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第二章 ~仲間~

49 ロックロスの名

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~水の王国・城の庭~

大団長の攻撃により完全に意識を失ったウルギルとマートン。
その後、騎士団達が次々に集まり、ウルギルとマートンは連行されていった。

突然の襲撃事件―。
何とか一段落した光景を見て、周りにいた王家や使用人達の顔にも安堵の表情が見られた。

大団長や騎士団員達は、今回の事件について色々調査をしたり、城や城内、そこにいた者達の無事の確認などであちこちバタバタしている。

「取り敢えず一件落着って事でいいのかな?」

「そうね。目的だったあの二人も捕まえられたし、ここから先は騎士団に任せるしかないわね」

「やっぱ大団長強かったな!」

「フフフ。そうですね。でもランベルさんもいつかはなられるんですよね?大団長に」

「当ったり前よ!」

「あんなギャーギャー叫んでるだけじゃ無理だな」

「空でドラゴンに捕まれたまま振り回されたことあんのかお前は!!」


「――君達」

レイ達が話している所へ大団長が寄ってきた。
「さっきはありがとう」と、大団長はレイにお礼を言う。

レイやリエンナも、「こちらこそありがとうございます」と大団長へ返していた。

一言二言挨拶を交わしている最中でも、辺りにいる騎士団員達は忙しなく動き、皆大団長の元へ来ては指示を仰いでいる。

「ふぅ……こりゃ時間が掛かりそうだ。君達!本当にありがとう、助かったよ。でも……これからはあまり無茶しない様に。危険な場所からは一刻も早く離れるんだよ」

そう言うと、大団長も忙しそうに現場へと戻って行ってしまった。

「さぁて。じゃー俺らも帰りまッ……「――何だ。アンタ生きていたのかい」

レイの声を遮ったのは母様。

騎士団員の誘導で城内にいた者達は皆、門付近へ一か所に集められていた。
ざっと五、六十人はいるだろうか。
モンスターに襲われ、怪我を負った者が数人いたが幸いにも死者は0。

皆が集まっていた中には当然、母様とローズとモニカもいる。

リエンナを見つけた母様は何食わぬ顔で話しかけてきた。

「あの状況で無傷とは……しぶとい子だねぇ。」

「母様……」

母様は自分のした事を棚に上げるどころか、むしろ“死んでほしかった”と言わんばかりの物言い。

何だこのババア―。
レイとローラとランベルは奇しくも全く同じことを思っていた。

するとそこへローズとモニカも現れた。

よくもまぁ平気でリエンナの前に顔を出せるなと、今にもブチ切れそうなレイだったが、意外と言うべきか……まだ“この二人”はまともと言うべきか……。

ローズとモニカの二人は母様と違い、どこかバツの悪い表情をしていた。
きっとさっきの事を気にしているのだろう。

誰が見ても分かるその表情……しかし母様だけは違った―。

「次また襲われるような事があったら頼むわね。拾って世話してあげてるんだから、その命で恩返しぐらいして頂戴!それでも割に合わないわ」

「――ちょっと!!いい加減にしなさいよ!!何でそんな酷い事言うの⁉」

母様の態度に我慢出来なかったローラが遂にキレた。
横にいたレイとランベルも母様を睨んでいる。

「何だお前達は?どこの子供か知らないが関係ないだろう!子供のくせに人の家の事情に口を挟むんじゃないよ」

「関係あるわよ!リエンナの友達なんだからッ!!あなたリエンナに助けてもらったんじゃないの?
それなのにお礼言うどころか何なのよその態度!!」

母様の態度に怒りのボルテージがどんどん上がっていくローラ。

「ロ、ローラさん……!」

「生意気な子だ!たかが子供が王家の私に盾突く気かい?アーハッハッハッ!笑わせるね」

「王家なら人の命を好きに扱って言い訳⁉ふざけんじゃないわよ“ババア”!!リエンナに謝りなさい!」

「――⁉ 何だこの非常識な小娘は!リエンナに謝るだと……?こんな価値のない奴に何故私が謝らないといけないんだ!いつまでもふざけた事言ってんじゃないよ!どうやら痛い目に遭わないと分からない様だねぇ。王家の力でアンタの人生潰してやるわ!アッハッハッハッ!」

あまりに横暴なその母様の態度に、静かに口を開いたのはレイだった―。

「……オバさん。アンタどこの王家?」

「何?今度は坊やかい……まさか私が王家か疑ってるのかい?ハッハッハッ!正真正銘、王家の“ブラハム家”だよ。庶民のアンタじゃ分からないかもねぇ。アンタ達とは住む世界が違うんだよ」

「へぇ……。やっぱり“末端”の方だね、オバさん」

「……何を言ってる?」

淡々とした口調で話すレイ。
そんなレイを、母様は怪しげな表情で見ている。

母様を含め、レイの言葉の“真意”が誰も理解出来ていない―。

静かに語るレイだが、その瞳は間違いなく怒りがこもっていた。


「知らねぇのか……このソウルエンドに存在する王家の数は六六六。
そのおよそ六割が“末端”と呼ばれる名だけの王家……多少金と権力があるかも知れないが、本物の王家とは格が違う。
残り四割である二六六の王家の内、二百が“中位王家”……六十が“上位王家”……そして、世界を動かせると言われる“最高位王家”が全部で六だ……」

「そ、それが何だ!何が言いたいッ!」

「オバさん。アンタの言う“ブラハム家”だが、残念ながら中位王家にも“入っていない”末端だよ」

母様が驚いた表情を見せる。

「デタラメ言ってんじゃないよッ!そんな王家の位聞いたこともないわ!もし仮にそんなものがあったとして何故お前が分かるんだ!」

「――覚えてるんだ。中位王家以上の王家の名はな。そして位の事を知らねぇのは、アンタが王家の中でも末端だから……全ての位が記されたのは“最高位王家”の者しか知る事が出来ない、特別な書物があるからだ。アンタは知らなくて当然……その前に、知る由もねぇ存在だって事だ」

レイの言葉に、段々と場が凍り付いていくのが分かる―。
啖呵を切っていた母様の顔も青ざめていく。

聞いていたローズとモニカも理解出来た様だ。

察しが良ければもう気付いている……。

だが、その“正解”の答えを受け入れようとすればする程、理解しようとすればする程……母様は体の震えが止まらなくなっていった―。

その“真実”を確かめる為、母様は小刻み震える口を懸命に動かし、絞り出した声でレイに聞いた。


「……ア……アンタッ……まさか……その王家の……」

「ああ。俺の名前はレイ……レイ・“ロックロス”」

「ロッ……ロックロス家……あの……⁉⁉」

「「――⁉⁉」」

母様達は目を見開き更に驚いた。

レイの口から出されたこの世界のトップの名―。
当然、母様達とレイには一度も面識はないが、母様は今目の前にいる少年がとても嘘を付いているとは思えなかった。

レイの目付きや雰囲気が偽りでない事を醸し出している。

王家としての絶対的な力の差―。

まさかの事態に母様達も空いた口が塞がらなかった。

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