上 下
108 / 112
第二部 ~二年と再会~

106 前兆

しおりを挟む
 リエンナが繰り出した結界魔法――。
 戦場全てが淡い光に包まれるや否や、自我を失い暴れ出していた騎士団員達のみの動きが止まった。すると今度はそのまま崩れる様に騎士団員達は地面に倒れ込んでいってしまった。

<ほぉ。感じた以上に強くなっているではないかリエンナよ>
「本当ですか? 嬉しいです!少し心配でしたが、上手くいったみたいで安心しました」

 リエンナの成長にドーランも心なしか嬉しそうである。戦場は突然として物々しい雰囲気から戸惑い交じりの静寂へと空気を変えていた。皆何が起こったか分からない様子で辺りをキョロキョロ見渡している。それは仲間であるレイ達も同じだった。

「凄い……。何したのよリエンナ」
「はい。この場所全てを状態異常回復の結界魔法で覆いました」
「ただの結界だけじゃなくて、状態異常の回復を付与した結界魔法って事? 何それ……そんな事出来るの?」

 ローラが驚くのも無理はない。結界魔法自体が極めて珍しい魔法という事もあるが、結界魔法はその名の通り結界によって敵や味方を封じ込めたり守ったりするのが基本である。シンプルに言えば特殊な防御系魔法と言ったところだろう。

 一般的に知られている結果魔法は基本的に防御や封印以外これと言った効果はない。効果がないと言うより、その特徴こそが結果魔法最大の効果であり特徴だ。それなのにも関わらず、リエンナはこの結果魔法に状態異常回復という“治癒魔法”を加えていた。

 ローラが驚いていたのはまさにそこ。

 リエンナが結界魔法も治癒魔法も使える事は知っていたが、その2つを組み合わせてより凄い効力のある魔法を生み出し使いこなしていた事に驚かされていたのだ。これは魔法に詳しいローラでさえも初めて見た様だ。

 この場を見事鎮めた驚きと、まだ見た事のない新たな魔法を目の当たりにした事によって、ローラの気持ちは既に色々な高揚感で溢れ返っていた。

「まだまだ完璧に使いこなせる訳ではないですが、結界と治癒の融合をこの2年でイヴさんから教わったので」
「よく分からねぇけど凄ぇなリエンナ!」
「いや、本当に凄いわよコレ……。だからねリエンナ――」
「……?」
「後で少しアンタの事調べさせてくれない?」
「え、ローラさん……⁉」

 抑えきれない変な好奇心によって、出てはいけない部分のローラが現れていた。

「だからお前その変な癖止めろって。顔がマジでヤバいんだよ」
「女同士だから隅々まで見ても大丈夫よね?」
「ダメに決まってます!」
「おい、それよりもこっちが先だろ。リエンナのお陰で何とか治まったが終わった訳じゃない」

 ランベルの言う通りである。
 リエンナの魔法によって無事場は収められたが、あちこちで多くの騎士団員達が気を失ったまま倒れ込んでいた


 だが、リエンナの魔法は他にも効力を付与していた様で、状態異常回復で暴れていた者達は勿論、怪我を負ったり疲労していた他の騎士団員達も少しばかり身体が回復していた。

「おお、何だか少し体が……」
「あれ?傷が治ってる」
「体が軽くなった気がするぞ」

 そう。
 リエンナは状態異常回復と普通の回復魔法も加えていた。それにより、この場にいた者全員が僅かながらリエンナの回復魔法の恩恵を受けられたのだ。

「他の団員まで回復してくれたのか?」
「はい、一応。流石にこの人数ですので気持ちばかりですが……」

 謙遜しているリエンナであるが、これはかなり凄い事だとレイ達は皆思っていた。

「ありがとうリエンナ! これならどうにか終わりそうだ」

 そう言うとランベルは再び団長らしさを垣間見せ、的確で威厳ある指示を出し何とか異様であったこの場に落ち着きを取り戻したのだった。

♢♦♢

~水の王国~

「――取り敢えず一件落着だ。皆ありがとう!特にリエンナは感謝だ」

 ランベルはそう言いながらレイ、ローラ、リエンナにお礼を言った。

「いえいえ。皆さんが無事に帰られて本当に良かったです」

 あれから、無事正常に戻った火と水の騎士団は互いに状況を確認し、今回の詳しい事に付いて分かった事があれば後日情報交換をしようと話し合い、それぞれ王国に帰った。誰も今回の出来事について詳細が分かっていない、摩訶不思議な珍事である。

「それにしても、とんだ再会になったな」
「そうですね」
「本当は久々に集まった記念にパーティでもやって盛り上がりたかったんだけどさ、何かそれどころじゃなくなったな」
「アンタそんな事考えてたの? 今回の出来事があろうか無かろうがパーティなんて審議よ」
<ランベルよ、一体何が起こっていたのだ――>

 ドーランの核心を突く一言。
 今しがたの騒動が収まったのも束の間、やはり皆が気になる原因はそこだろう。

「ああ。詳しい事は俺にもまだ分からない。だが事の始まりは――」

 ランベルは今回の出来事について、自分でも何が起こったのかを振り返る様にレイ達にも説明し始めた。

 事の始まりは2カ月程前――。

 ランベルはこの2年の努力によって、見事騎士団入団を果たし自身のハンターランクもAランクとなるまでに成長していた。そして2カ月前、ランベルがAランクに上がった事と、これまでの騎士団での実績が評価され、ランベルは第9師団という全部で13ある水の王国の騎士団の1つの団の団長に任命されたのであった。

 因みに、この13人の団長をまとめるトップこそが、ランベルの目指す大団長である。

 そんなランベルが団長を任された初任務が今回であった。
 任務の内容自体は普通であった。内容は、遠く離れた町へ訪れる王家の護衛。危険な領域を通る訳でもなければ危ないモンスターが出る訳でもない。ただ強いてい言えば王家の人数が多かった為、普通の護衛よりも人数が多く、少しばかり距離もあった為に予定より日数が掛かってしまったというぐらい。それでも十分に許容範囲内の出来事であり、任務は完璧にこなされていた。

 無事に王家を目的の街まで送り届けたランベル率いる第9師団。後はただ水の王国へ帰るだけだった彼らにトラブルが起きたのは次の日の事……。

 ランベル達が帰路についた数時間後、とある山の麓まで辿り着いていた。この大きな山を越えれば直ぐに水の王国。この山は距離や広さこそあれど標高も高くなく道も険しくない。それに加えランクの高い危険なモンスターなども生息していないので、この場所は比較的多くの騎士団やハンター、商人から一般人まで多くの者が通る山道である。ランベルがこの山道を通った日もまたそんな普通の日だった。

 山の頂上を超え緩やかに下山に入り掛かった時の事、日が暮れてきた為ランベル達はそこで野宿の準備を始めた。これも何時もと何ら変わり映えの慣れた日常。だが、その日常に本当に些細な“変化”があったとすればこの後だとランベルは言った。

 午後21:00過ぎ頃、寝る場所も確保し、全員が食事も済ませた束の間の休息。各々他愛もない話をしたり既に寝転がっている者もいた安息の時間。そんなランベル達第9師団の元へある者が不意に訪れた。それは、既に程よく酔いが回った火の王国の騎士団員であった。

 ランベル達が野宿している場所から数百メートル離れたぐらいだろうか。視界の奥で焚火の明かりが微かに確認出来る程の距離。武器も手にしていなければ甲冑もほぼ脱ぎ装いはとても軽い。緊張感などまるである筈もなく、手には酒瓶を持ち何とも陽気に現れたその騎士団員。

「何だお前は……?」
「それは火の王国の紋章か。何か用か?」
「いやいや~、特に用はないけどよ、見た感じアンタ達ももう任務終わって王国に帰るだけだろ? だったら皆で楽しく飲まねぇか?酒が大量に余ってるんだ。皆で飲もうぜ、なぁ!」
「「……」」


 今思い返しても、考えられる変化はたったこれだけだった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

ラック極振り転生者の異世界ライフ

匿名Xさん
ファンタジー
 自他ともに認める不幸体質である薄井幸助。  轢かれそうになっている女子高生を助けて死んだ彼は、神からの提案を受け、異世界ファンタジアへと転生する。  しかし、転生した場所は高レベルの魔物が徘徊する超高難度ダンジョンの最深部だった!  絶体絶命から始まる異世界転生。  頼れるのは最強のステータスでも、伝説の武器でも、高威力の魔法でもなく――運⁉  果たして、幸助は無事ダンジョンを突破できるのか?  【幸運】を頼りに、ラック極振り転生者の異世界ライフが幕を開ける!

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

処理中です...