上 下
36 / 112
第二章 ~仲間~

35 レイside②

しおりを挟む
魔法を発動するレイ―。
何やら手を地面に向けている。

「出てこぉぉ……いッ!」

地面に向けられた手が次第に上に上がっていき、それと共にレイと男達のちょうど中間あたりの地面からニョロっと黒い芋虫みたいなものが現れた。
それを見た男達も、一体何だこれはとでも言いたそうな顔をしている。

地面から出た黒い芋虫に更にレイは魔力を集中させる。
すると次の瞬間……三メートル程の大きさをしたドラゴンの尻尾が生まれた。
先の騎士団の男達の戦いで見せた技だ。

さっきは怒りで無意識のうちに出たが今回は違う。ダンジョンの時と同様レイが自らコントロールして繰り出された魔法だ。
やはり魔力の強さは劣るものの、こういった地道な積み重ねが少しづつ自信へと変わっていく―。

レイは出現させたドラゴンの尻尾を操り撓らせると、その尻尾は鞭の如く男達を払いのけた。

「――ぐはッ……⁉⁉」

狭い路地で繰り出すような技ではなかったが、良くも悪くも直ぐ近くの建物の壁と尻尾に勢いよく挟まれ、男達はダウンした。

<もっと考えて技を出すんだな>

「しまった。“技名”言うの忘れた!」

ドーランの魔力を扱っていると言えど、レイは着実に力を身につけていた。
倒れている男達を見ていたレイ。そこへ女の子が声を掛けてきた。

「あ、あの!ありがとうございました!」

深々とお辞儀をする彼女。レイは気にしないでと優しく言葉を返し、逆に「大丈夫?」と女の子に聞いていた。
少し気持ちが落ち着いてきた彼女は何度言っても足りないのか再度お礼を言ってくる。

「危ないところを助けて頂き本当にありがとうございました。何とお礼を申していいか……」

「別にいいよお礼なんて。それより何でコイツらに捕まってたの?」

レイは倒れている男達を指差しながら女の子に聞いた。
深々と頭を下げていた女の子が顔を上げレイの質問にこう答えた。

「はい……理由は明確ではありませんが、恐らく“身代金”目的かと……」

「身代金⁉ お前有名人か何かなの?」

「いえ。有名人とかではないのですが、一応家が“リルガーデン”でして……」

「リルガーデンって……王家の“リルガーデン家”?お嬢様が何してるんだこんな所で。
(……って、俺も人の事言えないんだけどね……)」


リルガーデン家とは、ソウルエンドに存在する由緒ある王家の一つである。
レイの家でもあったロックロス家も当然同じ王家ではあるが、王家も所詮は人―。
金や権力を持ちキャバルの様になる者もいれば、全く争いを好まない平和主義の者まで多岐に渡る。

キャバル程ではないが、二、三そういう王家がいるのを知っているレイ。
だが、レイの記憶上ではこのリルガーデン家は全くそう言った悪い噂を聞いたことがない。
仮に何かあったとしても、目の前にいるこの女の子を見ればそんな風には思えなかった。

初めて会い、同じ王家でも面識はないが、その人が良さそうな人かそうでないかは対面すればなんとなく分かる。
この女の子は王家でもロックロス家とは違う良い王家だとレイは自然に思えた。

「今日は水の王国の王家の方々との食事会でしたの」

「(そうか。リルガーデン家もそもそも火の王国だっけ……。)
そっか食事会かぁ。あのつまんない王家の交流会みたいなやつな」

「――え……⁉ 食事会をご存じで……⁉ あの、失礼ですがお名前をお伺いしても?」

レイはつい口に出してしまった事を後悔したが最早手遅れ。
バツが悪そうに女の子に答えた。

「あ、あー……まぁそうなるよな。俺の名前はレイ! 訳あって“元”ロックロス家なんだ」

それを聞いた女の子は大きな青い瞳を更に見開き驚いている。
この反応に慣れているレイは,、自分の人生で後何回これを体験するんだろうとふと頭を過った。

「なんとロックロス家の御方だったのですね……あ、申し遅れました……私は“リエンナ”。リエンナ・リルガーデンと申します。あの……ロックロス様……」

「様なんてやめてくれよ。それにもう俺はロックロスの人間じゃないんだ。そんな堅苦しい話し方もしないで気軽に
レイって呼んでくれよ。な!」

「で、でも……」

「むしろ嫌なんだ、その名前……。もしコイツら倒して少しでも感謝してくれてるんなら普通に名前で呼んでくれ。それが最高のお返しだ!」

レイはニコッと笑いながらリエンナに手を差し出した。
その表情を見たリエンナは今までの緊張の糸が切れ、どっと疲れが押し寄せて来た様だ。
リエンナも笑いながら出された手を握り二人はギュっと握手を交わした。

「ご令嬢のくせにえらい無防備だな。家来とか護衛付いてないのか?」

レイの言う通り、王家の人間ともなるといつどこで何が起こるか分からない。身に覚えのない事や理不尽な事で狙われることも珍しくない。

火の王国も水の王国も人が多くとても治安は良い。
だからと言って確率がゼロではない為、よりによって一人の時程こういう事は起こりやすいものである。

王家の……それもご子息やご令嬢はどこも皆家来や護衛が付いているのが当たり前だ。

「言いにくいのですが……たまに一人になりたくてこっそり抜け出してしまうんです」

レイにはこの気持ちがとてもよく理解出来た。
当然、王家の人間が全員そうではないが、そもそも王家とかは何も関係なく誰でも一人になりたい時なんてあるに決まっている。

リエンナが言っている事は否定するどころか皆が共感できるものだ。
それに加え同じ王家という事もあり、レイはどこか他人事とは思えなかった。

「そっか……王家の集まりとか食事会なんて息苦しいもんな!俺もすっごい苦手だったぜ」

ハハハと笑いながらレイは言い、また狙われたら危ないから近くまで送っていこうかとリエンナに言葉を掛けたが、
何か言いたそうな難しい表情をしていた。

少し口ごもりながらも、リエンナはレイに言った。

「あの……出会ったばかりで図々しいのですが――」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生鍛冶師は異世界で幸せを掴みます! 〜物作りチートで楽々異世界生活〜

かむら
ファンタジー
 剣持匠真は生来の不幸体質により、地球で命を落としてしまった。  その後、その不幸体質が神様によるミスだったことを告げられ、それの詫びも含めて匠真は異世界へと転生することとなった。  思ったよりも有能な能力ももらい、様々な人と出会い、匠真は今度こそ幸せになるために異世界での暮らしを始めるのであった。 ☆ゆるゆると話が進んでいきます。 主人公サイドの登場人物が死んだりなどの大きなシリアス展開はないのでご安心を。 ※感想などの応援はいつでもウェルカムです! いいねやエール機能での応援もめちゃくちゃ助かります! 逆に否定的な意見などはわざわざ送ったりするのは控えてください。 誤字報告もなるべくやさしーく教えてくださると助かります! #80くらいまでは執筆済みなので、その辺りまでは毎日投稿。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

無属性魔術師、最強パーティの一員でしたが去りました。

ぽてさら
ファンタジー
 ヴェルダレア帝国に所属する最強冒険者パーティ『永遠の色調《カラーズ・ネスト》』は強者が揃った世界的にも有名なパーティで、その名を知らぬ者はいないとも言われるほど。ある事情により心に傷を負ってしまった無属性魔術師エーヤ・クリアノートがそのパーティを去っておよそ三年。エーヤは【エリディアル王国】を拠点として暮らしていた。  それからダンジョン探索を避けていたが、ある日相棒である契約精霊リルからダンジョン探索を提案される。渋々ダンジョンを探索しているとたった一人で魔物を相手にしている美少女と出会う。『盾の守護者』だと名乗る少女にはある目的があって―――。  個の色を持たない「無」属性魔術師。されど「万能の力」と定義し無限の可能性を創造するその魔術は彼だけにしか扱えない。実力者でありながら凡人だと自称する青年は唯一無二の無属性の力と仲間の想いを胸に再び戦場へと身を投げ出す。  青年が扱うのは無属性魔術と『罪』の力。それらを用いて目指すのは『七大迷宮』の真の踏破。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

処理中です...