召喚出来ない『召喚士』は既に召喚している~ドラゴンの王を召喚したが誰にも信用されず追放されたので、ちょっと思い知らせてやるわ~

きょろ

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~第2章 門出と仲間~

一方、グレイパーティは…⑧

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♢♦♢

~辺境の島・収容所~

「――トロトロしてんじゃねぇ! またお前達か!さっさと動いて働け!終わらねぇぞ!」

 辺りに鳴り響く怒号の先に、グレイ達の姿があった……。

「ぐッ……! ハァ……ハァ……」
「ハァ……ハァ……待ってくれ……」
「畜生ッ……ハァ……ハァ……」

 辺境の島――。

 此処は罪を犯した罪人達が送られ収容される場所である。

 先の一連において、国王に罪人と言い下されたグレイ達は、この辺境の島の収容所でも特に厳しい環境だとされる重警備収容所に送られていた。

 重警備収容所は罪人の中でも重い罪を犯した者達が行きつく場所。警備も当然厳しい事ながら、与えられる労働も極めて辛く厳しいものであった。

 グレイ達の主な労働は採掘場での魔石採掘。勿論全員が魔力封じの鎖を付けられている為、魔法など一切使用出来ない。全てが手作業であり肉体作業。いつ崩れるか分からない恐怖と暗く狭い場所での休みない労働……。

 いっそもう死んでしまった方が楽だとさえ思う程の過酷な労働環境に、グレイ達は早くも心身共に腐りきっていた。

 一方、女のラミアは担当労働が違い、グレイ達と同じ採掘場ではなかったが、ラミアもラミアでその採掘された魔石の仕分け等の労働を与えられ、炎天下の中や強い雨風に晒された労働に酷く疲れ切っているのであった。

「休むんじゃないノロマ共ッ! 懲罰房に入れるぞ!」
「「ゔゔッ……!」」

 グレイ達は完全に怯えていた。
 収容所の警備員達によって何時間も働かされ、いざ動きを止めようものなら魔法攻撃で体罰を受ける。そんな毎日を送っていた。

 今日という日もそんな1日。
 やっとの思いで労働が終わったグレイ達は房に戻った。重罪として独房に入れられていたグレイ達は皆部屋がバラバラ。狭く薄暗い部屋で常に1人だった。

「畜生ッ……何でだ……!何で俺がこんな目に遭わなきゃいけねぇんだよクソッ!
あの野郎……。ルカにさえ、ルカにさえ出会っていなければ……こんな事になっていなかったんだよクソ野郎ォォォ……!!」

 この過酷な極限状態の中でも、グレイを最後に支えていたのはルカへの怒りと恨み……そして消える事の無い殺意であった――。

「殺す殺す殺す殺す殺す殺すッ!絶対あの野郎殺してやるッ!」
『――いい殺意だね』

 行き場の無い感情を吐き出しているグレイの後ろから、突如声が響いてきた。グレイは幻聴かと思いながらも反射的に振り返ると、そこにはグレイ以外にいる筈のない1人の人間の姿があった。

「だ、誰だ……?」

 この独房にグレイ以外の人物がいるなど有り得ない。ましてや此処は重警備の独房だ。グレイは疲れ過ぎて幻覚を見ているのだと思ったが、その幻覚は再びグレイに話し掛けたのだった。

『私の名前は“オロチ”。質の良い魔石を頂戴しに来たら、君の魅力ある殺意を感じてね。ちょっと見に来たのさ――』

 話し出した幻覚は幻覚でない。
 白銀の長い髪に吸い込まれそうな漆黒の瞳……。色白の綺麗な肌をした美しい青年が確かにそこに存在していた。

「オロチ……だと? 何だお前は」
『いい目つきだね。そこまで憎い敵がいるなら、私が殺してあげようか?』
「なんだと……⁉ ルカを、あの野郎を殺してくれるのか⁉」

 既にまともな思考回路ではにグレイは、この者が何者かという事や何故こんなところにいるのかという事が最早気になっていなかった。ただただルカを殺すと言う思いがけないオロチの言葉に飛びついたのだ。

 細かい事などどうでもいい。
 ただただルカを殺したいという一心しか存在しないグレイは、何時しか正気を完全に失い、殺意と言うエネルギーだけが彼を動かしていたのだった――。

『君が望むなら殺してあげるよ。ただし条件が1つ』
「何でもいい!言ってみろ!」
『君の“仲間の命”を私にくれないかい?』
「それだけでいいのか⁉ そんなの幾らでもくれてやる!」

 オロチの出した条件に、グレイは一切の迷いなくそう答えた……。

『よし。契約成立だね。じゃあここから出ようか――』

 その日の夜、グレイとラミア達は収容所から忽然と姿を消したのだった。


♢♦♢

~辺境の島・森林~

「――何処まで行くつもりなのグレイ!」

 収容所から脱獄したグレイ、ラミア、ブラハム、ゴウキンの4人は、収容所を取り囲む様に広がる森林の中へと逃げ込んでいた。

「うるせぇ! 俺のお陰で逃げられたんだから黙ってついて来い!
(確かオロチに言われた場所はこの辺りだ……)」

 オロチと契約したグレイは、オロチの力によって収容所から脱獄。あの時、オロチがグレイの影に入り込んだ瞬間、いつの間にかグレイ達は外に出られていた。

 グレイ以外の3人はずっと驚いているが、これがオロチの力だと認識したグレイはどんどん森林の奥へと突き進んでいた。そして訳も分からないまま取り敢えずラミア達も着いて行く。

 そしてオロチに言われた場所までグレイ達は辿り着いたのだった。

『お疲れ様。待っていたよ』

 オロチはまた突然姿を現した。
 彼を初めて見たラミア達は、その余りの美しさに言葉を失っている。まるで神を崇めているかの様にさえ思えたラミア達は、ただオロチに見とれていたのだった。

「おい、オロチ! これで条件は満たしただろう!早く俺の望みをかなえてくれよッ!」
「条件って……一体なんの話しなの……?」
「それよりこの人は誰だ……?」

 状況が理解出来ないラミア達は困惑していたが、グレイはもう皆の事など眼中にない。あるのはルカに対する純粋な殺意のみだ。

『そうだね。ルカはしっかり私が殺そう。ああ、イケない。その魔力封じの鎖を取ってあげないとね。“楽しめないから”』

 オロチはそう言い、グレイ達の鎖を壊した。

「嘘!やった、外れたわ!」
「マジかよ!これで自由だ!ありがとう!」

 心の底から喜ぶラミア達に対し、オロチは背筋の凍るような冷酷な視線を飛ばした。

『フフフ。楽しそうで何より……。無事に“逃げ延びたら”本当の自由だよ――』
「「……⁉」」

 刹那、オロチは白色の蛇の様なモンスターを召喚した。

「何アレ⁉」
「知らねぇよ……! どうなってんだグレイ!」
「あんなモンスター見た事ねぇぞ……」

 シュルルっと不気味に長い下を出している白蛇のモンスター。オロチと白蛇の異様な雰囲気に、ラミア達には一瞬で恐怖が植え付けられていた。

『じゃあ好きに逃げなよ。直ぐ終わったら詰まらないからさ、3時間後にこの子達を放つよ』

 微笑みながら言うオロチであったが、目は一切笑っていなかった。そんなオロチを見て、本能的にヤバいと察したラミア、ブラハム、ゴウキンの3人は、気が付けば全速力でその場から走り去っていた――。

 3人共既に日々の労働で体は疲れ切っていた。だが本能が察知した危険と自由への欲望が3人を一心不乱に突き動かしていたのだ。

 そして3時間後……。

『さぁて、3時間経ったね。行っておいで』

 オロチの言葉で、召喚された2体の白蛇はラミア達を追って行った。凄まじい速さで地を這う白蛇達。3時間というハンデがあったにも関わらず、この白蛇の速さならばものの10分程度で追いつかれてしまうだろう……。

「おいッ、もういいだろ!早くルカの野郎を殺せよッ!」
『せっかちだね。君には1番の席で見せてあげるよ』

 そう言ったオロチは突如青い炎に包まれ、その炎が一瞬で消え去ったと同時、オロチは10の頭を持つ白銀の大蛇へと姿を変えていた――。

「お、お前は……」
『フフフ』

 ――バクンッ……。
 それがグレイの最後の言葉となった。
 
『成程ね……。ジークリートの奴が人間に召喚されたと聞いたが……こんなの何が使えるんだろうか?
まぁ奴は魔力の魂として人間の中にいる様だから、私もこの人間の“抜け殻”を使ってみるか。これから案外役立ちそうだし。フフフフ』

 誰もいなくなった森林で、オロチは不気味に笑った。

「――……ァァ……ッ……!」

 風音に消されそうな程遠くから“叫び声”が僅かに響いた。

『“そっち”も片付いたみたいだね。案外呆気なかったな。残念』

 静かに呟いたオロチは、夜空に輝く満天の星空へ向けて10の頭を仰いだ。

『あぁ……早く君に逢いたいよジークリート……。次こそ必ず、“現竜神王”の私が君が葬ってあげるからね――』
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