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~第2章 門出と仲間~

26 実力者の遊びは可笑しい

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~特殊隊の寮・訓練場~
 
 クレーグさんに案内された俺達は、とある広い部屋に招き入れられた。この部屋に入る際、入り口に記された文字を確認すると、確かに“訓練場”という文字が……。

 この先に起こりそうな俺の嫌な予感は、どうやら的中しそうです――。

 俺のそんな思いを他所に、クレーグさんは寮の中を簡単に説明してくれていた。この訓練場に限らず、他の場所も基本的に使用は自由らしい。

 そして今いるこの訓練場とやらは、Sランク以上の冒険者しかいない俺達特殊隊の者達でも壊れないよう、なにやら特殊な結界が張られているらしいので、思う存分暴れていいよと最後にクレーグさんが言った。

<ほぉ。どれだけ暴れても問題ないと。ならば我の力とどちらが上か後でハッキリさせようか――>

 ……と、この訓練場に1番興味を抱いたのはジークだったが、俺のこの嫌な予感が当たるとするならば、後でハッキリさせなくても“今すぐ”そうなるぞジーク。

「――おーい、全員集まってー!!」

 クレーグさんのその掛け声によって、新たなに4人の冒険者達が集まってきた。男2人に女2人。そして集まった4人に対し、クレーグさんが俺達を紹介した。

「皆いい?今日から新しくうちの特殊隊の仲間となる、ルカ・リルガーデンさんとレベッカ・ストラウスさんです。って事で、皆も順番も挨拶してくれるかな」

 クレーグさんにそう言われ、最初に口を開いたのは右端にいた男の人。どこか幼さの残る少年の様な見た目。歳いくつだろう……? 彼はニコニコと人懐っこそうな笑顔を浮かべながら自己紹介をしてくれた。

「俺の名前はピノ・コールだ。特殊隊に来てまた半年ぐらいだけど宜しく!」

 彼に続いて口を開いたのは横にいた女の人。ロングの金髪を掻き上げながらキリっとした目で俺達を見て口を開いた。

「私はエレナ・マーライン。一応料理が得意だ。宜しくね」
「何でもかんでも焼くのは料理と言わないのよ」
「余計な事言わないでよ。それよりアンタも挨拶しなさい!」

 エレナと言う人に横槍を入れたのは直ぐ隣にいたもう1人の女の人。青い髪と大きな瞳が印象的な可愛いらしい感じの女の子。だがその胸元はとても立派。男なら思わずたわわな胸に視線がいってしまうだろうが、俺は何とか一瞬で逸らした。

 何故逸らせたかって……?

 それはな、何故か俺が彼女の胸に視線を奪われた刹那、隣にいたレベッカから突き刺さる様な気配を感じ取ったからだ。気のせいだと思い確認したが、確かに俺を睨みつけていた……気がする。

「アハハハ!私はジェニー・シトラスって言うの。宜しくね!主に情報収集や諜報活動を任されてるわ。この“魔眼”でね――」

 ジェニーと名乗った豊満な女の子は、そう言いながら俺達に不思議に輝く瞳を見せつけてきた。

 凄いな……。魔眼なんて初めて見た……。

 彼女の吸い込まれそうな魔眼に目を奪われていると、まだ紹介をしていなかった男の人が凄く静かに口を開いた。

「……ジルフ・レイン。魔法を使う……」
「「……」」

 ん?

 今ので終わりか……?

 思わずきょとんとしていたであろう俺とレベッカの反応を見て、エレナさんが直ぐにフォローに入った。

「ああ、ゴメンね。ジルフは人見知りで物静かなの。慣れたら大丈夫だから大目に見てあげて。これでも可愛いところあるから。それと他の冒険者は今任務中でいないんだ。まぁこんな感じだけど宜しくね」

 成程、ジルフさんとやらは人見知りなのか。良く見ると凄いイケメンじゃないか……?

「よし、皆終わったね。そしたら次は君達も簡単に自己紹介してくれるかな?」
「はい。俺はルカ・リルガーデンと言います。えっと、一応体の中にモンスターを召喚してます。宜しくお願いします」
「私の名前レベッカ・ストラウスです。魔法使いで、魔力イーターという特殊体質です……。宜しくお願い致します」

 俺達が自己紹介を終えると、4人は「やっぱ国王って物好きだよね――」みたいな会話をしていたが、真意はまだ俺達には分からなかった。

「あー、そう言えば、隊長以外は敬語なしでいいからね。仲良く名前も呼び捨てで。みんなそんな感じだからさ」

 クレーグさんが優しくそう言った。俺が思っていた以上にいい人達ばかりみたいだ。堅苦しい感じもない。

「さて、それじゃあそろそろ“自己紹介本番”といこうか――」

 は……?

「OK! じゃあレベッカはこっちね!私達と裸の付き合いするよ!」
「えッ……⁉ は、裸⁉ え、ちょッ、どういう……えぇぇぇ⁉」

 訳も分からず、レベッカはエレナとジェニーに強制連行され訓練場から出て行った……。

 そして残された俺は――。

「よし、早速“始めよう”か!」

 やはり悪い予感が的中した。全く嬉しくないけどな。持って来た長剣の意味もやっぱりそうか。マスターとの最終テストを思い出すよ。

「あのー、クレーグさん……。一応確認なんですけど……」
「敬語なしでいいって言ったでしょ? さん付けも要らないよ。それに、何か確認する必要あるかな?」

 クレーグさん……じゃなかった。呼び捨てでいいんだよな。

 クレーグはもう分かってるだろと言わんばかりに俺に微笑みかけてきた。手にしている長剣を見せつけながら。

「やっぱりそうか……。冒険者って強ければ強い程変わり者が多いよな」

 小さく呟いた俺の声は誰にも聞こえていないだろう。

「よし! 俺からいこうかな!」

 張り切って先陣を切ってきたのはピノ。そして何やら此処にはルールがあるらしく、戦う当事者同士以外の観覧は無しとの事だ。

 つまり、訓練場には俺とピノだけとなっていた――。

「手加減なしな! 本気でいくぞ!」

 始まりの合図は決まっていない。早くもやる気満々のピノはそう言うなり突如手を大きく振りかぶった。よく見るとその手には何やら棒のような物が握られており、長さは20㎝程。優に数メートルは離れていた俺とピノの距離ではとても届くとは思えない。

 一瞬魔法を放つ杖やランスの類かと思ったが、俺のそんな予想は瞬く間に消し飛ばされた。

 ――ビシュン!
「これは……!」

 ピノが棒を振るった瞬間、風を切る音が聞こえた。奴が手の棒を振る度に、訓練場にシュンシュンという鳴り響く音。よく見ると、ピノが手にする棒からは水の様に揺らめきながら反射する透明なロープが伸びていた。いや、もっと分かりやすく言うならアレは鞭と言った方が近いだろうか……。

「どう?ビックリしたでしょ! この鞭はちょっと変わった武器なんでね、コレは“水の錬成師”って言う特殊適性の俺だから出来る技なんだ」「水の練成師……?」

 確かに聞いた事無いな。

「ルカの力も教えてもらったからさ、俺も教えてあげる。俺は水ならどんな形でも自由に操作出来るんだ」
「成程。じゃあこれは鞭であって鞭では無いって事か」
「そんなとこ」

 これは結構面倒な技だな。でも、水なら雷に相性悪いだろ。

「わざわざ教えてくれてありがと。じゃあ次は俺から攻撃するぞ」
<よしよし、やっと来たか! 早くやれルカ!>

 珍しくジークがノってるな。それだけここにいる人達が強いんだろう。

 そんな事を思いながら、俺は雷魔法をピノ目掛けて放った。

「“トール”!」
水成の防壁アクアシールド

 俺が雷魔法を放った直後、ピノは直ぐに水で防御壁を繰り出した。相性の悪い雷を防いだし反応速度も速い。

 流石国王団の特殊隊……。そこらの冒険者とはレベルが違う。

「トール!……10発でどうだ」

 俺は先程のトールを10発放った。強い落雷撃が一斉にピノに降りかかる。

「“オールリフレクション”!」

 ピノもすかさず魔法を繰り出し、水の周りを全て覆った。それにより俺の放った落雷全てをガードされ雷を打ち消されてしまった。

 だが……。

「もらった!」

 防がれる事を想定していた俺は既にピノの後ろに回り込み、マスターから貰ったゼロフリードに雷を纏わせながら既に攻撃モーションに入っていた。

 ――ズバァァンッ!
 ドーム状にピノを覆っていた水の壁ごと、俺は剣で斬り裂いた。

「容赦ないねぇ……!」
「手加減なしっていったのはそっちだろピノ」

 本当は今の一振りで決めようと思っていたのに、予想以上に水の壁が厚かったな。

 防壁を破られたピノは即座に剣を持っていた俺の手に蛇の如く水を巻き付けてきた。縄の様に丈夫な水によって完全に腕が捕まった。これで次の動作に入るのも遅れる。

 ……と、そう思ったであろうピノは俺の予通り次の攻撃を放とうしてきた。だが残念だピノ……。コレはお前ではなくて、俺にとって願ってもない1番いいチャンス――。

「“放雷《エレクトリック》”!」

 水は当然電気を伝う。
 俺は巻き付いていたピノの水に、雷魔法を流した。

「しまッ……⁉」

 ピノも瞬時にヤバいと勘づいた様だが、時すでに遅し。ビリビリっと感電したピノはそのまま倒れてしまった。

 勿論雷の威力は抑えたから気を失っているだけだ。
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