれぞれまた自分達の帰路へとついたのだった。

 だが、ここからが事の本番――。

 互いに王国へ帰ろうと歩みを始めた瞬間、火の王国も水の王国にも突如体調不良で倒れる者が続出した。ただの飲み過ぎによる二日酔いとは何かが違う……。最初の2,3人はその疑いがあったが、直ぐにそんなものは氷解され、気が付くと何十人という団員が苦しみながら倒れた。それも火と水の王国互いの騎士団員がほぼ同時に。

 何が起こっているのか不明だった。

 一瞬、ランベルを含めた数人の団員達が火の王国の騎士団の仕業かと疑ってしまったが、それにしてはまるで説明が付かない。寧ろ火の団員達も同じ様な者が多く出ているし、自分達も何が起こっているのかまるで分かっていない様子だった。

 余りの異様な出来事に皆が言葉を失った。ランベルも火の騎士団の団長も直ぐに敵襲やモンスターの仕業かと頭を回転させ周囲を確認したが、ドーランが言っていた通り、周囲いにそんな魔力も感じなければモンスターの仕業でもなかった……。

 体調不良で倒れたその者達は暫く胸を押さえながら苦しんだ後、まるで自我失ったかの様に暴れはじめたと言う――。

 勿論理由は分からない。突然暴れ出す者……そうでない者……。

 このままだと何かマズイと勘が働いたランベルは、直ぐに団員達全員に指示を出した。その指示によって“正常”であった者達が何とか暴れ出す者達を抑え込んだ。だが、場の混乱が消える事はなく、寧ろ次々に暴れ出す者が増えていく事によって一気に全体が異様な空気に包まれてしまったらしい。

 訳が分からないまま兎に角暴れ出す団員達とそれを抑える団員達。次第に暴れ方にも度が増していき、酷い者は武器を振り回し攻撃魔法を繰り出す様な始末であった。

 最初に数人が倒れ始めてから早数時間……。
 暴れ出す者を抑えたり、攻撃してくる者を止めたり、場はまるで戦場と化してしまった。

 ランベル達はそんな中でも何とか冷静さを保ち、近くにある水の王国への現状報告と応援要請の使いを走らせ、暴れ出した者達の中でもその症状に個人差がある事や、症状が軽い者ならば時間が経つにつれて少しづつ正常に戻っていくという情報を辛うじて掴んだのだった。

 それでも状況はジリ貧。正常な者とそうでない者の割合は6:4。僅かに暴れ出す者達の方が多かった事に加え、正常な者達は加減して攻撃しなければならずまた、抑え込んでおくのにも人数を要していた。かなりギリギリの状況であったが何とか水の王国への応援要請が駆けつけてくれた事と、それ以上に、余りに予想外であったがレイ達の登場によって場を一気に鎮められた事が大きかった。


「――成程な」
「大変でしたねランベルさん……」
「兎に角無事で良かったわ」

 以上が事の成り行きだそうだ。改めてレイ達はランベルに労いの言葉を掛けつつも、やはり腑に落ちないのは一体何が原因で今回の騒動が起こったのかという事であった――。

「結局が何が原因だったんだ? あそこは確かにそれらしい魔力や気配を何も感じなかったし、勿論モンスターのせいでもない」
「ああ。あの場にいた俺達でも事情がさっぱり分からない。一応何か分かり次第火の王国の騎士団とは情報を交換し合うつもりだ。暴れ出し者達も異常が無いか検査もする。だからそれで何かが分かればいいんだけどな」
「そういやランベル。お前いつの間に団長になってんだよ!驚いたぞ」

 レイが徐にそう言うと、ランベルは待ってましたと言わんばかりにドヤ顔を浮かべた。

「フッフッフッフ。本当は会った時に驚かせようと思っていたんだけどな。バレちまったならしょうがない。そうだ!俺はたったの2年で団長にまで出生した!凄ぇだろ!」
「本当に凄いですねランベルさん」
「素直に喜んであげたいけど、態度がなんか癪に障るわね」
<確かに>

 ローラの意見にドーランも静かに賛同していた。

「凄いと言えば凄いけどよ、まだ大団長にはなれねぇって事だよな」
「うるせぇ! 団長でも凄い事なんだろ。これでも水の王国の騎士団での最年少記録出してんだからな!
そんな事よりお前はどうなんだよレイ。全く連絡もよこさず何処で何してたんだよ。いきなり現れてマジで驚いたぞ」
「アンタもろくに連絡してないけどねランベル」
「ハハハハ! 本当にどうしようもねぇよなランベルは」
「「お前が言うな!」」

 2年ぶりに息の合ったローラとランベルのツッコミに、レイはずっと笑っているのだった。

「まぁ兎も角、今回の事はまた明日以降に何かしら情報が入るだろう。流石にちょっとばかし疲れたからさっさと雑務終わらせて今日はもう帰るッ……「――やぁ。皆“久しぶり”だね」

 帰って来てからというもの、ずっとバタバタとしていた騎士団屯所。ランベルはレイ達に残った雑務も終わらせて今日はもう帰ると伝えようとしたところ、誰かがそのランベルの言葉を遮って会話に入ってきた。

「あ! 大団長!」
「元気そうじゃないか皆」

 そう。
 レイ達の前に姿を現したのは、水の王国の騎士団の大団長であった――。

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