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第六章 ~ロックロスの序曲~

98 再会の約束

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「より厳しい環境って……」
<ランベルが騎士団に入ると一年は任務をこなさねばならぬと言ったな?>
「ああ」
<絶妙のタイミングではないか。その間に各自で強くなれ。パーティではなく、個々の能力を最大限伸ばせるいい機会だ。
まずランベル……主は予定通り騎士団に入るんだ。そしてランベルが目指していると言う大団長という者や、それに近い実力者達と日々死に物狂いで訓練を行え。騎士団には実力者が揃っているのであろう? 下手なクエストを受けるよりそれが最短であろう>
「――!」

 言われたランベルはハッとした表情を浮かべる。確かにドーランの言う通りだ。より厳しい環境に身を置くのが成長には必要と言える。

 ランベルに続き今度はローラにも助言する。

<そしてローラ……。主はもっとウィッチとしての能力を伸ばすが良い。ウィッチや魔女の魔力量はまだまだその程度ではない。既にそれを証明している者が“身近”にいるであろう。本物のウィッチが――>
「私の身近に……?」
<我も会った事がある者だ。その者は我が姿を現していないにも関わらず、レイの中にいる我の存在に気が付いた。彼女は相当の実力者であるぞ>

 ハッと何かを思い出した様な表情を浮かべながら、ローラはドーランの言う人物が一人当てはまった。

「ひょっとして……“ドロン婆さん”⁉」
「えぇぇ!俺の村の⁉ そう言えば元々Sランクとか言ってよなローラも」
<彼女の魔力量は、我が今まで出会った人間の中でもトップクラスであった>
「そんなに凄いのかドロン婆さんって!ポセイドンと同じぐらい?」
<それに匹敵する。寧ろ彼女の若い現役時代ならば、奴を凌ぐだろう>
「マジで⁉」

 元々Sランクの実力者だと知っていたローラでさえ、まさかドロン婆さんがそこまでの強さだとは知らなかった。レイもランベルも当然の如く驚いている。だが、リエンナは一人だけまだピンときていなかった。リエンナはそのドロン婆さんを知らないのだから無理もないだろう。

 そして今度はそんなリエンナに、ドーランが助言をする。

<次にリエンナ……。主は自身が得意とするその結界魔法や治癒魔法、その力を極めるのだ。その力は人間の中でも珍しく希少。故に情報も少なく扱い方が難しい魔法であるが、それを使いこなすことが出来れば敵にとって相当厄介な脅威となり得るだろう。この先奴らと戦うならば、主の力は絶対に必要となる>
「そうなんですね……。分かりました、私も頑張ってみます!ですが、一体どうすればいいでしょう? 私は騎士団に入れる訳でもありませんし、まだ外の世界に知り合いもいないですから……」

 困るリエンナを見て、ドーランは予めその答えを持っていた様であるが、何故か一瞬の間が生まれた後<奴にまた頼るのは癪であるが……>と前置きをしながら静かに口を開いた。

<我と“イヴ”は決して友達ではない――。
だが、主の使うその魔法についてはイヴが一番よく知っている。奴に教えてもらうのが手っ取り早く確実であろう。奴の敵も我らと同じ。事情を話せば多分面倒を見てくれるだろう。リエンナの助けとなってくれる筈だ>
「は、はい! ありがとうございますドーランさん!」
「イヴって誰だ?」

 ドーランの口から出た聞き慣れない名前にランベルが問いた。勢いで返事をしていたリエンナだが、彼女もまたふと冷静になったのか、ランベルと同じ疑問を抱いている様子である。

<そうか。二人はまだ会った事がなかったか>
「妖精王のフェアリー・イヴよ。ドーランと友達なの」
<断じて友達などではないぞッ!>
「妖精王……?」
「フェアリー・イヴ……?」

 一瞬上を見ながら考えたランベルとリエンナは、その誰もが一度は聞いた事のある伝説のフェアリー・イヴ本人であると理解した瞬間、とんでもない驚愕の声を上げたのは言うまでもない――。

 そしてドーランが何処か納得いかない様子であったのは、イヴが絡んでいたからであった。ドーランのプライドか何かがその思いを妨げていたのだろう。一抹の不安が消えたリエンナは力強く返事を返した。

<そして最後に……レイ。勿論主には誰よりも強くなってもらうぞ>
「おう。 任せとけ!」
<その気合いが一番不安なのだが……>

 思いがけない状況に追い込まれたレイ達にとって、これから進むべき道の選択はどれも厳しいものとなるだろう。相手が世界トップとなればやむを得ない。図らずも実力を突き付けられたレイ達に残された道は強くなる事のみ――。

 今ドーランが各自にした助言はあくまでドーランの一つの提案だ。勿論決めるのはレイ達。考えればまだ他にも選択肢はあるだろうし、もっと平和的な解決策が存在するやも知れない。

<どうする? これはあくまで我の提案だ。無理強いはしない>

 だが、話しを終える頃には皆が自然と決意を固めているのだった。

「どうやら皆気持ちは同じみたいだな……」

 レイは皆を見ながらそう言った。ローラもランベルもリエンナも、全員が迷いのない表情で頷いていた。

「よし! それじゃあ決まりだ。一旦俺達のパーティはここで休憩。各自レベルアップして、また集まろうぜ!」
「おう!」
「ええ!」
「はい!」

 全員が力強く返事をした。

<(奴らとの実力差は歴然……。先程までは正直不安が過っていたが、この子達ならば乗り越えられるだろう――)>

 レイ達が円陣を組んで気合入れしている光景を、ドーランは優しく見守っているのだった。


「――じゃあここで一旦お別れだな」
「ああ。定期的に連絡は取り合おう」
「そうね。アンタはまず入団試験合格しなさいよ。落ちたら完全に出遅れるから」
「余裕で受かってやるよ」
「フフフ。頑張って下さいねランベルさん。離れてしまいますが応援してますので」
「いつも優しいのはリエンナだけだなぁ」
「私も心配してあげてるんだけど」
「ランベル。余裕だったら次会うまでに大団長になってくれてても良いんだぜ?」
「おいレイ。お前まで俺を見くびっているな。本当に大団長になって帰って来てやるからな」

 いつも調子で会話をするレイ達。楽しくもり、やはり何処かで寂しさを感じている様だ。


「……で? 取り敢えず次会うのは“一年後”って事でいいのよね?」
「まぁそんな感じになる……のかな」
<そこはあくまでも目安でいいだろう。そもそも一年ばかりで急激に成長出来るとは思えぬ>
「じゃあ下手したらもっと掛かるかもな」
<その辺は主達の実力次第。それに、流石の奴らも全員がバラけて行動するとは思っていないだろう。運良く警戒を緩めたり、主達が諦めて解散したとでも思ってくれれば儲けものだがな。
どの道暫くはいい目くらましにもなるだろう。各自その辺りも注視しておく様に心掛けて置くのだぞ。全く油断は出来ぬ。何せ相手が相手だからな>

 ドーランは今一度皆に緊張感を持たせた。自分達の相手の大きさを改めて認識させる為に。

「ドーランの言う通り。ポセイドン達やヨハネもだが、やはり全ての元凶はキャバルだ……。人を人と思っていない最悪なクズだからな。平気で何か仕掛けてくる事も十分考えられる。何とかこの変化を上手く利用して、俺は絶対に奴らを倒したい」
「そうだな……。これでアイツら動くかな?」
<奴らがどう出るかは分からぬ。だが余り情報を掴んでいない所を見ると、例え奴らでも簡単には手を出してこないだろう。幸い我らの目的にはまだ気付いていない。向こうはイヴも警戒している様だからな。
とは言ってもなるべく一人で行動し過ぎない方が賢明であろうな>
「そうね。常に警戒はしておいた方が身のためだわ。全員、常に誰かしらと一緒にいられるならそうしましょう」
「確かにそれが賢明ですね。それに加えて、先程ランベルさんが言った様に、皆で定期的に連絡は取り合った方が良さそうですね。お互いの安否も確認出来ますし、万が一の時の場合にも備えないといけませんから」
「ああ。そうしよう」

 こうして、レイ達は各々が強くなって再び再会しようと約束を交わし、それぞれの道へと旅立って行くのであった――。
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