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~第2章 門出と仲間~
21 王の覇気を容赦なく使う
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<攫われたか――>
何気なく放たれたジークの一言。
だがそれが全てだ――。
「どうやらそうらしいな……。でもだからと言って、やり方が余りに露骨すぎだろあの“クソ野郎”がッ……!」
こんなくだらねぇ事するのはもう奴しかいねぇ。考える事無くグレイ一択だ!あのゴミカス共絶対只じゃおかねぇからなッ!
<全神経を集中させろ。まだ残り香を追えるぞ>
「そうだ、急がないとッ……!」
俺は部屋に残る僅かな匂いを辿った。
嗅ぎ間違える事の無いレベッカの匂いと知らない者の匂い。この2つが混ざった残り香を決して逃さない。匂いの濃さから察するに、まだそこまで遠くには行っていない筈だ……。
「くそくそくそッ、マジで許さねぇからな……!」
<そんなに焦るなルカ。ドラゴンの姿に変化しろ。そっちの方がより嗅覚が効く>
焦っている訳ではない。早くレベッカの無事を確認しない事には落ち着けないし、グレイの野郎共にも早く制裁を下さないといけない。本当は真っ先に奴の元へ向かってぶん殴ってやりたいが、レベッカの無事を確認するまで下手に手を出せない……。
部屋に残っていた匂いはグレイでも他の奴らでもない。恐らくグレイが金で雇った裏稼業を生業にしている腐った奴らだ。兎にも角にも第一優先はレベッカ。レベッカを早く見つけない事には何も出来ねぇ!
……って、これが焦ってるのか。
そりゃジークに注意される訳だ。
<だから焦るな>
「分かってるよ!」
宿の外に出た俺はドラゴンの姿に変化……といきたい所だったが、僅かに日が沈んで夕暮れとは言え、流石にこんな街のど真ん中でドラゴンになっていいのかと躊躇った。
「やべぇどうしよう! 急がないといけないのに流石にここでドラゴンになったら街中パニックだ。そうなったら匂いも掻き消されるし、レベッカ攫った奴らにも感づかれちまう……! おい、どうするジーク!」
外に出ただけで案の定匂いが薄くなった。これ以上消えたらもう本当に匂いを辿れないぞ。
「あ、そうだ魔力感知なら……!」
<アホか。そんなの誰もが1番最初に思いつくだろう。感知出来ぬよう魔法や結界で遮られてるに決まっているだろう。その証拠に既に感知しているが、レベッカの魔力が何処にもない>
「おいおい、だとしたらもっとやべぇじゃねぇかッ! ジ~ク~!」
<情けない。少しは頭を使え馬鹿者。本当に人間とは面倒くさい生き物だな。そんなに周りを気にするなら部分変化で“鼻だけ”ドラゴンになれよいだろう。それならパニックも起こらない。ルカが変な目で見られるぐらいだろう>
「おー、そんな便利な事が出来たのか!」
そこそこ長い付き合いだが初めて知ったぞ。よし、早速やろう。その部分変化とやらを――。
俺は魔力を瞬時に練りあげ、ジークの言った通り鼻だけドラゴンに変化させた。
「お! 滅茶苦茶匂いがかぎやすくなった!あっちだ!」
人間の鼻とはまるで性能が違う。さっきまで消えかけていると思った匂いがまだしっかりと辿れる。性能が良過ぎて関係ない匂いまで嗅げてしまうな。街ってこんな匂いが充満しているのか……。余り嗅ぎ続けていると気持ち悪くなりそうだ。
レベッカの匂いをどんどん辿って行った俺は、宿から少し離れた人通りの少ないある場所で立ち止まった。
~とある建物前~
「ここだ――」
明るい表の通りとは違う暗い通り。時間帯も相まってより暗く感じる。人通りの少ない道から更に中に入り組んだ場所にあったとある建物。周りはポツンポツンと数え切れる程の外灯の明かりがあるだけだ。
<やはり結界魔法が張ってあったな。これでは中にいますと言っている様なものだ>
「よし。ボコボコのけちょんけちょんにしてやる」
俺は既に匂いと魔力感知の両方で建物内の人数と位置を完璧に捉えているからな。
――ズガァァァァンッ!!
「「……ッ⁉」」
「お邪魔します――」
俺は建物の扉を開け……ようとしたが、力を入れ過ぎて周囲の壁ごと破壊して中へ入った。勿論ちゃんと“お邪魔します”と言ってな。
突然俺が入ってきたことに驚いたのか、建物の中にいた男達は何とも言えない表情でこちらを見ていた。1人は破壊した壁の瓦礫が直撃し気絶している。
「な、何者だテメェは!」
「コイツ何だよ急に……⁉ って、おい、大丈夫か⁉」
「……」
残った男2人は俺を睨みつけながら威嚇してきた。急な事に腹を立てているのか、それはそれは凄い剣幕。だが残念だな……。テメェらの1000倍こっちはイラついてんだよ!
「<おい。レベッカどこだコラ――>」
「「……ッ⁉⁉」」
有無を言わさず、俺は何時ぞやにマスターから謹慎を食らったジークの覇気で男達を脅した。ここなら容赦なく使える。周りに誰もいねぇからな。
ジークの絶対的な王者の覇気と威圧に、大抵の者は本能的に従う事しか出来なくなる――。
「あ、あ……あ、ああ、あっち、あっちです……!」
「……ルカ⁉」
男達がレベッカのいる隣の部屋を指差したと同時に、奥から手を縛れたレベッカが姿を現した。
「レベッカ!」
「ルカ!……ゔゔッ……ありがとうッ……怖かったよ……」
「大丈夫か⁉ 怪我は⁉ 何もされなかったか⁉」
レベッカを見た俺は一気に力が抜けてしまった。
良かった……。本当に無事で良かった。安心したぜ。
「う、うん……。大丈夫……!」
「悪かったな。遅くなって」
泣きながら抱きついてきたレベッカをギュっと抱き締め返し、もう大丈夫だと彼女を落ち着かせた。するとフッと俺に体重が掛かって来た。どうやら安心してレベッカの緊張の糸が切れたのか、そのまま眠りについてしまった。
怖かったよな。もう大丈夫だから。ゆっくり休め。
そして俺は眠ったレベッカを抱き締めながら、部屋の隅でガクガク震えている男達を再び威圧した。
わざわざ聞かなくても分かるだろうが、一応確認しておくか……。
「<お前ら、何でレベッカを攫った?>」
「お、俺達はただ……頼まれたからやっただけで……」
「そ、そ、そう……そうです……金払う代わりに、女を攫うと……」
男達に答える気が無くても、ジークの王の覇気で本能的に従わざるおえないのだ。まぁここまでビビっていたら普通に答えくれる気がするけどな。
「<誰に頼まれた?>」
「お、俺達は裏稼業だから……いちいち互いに名前は聞かない……。か、金が全てだからな……」
「名前……名前は知らねぇが、た、確か……明日ネオシティの闘技場で戦う奴だ……! 街中に……は、張り紙がしてある。アイツだよ……」
男達は震えながら洗いざらい全て話した。やはりグレイの仕業か。国王が正式に取り決めたという事もあって、俺とグレイの決闘は王国中に知れ渡っているからな。最早イベント事になってる勢いだし。
「<よし分かった。これに懲りたら2度とこんな事するんじゃねぇぞ>」
「「は、はいッ! 絶対しません!」」
「<お前らは今から騎士団に行って自首しろ。そこで気絶している奴も一緒にな。だが俺と依頼してきた奴の事は一切話すんじゃねぇ。いいな?>」
「「分かりましたッ!!」」
こうして、レベッカを何とか救出した俺は宿へ戻った。
お気に入りのフカフカベッドにレベッカを置き、なにやらどっと疲れが押し寄せてきた俺も、軽く晩飯を食べ明日の支度をして眠りについた。何気なく視界に入ったレベッカの寝顔を見て、本当に何も無くて良かったと思った。
そしてその一方で、俺の中では遂にグレイ達への怒りが頂点に達していた……。
もう1ミリも情けはかけない――。
明日は鬼と化そう――。
何気なく放たれたジークの一言。
だがそれが全てだ――。
「どうやらそうらしいな……。でもだからと言って、やり方が余りに露骨すぎだろあの“クソ野郎”がッ……!」
こんなくだらねぇ事するのはもう奴しかいねぇ。考える事無くグレイ一択だ!あのゴミカス共絶対只じゃおかねぇからなッ!
<全神経を集中させろ。まだ残り香を追えるぞ>
「そうだ、急がないとッ……!」
俺は部屋に残る僅かな匂いを辿った。
嗅ぎ間違える事の無いレベッカの匂いと知らない者の匂い。この2つが混ざった残り香を決して逃さない。匂いの濃さから察するに、まだそこまで遠くには行っていない筈だ……。
「くそくそくそッ、マジで許さねぇからな……!」
<そんなに焦るなルカ。ドラゴンの姿に変化しろ。そっちの方がより嗅覚が効く>
焦っている訳ではない。早くレベッカの無事を確認しない事には落ち着けないし、グレイの野郎共にも早く制裁を下さないといけない。本当は真っ先に奴の元へ向かってぶん殴ってやりたいが、レベッカの無事を確認するまで下手に手を出せない……。
部屋に残っていた匂いはグレイでも他の奴らでもない。恐らくグレイが金で雇った裏稼業を生業にしている腐った奴らだ。兎にも角にも第一優先はレベッカ。レベッカを早く見つけない事には何も出来ねぇ!
……って、これが焦ってるのか。
そりゃジークに注意される訳だ。
<だから焦るな>
「分かってるよ!」
宿の外に出た俺はドラゴンの姿に変化……といきたい所だったが、僅かに日が沈んで夕暮れとは言え、流石にこんな街のど真ん中でドラゴンになっていいのかと躊躇った。
「やべぇどうしよう! 急がないといけないのに流石にここでドラゴンになったら街中パニックだ。そうなったら匂いも掻き消されるし、レベッカ攫った奴らにも感づかれちまう……! おい、どうするジーク!」
外に出ただけで案の定匂いが薄くなった。これ以上消えたらもう本当に匂いを辿れないぞ。
「あ、そうだ魔力感知なら……!」
<アホか。そんなの誰もが1番最初に思いつくだろう。感知出来ぬよう魔法や結界で遮られてるに決まっているだろう。その証拠に既に感知しているが、レベッカの魔力が何処にもない>
「おいおい、だとしたらもっとやべぇじゃねぇかッ! ジ~ク~!」
<情けない。少しは頭を使え馬鹿者。本当に人間とは面倒くさい生き物だな。そんなに周りを気にするなら部分変化で“鼻だけ”ドラゴンになれよいだろう。それならパニックも起こらない。ルカが変な目で見られるぐらいだろう>
「おー、そんな便利な事が出来たのか!」
そこそこ長い付き合いだが初めて知ったぞ。よし、早速やろう。その部分変化とやらを――。
俺は魔力を瞬時に練りあげ、ジークの言った通り鼻だけドラゴンに変化させた。
「お! 滅茶苦茶匂いがかぎやすくなった!あっちだ!」
人間の鼻とはまるで性能が違う。さっきまで消えかけていると思った匂いがまだしっかりと辿れる。性能が良過ぎて関係ない匂いまで嗅げてしまうな。街ってこんな匂いが充満しているのか……。余り嗅ぎ続けていると気持ち悪くなりそうだ。
レベッカの匂いをどんどん辿って行った俺は、宿から少し離れた人通りの少ないある場所で立ち止まった。
~とある建物前~
「ここだ――」
明るい表の通りとは違う暗い通り。時間帯も相まってより暗く感じる。人通りの少ない道から更に中に入り組んだ場所にあったとある建物。周りはポツンポツンと数え切れる程の外灯の明かりがあるだけだ。
<やはり結界魔法が張ってあったな。これでは中にいますと言っている様なものだ>
「よし。ボコボコのけちょんけちょんにしてやる」
俺は既に匂いと魔力感知の両方で建物内の人数と位置を完璧に捉えているからな。
――ズガァァァァンッ!!
「「……ッ⁉」」
「お邪魔します――」
俺は建物の扉を開け……ようとしたが、力を入れ過ぎて周囲の壁ごと破壊して中へ入った。勿論ちゃんと“お邪魔します”と言ってな。
突然俺が入ってきたことに驚いたのか、建物の中にいた男達は何とも言えない表情でこちらを見ていた。1人は破壊した壁の瓦礫が直撃し気絶している。
「な、何者だテメェは!」
「コイツ何だよ急に……⁉ って、おい、大丈夫か⁉」
「……」
残った男2人は俺を睨みつけながら威嚇してきた。急な事に腹を立てているのか、それはそれは凄い剣幕。だが残念だな……。テメェらの1000倍こっちはイラついてんだよ!
「<おい。レベッカどこだコラ――>」
「「……ッ⁉⁉」」
有無を言わさず、俺は何時ぞやにマスターから謹慎を食らったジークの覇気で男達を脅した。ここなら容赦なく使える。周りに誰もいねぇからな。
ジークの絶対的な王者の覇気と威圧に、大抵の者は本能的に従う事しか出来なくなる――。
「あ、あ……あ、ああ、あっち、あっちです……!」
「……ルカ⁉」
男達がレベッカのいる隣の部屋を指差したと同時に、奥から手を縛れたレベッカが姿を現した。
「レベッカ!」
「ルカ!……ゔゔッ……ありがとうッ……怖かったよ……」
「大丈夫か⁉ 怪我は⁉ 何もされなかったか⁉」
レベッカを見た俺は一気に力が抜けてしまった。
良かった……。本当に無事で良かった。安心したぜ。
「う、うん……。大丈夫……!」
「悪かったな。遅くなって」
泣きながら抱きついてきたレベッカをギュっと抱き締め返し、もう大丈夫だと彼女を落ち着かせた。するとフッと俺に体重が掛かって来た。どうやら安心してレベッカの緊張の糸が切れたのか、そのまま眠りについてしまった。
怖かったよな。もう大丈夫だから。ゆっくり休め。
そして俺は眠ったレベッカを抱き締めながら、部屋の隅でガクガク震えている男達を再び威圧した。
わざわざ聞かなくても分かるだろうが、一応確認しておくか……。
「<お前ら、何でレベッカを攫った?>」
「お、俺達はただ……頼まれたからやっただけで……」
「そ、そ、そう……そうです……金払う代わりに、女を攫うと……」
男達に答える気が無くても、ジークの王の覇気で本能的に従わざるおえないのだ。まぁここまでビビっていたら普通に答えくれる気がするけどな。
「<誰に頼まれた?>」
「お、俺達は裏稼業だから……いちいち互いに名前は聞かない……。か、金が全てだからな……」
「名前……名前は知らねぇが、た、確か……明日ネオシティの闘技場で戦う奴だ……! 街中に……は、張り紙がしてある。アイツだよ……」
男達は震えながら洗いざらい全て話した。やはりグレイの仕業か。国王が正式に取り決めたという事もあって、俺とグレイの決闘は王国中に知れ渡っているからな。最早イベント事になってる勢いだし。
「<よし分かった。これに懲りたら2度とこんな事するんじゃねぇぞ>」
「「は、はいッ! 絶対しません!」」
「<お前らは今から騎士団に行って自首しろ。そこで気絶している奴も一緒にな。だが俺と依頼してきた奴の事は一切話すんじゃねぇ。いいな?>」
「「分かりましたッ!!」」
こうして、レベッカを何とか救出した俺は宿へ戻った。
お気に入りのフカフカベッドにレベッカを置き、なにやらどっと疲れが押し寄せてきた俺も、軽く晩飯を食べ明日の支度をして眠りについた。何気なく視界に入ったレベッカの寝顔を見て、本当に何も無くて良かったと思った。
そしてその一方で、俺の中では遂にグレイ達への怒りが頂点に達していた……。
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