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第一章 ~追放と出会い~

02 目指すはダンジョン

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♢♦♢

~ボルゴの農場~

 “ドラゴンの卵かけご飯”という誰も口にしたことのないであろうTKGを食べたレイ。
 封印されたドラゴンと出会ったレイは、自分の母親であるエリザベスとドラゴンの体を探すべく壮大な冒険へと旅立った――。

 ……といきたかったのだが、古魔法を使うロックロス家の書物には、エリザベスとドラゴンがいると思われる“異空間”の情報が何も知るさていなかった。

 その為、考えるよりも行動しようと思っていたレイは順調に壁にぶち当たったのである。

 前代未聞の出会いをしたドラゴンでさえ異空間の場所を知らない様子。
 レイとドラゴン、そしてボルゴも皆一旦落ち着いてきたのか、“これから”についてレイが話を切り出した。

「……で、とりあえずだけど、残念ながら俺も異空間についてはまるで情報がない。ここでお前に会えたのはラッキーだったよドラゴン!正直魔力0でどうしようかと思ってたんだ。ハハハッ!」
<やはりおつむが少し足らん様だの主は……>
「うるさいなぁ。ってかその“主”って呼び方どうにかならない? 俺の名前はレイ! なんか長い付き合いになりそうだから仲良くいこうぜ。母さんも友達は大事にしろって言ってたし!」
<友達……(我が人間と……それもあのロックロス家の少年とこんな会話をする日がくるとは……)>
「ドラゴン! お前の名前は?」
<我はドラゴンだ。人間みたいに名など存在しない>
「なんだ名前ないのか。“ドラゴン”なんて、もし他のドラゴンと遭遇した時ややこしいぞ。そうだな~……」

 そう言ったレイは腕組みをしながら天井を見上げ、ドラゴンの名前を考え出した。十秒程黙った後、何かいい名前が思いついたのかレイは勢いよくドラゴンを見てこう言った――。

「――よし決めた! お前の名前は“ドーラン”!
ドラゴンの“ドラ”と卵の“らん”でドーラン! いい名前だろ!」

 言われたドラゴンも聞いていたボルゴも反応に困ったがレイだけは一人ドヤ顔。これ以上いい名前はないと言わんばかりの眼差しで見ていた。

「子供みたいな発想だな……」
<名などいらぬ>

 ボルゴは少し呆れ口調。ドラゴンも冷たい態度であったがレイの心は決まっていた。

「なんだその反応は。誰が何と言おうと俺はもうお前をドーランと呼ぶ! 分かったかドーラン!」

 無理矢理話をまとめたレイに、やれやれと溜息をついているボルゴとドラゴンだった。

 無事…? 名前も決まったところで少し話を戻し、これからについて再び話すレイ達。

 情報がまるでない異空間をどう探すか―。

 千年決戦を知り、古魔法で封印されたドラゴ…ではなくドーランでさえ異空間が何処にあるか分からない。全く見当がつかないレイ達は早くも足止めを食らったが、ここでドーランが一つの案を出した。

<――“奴”に会いに行くとするか……>
「奴……?何か心当たりあるのかドーラン」
<ああ。ちょっとした知り合いがな……ソイツなら何か異空間について知っているかも知れぬ>
「そうなのか! それなら早速行こうぜ! 何処にいるんだ?」
<居場所が変わっていなければ、ここから少し離れた“プリズンダンジョンの最下層”だ>
「プリズンダンジョンの最下層って……“アルカトラズ”か⁉」

 この異世界には冒険者達が集まる冒険者ギルドが存在する。

 ギルドに登録している者達を通称“ハンター”と呼び、このハンター達は個々に特性を生かした調査や依頼モンスター討伐等を請け負っているソウルエンドで最も主軸な職業である。

 大小含め数多く存在するダンジョン。

 ダンジョンには珍しいアイテムや武器や装備がある為ハンター達は良くダンジョンに挑むのだが、通常のダンジョンは“上”に行けば行くほどモンスターのランクが上がり危険度が増していくがレアアイテムを手に入れられる、ハイリスクハイリターンが一般的。

 それに反し、上ではなく“下”にいく“リバースダンジョン”と呼ばれるものがある。

 リバースダンジョンでは下に行けば行くほど危険度が増す。このダンジョンはかなり希少で主に二パターンのリバースダンジョンが存在する。

 一つは、通常のダンジョンと大きく違い特別条件が設けられている事。
 ハンターの中でも一番上の“Sランク”ハンターしか行く事が出来ず、それに加え一人ではなくパーティを組まなければ挑むことが出来ない。数多いるハンターの中でも僅か一握りの者達だけが挑める最高難度のダンジョンである。

 もう一つは更に特殊で、リバースダンジョンの中でも唯一、犯罪者を服役させているダンジョンである。

 それが通称……『アルカトラズ』

 アルカトラズはソウルエンドで一番有名なリバースダンジョン……別名“プリズンダンジョン”とも呼ばれており、リバースダンジョンと同じように下に広がる構造になっているのだが、そもそもダンジョンとして使われているのではなく名前の通り刑務所として使われている。

 下層に行けば行くほど危険な犯罪者やモンスターが収監されており、国で厳重に警備されている為一般人はおろか、余程の関係者でない限り出入りすら出来ない場所である。

 このアルカトラズは、いくつかの王家や一流の企業、商業施設等から支援を受けている国にとってとても重要なプリズンダンジョンであり、その中でも一番アルカトラズを支援しているのは他でもないロックロス家だという――。

「……あんな所どうやって行くんだよ。ロックロス家を追放された俺に王家の力はないぞ。まぁ王家のままだとしてもこれ以上アイツらの手なんか借りたくねぇ」
<分かっている。すんなり入れるに越したことはないが、我もロックロス家の手は借りたくない。“レイ”が危険を顧みないと言うのであれば残る方法は一つ……>

 一瞬の間が空いた後レイとドーランは同時に言い放つ――。

「<――正面突破!!>」

 完全に息が合ったレイとドーラン。
 
 二人は異空間への手掛かり得るべくプリズンダンジョン、アルカトラズへ乗り込むことを決めた。

「そういえば今“レイ”って呼んだよな」
<何を馬鹿な……。聞き間違いであろう>
「なんだお前。名前呼ぶだけなのに恥ずかしいのか?ドラゴンのくせによぉ。なぁドーラン!」
<そッ、そんなは訳ない…! 我はドラゴンぞ! そんな事で恥ずかしがる訳なかろうバカ者が! 何がドーランだ全く……>

 冷やかしたような顔と口調でドーランに言うレイ。図星だったのか、ドラゴンは少し照れる素振りを見せながら慌てて否定していた。

 さっきまで心配を抱いていたボルゴも、そんなレイとドラゴンの不思議に気の合った姿を見て不安が一切なくなった。

 そして待ったなしで早くもアルカトラズへと行こうとするレイ達にボルゴは声を掛けた。

「おいおい、もう行くのか? まぁ何にせよ、これでやる事が決まったな。
レイ……恐らく危険な旅になるとは思うが、ドーランが一緒ならきっと大丈夫だろう。エリザベス様を絶対に見つけ出せよ。
俺にも協力出来ることがあったら何でも言ってくれ。いつでも帰ってきていいからな……気を付けて行ってこい!」

 エリザベスがいなくなってから、レイの面倒を見てくれた使用人や家来達、そしてボルゴはレイにとって何よりも大切な家族であった。

 本当の家族に血の繋がり等関係ないと教えてくれたボルゴを、レイは親の様に慕っている。そんなボルゴもまた、特殊な環境で生まれ育ったレイを我が子の様に思っているのだ。

 何の因果か……。
 ここでレイとドーランが出会ったのもまた運命――。

 ボルゴから背中を押してもらったレイは力強く頷いた。

 <行くぞ>とドーランは魔力を高めだし、練り上げられた魔力がレイの体全てを包み込んでいった。

「凄ぇ……何だこの感覚……」

 人生で初めて“感じる”魔力。
 力強くも温かく優しいその魔力にレイはとても居心地良く感じた。次第に集まった魔力は形を変え…、レイの背中に“ドラゴンの翼”が現れた。

<仕方がないから今は我がコントロールしてやろう。自身で力を使える様になるまではな>

 そう言ったドーランによって、レイの背中に現れた翼がゆっくりと一扇ぎした。するとその扇ぎによってレイの体がフワリと宙に浮いた。
 
 翼を軽く扇いだだけで周りに凄まじい風が生まれる。目の前で起きている事に大興奮していたレイに、集中しろとドーランが注意をしていた。

 そのまま数メートル上に浮かんだところで、レイはボルゴに勢いよく言った。

「――行ってきます!!」

 そう告げた瞬間、力強く羽ばたかれた翼によってレイはあっという間に空の彼方へと姿を消すのだった。

 遅れてやってきた凄まじい突風に扇がれる周りの木々やボルゴ。

「うわッ……⁉ 危ねぇ……!滅茶苦茶な力だな全く。 ……ちゃんと帰って来いよレイ――」

 レイが飛び立った空を見上げながら、ボルゴは小さくそう呟いていた。

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