上 下
2 / 59
~第1章 追放と召喚~

02 竜神王ジークリート

しおりを挟む
♢♦♢

~霊園~

「――あーは言ったけど、やっぱショックだなぁ……」

 今しがたパーティから追放されギルドを後にした俺は、少しずつ時間が経つにつれ胸の奥がズキズキと痛み出していた。さっきは突然の出来事にアドレナリンが出て麻痺していたみたいだけど、あそこまで明らかに拒絶されるとは正直ショックだ。

 俺はこうして気分が落ち込んだ時、大抵無意識に何時も此処に向かっている。              

―――――――――――――――――――――――――     
 『X.X.X ~エミリオ・リルガーデン永眠~ 』
―――――――――――――――――――――――――   


「母さん、今日はいい天気だな。これさっきそこに咲いてた花。結構綺麗だろ?」

 新しい花の1本も備えられなくてゴメン……。今回の報酬も貰えなくて生活が厳しいんだ。

 ああ……。思い返してみりゃ俺の人生ずっとダメだな。冒険者になると決めたあの時からずっと――。


♢♦♢

~5年前・王都~

 物心着いた時から、俺は母さんと2人で暮らしていた。父さんは冒険者だったらしいが、俺がまだ赤ちゃんの頃にモンスター討伐のクエストで命を落としてしまったとの事だ。

 全然父さんの事は記憶にない。母さんは1人になってからというもの、俺を育てる為に毎日夜遅くまで働いていた。それこそいつ倒れてもおかしくないぐらいに。

 だから俺は絶対に冒険者となって富も名声も手に入れ、母さんを楽させてやると決めたんだ。

 冒険者は確かに危険な職であるが、例え最低ランクの冒険者であっても、その収入は一般家庭より余裕がある。最初に伝えた時母さんは困った様な顔をしていたけど、俺がしっかり気持ちを伝えたら優しく微笑んで許してくれた。

 父さんの事があったんだから、俺の事を余計に心配するのも十分理解出来るよ。でも絶対に心配させないから。

 そうして、冒険者になると決めた俺はこの日13歳となり、ジョブの適性を診断してもらう為に冒険者ギルドを訪れた。

『ルカ・リルガーデン 魔力値:Fランク 適性:召喚士』

 結果はコレ。

 期待していたが、魔力値のランクは最低のF。適性ジョブは召喚士と出た。安易に思い描いていたAランクの勇者とかではなかったけど、これで少しは母さんを楽に出来ると思っただけで嬉しかった。

 ランクは1番下だが努力すればきっと大丈夫。Fランクだから召喚出来るのもきっと強くはないだろうけど、しっかり特訓すればそこそこの冒険者にはなれる筈だ。

 それから俺は召喚魔法を使える様に特訓した。毎日毎日汗水垂らして必死で特訓した。

「召喚魔法は凄いけどFランクじゃな』
「基礎魔法も全然出せてないぞアイツ……」
「そりゃFランクじゃ無理だろ。魔力ほぼ無いに等しいもん」
「努力しても誰もパーティー入れてくれないなアレは」

 ぶっちゃけFランクが出た時は自分でも驚いた。逆に珍しいからな。皆低くてもEランクが一般の平均。周りでも唯一俺だけFランクだったから余計に悪目立ちした。

 だかそんな外野の声は関係ない。俺でも受けられるクエストで生活費を最低限稼げた。クエストが終わった後も毎日毎日地道に特訓した甲斐もあり、魔力も本当に少しずつだが増えていった。

 その他にも身につけられる魔法や薬草やモンスターの知識も勉強した。何でも無いよりマシ。出来て損する事なんてないからな。

 冒険者としてはランクが低い。でも、小さな商売ぐらいならやれそうな気もしていた。兎に角少しでも母さんの助けになるなら何でも良かったんだ。

 そしてその頃、幼馴染のグレイも冒険者となった。まだ誰ともパーティーを組む予定が無いからとFランクの俺なんかを誘ってくれた。

 その後、ブラハムとラミアとゴウケンもパーティに加わったんだ。

 母さんに話したら凄い喜んでくれていた……。今日グレイから言われた事を思い出すとまた胸が痛む。

 パーティを組んで2年が経ったある日、俺達が住んでいた王都が突如襲来したモンスター軍に襲われた。王都は壊滅的被害を受け、冒険者だった俺達も緊急要請でそのモンスター軍の討伐に参戦していた。

 まだ1体も召喚出来ていない俺だったが、同時に特訓していた剣だけで何とか弱いモンスターを倒していた。

 だが、逃げ遅れた人を助けたその一瞬の隙を突かれた俺は、背後からモンスターの攻撃を食らい致命傷を負ってしまった。素人でも分かるヤバいダメージ。死ぬのは時間の問題だった。

 人々が逃げ惑い王都が混乱に包まれた中、死期を悟った俺は最後に母さんに会おうと避難先の大聖堂へと向かった。


 なのに……。


 辿り着いた大聖堂には、血に塗れて横たわる母さんの亡骸があった──。


 母さんは逃げる途中、モンスターに襲われ殺されてしまったそうだ。

「嘘だろ……」

 たった1人の家族。
 こんな俺の唯一の理解者で、世界で最もかけがえのない存在。そんな母さんがいなくなった。

 もう目を覚ます事も話す事も無い──。

 怒り、虚無、絶望、憎悪。一瞬にして体中が様々な感情に涙を流しながら、ただ母さんの亡骸を抱きしめていた。

「くそモンスターがッ……!」

 俺に力さえあれば1体残らず駆逐してやるのに――。

 儚い思いの中、腕の中にはこれでもかと冷たい母さん。そして体からは血が流れ、傷口が燃えるように熱い。もう言葉にならない雄叫びを上げる事しか出来なかった。

「うあ゛ァァァァァ……!」

 








 だが、コレがすべての“始まり”――。









<――今のは主か……>

 何処からともなく聞こえてきた声。

 ふと顔を上げると、辺りは何時しか暗闇に包まれており、俺の目の前に何故かドラゴンがいた――。

「は……? なにこれ……」

 ああ、ひょっとして俺も死んだのか……? 

<どうやら主で間違いないようだな。ヌハハハ、まさか“封印”が解かれる日が来るとは――>

 全く理解不能の状況だ。きっと怪我のせいでいつの間にか死んだんだな俺はやっぱり。そう考えればこの状況に全て合点がいく。

<覇気のない人間だが仕方ない。我はジークリート。全ドラゴンの頂点となる存在である>
「ジークリート……。それにドラゴンって……まさかあの……?」
 
 古より、長きに渡って語り継がれている伝説のドラゴン。またの名を“竜神王ジークリート”。

 それが目の前のコイツ……?

「お、お前が竜神王、ジークリート?……本物か?」
<主は我を知っているのか。何を思っているか知らぬが、我は本物のジークリートである>

 へー。どうやら本物らしい。

 今起きている事が余りに非現実的で実感もないからか、驚く事も出来ない。ただ呆然とする事しか。

 だって言い伝えられてきた通りなら、もう“2000年”以上前に滅んだとされる伝説のジークリートが何故ここにいるんだろう?

「で? 何でドラゴンの王が急に現れたの? 俺もう死んでると思うんだけど。
それに、俺の記憶が正しければ……確かジークリートって既に滅んでいる筈じゃ……?」
<面白い事を言う奴だ。主は生きておる。そして我もまたな――。
人間達にどう伝わっているのかは知らぬが、我は他のモンスター共の裏切りによって封印されたに過ぎぬ。事実まだこうして生きておる。だから我の封印が解かれたのだ>
「全然意味分からん。まぁもうどうでもいいや。封印とやらが解かれたなら、当然裏切ったモンスター達殺すんだよね?
丁度いい。俺の代わりにこの世界のモンスター全部食い殺してよ。俺も恨みあるんだよ」

 そう。もうどうでもいいんだ。母さんが死んじゃったんだから……。

<そうか。主の事は知らぬが、よほど奴らを殺したいようだな>
「本当はな……。でももう死ぬし、悔しいけど実力もない」
<潔いな。ならば我が“力を貸して”やろう。
主はモンスターを駆逐したいのだろう?それは我とて同じ。だが主は確かに相当弱いとみた。だが何故か我の封印を解いた……。
かれこれ“2000年”も解かれなかった、我のこの封印をな――>

 さっきから封印解いたとか言ってるけど、そもそもそれ本当に俺がやったのか……?

<しかし封印が解かれたと言っても、我は最早肉体を持たぬ魂の存在。主の力を貸してくれるならば、我も主に力を与えてやろう。一緒にモンスターを消し去ってやろうではないか――>






 こうして、夢か現か……俺は伝説の竜神王ジークリートを召喚した――。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

転生墓守は伝説騎士団の後継者

深田くれと
ファンタジー
 歴代最高の墓守のロアが圧倒的な力で無双する物語。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

処理中です...